大規模組織再編で技術者を結集
米Appleになりたい? 米Microsoftの組織再編を深読みする
従来の製品別から役割別に組織を再編。米Microsoftはこの決断によって技術者同士の協力を促し、製品の開発能力を高める。同社は米Appleの成功に倣うことができるか。
米Microsoftの組織変更は、現在の製品別分権制を捨てて、役割別に組織を再編成する形となった。結果的にエンジニアリング部門が統合されたことは、企業のIT部門に対して、長期的に見て好ましい影響を及ぼす可能性がある。
しかしこの抜本的な組織再編によって、Microsoftが狙っている通りに製品やサービスの質が向上するかどうかについては、幾分疑問が残る。
再編成されたMicrosoftの機能別の組織は次の通り――エンジニアリング(製品・サービス開発)、マーケティング、事業開発およびエバンジェリズム、先端技術戦略・研究、財務、人事、法務、そして販売、サポート、ITの各部門を統合したグループ。
今回の組織再編で特に重要なのは、Microsoftの新しいエンジニアリンググループがOS、アプリケーション、クラウド、デバイスの4つの主要分野に統合された点だ。これらに加えて、Dynamicsを担当する5番目の開発グループもある。
「われわれが築いてきたテクノロジーを、ごく少数のクラウドインフラストラクチャ、OS、メール、デバイスなどのグループに結集して、今までの(ビジネスグループ分権制の)構造では分散していた機能をまとめる」と、スティーブ・バルマーCEOは社員宛てのメールで、今回の大規模な組織変更を説明している。
「今回の組織変更には、組織の統合という側面と業務分担の方針の見直しという側面があるが、いずれも一貫して、ユーザーと開発者の利益を目的としている」とバルマーCEOは語る。
企業のIT部門はこのニュースを歓迎しているものの、Microsoftの組織再編の影響はすぐに現れないだろう。
「IT担当者の日頃の活動から考えて、この(Microsoftの)組織再編はユーザーに大きく影響するとは思えない」と、米ワシントン大学でネットワークおよびシステム運用の管理者を務めるスコット・ラドウィグ氏は語る。「Microsoftの組織が合理化し能力が向上することで、われわれユーザーが業務を遂行するのに必要としているものを提供してくれるのなら、何でも歓迎だ」(同氏)
今回の組織再編が製品やサービスの向上に良い影響を及ぼすかどうかという点では、Microsoftの先行きは暗いと確信しているITプロフェッショナルもいる。また、同社が今回組織に新風を吹き込まなかったこと、特にWindowsデスクトップOSとSurfaceデバイスなどの製品チームを強力に率いる有能な人物を外部から迎えて組織の刷新を図る手段を取らなかったことに失望したユーザーもいる。
「今Microsoftに必要なのは組織の刷新を実行できる人物だ。勤続年数の長い社員の配置転換程度ではダメだ」と話すのは、Microsoftプラットフォームを専門に長年キャリアを積んできたITプロフェッショナル、マイク・ドリップス氏だ。「Windows 8とWindows 8.1は今後長く尾を引きそうなほどの失敗作だ。何にでも使えるOSを市場に投入すればこちらのもの、Appleを打ち負かせるとMicrosoftは考えたのだろうが、誰もその手には乗らなかった」
今回の組織再編には社内の製品グループを統合することで全社的に組織力を高めようという意図も含まれているが、実はMicrosoftには社内のチーム同士で競い合う長年の因習がある。これは克服しなければならないだろう。
「Microsoftにはいまだに、開発チーム同士が協力するというよりは競争する意識が激しい、縦割り組織の文化がある。ExcelチームのメンバーがWordチームの人間とランチに出掛けることは全くないし、ハイタッチを交わして喜びを分かち合うこともしない。複数の製品を使用する環境でテストを行わなかったために、技術上の大きな失敗を何度も見逃した過去があるというのに」とドリップ氏は語る。「最優先するべき課題はチーム間の壁を取り払うことだが、それが実現するとは思わない」(同氏)
Microsoftの組織再編が企業のITユーザーに与える影響は、Microsoft社員の今後の日常的な業務の進め方に現れるだろう。エンジニアリング部門の新しいチームリーダーは、製品やサービスのリリースにこぎつけるために、チーム間の協力関係を深めてチームワークのレベルを上げる必要がある。
「今回の組織改編は、以前あった(組織間の)壁はもうなくなったというアピールだ」と話すのは、米コンサルティング会社、82 Venturesの経営者であり、米TechTargetにも寄稿しているジョナサン・ハッセル氏だ。「経営幹部には全社的な施策を推進する義務がある。つまり、Microsoftが今後リリースする製品とサービスでは、同社製品としての統一性が高まるということだ」(同氏)
エンジニアリングチーム同士の協力が功を奏するかどうかを判断するのは、今は時期尚早だ。例えば、Microsoftがクラウドサービスと、フォームファクターのサイズに関係なく統一した分かりやすいインタフェースを実装したモバイルデバイスに力を入れるという施策を強力に推進すれば、企業のIT部門がMicrosoftテクノロジーを社内で展開する方法が変わってくる可能性がある。
「結局のところ、(Microsoftの)社員の自主性がどの程度発揮できるのかと、各部門の運営をどのような方向に進めるかというのが見どころだ」と、米保険会社、American Nuclear Insuranceで情報サービス担当の副社長を務めるダン・アンション氏は語る。「われわれユーザーへの影響は、LyncはSkypeと統合するのかどうか、またOfficeのオンプレミス版の開発を打ち切ってクラウドサービスへの移行を強いるられるのかどうか、といった点だろう」(同氏)
業界アナリストは、Microsoftの組織再編は同社の低迷脱出に向けた1つのステップになると見ている。これによって組織内の統合が進めば、1つの製品を複数のグループに分散して開発する事態は解消されると予想されるからである。
「上層部のリーダーは、より多くの時間をテクノロジーに割けるようになるだろう。そうすれば、Microsoftが推し進めている変化は加速するだろう」と語るのは、米IT関連調査会社、Directions on Microsoftで管理部門担当の副社長を務めるロブ・ヘルム氏だ。
同氏は、「技術面のリーダーには、投資家向けに提供するものを作るよりも、顧客に届けたいものを開発することに集中してほしいと思う。そうすれば企業のIT部門の顧客が満足する成果が出るだろう」とも付け加えた。
ただし、今回の組織再編で成果があまり出せなかったとしたら、Microsoftがデバイスとサービスの提供に注力するよう方向転換を図ったことが、将来的には問題になるかもしれない。
「大きな疑問がある。MicrosoftはAppleをまねようとしているのだろうか」と、IDCのクライアントおよびディスプレー調査担当副社長、ボブ・オドネル氏は語る。「(Microsoftにとっての)最大のチャンスは、さまざまなサービスのエントリーポイントを作り出すところにある」
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