EdTechフロントランナー【Ednity編】
CEOが全国行脚、“現場目線”で改善を続ける学校用SNS「ednity」
教員や学習者の情報交換や議論の場として役立つ学校用SNS。トップ自ら国内の学校を回って改善要望を吸い上げ、真に“現場目線”の学校用SNSを追求するのが「ednity」だ。
学校用SNS「ednity」を運営するEdnityは、教育とテクノロジーの融合領域である“EdTech”の分野で活躍するベンチャー企業の1つだ。同社の若き最高経営責任者(CEO)の佐藤見竜氏に、ednityが目指す未来と最新の取り組みを聞いた。
連載: EdTechフロントランナー
ednityとは:クラスに閉じた交流を支える学校用SNS
既に多くの学校で試験導入され(具体的な学校名は後述)、現場の声を反映しながら開発されているednity。その実体は、限られたメンバーのみで情報交換ができるクローズド型のSNSだ。場所を選ばない手軽な情報交換が可能なSNSの利便性と、第三者との不測のつながりによるリスク回避を両立している。
投稿の公開範囲はクラス単位、グループ単位など目的別に設定が可能だ。Webサービスとして提供し、インターネット回線さえあれば学校からでも家庭からでも利用できる。ユーザーインタフェース(UI)は非常にシンプルで、ファイルの添付や画像の挿入なども可能(画面1)。情報の配布・回収ツールとしても適している。
現状は教員と学習者、学習者同士の交流に主眼を置くが、保護者向けの機能拡張も計画している。具体的には、学校からの連絡事項の送付や、学習者の成績の共有などを可能にする考えだ。
「人々の可能性を最大限に引き出したい。そのためには学習環境のリデザインが必要だ。理想的な学習環境とは、教員や学習者、保護者、地域が協力して構築したコミュニティーだと考えている。こうしたコミュニティーを実現するサービスとして生み出したのがednityだ」と、佐藤氏はednityのコンセプトを熱く語る。
競合との違い:“現場目線”でのあくなき改善に注力
学校用SNSはednityだけではなく、市場にはあまたの競合製品/サービスが存在する。ただし佐藤氏は、「競合はあまり意識していない」と言い切る。佐藤氏が注力するのは、あくまでも教員が共通して抱く課題の解決だ。そのための機能改善をかかさず、ednityを利用する教員からの“本気度”に開発陣がスピーディーに応える。その姿勢こそが、競合サービスとの差異化要因だといえる。
事実、佐藤氏や同社のエンジニアは日々、教育現場でのさまざまな活用事例を共有し、改善意見を収集しているという。「“現場目線”を取り入れながら、ユーザーとの二人三脚でサービスを作ってきた」と、佐藤氏は胸を張る。
現場の声を基に実装した機能は、既に複数ある。手軽にアンケートができる「ポール」機能、コメントがついたスレッドが目立つように画面上部に上がってくる機能などだ(画面2)。次にどういった機能を実装すべきかも、ユーザーである教員と一緒に議論をしながら順次実装を進めている。その他、スマートフォン向けのデザインや上述した保護者向け機能として求められる要件などのヒアリング結果を、可能な限り早期にサービスへ反映しているという。
また佐藤氏は、「学習者の保護者に対して、ednity利用開始の周知をどのようにすべきか」といったユーザーの教員同士の意見交換にも自ら加わり、適宜コンサルティングをしている。こうした取り組みが、ednityをより教員のニーズに合ったサービスに変えていく原動力となっているのだ。
どのデバイスからでも使えるよう、Webサービスを選択
ednityは前述の通り、インターネット経由で利用するWebサービスである。iOSやAndroid、Windowsなど向けのネイティブアプリは、現時点では提供していない。
なぜネイティブアプリではなく、Webサービスを選んだのか。その理由を佐藤氏は、「学校が導入するデバイスはバラバラだから」だと説明する。「ネイティブアプリを選ぶと、利用できるOSや端末が限られるだけでなく、アプリマーケットの登録審査に時間がかかってしまう。改善要望をフィードバックするまでのスピード感を大事にしたい」(佐藤氏)
ニーズや状況に応じて、ネイティブアプリを今後開発する可能性について、佐藤氏は否定はしない。ただし佐藤氏は、あくまでも「現状の製品をより現場目線で改善すること」を最優先する。
ednityのメリット:“学ぶ動機”の発見と継続を後押し
ednityの導入効果とは何か。筆者は実際にednityを使った授業を経験した結果、「黒板とチョーク」では難しいコミュニケーションの実現や、守られた範囲でのSNSリテラシーの醸成などのメリットを実感した(参考:iPadと学校用SNSが導く“生徒主導の学び”――奈良女子大学附属中等教育学校)。
上記も確かにednityのメリットだ。これらに加えて佐藤氏は、ednityの利用で、「“チームで課題を解決する体験”を多くの学習者が得ることができる」と語る。「ednityで体験したチームワークが、互いに助け合う人間関係の構築や、人と人のコラボレーションを引き出すことにつながる」(佐藤氏)
ednityに限った話ではないが、学習者が“学び続ける習慣”を身に付けやすくなることも、学校用SNSのメリットだと佐藤氏は説明する。多様な発想に基づいてやりとりをする中で、学習者が学びの意欲の源に気付いたり、その意欲を継続させるきっかけをつかむことができると佐藤氏は考えている。EdTech分野の製品/サービスの中に、SNS機能を盛り込んで学習者の利用率を高める例が多く見られるのは、こうした考え方を裏付ける動きだといえる。
筆者もそうだったが、基本的に生徒は「勉強が好きではない」のが普通だ。ednityを使い、Webでいつでもクラスメートの励ましやコミュニケーションが可能となることは、学びを継続する動機付けとして有効だと考えられる。
導入の仕方:利用料金は無償、学校との協力で導入支援も
ednityの導入に必要な費用や準備期間はゼロだ。「『教育の理想を追求する』という意思があれば、それだけで十分」だと佐藤氏は語る。コンシューマー向けの一般的なSNSと同様、ユーザー登録だけで利用できる。「今後も現存する機能を利用する分には、課金する計画はない」と佐藤氏は断言する。
筆者が注目するのが、同社が学校と協力し、IT機器とednity組み合わせた導入手法を提案する取り組みだ。ITに限らず、予算確保に苦しむ学校は多い。「いかに端末を確保してインフラを整えるかが、多くの学校にとって喫緊の課題」だと、佐藤氏は多くの事例を見る中で実感してきた。予算確保には「具体的な利用方法や目的」と「導入効果の測定」が重要だと考えた佐藤氏は、教育の変革という目的を据え、その実現手段としてIT機器とednityをセットで導入することによる相乗効果を提示し、現状打破の糸口としたい考えだ。
導入済み教育機関:国公私立のさまざまな学校が利用
本稿執筆時点で、以下の学校がednityを活用している。多くは一部用途での実験的導入であり、現状では情報共有といった基本的な用途が中心だ。それでも、国公私立の多彩な学校で活用されていることは興味深い。
- 奈良女子大学附属中等教育学校(国立、奈良県奈良市):国語科で家庭学習や「反転授業」(※)のツールとして利用(参考:iPadと学校用SNSが導く“生徒主導の学び”――奈良女子大学附属中等教育学校)
- 千葉県立袖ヶ浦高等学校(千葉県袖ケ浦市):生徒への朝の連絡事項の伝達、生徒同士の情報共有、授業での発表ツールとして活用
- 広尾学園中学校・高等学校(私立、東京都港区):教員から生徒、生徒同士の情報共有ツールとして一部クラスで活用
- 関東第一高等学校(私立、東京都江戸川区):クラブ活動用の生徒・教員間連絡ツールとして活用
- 静岡大学教育学部附属島田中学校(国立、静岡県島田市):先生同士の連絡掲示板として利用。インドネシアの教育大学との交流への活用計画も
- 多摩市立東愛宕小学校(東京都多摩市):3~5年生の朝読書の感想共有で活用中。2014年4月より新1年生の保護者との連絡に活用する計画も
※ 動画教材などを利用して生徒が家庭で予習し、授業では予習内容を踏まえた応用問題を解いたりディスカッションをしたりする授業形態。
上記の他、学校名は公開していないが、特別支援学級での担任と保護者のコミュニケーションツールとして活用する例もあるという。
ednityに込めた思い:変化を目指す教員に「できる」自信を届けたい
「ednityでどんなことができるか、可能性はまだまだ手探りだ」と話す佐藤氏。今後は試験導入などを通じて用途を開拓し、ユーザーとなる教育機関の数を増やしていく考えだ。
ednityをはじめとする学校用SNSの導入で、反転授業をはじめとする多様な授業形態が浸透していく可能性がある。こうした変化に伴い、教員のあるべき姿が「何かを教える役割」から「自発的な学びを触発するファシリテーター」へと変容するとの指摘もある。ただし、両者の間にあるハードルは大きい。
佐藤氏は、教員がこのハードルを乗り越える上で、「教員自身が明確な理想を持ち、その理想と現実とのギャップを認識していることが重要」だと語る。その上で、「こうしたギャップを埋めることができるツールとして、ednityの完成度を高めていきたい」というのが、佐藤氏の思いだ。「可能な限り“これならやれそうだ”というイメージを教員に持ってもらうことで、新しい教育の形に貢献していきたいと考えている」(佐藤氏)
1988年生まれの25歳という若きCEOがチャレンジする学校SNSという領域。これからの展開が楽しみだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
EdTechフロントランナー
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
3
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
4
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
5
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
6
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
7
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
8
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
9
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
10
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー