モバイルアプリ開発の新潮流「mBaaS」入門【第2回】
知らないと損する、モバイルアプリ開発で無くてはならない3つの機能
モバイルアプリ開発のバックエンドをサービス化する「mBaaS」は、今後のアプリ開発において大きな役割が期待されている。今回は、mBaaSの主要な機能と市場動向について紹介する。
前回「モバイルアプリ開発を加速する『mBaaS』のメリット/デメリット」では、mBaaSの概念、そのメリット/デメリットについて紹介した。今回はmBaaSによって具体的にできることやmBaaSの市場動向について紹介する。
mBaaSが提供する主な機能
プッシュ通知
まず紹介したいのがプッシュ通知だ。iOS/Androidを使っている方であれば、通知はよく表示されるだろう。この通知によってキャンペーンやイベントなどの発生をタイミングよく紹介し、自然な流れでアプリに誘導することができる。プッシュ通知は、DAU(デイリーアクティブユーザー)に大きな影響を及ぼすといわれているほど、アプリを提供する上で欠かせない機能だ。そのため各種mBaaSにおいても必ず用意されている機能になる。
DAUに大きな影響を及ぼす重要な機能だけに、時間、対象ユーザー、対象デバイスをしっかりと絞り込んで安定して配信できなければならない。独自でサーバを構築した場合、mBaaSを使った場合のプッシュ通知の各構成は次の画像になる。
プッシュ通知は、サーバからAPNs(Apple Push Notification Service)/GCM(Google Cloud Messaging)へリクエストを出すことで、スマートフォンへ通知する仕組みである。このとき問題になる部分が2つある。1つ目はサーバで、自社で運営する際には初期の開発およびサーバを継続運用するためのコストが掛かること(図1の1の部分)。2つ目はAPNs/GCMとの通信部分で、iOSとAndroidという異なるOSへの対応に加え、その後の仕様変更に対しても随時対応しなければならないことだ(図1の2の部分)。
mBaaSを使った場合、サーバの開発費用が発生しないのはもちろんのこと、APNs/GCMとの通信部分も隠蔽化されるので、ユーザーは対象OSごとに実装を変更する必要がない(通知対象をOSで絞り込むことはもちろん可能だ)。実際にはmBaaSがAPNs/GCMと通信しているわけだが、仕様変更や送信エラー時の再送処理なども意識することなくプッシュ通知を実現できる。これが独自サーバだと、仕組みを間違えたために何回も通知が出てしまいユーザーにストレスを与えてしまったり、もしくは配信されていなかったために忘れられてしまったりといったエラーも起こり得る。いずれの場合も大きなマイナス要因だ。それだけにプッシュ通知の安定性を求めてmBaaSを利用するというケースは多いようだ。
最近ではHTML5が多機能になり、ネイティブアプリと変わらない水準の機能を提供できるようになっている。しかし、Webアプリケーションでは決して提供できないのがプッシュ通知だ。スマートフォン、タブレット端末向けにネイティブアプリを開発するのであれば、プッシュ通知を使わない手はないだろう。もちろん自社で開発する方法もあるが、動作の安定性や複数プラットフォームへの対応、既読管理による解析などを考えると開発コストが膨らみがちである。既にそうした方法が確立されているmBaaSを活用した方が、早く確実に実現できるのではないだろうか。
データストア
データストアとはその名の通り、データを保存する仕組みだ。こう書くと抽象的だが、実際、データストアはテキストやファイルなどを保存できる汎用的な仕組みだ。データの例としては、ユーザー間のメッセージ、写真や動画の保存、ゲームのスコアなどがある。一般的にデータの形式は決まっておらず、アプリ開発者が自由に設定できるようになっている。
このデータストアが提供する便利な機能の1つに、位置情報の保存および検索がある。ユーザーのチェックインで近くの店舗情報を表示するようなアプリを考えた場合、デバイスの位置情報を起点として一定の範囲内にあるデータを取得する必要がある。mBaaSを使えば、そういった位置情報をベースにした検索システムを作る工数を大幅に削減できる。
さらに、位置情報を使って絞り込んだ上でプッシュ通知を行うようにすれば、簡単にO2O(Online to Offline:オンライン上の情報接触行動から、実店舗などオフラインでの購買行動に影響を与えること)を実現できる。アプリから定期的に位置情報を送信してサーバ上に保存し、ある位置情報の付近にいるデバイスにだけプッシュ通知を行えば、ユーザーは自分が今いる付近の便利な情報を受け取れるとあって、低ストレスで高反応が期待できる。このようにデータ保存とプッシュ通知を組み合わせて使うなど、独自に構築しようとすると複雑になりがちな仕組みも、mBaaSを使うことで容易に実現できるのはとても魅力的だ。
ユーザーが作成したデータを保存するということは、その保全やバックアップが必要になるが、一般的にmBaaSは取得したデータをバックアップしている。また、アプリの場合、ヒットすると突然トラフィックが跳ね上がったり、ユーザーの操作とは関係なくバックグラウンドで非同期に通信が流れたりするなど、従来のWebサイトとは異なるのが特徴的だ。そういった中で24時間365日、安定した運用を求められることを考えると、やはりmBaaSを使うメリットがあると考えられるのではないだろうか。
ユーザー管理/権限管理
ユーザー管理/権限管理は、アプリ利用者のユーザーデータを管理する仕組みだ。データの内容によってはプライベートにしたい、自分が指定したユーザーにだけ見られるようにしたいといった、ユーザー同士の結び付きに関わる部分の管理を可能にする。
また、ゲームアプリにおいては、ランキングやグループチャット、ダイレクトメッセージやフレンドに助けてもらうといった機能がアプリをヒットさせるための施策として用意されているが、これらの機能の裏側でもこの仕組みが動いている。アプリの成功を助けるためにも、ユーザー管理/権限管理は必須といえるだろう。
なお、ユーザー情報は個人情報に該当するので、その保全・管理体制は万全にしておきたい。社内においてはセキュリティ対策(SSL、データの暗号化など)を検討する必要があり、さらにmBaaSを使う際も信頼できる事業者を選ぶ必要がある。
mBaaS市場の今
mBaaSに注目が集まったきっかけは、米Facebookが2013年4月に米ParseというmBaaS事業者を買収すると発表したことではないだろうか。同じくFacebookに買収されたカメラアプリの米Instagramは、フロントエンドのアプリ開発者しかいない中で苦心しながらサーバサイドの仕組みを構築したといわれている。もし、当時Parseが存在したならばInstagramの開発はよりアプリサイドに特化して行われていただろう。
そして注目を集めた結果、類似のサービスが多数登場してきた。それらは大きく、mBaaS専業型とmBaaS兼業型に分かれる。専業型はmBaaS専門で、利用量によって従量課金するタイプが多い。兼業型は、例えばグロースハックやアドネットワークサービス事業者が自社のツールを広めるために一機能としてmBaaS的な機能を提供しているケースが多い。mBaaSは求められる機能がある程度固定的であるため、今後も「ある目的に特化したサービス+mBaaS」といった形式でサービス提供を行う事業者は多くなりそうだ。
専業型のメリットとしては、mBaaSだけに特化している分、今後の機能開発や継続的な運用安定性などが期待できるという点が挙げられる。デメリットは、当たり前だが、利用に応じた料金が掛かるということだろう(サービスによっては一定量までは無料で提供されている)。兼業型のメリットは、mBaaS部分については無料で利用できることが多い点だろう。アドネットワークサービスであればさらに収益も期待できる。デメリットとしてはあくまでも兼業であるためにmBaaS機能にどれくらいの比重を置いているのか不明である点や、当然だが本来提供されているサービスを使わなければならないという点が挙げられる。例えばアドネットワークの場合は広告表示機能がデフォルトで入ってくるので、バナーやディスプレー広告がアプリ内に表示されるようになる。これはそもそも広告を表示したくないアプリやUX(User Experience)において問題があるだろう。従って、mBaaSを無料で使いたいから兼業型を選ぶのではなく、グロースハックやアドネットワークを使うついでにmBaaSを利用するといった観点で考える方がよいだろう。
国内の専業型事業者のmBaaSとしては、「appiaries」「Kii Cloud」「ニフティクラウド mobile backend」(50音順)などが知られている。機能面で大きく差別化されているようには見えないが、対応プラットフォームの違いはあるようだ。システムの安定性や運用時の管理画面の使い勝手に加え、自分たちのアプリの根幹を担うデータを預けるのだから、SLA(サービスレベル保証)が高いなど、信頼できる事業者を選びたい。
今後のアプリ開発におけるmBaaSの役割
iPhoneやAndroidが登場して5年以上がたち、アプリストアを通してさまざまなアプリがリリースされている。もちろんまだ独特な仕組みを持ったアプリがリリースされているが、その中でも一定の法則は見え始めている。
例えば、サーバサイドの開発においては各プログラミング言語向けに作られたフレームワークが使われるようになっている。その意味ではmBaaSはアプリ開発におけるサーバサイドのフレームワークとなり得るのかもしれない。アプリ開発者はサーバサイドを意識することなく開発し、結果としてデータはクラウド上に蓄積され、他のユーザーと共有できるといった具合だ。
また、アプリ開発の速度はどんどん速まっており、企画からリリースまでの期間に余裕がなくなってきている中、開発者は自分たちのアプリの特徴となる部分により全力を注がなければならない。その点、mBaaSはアプリに共通して求められる機能をまとめて提供してくれるので、アプリ開発の効率化と高速化を可能にしてくれるだろう。アイデアを素早く形にしていくのに役立つはずだ。
三嶋英城(みしま ひでき)
ニフティ株式会社
2005年ニフティ株式会社入社。
主に新規サービス開発に携わり、2010年以降、スマートフォンの普及とともにネイティブアプリの企画を推進。2013年からクラウド事業に従事し、自身が痛感してきたアプリビジネスの課題を解決するため、mBaaSを立案。2013年9月に「ニフティクラウド mobile backend」を起ち上げる。
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モバイルアプリ開発の新潮流「mBaaS」入門
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