ビジネス用アプリもスマホ優先
仕事でもスマホが手放せない人のための「モバイルファースト」実行の手引
コンシューマー市場を席巻したモバイル化の波は企業にも到達しつつある。ならばいっそ、企業向けのアプリ開発も、モバイルを起点に始めた方が都合がいい。
「アプリの開発は、デスクトップ用アプリからモバイル端末に移そうとするよりも“モバイルファースト”で始める方が魅力的で直観的なユーザーエクスペリエンスを実現できる」。ベンチャーキャピタル、米Sequoia Capitalのパートナー、アーレフ・ヒラーリー氏はそう語った。クラウドサービスを活用すれば、迅速にモバイルファースト戦略を進めることができる。そのためモバイルファーストの発想を生かすためには、従来のワークフローを見直し、クラウドサービスの最新情報を把握しておくことが課題となるだろう。
スマホで仕事が普通になる
2014年4月に米サンフランシスコで開催されたカンファレンス「Consumerization of IT in the Enterprise」においてヒラーリー氏は、モバイルファーストで開発を進めるには、モバイルアプリのサポートに必要なバックエンドのクラウドサービスも見直す必要があると語った。Facebookへのモバイルアクセス増加が示すように、モバイルはコンシューマー市場を席巻した。一方、エンタープライズの世界では、多くの人がモバイル端末のメールやカレンダー機能しか使っていない。だが、クラウドサービスの柔軟性が向上し、ビジネスプロセスをサポートできるようになった今、状況は変わっていくとヒラーリー氏は見ている。
企業内のビッグデータを活用するにしても、社内で開発チームを立ち上げ、インフラを構築するのは難しい。そこで、モバイルファーストアプリに必要なバックエンドサービスを用意するため、クラウドサービスを使うことに大きな関心が寄せられている。
従業員が多種多様なメッセージングアプリを使って、さまざまなコミュニケーションを行っているという事実は認めざるを得ない。ユニファイドコミュニケーションアプリケーションがうまくいかないのは、こうした事実を反映していないからだ。結局のところ、誰にどんな方法でつながるかは、個人の頭の中で決まっている。
これからの優れたモバイル戦略は、個人の好みや環境に左右されるコミュニケーション媒体の選択に焦点を置くものになるだろう。ヒラーリー氏は、そのような戦略をどうやって立てていくかアドバイスを示し、ネイティブ開発とハイブリッド開発の選択、未許可アプリがIT部門に及ぼす影響、モバイルセキュリティといった問題について以下のように論じている。
ネイティブかハイブリッドか
モバイルファースト開発を進めようとする企業には複数の選択肢がある。ハイブリッドツールを使ってアプリケーションを展開すれば、一度アプリを作るだけで複数のモバイル端末に展開できる。ネイティブアプリケーションを作る場合は、端末の種類ごとにコードを書かなければならない。
HTML5でクロスプラットフォームモバイルアプリを作る方がずっと簡単だとヒラーリー氏はいう。だがその場合、端末固有の機能を利用することは制限されがちだ。
ここで、カスタムアプリを社内で開発するべきかサードパーティー製パッケージアプリを活用するべきかという問題が浮かんでくる。パッケージアプリの利点は、開発コストをサードパーティーベンダーに任せられることだ。ヒラーリー氏は、モバイル開発管理者を社内で採用するよりもパッケージアプリで多様なワークフローを管理する方向に進みつつあると見ている。
未許可アプリの把握
便利なモバイルアプリとクラウドサービスが登場してきたために、IT部門を通さなくても簡単に新しいアプリケーションを導入できるようになった。こうした「シャドーIT」は重大な問題だとヒラーリー氏は考えている。このリスクを抑えるためには、IT部門に無断で使われている未許可アプリ、つまり「ローグ(Rogue)アプリ」を検出するための優れたツールが必要になってくる。Sequoiaが資金提供しているクラウドソリューションプロバイダー米Skyhigh Networksのツールもその1つだ。
Skyhighが企業ユーザー600万人を対象に実施した最近の調査によると、企業では平均して626種のクラウドアプリケーションが使われているが、エンタープライズ対応のアプリケーションはわずか11%だけであることが分かった。「まさに何百種ものクラウドアプリが職場で使われている」とヒラーリー氏はいう。企業はこの問題に何らかの対策を講じる必要がある。
モバイルの方はといえば、端末レベルの管理からより詳細な管理が求められるようになってきている。「端末とコンテンツとアプリを網羅する解決策が必要だ」とヒラーリー氏はいう。
最新クラウド情報の収集
企業におけるモバイル人気が高まるにつれ、新しいアプリケーションやサービスは供給過多となりつつある。そのため、業務改善に役立つ新しいクラウドアプリケーションの情報を正確に追うことが難しくなっている。企業がこのイノベーションの波を把握するには、これまでとは異なるアプローチが必要だとヒラーリー氏は説く。同氏が最も推奨する方法は、信頼できる仲間の輪を作り、現場で使えるアプリケーションやサービスの情報を共有することだという。
もう1つは、ソーシャルメディアを活用することだ。ヒラーリー氏は、新しい開発技術を常に把握しておくために重要な分野において、何人かのキーパーソンをフォローしておくことを勧める。そうすれば、その分野について意見を出すこともできるし、自社のビジネスニーズにとって最も関連性の高いクラウドサービスを2、3見つけて追いかけるということもやりやすくなる。
モバイルファーストに向けてセキュリティを見直す
ベンチャーキャピタル、米Lightspeed Ventures Partnersのアリフ・ジャンモハメッド氏は、企業のモバイル利用拡大によって、データ分析とビッグデータの活用も進むという。
クラウドのおかげで、大量のデータを管理、処理するコストは少なくて済むようになった。今ではデータをクラウドに保管して処理できるようになり、バックエンドをホストするインフラについて考える必要がなくなった。「ビッグデータを活用するモバイルファーストのアプリケーションが大量に現れてくるだろう」とジャンモハメッド氏は語る。
だが、CIO(最高情報責任者)とCSO(最高セキュリティ責任者)は、かつてあれほど入念に構築したデータの取り扱いに関するコンプライアンスと追跡記録の問題に頭を悩ませている。今では、固定されたデスクトップからではなく、モバイル端末やノートPCからデータにアクセスすることが増えてきた。そうした端末は、従来のファイアウォールのドメインの外側で動作していることが多いのである。
モバイル活用によるワークフローの合理化
モバイルファースト開発では、モバイル端末を念頭に業務全体の見直しが求められる。モバイルファーストの営業支援プラットフォームを提供する米ClariのCEO アンディ・バーンは、モバイルに対応するクラウドベースのアプリケーションはたくさんあるが、CRM(顧客関係管理)ベンダー各社はまだモバイルワークフローに対応していないと語る。
その理由として大きいのは、CRMアプリケーションが元来デスクトップ用に作られているからだ。営業の業務をモバイル型に見直すのは難しい。米Salesforce.comなどのWebサービス大手では、モバイルを中心とする新しいマーケティング機能のサポートを順調に進めてはいる。だが、個別のケースに対応する効率的なワークフローが必ずしもサポートされていないとバーン氏は主張する。
クラウドベースのアプローチでモバイルサービスを展開すれば、多大な資金と時間を先行投資することなく簡単に新しいアプリケーションを試すことができる。その日のうちに小規模なパイロットを立ち上げて、ユーザーがそのアプリケーションをどう使用するかについて量的なデータと質的なデータを収集できるので、さらに大きなグループに展開するための指針になるとバーン氏はいう。このやり方であれば、短時間でアプリケーションの価値を確認できる。
CIOは、定量的な評価基準を設定することによって、モバイルアプリを作る予算項目を策定できる。適切なアプリを設計して運用すれば、現場でどのように利用されるか知ることでユーザーがそのアプリをどう使うことになるか、一定の予測がつく。こうして好循環が生まれることになる。
クラウドサービスによるデータ入力削減
バーン氏は、いつかはデータ入力もダイヤル式電話機と同じように思われる日が来るかもしれないと語る。データ収集の大部分を自動化するようにバックエンドシステムの改良が進めば、より多くの時間を他の仕事に当てられるようになる。そうなったら、ユーザーが情報を探すのではなく、情報の方がユーザーを見つけてくれるようになるだろう。
クラウドの役割は、ユーザーが自分でデータを探す前に先回りして情報源を集約し、データを取捨選択して提示することだ。これによって作業効率は高まる。「電子メールや電話の通話から情報を収集すれば、データ入力の8割は削減できる。そうなったら、営業担当者は顧客と直接向き合うという、最も得意な仕事に費やす時間を20~25%増やすことができるだろう」(バーン氏)
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