iTeachersに聞く、IT活用「3つの秘訣」【第7回】
先生をIT好きに変える一言、IT嫌いを生む話し方――大和中学校 中村純一教諭
自己負担で購入した「iPad」を授業で活用するなど、積極的なIT活用を進めるのが、佐賀市立大和中学校の中村純一教諭だ。他の教員にIT活用をどう広めるかなどのノウハウを同教諭に聞く。
佐賀市立大和中学校の英語科教員である中村純一教諭は、自費で購入したAppleのタブレット「iPad」10台を授業などの学校活動で活用している(参考:もし“普通の公立中学”がiPadで英語授業を始めたら)。教育の情報化にかけては先進的だといわれる佐賀県にありながら、同校にはタブレットはおろか、無線LANや電子黒板なども十分に配備されていない。「教育の情報化を進めるには、教員や生徒が実機を触ることが第一だ」という自身の考えから、自費購入によるタブレットの授業での活用に踏み切ったという。
中村教諭は、韓国の教育事情に詳しい“韓国通”でもある。韓国人の教員や研究者とのつながりも多く、親交も深い。Googleのビデオチャット「Hangouts」を使って韓国の学級と国際交流するなど、語学とITを生かした教育活動を積極的に実践している。こうした取り組みは、韓国・ソウル市で開催される年次の教育展示会「e-Learning Korea 2013」で第3位に相当する「the Bronze Prize of Best Paper Award」を受賞するなど、韓国の教育関係者からの評価も高い。
SNSの「Facebook」に300種以上ものアプリ情報を投稿するなど、アプリやWebサービス、デバイスの知識も豊富な中村教諭。その豊富な知識を基に、佐賀県高度情報化推進協議会主催の情報化セミナーやiPad活用研究会佐賀支部などでの指導を通して、教育現場でのIT活用の推進に貢献している。そんな中村教諭から、教育現場でITの可能性を引き出すための3つの秘訣を聞く。
秘訣1:IT活用を広めるなら「言葉選び」にこだわるべき
IT関連の知識や実践例が豊富な中村教諭には、同じ職場の教員からIT絡みのトラブルや活用方法に関する質問や相談が持ち込まれるケースも多いという。同教諭は現場で、こうした教員からの相談に乗ったり問題解決に当たったりと、“ITコンサルタント”のような役目も担っている。
IT製品を生かす豊富なアイデアを生み出すには、まずは多くの教員がIT製品を使ってみることが重要だ。そのきっかけをどのように作ればよいのか。中村教諭は「1人ひとりの教員が抱えているニーズや課題、トラブルに関心を持つことが大切だ」と指摘する。
現場の教員は、授業改善に絶えず知恵を絞っている。授業中に何かを「見せる」という場面1つを取っても、写真や動画を大きく効果的に見せたい、その動きをコントロールしたい、板書の補助にスライドを使って解説時間を増やしたいなど、さまざまなニーズがある。普段の会話の中からこうしたニーズを探り出し、解決方法としてIT製品を使うことを勧めると、意外にも「トライしてみよう」という教員が増えるという。
他の教員とIT絡みの話をするときは、「できるだけ専門用語を使わず、かみ砕いて説明することが大切だ」と中村教諭は語る。専門用語や使い慣れない言葉を聞くと、「ITは難しいもの」というイメージが染みついてしまい、「詳しい人にしかITは使えない」という発想を持たれてしまいがちだからだ。
「『プロパティ』『ドラッグ』といった“当たり前”の言葉すら、ITに不慣れな教員にとっては難しい」と中村教諭は指摘する。話す相手や場合によっては、例えば「ポチッと押して」などの言葉の方が分かりやすい場合もある。教育現場でIT活用を先導する教員は、自身の何気ない言葉の選択が、他の教員のIT活用に対するイメージを左右する可能性があることを知っておく必要があるだろう。
IT製品がいくら有用でも、「使わされている」という意識があると積極的な活用に結び付きにくい。中村教諭は他の教員にIT製品の利活用を勧めるとき、「使ってください」ではなく「使ってみませんか」と提案する形で話しかけるという。困っている教員を見つけたときも、「手伝いましょうか」ではなく「一緒にやりましょうか」と声を掛ける。
ささいで初歩的な質問に対しても、「かつては自分も不慣れだったから」と受け入れるという中村教諭。「相手の目線に立つ姿勢を忘れたくない」との考えが、その背景にある。
秘訣2:「自分と違う使い方」を認めることが、IT製品の活用を広げる
IT製品ありきの考え方では、製品活用自体が目的となり、無意味な取り組みに終わるケースが多い。これは、教育現場でのIT活用を先導する教員であれば周知のことであろう。だが現実には、「IT製品に不慣れな教員が依然として多く、こうした教員はアプリやサービスの活用ありきで活用範囲を考えてしまいがちだ」と中村教諭は明かす。IT製品を使いこなしていく長いプロセスの中で、手段が目的化する段階があるのは、むしろ自然なことだという見方もできる。
こうした状況を踏まえつつ、教員がIT製品の活用範囲を広げていくためには、「『違う使い方、違う発想をしてみよう』という他の人からの問いかけが必要だ」と中村教諭は話す。IT製品に不慣れな教員は、「IT製品は特定の用途でしか使えない」というイメージを抱いてしまい、「別の使い方をしてもよい」という発想にたどり着けないことがある。そのため、「教員の内的な気付きを待つだけではなく、積極的に言葉掛けをし、新たな気付きを促す方が活用をうまく広げることができる」(同教諭)という。
他の教員の気付きを促すために、中村教諭は「こうしたら面白そうですね」といった言葉がけをよくするという。例えば、自分の家系図を作る「my家系図」というアプリを家系図作りに使っている教員を見つけると、「社会で、歴史上の人物の家系図を作ったら面白そうですね」といった具合に話しかけるという。IT活用を先導する立場にある教員であっても、他の教員の取り組みにも共感を示すことで、幅広い教員が安心して新しいことに挑戦できるようにしたいという狙いがある。
IT製品の活用範囲を他の教員にも広げるためには、「職員室にいる空き時間に、実機を触りながらアプリの動きを見せたり、一緒に作業をしたりするのが望ましい」と中村教諭は話す。こうした工夫により、時間に追われている忙しい教員であっても、新しいことを学びやすくなる。
「公立学校の教員は、もっとIT製品に触れる機会が必要だ」と中村教諭は強調する。公立学校においては、タブレットなどのIT製品が、学校の備品として教員に配布されることはそれほど多くないという。教員が現場で使いたいIT製品が備品にない場合、自己負担で調達しなければならなくなる。
「タブレットを買ったはいいが、自分に使いこなせるか」という不安を持つ教員ももちろんいる。だがそもそも現場にはIT製品が不足しており、活用する機会が限られているのが現状だ。そうなると、「不慣れなIT製品よりも紙がいい」といった考え方をする教員が増えるのも仕方がないことだといえる。中村教諭が、教員がIT製品に触れるきっかけを作るよう心掛けているのには、こうした背景がある。
中村教諭は、教員のIT製品についての誤解を解き、IT製品の楽しさや便利さ、使いやすさを伝え、「授業を改善するためにIT製品を利活用したい」と考えるきっかけを作りたいのだという。教員が試行錯誤をしながらIT製品活用の手応えを感じるには、やはり実機に触れる必要がある。中村教諭が自ら用意した10台のiPadには、こうした強い思いが込められている。
秘訣3:生徒がITを生かす2つの鍵は「下地作り」と「種まき」
中学生になって始めてスマートフォンやタブレットを手にする生徒は多い。この年齢層は、家庭でのIT製品の活用経験が大きく異なり、IT製品の使い方やリテラシーのレベルもさまざまである。操作や機能について大人顔負けの知識を持つ生徒がいれば、IT製品には全く触ったことがない生徒もいる。
中学生の全体的な傾向としては、「スマートフォンやタブレット端末を単なる“ゲーム機”や“動画ビュワー”として捉えている生徒が多く、学習用途で活用した経験がほとんどない」と中村教諭は話す。こうした状況を考慮せずにIT製品を使った授業をしてしまうと、デバイスに強い生徒ばかりが使うことになり、他の生徒は戸惑いをみせたりするという。
中学生の教育活動でIT製品を有効活用するためには、「生徒がIT製品を使うための『下地作り』と、生徒自身で活用を広げるための『種まき』が大切だ」と中村教諭は語る。
中村教諭が話す「下地作り」は、IT製品を使ったグループワークを想定している。多様な学習者が能力やスキルを共有し、対等な立場で学習目標の達成を目指す「協働学習」などで、グループワークにIT製品を生かす教育機関は少なくない。ただし、IT製品を導入したからといって、生徒がいきなり主体的に活動したり、活発に議論を交わすようになるわけではない。
グループワークを円滑かつ効果的に進めるためには、生徒同士のコミュニケーションや生徒1人ひとりの基礎学力などが大いに影響する。こうした事情を踏まえると、IT製品の導入は、クラス全体の様子を見ながら段階的に進めることが望ましいといえる。
「種まき」については、「まずは生徒に、学習用途としてのIT製品の使い方を紹介していくことが大切だ」と中村教諭は話す。IT製品はどのような目的で、どう使えばいいのか、どのような使い方が「学習用途」だといえるのか――。こうしたことを生徒に少しずつ教えていく必要があると、同教諭は考えている。
中村教諭は既に、こうした考えを実践に移している。例えば、授業の前後で生徒に学習アプリやWebサービスなどを紹介したり、授業が始まる5分前には教室に入ってプロジェクターの設置作業をしながら、iPadの学習アプリを生徒に自由に触らせたりしているという。
こうした地道なコミュニケーションの積み重ねは、「生徒のタブレットへの意識を確実に変えていく」と、中村教諭は強調する。
新年度が始まる毎年4月当初は、授業でIT製品を活用する際、生徒からの質問は「どう使えばいいのか」といった漠然としたものになりがちだという。だが活用を続けて3カ月もすると、「こんなアプリがあった」「このアプリを使いたい」など、積極的な意思表示をするようになると中村教諭は説明する。「iPadを使えば、こんなことができるのでは」と、同教諭に提案する生徒が現れたこともあるそうだ。「生徒の意識の変化には、教員の働きかけが重要だと考えている」(同)
積極的にIT活用を進める教員だからこそ「言葉にこだわりたい」と中村教諭は話す。IT活用を先導する教員の地道な言葉がけや他の教員とのコミュニケーションは、IT製品が現場で活用される後押しになる。ただし、逆にいえば、こうした先導的な教員の言葉1つが、現場の取り組みを左右することになる。現場でのIT製品の普及や活用を推し進めるためには、他の教員の目線に合わせた言葉で語りかけられるかどうかが重要だといえよう。
iTeachers(アイティーチャーズ)
小学校、中学校、高等学校、大学、専門スクール、学習塾という、各教育機関でITを活用した革新的な取り組みをしている9人の先駆者が集まって結成した教育者チーム。「教育ICTを通じて『新しい学び』を提案する」をスローガンに、実践の中で培われた経験やノウハウを、全国のイベントやセミナー、メディアなどを通じて広く情報発信している。
執筆者紹介
神谷加代(かみや かよ)
フリーランスライター/ブロガー。結婚を機にサンフランシスコに移住し、日本語の絵本を扱ったECサイトを運営。その後、10年の在米生活を経て帰国し、主婦ブロガーとして「家庭×教育IT」に関する話題をメインにした「主婦もゆく iPad一人歩記」を執筆。家庭や教育におけるITの在り方を主婦目線で描き、教育関係者をはじめとする多くの読者から支持を得ている。現在は教育ITの分野を中心にライター業、子ども向けプログラミング教室の講師として活動中。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』。
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iTeachersに聞く、IT活用「3つの秘訣」
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