無料枠、コスト、SLA、サポートを徹底比較
結局、Amazon Web ServicesとMicrosoft Azureはどちらが優れたクラウドなのか?
「Amazon Web Services」と「Microsoft Azure」はどちらが優れたクラウドサービスなのだろうか。無料枠やコスト、SLA、サポートといった観点で両者を比較した。
米Microsoftの「Windows Server」を長年利用している顧客にとってはクラウドプラットフォームも「Microsoft Azure」(以下、Azure)を選ぶのが自然なのだろうが、米Amazon Web Services(以下、Amazon)のクラウド「Amazon Web Services」(以下、AWS)と比べてみると、その選択は必ずしも最適ではない可能性もある。
AWSにはAzureよりも優れている面もあれば劣っている面もある。本稿では、無料利用枠や有料プラン、コスト、サービス品質保証(SLA)、サポートなどの観点から、両クラウドプラットフォームを比較検証する。
無料利用枠
パブリッククラウドの無料利用枠は、クラウドを始めるのに格好の足掛かりとなる。AzureとAWSは米調査会社Gartnerによるベンダー分析において、2014年のIaaS(Infrastructure as a Service)市場の「リーダー」に格付けされているが、両サービスにはいずれも無料オプションが用意されている。無料利用枠では、基本的なサポートと一定量までのリソースが提供され、クレジットカードと電話番号を入力するだけで利用できる。
米調査会社Forrester Researchのアナリスト、ジェームズ・スタテン氏によれば、「無料利用枠はテストに使われることが多いが、中には無料枠を有料のクラウドサービスと組み合わせてコストを最小限に抑えている企業もある」という。
AWSの無料利用枠は、毎月一定量を限度にAWSを無料で利用できるプログラムだ。「Amazon Elastic Compute Cloud」(Amazon EC2)、「Amazon Elastic Block Store」(Amazon EBS)、「Aamzon Simple Storage Service」(Amazon S3)など一部のサービスについては、無料利用枠を利用できるのは12カ月間までだ。
Amazon EC2の新規ユーザーは、Amazon EC2においてLinux/UNIXのマイクロインスタンスを1カ月当たり750時間無料で利用できる他、Windows Serverのマイクロインスタンスも750時間、「Amazon Elastic Load Balancing」(Amaozn ELB)も750時間利用でき、15Gバイト分のデータ処理も無料となる。さらに無料利用枠には、Amazon EBS(スタンダードボリューム)の30Gバイト分のストレージ、200万のI/O、1Gバイトのスナップショットストレージが含まれ、AWSから外部へのデータ転送はAWSの全てのサービスを合わせて15Gバイトまで、リージョン間のデータ転送は1Gバイトまでが無料となる。
AWSの無料利用枠は、顧客の月々の請求分から割り引かれ、無料利用枠を超えた分は従量課金となる。
一方、Azureでは、30日間の無料評価版で220ドル(訳注:執筆時点、日本での価格は2万500円、以下同)相当のクラウドサービスを利用できる。利用限度を超過するとリソースの利用が一時停止となるが、通常、スモールインスタンスの利用には十分だ。220ドルの限度額を超過しても、追加料金を請求されることはなく、リソースが利用できなくなるだけだ。ただし、Azureの従量課金プランに移行すれば、リソースは引き続き利用できる。2014年5月に開催された「Citrix Synergy」カンファレンスでは、米ITサービス会社nGenxでプロフェッショナルサービス担当ディレクターを務めるヘンリック・ヨハンセン氏がAzureとAWSを比較するセッションを開催し、以上のようなに説明している。
「MicrosoftのWebサイトによると、MSDNサブスクリプションの購入者は追加で年間最大1920ドル(18万6000円)分のAzureサービスを無料で利用できる。Microsoftはさらに、Webアプリを開発する新興企業向けに「Microsoft BizSpark」と呼ばれる起業支援プログラムを提供し、Azureのリソースを最大で3年間無料で利用できるようにしている」
AWSのリザーブドインスタンスとAzureのコミットメントプラン
Amazon EC2のリザーブドインスタンスは、予想される使用量に基づき、事前に予約金を支払うことによって、リソースを割安で利用できるプランだ。予想される使用量には「重度」「中度」「軽度」の3種類があり、契約期間は1年か3年。予約金の額はインスタンスの種類やリージョン、契約期間などによって異なるが、契約期間が長く、使用量が多い方が、1時間当たりのコストは安くなる。
Amazon EC2のインスタンスは、同一リージョン内であればアベイラビリティゾーン間での移動が可能だ。nGenxのヨハンセン氏によれば、Amazon EC2のリザーブドインスタンスは、導入は容易だが事前の計画が必要という。
Azureのコミットメントプランは、月々一定以上の利用を約束(コミット)することで割引が提供される、月払いか事前一括払いの料金プランだ。払い戻しは行われない。最低限のプランは、月払いで月額500ドル(5万1000円)だ。コミットメントプランはクラウドストレージを除く全てのAzureリソースに適用される。クラウドストレージは2014年4月以降、コミットメントプランの対象から除外されている。
「ストレージが除外されたことで、コミットメントプランの価値が若干下がった。だがそれでもまだ、AWSのリザーブドインスタンスと比べればはるかに包括的で柔軟性がある」と、前出Forrester Researchのスタテン氏は語る。
コミットメントプランを使えば、20~32%の割引が実現可能だ。スタテン氏によれば、Microsoftは販売パートナーに対し、Azureの使用を奨励するためのインセンティブを提供しており、Windowsの法人顧客であれば、恐らくさらに大幅な割引を交渉できるという。
「より長期の利用を約束すれば、より大きな割引を受けられる」と、スタテン氏は語る。
さらに同氏によれば、Azureのコミットメントプランの方がAWSのリザーブドインスタンスよりも幅広く利用でき、モバイルバックエンドの構築やストリーミング配信など、さまざまなクラウドサービスに活用することが可能だという。
AWSのリザーブドインスタンスの場合、IT担当者はこれから使用する予定のインスタンスのサイズと、必要となるであろうインスタンスの総数を把握しておく必要がある。
「読みが外れた場合は、未使用のインスタンスをリザーブドインスタンスマーケットプレイスで売却するしかコストを回収する術はない。これは、企業にとって理想的な状況ではない。今後、AWSのリザーブドインスタンスを使う企業が増えていく中で、この問題はAWSにとって事業の拡大に伴う産みの苦しみとなるだろう」と、スタテン氏は語る。
ただし、AWSは事前の計画をそれほど必要としないタイプのインスタンスも提供している。例えば、「オンデマンドインスタンス」では、長期間の契約はせずに時間単位で計算処理能力の料金を支払うことができ、「スポットインスタンス」では、Amazon EC2の未使用のリソースに対して価格を入札し、通常よりもはるかに低い料金で利用できる。
コスト
AWSとAzureは、それぞれが同じようなサービスに異なる名称を使用しているため直接の比較が難しい。また、アーキテクチャやソフトウェア設計が同じではないので、性能も異なる。ただし、スタテン氏によれば、既知のアプリケーション設定を用いて同一条件で比較すれば、アプリケーション実行中の数値は計測できるという。
「アプリケーションが変化しないことを前提に、静的な視点でコストを考える人が少なくない。だが、そのような弾力性のないタイプのアプリケーションはそもそもクラウド向きではない」と、同氏は語る。
IT担当者はクラウド事業者が提供するコスト計算ツールを使えば、作業負荷を試算できる。アプリケーションの実行コストを確認するためのツールは、米RightScaleの無料ツール「Plan for Cloud」など、サードパーティーからも提供されている。
クラウドコストの計算ツールによれば、今のところ、AWSの方がAzureよりも若干安価だ。ただし、クラウドのコストはすぐに制御が利かなくなる可能性もある。
スタテン氏によれば、AWSのコストで最も大きな問題となり得るのは、クラウドアプリのマーケットプレイス「AWS Marketplace」に掲載されている、AWSやサードパーティーによる数々の魅力的なサービスだという。いずれも、利用料金は時間単位で支払う。さらに同氏によれば、クラウドにはソフトウェアライセンスコストの問題もあるという。
「Windowsあるいはオープンソースしか使っていないのであれば、ライセンスの問題は関係ない。だが米Oracleなどのベンダーが加わる場合、実際にはそういうケースがほとんどだが、Oracleのライセンスによってクラウドのコストモデルが崩壊する可能性がある」と、スタテン氏は語る。
これまで、Azureのコミットメントプランでは、Oracleソフトウェアも割引の対象に含まれていたが、2014年7月1日以降、対象から外れている。
「IT担当者は割引が最大となるインスタンスを探すべきだが、1時間当たりのコストを主要因にすべきではない」と、前出nGenxのヨハンセン氏はセッションで語っている。
スタテン氏も、クラウドを料金で選ぶべきではないとの考えだ。「企業はITスタッフの生産性を高めるプラットフォームを選択すべきであり、最大のアジリティ(俊敏性)と最良のアプリ配信を提供するクラウドを選ぶべきだ」と、同氏は語る。
SLA
いずれかのクラウドを検討している企業はSLAを慎重に調べる必要がある。スタテン氏によれば、クラウドの世界では、一方的で包括的なSLAが用意されている場合が多く、企業はそうした状況には不慣れだという。
「大半の企業がSLAを読んでもすぐに投げ出すのは、事業者と直接交渉しようと考えているからだ。これは間違ったアプローチだ」と、スタテン氏は語る。
同氏によれば、クラウドで独自の実装を展開する場合、もはやマルチテナント構成ではなくなり、固有のSLAが必要となる。だが、パブリッククラウド事業者と顧客企業との交渉では、IT担当者に想像以上の責任がのし掛かることが少なくないという。
「クラウドの使用量について不平等な契約になりかねない」と、スタテン氏は語る。
AWSとAzureはいずれもクラウドサービスと仮想マシンで99.5%のSLAを保証している。Amazon S3と「Azureストレージ」のSLAはいずれも99.9%だ。「Amazon Route 53」のSLAは100%保証で、「Azureトラフィック マネージャー」のSLAは99.99%。「Amazon CloudFront」と「Azure CDN」のSLAはいずれも99.9%となっている。
サポート
Microsoftには、企業が必要とするサポートを提供できるパートナー企業が多数存在するが、AWSは企業向けサポートの分野ではまだ駆け出しだ。だがスタテン氏によれば、AWSは目下、プロのサービス事業者を雇い、企業との付き合い方を学んでいるところだという。
AWSは既に、仏Capgeminiや米2nd Watch、米AccentureなどのITコンサルティング会社と提携しており、何か問題が起きたときには、IT部門はAWSと直接やりとりするのではなく、法人向けのサービス事業者に電話できるようになっている。
どのクラウドを使うかを決める際には、サードパーティーエコシステムのサポートも重要な決定要因となる。エコシステムには、独立系ソフトウェアベンダー(ISV)やチャンネルパートナー、他のクラウドサービス事業者、開発者などが含まれ、AWSには既に大規模なエコシステムが存在している。
最も重要なこととして、パブリッククラウドを活用するには、サードパーティーによるサポートやサービスの豊富さだけでなく、専門知識を持つ人材が不可欠だ。
「クラウドについて詳しい開発者やITスタッフが既に社内に数名いるとしても、この先、そうした人材はもっと必要になるだろう。AWSのエコシステムは巨大なので、AWSの専門知識を持つ人材は簡単に見つかるはずだ」と、スタテン氏は語る。
Microsoftのチャネルパートナーが全てAzureパートナーになれば、Microsoftは優位に立てるはずだが、今のところ、Azureのサポートに関するトレーニングを受けていないチャネルパートナーが多い。「恐らく、新たにトレーニングを受けたばかりのパートナーの最初の顧客にはなりたがる企業もいないだろう」と、スタテン氏は語る。
クラウドプラットフォームを選択する際にはこの他にも、セキュリティやコンプライアンス、オンプレミスシステムとの統合、企業の個別のニーズに依存する要因などを検討する必要がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
3
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
4
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
5
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
6
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
7
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
8
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
9
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
10
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー