白熱した座談会をリポート
注目の医療ITベンチャー5社が語る「日本の医療IT、未来はどっちだ?」
TechTargetジャパンは2014年7月、医療ITの今後をテーマに、新進ベンチャー企業5社による座談会を開催した。本稿ではそこでの議論の模様をお届けする。
医療/ヘルスケア業界ではITベンチャーの登場が相次ぐことで、従来とは違う視点、コンセプトの新たな製品やサービスが生まれつつある。では、各社は現状の何を課題視し、どのような解決策が必要と考えているのか。
TechTargetジャパンは2014年7月、この点に焦点を絞り、医療ITベンチャー5社による座談会を開催した。各社各様の立ち位置で発せられた言葉から、今後の医療ITの進むべき道を探りたい。なお、出席者は以下の5人。
メドピア 代表取締役社長 医師・医学博士 石見 陽氏
- 7万人の医師が利用するSNS「MedPeer」の運営を通じ、臨床医の集合知の提供に取り組む。2014年6月に東証マザーズ上場を果たした
メディカル・データ・ビジョン 取締役 事業開発部門長 福島常浩氏
- 医療機関や製薬会社、健康保険組合に医療情報を活用した各種サービスを提供する
ウエルネスデータ 代表取締役 星野栄輔氏
- 自らの健康データを100万人データと照らし合わせることで健康づくりのヒントが得られる健康管理サイト「wellcan」を運営する
メディエイド 取締役 COO 矢島弘士氏
- 医療関係者や患者がつながる医療の実現に向け、患者向けコミュニティーサイト「ライフパレット」などを運営する
ミナケア 代表取締役・医師 山本雄士氏
- 医療機関などに対する健康診断や医療費のデータ解析サービス、多様なヘルスケアサービスの開発支援を手掛ける
ベンダーによる囲い込みがデータ活用を阻害
――まずは現状の医療ITについて、何を課題と捉えているのかをお聞かせください。
矢島氏 大前提となるのが、現状のままでは高齢化に伴う患者の増加によって医療費の増大が避けられないという明白な事実です。そうした中、医療費の増加を抑えつつ、医療の質の向上も支援することが医療ITの本来的な使命となります。
そこで鍵を握るものの1つが医療情報の共有などを目的とした電子カルテです。ただし、その導入率は着実に高まっているものの、ベンダーによる技術的な囲い込みによって医療機関同士の連携がまだまだ進んでいない。このままでは、将来的な地域医療連携はもちろん、ビッグデータ活用も極めて困難でしょう。加えて、扱いが極めてデリケートな医療データを扱うルール作りがいまだ道半ばにあることも問題といえます。
石見氏 私は今でも週に一度、診療を行っているのですが、電子カルテは画面ごとに操作方法が異なるなど使い勝手が極めて悪く、現場視点で見ればシステム側の押し付けとしか感じられません。現に、導入により現場がパニックになったとの話もしばしば耳にします。では、医療ITがさらに先鋭化する中、医療の現場で使いやすく、データ活用も行いやすい仕組みとは果たしてどのようなものなのか。その“解”を見いだすことこそ、ベンチャーであるわれわれの責務といえます。
一方で、電子カルテ内のデータ活用を進めるためには、「データを医療機関で共有することが患者の健康に確実に寄与し、医療サービスの向上にもつながる」ということをさらに周知する必要があるでしょう。何もメリットがなければ、データ利用に同意を得ることは難しいわけですから。そう考えれば、患者のデータは患者のものという考えに立ち、カルテを患者に戻すという取り組みも病院側に求められるのではないでしょうか。
ITで医療をいかに改善すべきかの視点が重要に
山本氏 医療ITが抱える問題の根本には、ITによる医療改善の視点の欠落があるという気がしてなりません。例えば、病院では多職種が協働する労働集約型業務の効率化を題目に各種システムの導入が進められてきました。しかし、導入後、その効果検証はこれまでほとんどなされてきませんでした。これが果たして正しいIT化の姿なのか甚だ疑問です。
データ活用についても同様でしょう。現状では明確な目的もなく、ただ単にデータを収集することに専念しているように見受けられます。それらは実は宝ではなく、ゴミの山かもしれないにもかかわらず、です。
福島氏 医療データは分析に当たり、非常に扱いが難しいことは確かです。まず、カルテに記載された病名が本当に正しいかどうかが分からない。また、カルテの病名には対応したコードが割り振られるべきなのですが、もろもろの事情で標準コードが割り振られていないケースも、私の実感では現状で3割に上ります。
山本氏 そういう状況ですから、なおさら今後のあるべき医療の視点から出発しなければ、データ活用で大きな成果を上げられない可能性が高いでしょう。その結果、最悪の場合には医療ITへの期待感が大きく削がれてしまう可能性も否定できない。医療ITのさらなる普及を目指す上で、そうした事態は何としても避ける必要があるのです。
病院は医療ITともっと本気で向き合うべき
福島氏 システムの効果測定の話からも伺えるように、病院側が医療ITともっと本気で向き合うことも肝要でしょう。
大病院での電子カルテは一般企業でのBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)と同等のものであり、導入効果をより高めるには、いわゆる例外業務の見直しなどを通じた業務標準化が欠かせません。しかし、このことを理解している病院は決して多くはありません。このままではITが無駄となってしまう可能性もあります。
山本氏 データ活用の点では、電子カルテの記載方法も大幅に見直す必要があるはずです。医師は網羅的な医学体系を基に診療を行っているのですが、現状の記載方法では、テキストマイニングを行ったとしても、極端に言えば判断の根拠となる医学体系が分かるだけにすぎないのではないでしょうか。
しかし、医師がある“医学知”をなぜ参考にしようとしたのか、つまり患者の症状や訴えと、判断根拠とした医学体系とを電子カルテでひも付けられれば、診断における症候学がIT化による発展の第一歩となるはずです。記載方法の変更は、福島さんのBPRの話そのものです。
個人情報保護法にまつわる根深い問題
――医療ITにおける法制あるいは社会的課題についてはいかがでしょう。
矢島氏 管轄官庁ごとの縦割り行政が悩ましいところですね。実際に、セキュリティガイドラインだけを見ても厚生労働省と総務省、経済産業省の発表内容は微妙に異なり、正しい姿の見極めに一苦労です。
一方で、各ガイドラインを厳守するとなれば、さまざまなコストがかさみ低廉なサービス提供が難しくなる点も悩みどころです。とはいえ、ガイドラインに従っていなければ、万一の情報漏えい時には、われわれが全ての責を負ってしまうことにもなりかねない。
福島氏 そもそもわれわれは医療情報を扱う立場である以上、システムに関して保守的にならざるを得ないのではないでしょうか。ただし、縦割り行政のもどかしさに関しては同感です。個人情報保護法でも、監督官庁ごとに本人確認のための要件がそれぞれ異なりますから。
山本氏 こうした意見を踏まえ、個人情報については現状議論が進められていると聞いていますが、そこで問題となっているのがデータの“匿名化”です。というのも、医療データは扱いが非常にシビアで、例えば「ある会社で一番高い身長の人」というだけで個人を特定できてしまいます。とはいえ、個人個人を識別できないと追跡ができなくなってしまう。そのため、「適正な匿名化」は困難との声も少なからず聞かれるほどですが、であるならば、医療ITで扱ってよいのはどのデータかを明らかにすべきです。“情報を活用するための匿名化”が、こと医療に限っては極めて難題と言わざるを得ません。
医師と患者の意識の溝を埋める必要性
矢島氏 当社では在宅介護向けのクラウドサービスも提供しているのですが、紙による介護記録の管理が介護法により義務付けられていることも疑問です。せっかくITにより情報が電子化され、スタッフが外出先などから容易に確認できるようになったにもかかわらず、監査のためにあらためて紙に出力しなくてはならないのですから。
福島氏 医師と患者の双方の意識改革も必要でしょう。実のところ自身のカルテの確認を希望する患者は少なくないものの、医師に失礼との考えから、要望を伝えないことがほとんどです。ただし、これは逆に言えば、病気のことは医師に丸投げするという患者側の責任逃れでもあります。この状況を変えるためにも、医師と患者が打ち解けて話し合えるようになる必要があります。
石見氏 そのためには、現状を変えるための“黒船”か、強力なリーダーシップを備えた“中の人”の登場が不可欠でしょうね。当社では会員の臨床の医師にアンケート調査を行い、その結果を世の中に発信していますが、こうした地道な活動が少しでも“中の人”の意識変革を促すとともに、医師と患者の意識の溝を埋めることに役立てばと考えています。
星野氏 多忙な中、カルテ確認などのために医師の手を煩わせることは、確かに気の引けることでもあります。ただ、お薬手帳や各種のバイタル確認アプリといったITツールの登場により、話すきっかけは確実に作りやすくなっていますよね。
“サービス”視点の開発でシステム連携が加速
――これから登場が相次ぐであろう患者向けITツールは医療の現場で受け入れられそうですか。また、医療ITの将来像をどう描いているのかについて皆さんの考えを教えてください。
石見氏 例えば家庭で測ったバイタルデータを電子カルテに取り込み、確認できれば、診察時に大変役立ちます。そう考えれば、医師がITツールを受け入れない手はないでしょう。
山本氏 ただ、現状のITツールの多くが単なるデータの記録装置にとどまっている現状を踏まえれば、新たにツールを開発するベンチャーには用途も事前によく検討してほしいところです。
石見氏 電子カルテもまだまだ改善の余地があります。ITの感覚では、電子カルテへの各種データの取り込みは行えて当たり前なのですが、インタフェースが標準化されていないため、容易に連携できないことも少なくありません。もっとも、従来の“モノづくり”から“サービス”の視点に立った開発への移行によって、いわば重かった電子カルテも軽くなり、問題は徐々に解決に向かうはずです。現在はその過渡期にあるというのが実感です。
福島氏 そこで力を発揮するのが、使い勝手が良く、広く普及した各種のスマートデバイスでしょう。時や場所を問わず、各種サービスに活用を見込めるのですから。ただ、医療IT自体はあくまで裏方の存在であり、決して利用者に意識させるべき存在でないことは明らかです。その点で、フロントでエンドユーザーが使うツールの使い勝手をさらに高めることで、どこまで楽しく、役に立つサービスだと感じさせられるか否かが、医療ITの普及を少なからず左右するはずです。
医療ITベンチャー各社の今後の目指す先
――最後に、今後の抱負をお聞かせください。
石見氏 当社の一番の価値は、日本中の医師の4人に1人に当たる7万人の臨床医を会員としたコミュニティープラットフォームにより、極めて高度な集合知を提供できることにあります。その上で、今後はPHR(Personal Health Record:個人健康記録)領域にまでサービスを拡大させ、一部は既存のプラットフォームにも取り込みたい。これにより、一組の医師と患者を多くの医師がサポートできる仕組みを整えることで、医療の高度化を側面から支援できるのではないでしょうか。
福島氏 医療データの病院や研究機関への提供を行ってきた当社が今後取り組もうと考えているのが、PHRなどの医療情報を患者に戻す活動です。もっとも、せっかく戻してもらったカルテを無造作に扱う患者がいることなどから、座談会で話に上った患者側の意識改革がわれわれにとって当面の挑戦となります。その道のりは決して平たんではないと容易に想像できますが、粘り強く取り組むことで道は必ずや開けるはずです。
星野氏 当社は100万人分の保険医療統計データを利用したクラウドによる健康管理サービスを提供してきました。その究極的な狙いは利用者に、自身の健康に関する多様な情報の大切さを理解してもらうことです。その実現のためにも直近ではダイエットなど、生活者により身近な切り口からのサービス提供を視野に入れており、今後も試行錯誤を続ける考えです。
山本氏 人の健康における機会損失を減らすことは個人や社会にとっての“価値”であり、その実現に向けて病院以外の企業が果たす役割は決して小さくないはずです。そこで当社はデータ解析やヘルスケアサービスの専門職に加え、医療以外のプレーヤーまで巻き込んだ、病院外の医療マーケットの創出における成功事例を早期に生み出したい。こうした事例で健康機会損失を減らせることが周知された暁には、当社も次なる成長軌道を描けると確信しています。
矢島氏 当面の目標は当社の患者コミュニティーサイト「ライフパレット」と医療者を結び付け、収益化を達成することです。その実現に向け、新たなエコシステムの創出といった苦労を乗り越える必要がありますが、情報を患者に戻す考えを取り入れ、3年をめどに黒字化にこぎつけたいと考えています。
――お忙しいところ、本日はどうもありがとうございました。
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