ガートナーイベントリポート(後編)
「ロボティック医療」も本格化 未来の医療ITを支える4つの技術
ガートナージャパンが2014年4月に開催したイベントでは、医療ITを推進するキーパーソンである宮本正喜氏が、今後の医療ITを支える4つの技術を例に医療情報システムの将来像を語った。
未来の医療ITを支える4つの技術
ガートナージャパンが2014年4月23~25日に開催した「ITインフラストラクチャ&データセンター サミット 2014」。4月24日のゲスト基調講演には、医療情報学に詳しい兵庫医科大学の宮本正喜 主任教授が登壇した。「医療における過去、現在、未来の夢」と題したこの講演では、これまで取り組んできた医療情報システムの開発や医療ITの将来像などが語られた。前編「医療情報学のスペシャリストが語る、医療ITの将来像」に続き、その講演内容を紹介する。
講演の中で、宮本氏は未来への挑戦として「クラウド」「ビッグデータ」「ユビキタス」「ロボティック医療」の4テーマに関する最新動向や今後の期待などを語った。
クラウド:地域の病院/診療所を“単一の病院”に
複数の病院や診療所で医療情報の共有を図る情報ネットワークの構築が進められている。その基盤となる技術がクラウドコンピューティング(クラウド)だ。
現在、阪神南北圏域地域医療再生計画事業の一環として、阪神南、阪神北の医療圏にある7市1町を対象とする医療情報ネットワーク「h-Anshinむこねっと」が試験稼働している。基幹病院のストレージとGWサーバを設置し、連携する中核病院が患者の同意を得た上で診療情報をアップロードして集約する形式だ。診療所では、紹介患者の病状などを参照できる。閲覧情報は医療機関ごとに設定可能。
宮本氏は「ネットワークの名称は“安心”と“武庫川”にちなんでいる。このネットワークを介して、広域にわたる地域の医療機関が連係し、あたかも単一の病院のように機能する。その中にクラウドの技術が使われている」と説明する。
ビッグデータ:医療の発展に貢献できると期待
最も注目されるトレンドの1つである「ビッグデータ」。宮本氏は「医療分野におけるビッグデータ分析では、医療に関する非常に高度な知見・洞察を導き出すことが可能になる。医療の精度や安全性、効率化に貢献できると期待している」と語った。
一般にビッグデータの定義として、「Variety(種類)」「Volume(容量)」「Velocity(頻度)」のいわゆる「3V」が挙げられる。宮本氏は「医療分野では、特に“Variety”が重要」と語る。医療分野で取り扱う情報は検査画像や動画、聴音や触診データなど種類が豊富にあることがその理由だという。
医療分野におけるビッグデータ分析の例としては、以下の3つを挙げた。
- ストリームデータ処理
- ゲノム情報解析
- ナショナルデータベース解析
新生児のリスクを低下させる予測分析システム
例えば、カナダのオンタリオ工科大学(UOIT)と米IBMは共同で、ストリームコンピューティングの技術を利用し、新生児集中治療室(NICU)における予測分析システムを構築している。従来、NICUでは新生児の生体データと罹患リスクにおける相関関係の分析や予測をしてきたが、このシステムではそのリアルタイムを追求。重症児の生理学データをリアルタイムにモニタリング・分析することで早期の処置が可能になり、患者の死亡・罹患リスクを低下させるという。
宮本氏は「新生児の病態は分かりづらいが、ビッグデータの活用により新しい仮説、病態などが発見でき、新たな臨床仮説を検証することにも役立つのでは」と語った。
日々の活動をリストバンド端末で自動収集
生活習慣病の予防や健康増進を目的として、日々の活動や睡眠などの状況を自動的に収集、数値化する「ライフログ」を活用するサービスが実用化されている。宮本氏が、そうしたサービスの1つに挙げたのが、日立製作所が開発した「ライフ顕微鏡」技術だ。
ライフ顕微鏡では、加速度・脈波・温度センサーなどを組み込んだ腕時計型の無線端末を用いて、人の活動に伴う体の動きや脈拍、体温の変化を24時間365日連続して収集、解析する。日立グループでは2013年からライフ顕微鏡を活用した「生活習慣改善支援クラウド」に取り組んでいる。グループ企業の社員数千人を対象にデータを収集。測定データは、視覚的・直観的に理解しやすい「ライフタペストリー」と呼ばれるグラフで表示し、それまで見過ごしていた自身の生活習慣の見直し、自身の体調変化をきめ細かく把握しながら健康管理に役立てることができるという。
新技術の台頭で分析精度が向上
ヒトゲノム配列を直接読み、個人に特徴的な変異情報から治療戦略を検討する「ゲノム解析」。現在は、全ゲノム解析やエクソーム解析など「次世代シーケンシング技術」と呼ばれる新技術が台頭し、多くのプロジェクトが進められているという。
承認フローに課題もある「ナショナルデータベース」構想
厚生労働省などの関係省庁は現在、国が保有するレセプト情報や特定健診/特定保健指導情報のデータである「ナショナルデータベース」の活用促進に取り組んでいる。宮本氏は、ナショナルデータベースには以下5つの特徴があると説明。
- 抽出調査ではなく全数デ-タを蓄積
- 数十ではなく、万単位のデ-タ項目があり、詳細な分析が可能
- 数年に1度の調査ではなく毎月のデ-タを蓄積
- データベース内のIDにより年月が異なっても、患者の追跡が可能
- 電子化されているため、分析が容易かつ迅速
しかし、「その利用に関しては、大臣承認が必要となるため運用フローに課題がある」(宮本氏)が現状だという。
ユビキタス:地域包括ケアシステムの中核を担う
医師の不足や医療機関の経営悪化などを背景に、病院完結型から日常生活圏で医療・介護、福祉をする、地域包括ケアシステムの構築が進められている。そのためには、「どこでも、いつでも、誰でも」利用できるツールが求められ、それを実現する「ユビキタス」技術が鍵を握るという。
特に、体内に埋め込めるICチップを利用する「ナノ技術」とユビキタス技術が連係することで、「低侵襲診断や標的治療システムへの応用が可能になり、安心な医療の提供に寄与できる」と宮本氏は説明する。
ロボット:夢を現実にする技術
医師が患者に触れずに患部の立体画像を見ながら遠隔操作でアームを動かしながら手術できる手術支援ロボット「ダヴィンチ」。既に海外では年間約28万例の臨床実績があり、国内でもその導入が活発化している。宮本氏によると、こうした医療ロボットの登場で手術の現場が変わりつつあるという。講演では、内視鏡を見ながら操作し、胸骨切開なしで行う「VATS(Video-Assisted Thoracic Surgery)肺葉切除術」の様子を紹介した。
また、日常生活の見守りや癒し効果をもたらす「ペット型ロボット」や、患者を持ち上げる時に役立つ介護開発ツール、生活支援ロボット「ロボットスーツHAL」など、医療ロボットの開発・実用化が加速していると説明した。
宮本氏は「将来的には、映画『スタートレック』に登場する集中治療ユニットやあらゆるセンサーが装備され、患者のさまざまなデータを検知し、ビッグデータ解析による治療を実現す『イントレピッド級医療室』など、夢で描いていたような医療を実現できる可能性がある」と講演を締めた。
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