宮崎から世界へ、AWSを活用したITベンチャーの挑戦
「宮崎に1000人の雇用を」 クラウドとともに歩み続けるアラタナのインフラ戦略
宮崎のベンチャー企業であるアラタナは「宮崎に1000人の雇用をつくる」ことを目標にeコマース専門のテクノロジーを提供している。「Amazon Web Services」(AWS)を活用した同社のITインフラ戦略を紹介する。
「宮崎に1000人の雇用をつくる。これはアラタナの設立当初からの目標であり、今はその実現のために頑張っているところ」――2014年11月6日、ANAクラウンプラザホテル福岡で開催された「AWS Cloud Roadshow」において、アラタナ 代表取締役社長 濱渦伸次氏は同社のセッションの冒頭でこう述べた。eコマースに特化したITベンチャーとして2007年にたった2人で創業したアラタナは、7年後の現在、約140人の社員を抱えるまでに成長した。そしてその先の「宮崎に1000人の雇用」という目標に挑み続けるために欠かせない基盤、それが「Amazon Web Services」(AWS)のクラウドだと濱渦氏は言う。本稿では濱渦氏および同社 インフラマネージャ 月岡誠治氏のセッションの内容から、クラウドが開く地方ビジネスの可能性について考えてみたい。
「AWS以外のインフラ選択はあり得ない」
冒頭でも触れたように、アラタナはeコマースに特化したテクノロジーを提供する宮崎のベンチャー企業だ。これまで約5000を超える店舗のeコマースサイト構築を支援してきた実績を持つ。導入サイト事例には、はごろもフーズやジュビロ磐田といった企業の名前も並ぶ。
現在ではeコマースサイト構築で培ったノウハウをベースに、メディアコマース事業やネットショップを安全に運営するためのセキュリティ事業にも力を入れている。2013年にはファッションメディア「ハニカム」、セキュリティ企業「ゲヒルン」、フルフィルメント企業「ターミナル」などを買収し、「eコマースの川上から川下までをサポートする体制」(濱渦氏)の構築を目指している。
アラタナにはネットショップを支援する幾つものサービスが用意されているが、同社を支える最も重要なソリューションが「CAGOLAB(カゴラボ)」だ。eコマース構築の標準プラットフォームであるオープンソースの「EC-CUBE」をベースにしたパッケージで、ネットショップのデザイン、システム構築、運用、SEO対策までをワンストップでサポートする。カゴラボによる制作実績は既に1000件を超えているが、「カスタマイズのしやすさとセキュリティレベルの高さ」(月岡氏)が顧客から評価を得ている理由だという。そしてカゴラボなどアラタナの重要なサービスを支える基盤がAWSのクラウドである。
月岡氏は「トラフィックの激しい増減や柔軟なスケーラビリティ、動画コンテンツの提供、そしてセキュリティの担保、そういったシステム要件を考えるとクラウドファースト、それもAWS以外のインフラ選択はあり得ない」と話す。では、アラタナではどんな思想の基にクラウドインフラを設計しているのだろうか。
オープンソースとAWSを組み合わせる、アラタナのインフラ戦略
月岡氏はセッションにおいて、アラタナのインフラ戦略を以下の3つに集約して解説している。
- 制御しやすいインフラ基盤の活用
- サーバはステートレスな実装
- セキュリティはトッププライオリティ
まず1の制御しやすいインフラ基盤について。カゴラボのフロント用Webサーバ群は、「Amazon EC2(Elastic Compute Cloud)」インスタンス上にApache HTTP Serverを構築し、オープンソースのWebアプリケーションファイアウォール(WAF)「ModSecurity」を組み込み、アプリケーションはPHPで記述している。3のセキュリティとも関連するが、WAF(ModSecurity)で対処しきれないような執拗な攻撃はオープンソースの「Fail2ban」ではじくようにしているという。外部からのアクセスは「Amazon ELB(Elastic Load Balancing)」で負荷分散し、各Webサーバに振り分ける。バックエンドのデータベースには「Amazon RDS(Relational Database Service) for PostgreSQL」を採用しており、ログはオープンソースの「Fluentd」を介して「Amazon S3(Simple Storage Service)」に蓄積される。オープンソースの各種ミドルウェアとAWSのサービスをうまく組み合わせている印象だ。
ここでのポイントはロードバランサー(ELB)による負荷分散だ。月岡氏は「Webサーバには処理を返すことだけに集中させたい」として、ELBにおいてSSLアクセラレーターとオートスケーリング(Auto Scaling)を機能させている。こうすればサーバ増設のたびにSSLの設定をする必要もなく、Auto Scalingと組み合わせることでサーバ負荷に応じた自動スケールアウト/インが可能になる。負荷の状況はモニタリングサービスの「Amazon CloudWatch」でチェックし、ある閾値を超えたら自動的に数を増減するようにしている。「サーバを増やすときは速く、落とすときはゆっくり、そういうコントロールが非常に柔軟にできる」(月岡氏)点がAWSのスケーリングの魅力だという。
2のサーバのステートレス実装について月岡氏は「クラウドネイティブなインフラ設計にするにはサーバをステートレスにしておくことが基本」だと強調する。「サーバの命は、はかない。EC2は基本的に使い捨てにして、ログをFluentd経由でS3に放り込む方が効率的」(月岡氏)
なお、静的コンテンツの表示には管理サーバ(ショップオーナーがアクセスするサーバ)とS3を同期させた状態にしておき、CDN(Contents Delivery Network)サービスの「Amazon CloudFront」を連係させ、高速化を図っている。サイトにアクセスしたユーザーは最寄りのCloudFrontのエッジロケーションを利用できるので、高速アクセスが可能になる。動画の配信にも有効だ。
最後のセキュリティに関しては「セキュリティを高めたいからAWSを使っている側面は強い」と語る。AWSが標準で備えているセキュリティ機能に加え、Fail2banや「TCPWrappers」などLinux標準のソフトウェアを使うことで多段階のセキュリティレイヤーを構築できるからだ。月岡氏は「サーバ構築時に脆弱性診断を行っており、早めにXSLの脆弱性をつぶすようにしている。AWSはセキュリティに関する情報も多いので、そうした情報をいち早くゲットして対応することが重要」と述べた。
アラタナのインフラ戦略は、今やサーバもクラウド前提で構築する時代に突入しつつあることを如実に物語っている。アクセスやサイトの規模に応じて柔軟にサーバを立ち上げ、役目が終わればすぐに消し去る。それでいてセキュリティに関しては万全を期す。オンプレミスで同じことをやろうとするのはもはや不可能だ。宮崎という地方から、世界のユーザーを相手にビジネスを展開するにはクラウド以外のインフラはあり得ないという主張もうなずける。「宮崎に1000人の雇用をつくりだす」というアラタナの目標は、AWSを使いこなすことで、確実にそして急速に実現へと近づいているようだ。
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