地方活性化でニッポンのクラウドを次のステージへ
AWS長崎社長インタビュー、エンタープライズにおける次なる施策とは?
エンタープライズでの勢いが目覚しい「Amazon Web Services」(AWS)の長崎社長に、企業導入における最近の傾向、力を入れているパートナー施策、新たに画策する地方展開について聞いた。
2014年秋、アマゾン データサービス ジャパンはインテルと共催で札幌、福岡、名古屋、大阪の4都市を巡るクラウドカンファレンス「AWS Cloud Roadshow 2014 powered by Intel」を展開する。「Amazon Web Services」(AWS)の最新技術動向やベストプラクティスに関する情報を、AWSのアーキテクトや導入企業担当者が現地で直接伝えることで、「クラウドが変える“明日”のビジネス」というテーマそのままに、クラウドがもたらすビジネスメリットを地方にも拡げていくことが狙いだ。AWSが東京リージョンとして国内にデータセンターを開設してから3年がたつが、ここにきて地方におけるクラウドへの注目度が急速に高まりつつある。この流れを一気に本格化させ、日本のクラウド活用を新たなステージに押し上げることができるのか。今回、Roadshowが開催される4都市全てで基調講演を行うというアマゾン データサービス ジャパン 代表取締役社長 長崎忠雄氏に、日本におけるAWSとクラウドのビジネス動向を中心に話を聞いた。
増え続けるエンタープライズ事例
――2014年7月に行われた「AWS Summit Tokyo 2014」(以下、サミット)では国内企業による活用事例が一段と広がったことを実感しました。特にエンタープライズでの導入事例は大幅に増加した印象を受けます。
長崎氏 サミットでは70社を超えるお客さまに登壇していただきました。その中でも、エンタープライズのクラウド活用は確実に裾野が広がっています。例えば金融系ではマネックス証券やソニー銀行などの事例が発表されました。国内の金融機関がクラウドでシステムを構築するなど、東京リージョンを開設したばかりの3年前(2011年)では考えにくかったといえますね。
――3年前はまだ“特定の企業が特定の業務に使う”というのがクラウドのイメージだったように記憶しています。「クラウドを業務で使うなんて危ない」ということが割と当たり前に言われていました。
長崎氏 それが“普通の企業が普通の業務に使う”に変わってきたことを示したが7月のサミットだったと思っています。「こんな便利なツールを使わない手はない」「新しいワークロードはまずAWSで試す」という企業も増えています。クラウドの手軽さによるメリットを多くの企業が当たり前のこととして捉えるようになったのは、「クラウドは危ない」といわれていたころに比べると大きな変化ですね。
――普通の企業、特にエンタープライズでの導入が進んだ背景には何があるとお考えでしょうか。
長崎氏 エンタープライズの場合、これまで蓄積してきたITリソースの全てをオンプレミスからクラウドに一気に移すというケースはほとんどありません。一部の業務アプリケーションをクラウドに移行したり、「Amazon VPC」や「AWS Direct Connect」のように既存の環境と接続しやすいサービスから入るなど、まずはクラウドを試す姿勢で臨まれる企業がほとんどです。そしてクラウドに慣れてから、AWSが提供する他のサービスも利用したり、ワークロードを本格的に移行するという段階に進んでいく。サミットでも登壇していただきましたが、ローソンの事例などはまさにその最たるものですね。同社は現在、基幹業務システムのAWSへの全面移行を進めていますが、これは今後数年をかけて取り組まれるプロジェクトです。何もかも一気にクラウドへと移行すれば、必ずエンドユーザーの業務に影響が出ます。そうではなく、ビジネスの現状と将来のニーズを見据えながら周到に準備をしてクラウドの利用を拡大していくというアプローチが、エンタープライズにおける現実的な解だと思います。
――加えて、最近ではプライベートクラウドからAWSへの移行を検討する企業も増えていると思います。プライベートクラウドでは結局、ハードウェアの調達や保守からは逃れられない。その手間やコストに気付いて、プライベートクラウドに限界を感じているユーザー企業が増えているようにも思えます。
長崎氏 レコチョクや丸紅、日本通運などの事例はまさにプライベートクラウドからの移行です。パブリッククラウドと同じエクスペリエンスをプライベートクラウドで得られるかというと、それは難しいかもしれませんね。
――こうしてオンプレミスやプライベートクラウドをパブリッククラウドに移行する企業が増えていく中で、AWSがエンタープライズに選ばれる理由は何とお考えですか?
AWSがエンタープライズのお客さまに支持されているポイントは大きく3つあります。先ほど挙げた「Amazon VPC」と「AWS Direct Connect」、そして業務アプリケーションライセンスの移行です。SAPやOracleなど、オンプレミスで使っていたアプリケーションのライセンスをそのままAWS上でも継続して使うことができます。そしてAWSはこの3つをベースに、エンタープライズの業務をクラウドで稼働させるというスキームを8年かけて全世界で磨き上げてきました。
――その8年間のクラウドビジネスでのナレッジの蓄積は、そのままAWSの競合他社に対する優位性でもあるように思えます。3年前、8年前に比べると、クラウドプロバイダーの数も大幅に増えましたが、こうした外部環境の変化についてはどう見ていますか。
長崎氏 ユーザーにとっては選択肢が増えることにつながりますから非常に良い状況だと思います。AWSは競合他社にフォーカスしないというのは常に言い続けていることでもありますが、他社と違うところを1つだけ挙げるとするなら、それはAWSがテクノロジーベンダーではなくAmazon.comというリテール(小売り)企業のDNAを受け継いでいるという点です。もっと言えば薄利多売、ハイボリューム&ローマージンというフィロソフィーがクラウドビジネスにも染み込んでいるのです。
例えばAWSはこれまで45回以上にわたって値下げを実施してきました。これは他社と価格競争をしているからではなく、利益が上がったらお客さまにそれを還元するというフィロソフィーにのっとった行動です。本当にその価格で提供できるから値下げしているのです。恐らく他社にはまねできないところではないでしょうか。
――逆に言えば、Amazonのフィロソフィーにないこと、DNAに刻まれていないことはやらないと。
長崎氏 そうです。例えば高い価格で一部の顧客をターゲットにしたアップフロントサービスを提供したりすることに興味はありません。われわれは短期ではなく必ず中長期でビジネスを見ます。そのためには中長期に渡ってビジネスを支えるフィロソフィーが大前提です。テクノロジーではなくリテールのDNAに沿ってビジネスを展開していること、これが他社との最も大きな違いです。そしてお客さまに利益を還元するという体質が、頻繁な新サービスのローンチや機能改善にもつながっています。お客さまの求めるアップデートに応えていくには、スピードやアジリティを考えると、従来のテクノロジーベンダーが取っていたやり方では立ち行かないことは明らかですから。
エンタープライズ導入の鍵はパートナー育成
――3年前と現在を比べると明らかにクラウド、そしてAWSの普及率は高まっているわけですが、さらなる普及を図るには優秀なパートナー企業の存在が欠かせないと思います。現状のパートナー施策についてお聞かせいただけますか。
長崎氏 現在、AWSのパートナー企業はグローバルで1万社を超えています。これはシステムインテグレーター(SIer)とISV(Independent Software Vendor)を合わせた数字ですが、われわれもパートナー企業の教育を非常に重要だと捉えており、さらなる拡充が必要だと強く認識しています。特にインテグレーションのスキルを持つパートナー企業の需要がここ最近高くなっているため、積極的にパートナー教育を進めていく予定です。トレーニングのスキームを拡大し、コースメニューを増やすなどの施策はその一環です。
――これは私見なのですが、AWSのユーザー企業とパートナー企業の関係を見ていると、ユーザー企業の方がどんどん先に行ってしまうというか、クラウドに対する知見が深くなっていくスピードが速いのに対し、パートナー企業の方がそれに追い付いていないように思えます。ユーザーのニーズに即応できるほどのスキルを持つクラウドインテグレーター(CIer)はまだかなり少ないような気がするのですが。
長崎氏 現在はテクノロジーの転換期にあると私は思っています。ある意味、一番混乱が生じやすい時期でもあるかもしれませんが、新しい技術の成長は早く、ビジネスのニーズを抱えるお客さまの方が新しい技術を受け入れやすいという側面はあるかもしれません。ですが、パートナー企業の支援がなければお客さまは新技術の導入に踏み切ることを躊躇(ちゅうちょ)します。クラウドは正にそういう状況にあり、われわれとしてはお客さまに優れたパートナー企業を紹介することも行っていますが、やはりパートナー企業の教育はかなりの優先事項ですね。事例が増えれば増えるほど、パートナー不足が目に付くようになりますから。
ただ、国内のパートナー企業にも新たな動きが出ています。今年(2014年)で言えば日立グループがAWSとの連携を本格化させたことは大きなニュースになりましたが、こうしたトレンドに押されるように、SIerがクラウドへの対応を急いでいるのは確かです。例えばAWSパートナーネットワーク(APN)の国内6社(アクセンチュア、アビームコンサルティング、伊藤忠テクノソリューションズ、サーバーワークス、日本ユニシス、日立製作所)が、エンタープライズでのAWS活用について共同執筆した『エンタープライズAWS導入ガイド』という無料のガイドブックを配布しています。普段は競合関係にあるパートナー同士が協力してユーザーやパートナーの啓発に当たるというのは、これまでのIT業界ではなかなか考えにくいシチュエーションではないでしょうか。
――パートナー企業の裾野が広がれば、業界全体にメリットが大きいと判断した上での行動のように思えますね。2012年にSCSK、電通国際情報サービス、野村総合研究所の3社が協力して「金融機関向け『Amazon Web Services』対応セキュリティリファレンス」(FISC)を作成したことも印象深いです。
長崎氏 APNに参加いただいているパートナー企業はそういったクラウドの普及活動にも積極的で、パートナーコミュニティー間のナレッジシェアリングもかなり進んでいます。彼らもクラウドのインパクトについては熟知しており、AWSをお客さまに使ってもらうことで今までできなかったことができるようになると信じているからこそ、互いに協力し合っているのです。少し前までは、「クラウドを使う=コストを削減する」という概念が一般的でしたが、今はクラウドでイノベーションを起こし、日本を変えたいと真剣に思うお客さまやパートナー企業が増えています。そうした流れを止めないためにもAWSとしてはパートナー教育をさらに強化していくつもりです。先ほどお話にあったエンタープライズのクラウドへの移行を進めるにも、優れたSIパートナーはやはり欠かせないですからね。
――パートナー企業がいたからこそ実現したという事例は何かありますか。
長崎氏 分かりやすいところでいうと、日本通運の事例でしょうか。同社は現在、プライベートクラウドからAWSへの移行プロジェクトを進めていますが、数千を超すアプリケーションを移行させるというのは口で言うほど簡単ではありません。一緒に課題解決に当たるパートナー企業の存在があってようやく歩を進められるのです。われわれAWSはそれをバックエンドで支えていくことがミッションだと思っています。
初の4都市キャラバン、地方ならではのAWS活用例
――今回、4都市連続でRoadshowを実施されますが、こうした取り組みは初めてでしょうか。
長崎氏 4都市連続というのは初めてですね。ただAWSには「JAWS-UG」というユーザーグループが存在し、国内48カ所に支部があり、各支部で活発にイベントが開催されています。AWSのアーキテクトがお話させていただくことも多いですね。これほど地方での活動が活発なユーザーグループはAWSのグローバルで見ても日本以外にありません。
――では今回、あえて連続で各拠点を回ることにした理由を教えていただけますか。
長崎氏 当たり前ですが、クラウドは大都市のためだけのものではありません。むしろ地方だからこそクラウドを活用することで、地方から世界に羽ばたくビジネスを実現しやすくなります。そうしたクラウドの可能性をより多くの人に同じタイミングで知ってほしいからこそ、4都市連続開催にあえて臨みました。
ITに限った話ではありませんが、日本ではどうしても情報が東京に一極集中しがちです。もしそれが一因で地方のビジネスが活性化しないのだとしたら、日本経済にとっても非常に大きな損失です。地方にも素晴らしいスキルとアイデアを持ち、世界で十分に勝負できる企業はたくさん存在します。われわれはクラウドの力を持ってして、そうした企業を本当に応援していきたい。資本やリソースがなくても、クラウドがあれば大企業と同じように、むしろより速くビジネスをスタートできるということを知っていただきたいのです。Roadshowでは最新の技術動向やベストプラクティスの紹介だけでなく、そのエリアならではのクラウド導入事例を各地の代表企業の方にお話していただくので、クラウドの可能性をより身近に感じてもらえるのではないかと期待しています。
――地方ならではのAWS活用例には、例えばどのようなものがあるのでしょうか。
長崎氏 よく知られているところでは大阪でスタートした回転寿司チェーンのあきんどスシローがあります。最近では、今回札幌のRoadshowで登壇していただくファームノートの事例が非常に面白いですね。ファームノートは、牧場経営者のために牛の個体管理をクラウドとスマートフォンでどこでも行えるアプリケーションを提供しているのですが、正にそのエリアに根差したクラウドビジネスだといえます。
――モバイルの活用も地方では重要なポイントになりそうですね。
長崎氏 AWSではモバイルアプリケーション開発のためのサービスを数多く用意しています。モバイルを活用するビジネスは、むしろ地方にこそより大きな可能性があるように思います。今回のRoadshowをファームノートのような、地方のユーザーを勇気付ける事例を増やすきっかけにしたいですね。
――地方でのクラウド普及が本格化すれば、日本のITも大きく変わりそうな気がします。
長崎氏 クラウドというのは使っていくうちに思ってもいなかった副次効果を生み出すことが往々にしてあります。1つ例を挙げるとセキュリティですね。「AWSはセキュリティが心配」とはよく言われましたが、ではAWSの何がそんなに心配なのか、お客さまと1つひとつ話を詰めていくと、お客さま自身も実は不安そのものが可視化されていない場合が非常に多い。本当にその会社が守らなければならないものは何なのか、逆に多少は犠牲にできることは何なのか、そうした要素をリスト化していくことで、セキュリティやガバナンスに対するアプローチが前よりもクリアになることがあるのです。クラウドによって新しい世界が見えてくる、エンタープライズのお客さまと同様に、地方のお客さまにもそうした体験を数多くしてもらうために、われわれは今後もクラウトに関するメッセージを発し続けていきます。
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