IT部長さんのための技術トレンド【第7回】
1回で分かる:「SDN」の基本、主要ベンダーの動向をマップで押さえよう
「SDN」って簡単にいうと何? 「OpenFlow」とは何が違うの? どんな規模でもメリットを発揮するの? このような疑問を分かりやすく解説する。主要ベンダーの動向を3つに分類したマップ付き。
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本稿はIT部門にお勤めの方を対象に、「SDN(Software Defined Networking)」というキーワードについて大まかに解説する記事です。「SDNってこんな技術なのか」「当社の課題解決に向いていそう/向いていなそう」というイメージが持てたり、若手社員からの提案を分かりやすく経営幹部に伝えるための一助になればと思います。しかしながらSDNはまだまだバズワードであり、定義や解釈が揺れています。そのため、SDNという言葉の利用は慎重にすることをお勧めします。
なお、SDNの技術について深く知りたい方、技術や製品に興味を持った方は、下記のTechTargetジャパン記事の他、Googleなどで検索をすれば多くの情報が得られるはずです。
また、技術的な用語はある程度かみ砕いて記述していますが、一般的な家庭内LAN環境(ブロードバンドルータを含む)をマニュアルなしで設定できる程度のネットワーク知識、あるいはOSI参照モデルに基づいた説明が分かる知識レベルを前提としています。
簡単にいうとSDNとは
SDNとは“Software Defined Networking”の略称で、ソフトウェアでの制御による、動的かつ柔軟なコントロールを可能にしたネットワーク技術の総称です。
既存の技術においてもネットワークスイッチを動作させているのは、厳密にはスイッチ内のEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)やSDカード、HDDなどの記憶媒体に格納された「ソフトウェア(ファームウェア)」ですが、それは単体のスイッチのみを対象としています。SDNのスコープは単体のネットワークスイッチのみならず、複数の物理/仮想スイッチなどで構成されたネットワーク全体を、SDNソフトウェアがコントロールできる対象としています。
言葉としてはまだバズワードに近いところもあり、企業によって定義やスコープにばらつきがあります。そのくらい新しい言葉なのだということを理解し、現段階では広くイメージすることが肝要です。
なお、SDNは「OpenFlow」仕様公開後に登場した言葉で、OpenFlowを含めて広く定義しようとしている言葉です。ただ、現在のSDN製品のほとんどはOpenFlowベースです。また、SDNを理解する上では「NFV」の意味も知る必要があります。NVFは“Network Function Virtualization”の略称で、ネットワーク機能の仮想化技術を指します。本稿で深くは触れませんが、いわゆるルータやファイアウォール(FW)、ロードバランサー(LB)の仮想アプライアンス、あるいは通信キャリアが持つ特殊装置のオープンアーキテクチャ化と捉えるのがよいでしょう。現在はその定義が揺れている状況です。仮想アプライアンスについては、L3~L7ネットワーク機器に当たるとイメージすると分かりやすいと思います。
簡単にいうとOpenFlowとは
OpenFlowとは、ネットワークスイッチのコントロール部とフロー部の2つをソフトウェア的に分割し、より柔軟なネットワーク構成を実現すべく開発された技術です。コントローラーで各スイッチ間のパケットの流れ方を設定し、その設定値が各スイッチに格納されます。各スイッチでは、どのポートから入ってきたパケットをどのポートに出すかだけを意識しています。コントローラー側の設定を変えることで、スイッチ群の振る舞いを動的に変更することができます。このデータフローがいわば仮想のパスであり、仮想ネットワークです。
OpenFlowによって、これまでのようにメンテナンスや構築時に、複数のスイッチを1つひとつ操作する必要がなくなりました。また、物理的な設計自体も、これまでのハブ&スポーク型やツリー型からフルメッシュ型が可能になったことで、物理構造とネットワークトポロジの分離を果たしたのです。それはあたかもハイパーバイザーの登場によって、サーバコンピューティングに変化がもたらされたのと同じような現象でした。
SDNを取り巻くベンダー動向
現在、SDNを取り巻くベンダーには、米Brocade Communications Systems(Brocade)、米Cisco Systems(Cisco)、米Juniper Networks(Juniper)、米IBM、NECといった主要IT企業が存在します。彼らによってOpenFlowコントローラー/スイッチ、仮想ルータが既に商用製品化されており、実装そのものはかなりの勢いで進んでいます。もちろん新たな市場を狙ったスタートアップ企業もそれに追随し、さまざまな製品をリリースしている状況です。
また近年、単純なOpenFlowコントローラー/スイッチの組み合わせだけでなく、ネットワーク機能の仮想化(NFV)や物理/仮想スイッチを含んだSDNオーケストレーターの「OpenDaylight」がオープンソースソフトウェア(OSS)で登場。BrocadeはこのOpenDaylightを商用化し、「Brocade Vyatta Controller」という名称で自社製品としています。また、それ以外のオーケストレーターとして米Anuta NetworksのSDN管理ソフト「Anuta NCX」があります。
紹介したもの以外にも、多くのベンダーやコミュニティーがSDNに取り組んでいます。この様子を図に表すと以下のようになります。
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図はSDNを構成する層をマネジメント層、コントロール層、データ層の3つに区分し、それぞれに対応するベンダー/OSS製品を配置したものです。複数の層にまたがっているベンダーは各層に製品を展開していることを意味し、ベンダー/製品から伸びる線は、そのベンダー/製品からどの層のプロダクトにコントロールされる、あるいはコントロールするかを示しています。
マネジメント層
マネジメント層にはオーケストレーションを行う製品があり、SDN各層とはAPIによって連係します。単にスイッチをコントロールするだけでなく、コントローラーへの指示や、NFV製品との連動もスコープに入ります。また、ユーザーに対する管理GUIを提供するのがこの層に当たります。
コントロール層
コントロール層の代表的な例にはOpenFlowコントローラーがあり、一般にSDNコントローラーといわれる製品群はこの層になります。
データ層
データ層は、データを配送する機能、部分に当たります。
現状、SDNを冠する製品の大部分はOpenFlow実装であり、それ以外のSDN製品は主流とはいえない状況です。OpenFlowは2009年のバージョン1.0.0登場以降、現在(2014年12月時点)までにバージョン1.4がリリースされており、製品によってバージョンの実装状況はまちまちです。
OpenFlow以外のSDN製品の1つに、ミドクラジャパン(ミドクラ)の「MidoNet」(2014年11月にOSS化)があります。これは、全てのノードに仮想ネットワーク構成情報の複製を持つというアーキテクチャです。フローコントローラーにフロー情報が集中しているOpenFlowの、コントローラーに起因するネットワーク障害のリスクを回避する手段として登場しました。
SDN製品は大手ベンダーによるプロプライエタリ製品だけでなく、OSSによる実装も盛んです。また、大手ベンダーが自社の製品をOSS化するケースもあり、これまでとは少し変わった流れがあることにも注目したいと思います。
ユーザー事例
SDNの大手企業での採用事例がここ数年で増えています。なお、国内のOpenFlow事例ではNECが先頭を走っており、多くの事例がNECによるものです。
代表的な事例の1つに、名古屋市立病院の院内ネットワークがあります。医療のIT化を進める上で非常に意義のある利用方法ではないでしょうか。病院には電子カルテに加え、ネットワークに対応した高度な診療器具が複数存在します。例えば、CTやレントゲンの画像はデータ化され、院内のサーバやストレージに格納されます。これらは非常にセンシティブなデータであり、取り扱いには厳密な権限設定や安全性の確保が要求されます。ネットワークレベルでの動的でセキュアなネットワーク構成が実現できれば、院内でのデータの取り扱いはよりスムーズかつ安全になるわけです。
また2014年7月には、東日本旅客鉄道(JR東日本)の東京駅でも構内ネットワークにSDNが採用されました。
これらの事例で共通しているのは、どれも複数の目的が異なるネットワークが存在し、これまでは物理構成レベルで分割していたということです。つまり、構内/院内の模様替えなどの利用状況の変化に際し、物理的な作業を伴っており、それがコストや時間のロスという課題を生んでいた背景があります。SDN化することで、物理構成をシンプルにでき、将来の構成変更が容易になったことで課題を解決できたということです。
SDNが企業にもたらすメリットと今後への期待
SDNは非常にパワフルな機能セットを持っており、今後も期待されている技術ですが、実のところ、ある程度の規模のあるネットワークでなければ具体的にメリットは見えづらいと考えられています。多くの企業では、オフィス内のネットワークはフラットで、構造を頻繁に変えることはないでしょう。高度な機能といっても「tagVLAN」や「portVLAN」などのネットワーク分離機能、またそれらの帯域制御やアクセスコントロール程度であるため、現存する一般的な製品で十分にニーズを満たせることが多いのです。
ではメリットのある規模とはどの程度でしょうか。以下は私見ですが、SDNが必要となるケースをまとめた表です。
| ユーザー企業 | ・3カ所以上の複数の拠点に分かれており、人の出入り(席替えやフリーアドレス)が頻繁 ・ISMSの国際規格であるISO 27001(情報セキュリティマネジメントシステム)を取得しており、IT全般統制が厳密に存在している ・事業部門、バックヤード部門、総務部門など、全社でITが十分に生かされている |
|---|---|
| 事業者 | ・クラウド環境を自社で構築し、複数の拠点が存在しながらも、ユーザーは透過的にそれを利用している ・物理サーバは百台規模で存在しており、ネットワーク設備は拠点ごとにある ・PCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard)など、実装状態を求められる認証を取得し、マルチテナント環境である ・ネットワークリソースの利用状態は随時大きな変動をしている状態にあり、コントローラブルではない |
少なくとも上記の表程度の規模や利用の背景が無ければ、現段階で導入する意味はあまりありません。
NFVでは、もう少し小さな環境でも効果がある場合があります。しかし実際には、セキュリティポリシーや品質ポリシー、社内ノウハウとの兼ね合いで、結局、物理装置でまかなうケースがほとんどでしょう。
もちろん、規模に限らずSDN化すれば、物理的にシンプルなネットワーク構造を実現できることは確かです。
これからSDN導入を目指す企業の方へ
現在の段階では、SDNを使えばエンドユーザーにとって何かが劇的に変わるというものではありません。その恩恵のほとんどはエンドユーザーには見えないでしょう。SDNは、物理から仮想にシフトしていくコンピューティング環境において、柔軟な仮想ネットワーク環境を実現し、物理的なネットワークリソースを最大限に効率化しようとする技術であり、それ以上の変化については今のところありません。また、前述しましたが、多くのケースは従来の技術・手法でも必要十分であることが多いです。
確かに、IaaS(Infrastructure as a Service)でのネットワークアーキテクチャにおいては、ネットワーク機能の仮想化は標準的な技術であり、またサーバ規模が膨大かつ複雑になることを想定すると、SDNは必須といえるものになっていくと想像できます。しかし、今すぐ何にでも使える一般的で標準的なツールになるわけではありません。それにはもう少し時間がかかるでしょう。
また、既にあるネットワークをSDN化するというのも言葉ほど単純なことではないため、普及のスピードはそれほど速くはないのではないかと想像しています。
ともあれ、SDN技術がもたらす(もたらそうとしている)ユーザーにとっての大きな意義は、ベンダーロックインからの(部分的な)解放と、エンドユーザーの要求を即時的に実現する、クラウド時代に不可欠な「スピード」であることは間違いありません。
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