IT部長さんのための技術トレンド【第3回】
1回で分かる:知識創発の機会を生む、オープンデータとは何か?
2012年7月に電子行政オープンデータ戦略が策定されて以来、にわかに盛り上がりを見せているオープンデータ。オープンデータとは何をもたらすものなのか。「Open Definition」の定義にならい、オープンデータの本質を導き出す。
取り組みが加速しているオープンデータ
日本でも2012年7月に電子行政オープンデータ戦略が策定され、にわかに盛り上がりを見せ始めているオープンデータとは一体何でしょう? オープンデータの定義としてはOKF(The Open Knowledge Foundation)が策定した「Open Definition v1.1」が広く参照されています。
オープンデータの定義
Open Definitionの冒頭に記載された一文を引用します。
いわく、
“A piece of data or content is open if anyone is free to use, reuse, and redistribute it――subject only, at most, to the requirement to attribute and/or share-alike.”
「一片のコンテンツもしくはデータは、誰もが自由に利用、再利用、再配布できる場合にはオープンデータとなる。ただし、属性や共有の面で制限があった場合にはその限りではない」
――コンテンツもしくはデータが、オープンデータであるといいます。ここでいうコンテンツもしくはデータとは、
- 音楽、映画、書籍などのコンテンツ
- 科学、歴史、地理などに関するデータ
- 政府や行政に関する情報
であり、Open Definitionでは、これらを総称して「知識」と呼称しています。
オープンデータとはOpen Government Data(※1)のことのように誤解されることもあるようですが、本来、オープンデータとは、政府や行政に関する情報のみならず、広く音楽、映画、書籍などのコンテンツと、科学、歴史、地理などもスコープに含む厳格で広範なオープン化を目指す取り組みです。
※1 オープンデータの1種。政府が開示する、国民が合理的な意思決定を行うための判断材料となる情報。
オープンデータとしての政府・行政情報
国民が合理的な意思決定を行う際には、意思決定対象についての判断材料を集め(Observe)、状況判断(Orient)して決定(Decide)を下し、投票などの行動(Act)を実行する一連の意思決定プロセス(例はOODAループ)が働いています。Open Government Dataは、国民が合理的な意思決定を行うための判断材料を網羅的かつ正確に提供することを可能にします。
この分野を専門に取り扱う「G8オープンデータ憲章」は、国民の意思決定の合理性向上や政策評価の透明性を高めるために、Open Definitionに含まれない、「正確で」「可能な限り多く」「可能な限り早く」という3つの要件を課しています。意思決定の結果として実行された政策の効果についての判断材料も提供し、意思決定プロセスが意思決定サイクルとなることを可能にする重要な取り組みと言えます。言い換えると「知る権利」を保証する仕組みと表現することもできます。
オープンデータとしての科学情報
近年では知の生成という行為全般が相互作用であると考えられるようになっています。新たな知識の創発には既存の知識の蓄積と相互作用が必要だという考え方です。オープンデータが実現する知識アクセスの簡便化と流通量の増大は、科学情報の分野で新たな知識創発を活発化する効果が見込めます。
現代的な意味での科学、歴史、地理などに関するデータへのオープンアクセス制度は比較的古く、国際地球観測年(※2)に向けて1955年に構想された、科学情報の制限なき公開原則が挙げられます。しかしこの公開原則には「複製と流通のコストを超えない範囲で」制限なき公開を規定しているため、古い情報発信のコスト構造を温存する懸念があります。
※2 地球物理現象を世界64カ国が共同観測した1957年7月から58年12月までの期間のこと。
オープンデータとしてのコンテンツ
Open Definitionに基づくオープンデータとしてのコンテンツ作品は、著作者が留保する権利を最小化し、流通性の最大化を図るコピーレフト(※3)思想であると言えます。
これは、発表から最初の10年で4億件以上のライセンス採用作品を得たクリエイティブ・コモンズの体現する、著作者の権利留保と知識流通性にも通じる考え方です。
オープンデータとしてのコンテンツの増大は、既存作品の蓄積を踏み台とし、流通性や改変可能性を改善することによって相互作用を起こりやすくし、新たな作品の創造を誘発する取り組みと言えます。
※3 「著作権を保持したまま、二次的著作物も含めて、全ての者が著作物を利用・再配布・改変できなければならないという考え方」(引用:Wikipedia「コピーレフト」)
総体としてのオープンデータ
先駆的な科学情報の制限なき公開原則をはじめ、G8オープンデータ憲章、クリエイティブ・コモンズ、Open Definition定義を総合するとオープンデータとは、
「機械可読性が担保され、ポータビリティと再利用が保証された形式での、包括的かつ正確で、可能な限り多く、可能な限り早く、制限なく公開されたデータ」
であるとまとめることができます。この特徴によってデータの拡散が促進され、プラットフォームロックインが回避されます。プラットフォームロックインが回避されることによって知識はその流通・拡散に最も有利なプラットフォームへ自律的に再配置され続けるようになります。さらに知識の流通性が最大化されるため、新たな知識創発の機会も最大化されます。
オープンデータのプラットフォーム
現代においてオープンデータの流通・拡散に最も有利なプラットフォームはインターネットを置いて他にありません。そのため、政府機関を含む多くのオープンデータプロジェクトがインターネットでのオープンデータ公開を行っています。当然、個々のオープンデータを他のオープンデータと接続し、「知識」を創発する動きも活発に起きています。
相互に接続されたデータのまとまり(=データセット、Linked OpenData)が形成するオープンデータクラウドは、データ利用者に知識創発の機会を提供するだけでなく、機械可読性の担保によって自動化された知識創発の機会も創出するでしょう。
川田大輔(かわだ だいすけ)
外資系ITベンダー数社を経てITベンチャー創業に参画し取締役CTOを務めた後、コンテンツ事業会社に移り技術戦略を担当。事業開発、技術開発および技術投資業務を経験。2009年より電気通信事業者(旧区分一種)に勤務し、SOAに対応しNIST定義準拠したOSSクラウドアーキテクチャ開発に取り組み、2011年5月に技術公開。他に個人としてガバナンス観点からクラウドアーキテクチャを整理しメトリクス整備を目指す「atoll project」を主宰。本稿での記述内容は個人の見解であり、その責任は全て筆者個人に帰するもので、所属する組織を代表する意見ではありません。
Twitter:@daisuke_kawada
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