本来の目的以外に悪用される危険性も
会社支給のスマートフォン、社員の位置情報追跡はなぜダメか
従業員のスマートフォンやタブレットの位置を追跡する機能は、端末やデータの紛失を防ぐのに役立つが、個人情報保護の観点からはパンドラの箱を開けることにもなる。
位置情報やジオフェンシング(地図上の特定エリアに仮想的なフェンスを設置する技術)などのサービスを利用する場合、従業員の個人情報保護に関し、経営者やIT担当者が見過ごしてはならない重大な影響が発生する可能性がある。
企業が位置情報ベースのモバイル端末管理(MDM)を利用してスマートフォンやタブレットの位置を追跡すると、端末の使用者に関する広範な情報を入手できることになる。どの病院へ行き、どの教会へ通い、どのクラブの会員で、どの店で買い物するかまで把握でき、従業員の就寝習慣や支持政党、健康状況など、ありとあらゆる情報が丸見えになってしまう。
企業がこうした情報に関心を持っているというわけではない。ほとんどのIT部門は、自社資産の保護にしか関心がないものだ。それでも、端末を監視して位置情報の収集と保存が可能だということは、パンドラの箱を開けることを意味する。
位置情報ベースのMDMがはらむ危険性
モバイル端末は、会社支給であれ従業員の私物であれ、使用者の体の一部のようなもので、昼夜を問わずいつも使用者のそばにある。端末を管理することで機密情報を保護したい企業にとって、このことがジレンマのもとになっている。たとえ会社が保有する端末であっても、使用者は自分のプライバシーを守りたい。IT版“ビッグブラザー”(編注)に自分の行動を逐一監視されることは受け入れられない。企業はよほど慎重に進めないと重大な問題を招く危険性がある。
編注:ジョージ・オーウェルの小説『1984年』に登場する支配者を指す。「国、世界レベルでの大規模な監視を行う人物、機関」の意味で用いている。
企業がMDMにジオフェンシングサービスや位置情報サービスを活用すると、対象端末の位置をリアルタイムで特定でき、その情報の履歴を保存できる。位置情報サービスで端末の紛失を防ぎ、ジオフェンシングサービスで許可された場所以外からのデータアクセスを禁じれば、会社のデータの流出を防ぐのに役立つ。だが、このようなデータの収集には、本来の目的以外に個人情報が悪用される危険性がある。
例えば、企業の幹部が従業員の支持政党や宗教などの情報を知ろうと思えば知ることができてしまう。また、悪意ある従業員が不正に情報を入手して同僚を脅迫したり名誉を傷つけたりする恐れもある。
犯罪者の手にデータが渡るようなことがあれば、事態はさらに深刻だ。悪質な目的を持った人間が端末の使用者の在宅時間と不在時間を簡単に推測できてしまい、さまざまな個人情報を悪用できることになる。
個人情報保護に関する法整備はまだ流動的
各国政府と関連機関も、位置情報の収集と利用の状況を注視している。
2013年、米国連邦取引委員会は、モバイル機器とプライバシー侵害に関する報告書において、モバイルアプリ開発者に対し、位置情報その他の個人情報を収集できるアプリにはプライバシーポリシーを追加し、利用者の同意を得るように勧告した。2014年には、欧州連合(EU)のデータ保護に関する第29条作業部会から、企業はそうした個人情報の利用方法を明示すべきであるという意見が繰り返し示されている。また、米連邦議会では、利用者への説明とその同意なしにアプリで位置情報の収集や保存を行うことを禁じる法案が検討されている。
こうした個人情報保護の動きが、企業の位置情報ベースのMDMに今後どのように影響してくるのか、予想することは難しい。従業員がモバイル端末を業務に使用するためには、位置情報追跡への同意が必須となる可能性も考えられる。だが、従業員への強要には慎重を要する。特に勤務時間外の位置情報追跡には注意が必要だ。
米国の法律はこれまで雇用者寄りの傾向にあったが、ほとんどの法律はテクノロジーの進化に追い付いておらず、州によってばらつきがある。一方、欧州の個人情報保護に関する法律は従業員寄りの傾向にある。いずれにせよ、個人情報保護とテクノロジーに関する法律はどこの法律もまだ流動的であり、成り行きを見守っている状況だ。
従業員と会社の両方を保護する
携帯端末の業務利用はまだ比較的新しい習慣であり、急速な変化を続けるテクノロジーによってますます複雑化している。企業は自社の資産を守らなければならず、位置情報ベースのモバイル管理はその強力なツールとなる。これに対し、プライバシー侵害を心配する従業員は、雇用者に反発して会社の資産を守ることに無関心になる恐れがあり、法律上の問題に発展する可能性もある。
企業が何をするにしても、重要なのはコミュニケーションであり、そのために企業は曖昧さを排除した明快なポリシーを示す必要がある。そして位置情報を収集する場合は必ず、一貫した明らかな手順で端末使用者の同意を得ることだ。そして何よりも、企業はそうした情報の保護と監査を怠らず、従業員のプライバシーが侵害されないように注意を払う義務がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社kickflow] 2社の事例に学ぶワークフロー改革:属人化解消や年数万件の申請書類削減のコツ -
製品資料
[NTTPCコミュニケーションズ株式会社] 「回線速度不足」だけが原因ではない? Web会議の遅延を解決する方法とは -
製品資料
[東京エレクトロン デバイス株式会社] 工場の可用性向上に重要な「7つの領域」と対策 OTセキュリティ強化の基礎知識 -
製品資料
[リコージャパン株式会社] 問い合わせ対応で本来の業務が進まない、総務や情シスの負担をどう減らす? -
製品資料
[リコージャパン株式会社] 自社データから高精度な回答を生成、簡単に生成AIチャットボットを構築する方法
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
2
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
-
3
本当にそのIBM iに問題はない? ブラックボックス化と属人化を防ぐ第一歩
-
4
「Microsoft一択」で本当にいいのか 知らぬ間にライセンス費用が膨らむ真相
-
5
「Copilot」はなぜ放置される? “議事録要約止まり”を脱する処方箋
-
6
全社標準Copilotに絶望? MS Copilotで問い合わせ6割減できた企業は何が違った
-
7
Oracle巨大ITプロジェクトはなぜつまずいたのか 8年で導入1割、追加で170億ドル
-
8
【基本情報技術者試験】「デュプレックスシステム」と「デュアルシステム」の違いは?
-
9
「世界一給与にハングリー」な日本のエンジニアが“雇用の安定”を求める理由
-
10
MS月例パッチが1000件突破 人手不足の情シスを襲う「月1回メンテ」の崩壊
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
2
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
3
生成AIで文書活用を進めるには? 効率化と安全性をどう両立する
-
4
Windows PCとMacの選択制で生産性向上 LINEヤフーが実践する運用管理方法とは
-
5
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
6
国税庁の次世代基幹システム「KSK2」稼働開始に向けて、対応すべき変更点とは?
-
7
「スクラム」と「カンバン」の違いとは? アジャイル型開発手法を徹底比較
-
8
AI時代に成功するための「ナレッジマネジメント」ベストプラクティス
-
9
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
10
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー