F5 Agility Tokyo 2015リポート
サイバーエージェントとビッグローブが語る「ビジネスに生きるSDN」
ビジネス部門にとってのSDNの価値とは何か。SDN導入に実際に取り組んでいる企業の担当者が語ったエピソードから読み解く。
2015年2月25日、F5ネットワークスは年次イベントである「F5 Agility Tokyo 2015」を都内で開催した。同イベントでは「Software Definedが拡げるクラウド×ネットワーキングの世界」をテーマに掲げ、さまざまな講演や展示が行われた。本稿では、「SDNはビジネスにどう生かされるべきか?~アプリケーションデリバリが担うこれからの役割を紐解く~」と題して行われたパネルディスカッションの模様をリポートする。
SDNを見る3つの観点
データセンターで稼働するアプリケーションやサービスの数が増える中、その稼働を支えるサーバなどのインフラへの需要は増すばかりだ。物理サーバの数を大幅に増やすことなく、こうした課題を解決するテクノロジーの1つがサーバ仮想化である。だが、サーバの数は増やせてもネットワークが従来通りではむしろ設定作業が複雑になり、十分なメリットが得られない。そこで注目されるようになってきた次世代ネットワークの概念がSDN(Software Defined Networking)だ。
しかし、一口にSDNといっても、語られる文脈によってニュアンスは異なる。日本マイクロソフト デベロッパーエクスペリエンス&エバンジェリズム統括本部 エバンジェリストの高添 修氏は、SDNを3つの観点から見る。「1つ目が物理ネットワーク機器を柔軟に制御するもの。2つ目がスイッチ、ルータ、ファイアウォール、ロードバランサといったネットワーク機器の機能をソフトウェアで実現するもの。そして3つ目が、NVGREやVXLANといったオーバーレイ技術によってクラウドのデータセンター内で膨大な仮想マシン同士をつなぐ物理非依存のネットワークだ」
「2年間で100のサービス立ち上げ」でネットワークをどうするか
ソフトウェアでネットワークを制御するSDNの魅力は、一言で言えばその柔軟性だ。新しいサービスを素早く作りたいとかアプリケーションの要件が急に変更になったという場合でも、SDNであれば短時間で簡単に対応できる。
サイバーエージェントがSDN導入を検討し始めたのも、そうした理由からだ。2011年、代表取締役社長の藤田 晋氏が2年間で100種の新サービスを立ち上げると宣言。それまではほとんど物理サーバでの運用だったが、調達や構築に掛かる期間を考えると、とてもリソース供給が追い付かない。そこでまずプライベートクラウドを構築し、仮想サーバの比率を高めていくこととなった。だが、サーバを増やせば当然ネットワークもそれぞれ独立したものを用意しなくてはいけない。そこで注目したのがSDNだった。
サイバーエージェント インフラ&コアテク本部 Senior Network Architect 篠原雅和氏は「われわれがSDNに求めていたものは自動化だ」と語る。当初はベンダーが提供する製品を使って一部のネットワークをSDNに移行するところから始めた。限られた環境下においてはおおむね想定通りに稼働したものの、いよいよ大規模(仮想マシンの数で約10万)で展開しようとすると、なかなかうまくいかない。機能面でも、IPv6が未サポートであるなど、サービスに導入するには要件を満たさないことが明らかになってきた。そこでレガシーネットワークはそのまま残しつつ、コンフィギュレーション管理の自動化などできるところをソフトウェアで制御することで、ネットワーク全体として「SDNライク」なものとなるように、自社内でシステムを開発したという。
また、ビッグローブがデータセンターにSDNを全面的に導入したのは2013年4月ごろ。同社ではその1年ほど前にデータセンター内の9割のサーバを既に仮想化していたが、ネットワークの設定に非常に時間がかかることが課題だった。
「そもそもなぜネットワークを早く作る必要があるのかといえば、最近のアプリケーションの開発手法としてアジャイルが一般的になったことが挙げられる。アジャイルではスプリントと呼ばれる2週間程度の期間で開発を実施するが、開発者にインフラを提供する際、どうしてもネットワークがボトルネックになっていた」(ビッグローブ クラウドサービス本部 エキスパート 田口敏宏氏)。そこで、こちらも実際にオープンソースで独自開発したシステムでネットワークのソフトウェア制御を実現。それまで2週間ほどかかっていたネットワークインフラ構築がわずかで数十分程度に短縮できるようになったという。
一般企業におけるSDNの意義は
サイバーエージェントもビッグローブも、Webでサービスを提供し、開発力に優れた企業である。自社で膨大なサーバを抱える点でも、普通の企業とは事情を異にする。一般的なエンタープライズ利用を想定した場合にもSDN導入はメリットがあるのだろうか。
高添氏はSDNがメリットをもたらす一例として、ビデオ会議システムを挙げる。動画によるコミュニケーションでは膨大なトラフィックが発生することになる。最低でも音声が止まってしまってはツールとして使い物にならないが、これはアプリケーションだけでは解決できない。「SDNでビデオ会議システムのパケットの状態を監視し、例えば音声に優先的に帯域を割り当てるという制御もできる。そういう使い方ができればSDNは1人ひとりの利用者のためのものになっていく」
また、F5ネットワークスジャパン マーケティング シニアソリューションマーケティングマネージャ 帆士敏博氏は、大きなインフラを持たない企業でもSDNの効果を感じるケースはあるという。「例えばわれわれが提供する負荷分散装置でいえば、物理環境では配下のサーバのメンテナンスやバージョンアップに伴ってトラフィックの切り離しのような作業コストが都度発生する。1つひとつの作業はささいなものだが、積み重なると負担はばかにならない。また、サーバ担当者が自分でネットワーク設定を自分でいじることができるような環境を整えておけば、企業の規模にかかわらずコスト面でもスピード面でもメリットは大きい」
これから導入する企業のために
サイバーエージェントとビッグローブの両担当者は、SDNは手段であり、導入に関して重要なのはそれを使うとどんなメリットがあるのか、ユーザーや意思決定者に納得してもらうことだと口をそろえる。
「自動化によってアプリケーションエンジニアにいち早くインフラを提供することができれば、最終的にはエンドユーザーにいち早くサービスを提供することになる。ビジネスの速度を上げれば収益につながる」(篠原氏)というように、ビジネス視点でのベネフィットを意識することが重要になるという。
また、SDNを導入しネットワーク運用の自動化が進むと、ネットワーク担当者の役割は変わってくる。「ネットワーク担当者の仕事がなくなるという面は確かにあるが、空いた時間で新たな価値を生み出すこともできる。ネガティブに捉える必要はない」と田口氏は強調する。実際、ビッグローブでも、保守運用から開発側にジョブチェンジした人もいるという。
オンプレミスにクラウドに、アプリケーションが置かれる環境は広がっている。柔軟なネットワークが求められるのは、サイバーエージェントやビッグローブのようにネットでサービスを提供する企業だけではない。ビジネスのスピードを落とさずにユーザーが求めるサービスを提供できるようにするのは、IT部門の重要な役割だ。はじめにインフラありきで考えなくても、SDNはより多くの企業にとって重要な選択肢になっていくだろう。
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