「メディカルiOSフォーラム2015」リポート
医療現場の「iPad」活用がなぜか進まない理由とは?
どうすれば医療現場で「iPad」を有効活用できるのか。iOSコンソーシアム医療WGが開催した「メディカルiOSフォーラム2015」では、そのヒントが多く紹介された。
iOSコンソーシアム医療WG(ワーキンググループ)は2015年3月15日、Apple Store銀座で「メディカルiOSフォーラム2015」を開催した。iOSコンソーシアムは、「iOS」搭載端末の新たな市場ニーズを活性化させ、より多様なサービスやソリューションを創出し、ユーザーと関連ベンダーを結ぶ環境づくりを目的に設立された団体だ。医療WGでは、医療業界特有の利用方法の調査やiOS関連商材の紹介を通じて、ユーザーの満足度向上と参加企業の事業拡大を目指している。
今回のフォーラムの全体テーマは「医療現場でもっと役立つiPadの活用方法」。医療現場における「iPad」活用の第一人者である習志野整形外科内科院長の宮川一郎氏がゲストスピーカーとして登壇した。日曜日午前という開始時間にもかかわらず100人を超える申し込みがあり、立ち見が出るほどの盛況となった。本稿では、同フォーラムの講演内容の一部を紹介する。
医療機関のiPad導入が進まない理由は?
まず、iOSコンソーシアム医療WGリーダーである名和輝明氏が「現場医療におけるiOS端末活用について」と題した講演を行った。名和氏は、2013年7月開催の「国際モダンホスピタルショウ」の来場者を対象にiOSコンソーシアムが実施したアンケート調査の結果を紹介(有効回答数175人)。この調査結果を基に、医療現場におけるiOS端末の利用目的、活用状況、活用方法などの現状を報告した。
名和氏によると「2011年に佐賀県が県内の救急車全50台にiPadを導入した事例をはじめ、医療現場のiPad活用は広がりを見せている。実際に導入した医療機関の評価は高い」という。しかし、多くの医療機関から「iPadを現場で使ってみたい」という声が出るものの、その多くが検討段階から踏み出せていないと指摘する。
先述したアンケート調査でも「iPadを医療現場で使いたい」という声が多かった。名和氏は、iPad導入が進まない主な要因を以下のように推測する。
- 医療機関ごとの個別システムや運用方法への対応に伴う、見積もり/請求費用の増加
- システムを構築するベンダー側が、医療機関が求めるシステム要件に対応するソリューションを持ち合わせていない
医療現場特有のカスタマイズの要望に一品一様で対応していてはコストが高くなり、横展開が難しいというベンダー側の事情があるようだ。「こうした医療機関とベンダーとのギャップを埋めていくことが、より良い医療と医療ITを実現するためには必須である」(名和氏)
iOSコンソーシアム医療WGでは、医療機関や医療現場の声を踏まえて参加企業間で協力してソリューションを提供することで、医療機関とサービス提供企業の食い違いを減らすことを目指す。名和氏は「プロダクトとマーケットの間の橋渡し役を務める団体として、情報発信とともに医療機関のニーズを集約することで、よりよい医療の実現を手助けする活動を続けたい」と述べる。
患者とのコミュニケーションギャップ解消にiPadを活用
続いて、習志野整形外科内科院長 宮川一郎医師が「医療現場でもっと役立つiPad活用方法」と題するセッションで、習志野整形外科内科における実際のiPad活用事例を紹介した。
宮川氏は、ある調査では『患者満足度を下げている要因は診断能力や治療技術ではなく、医師とのコミュニケーションがもたらしている』という結果が出たことを紹介。iPadを活用することで「どのように医療スタッフと患者とのコミュニケーションギャップを解消し、患者中心医療を実現するのか」について説明した。
習志野整形外科内科では、患者と視線の向きを合わせることから始まり、従来のデスクトップPCのレイアウトに縛られない患者とのコミュニケーションを実践するツールとしてiPadを活用しているという。
また、習志野整形外科内科では多くのiPadアプリを利用しているが、一番使うのはWebブラウザ「Safari」だという。Safariを活用して分かりやすい患者説明を実現している。例えば、Webブラウザの検索機能を使って「糖尿病 壊疽」と入力して画像を検索した結果を患者に見せることで病気の恐ろしさを伝えている。また、患者説明でよく用いる「食品のプリン体含有量一覧」に関する検索結果などを「ホーム画面に追加」することで、すぐに表示したり印刷して渡したりすることを心掛けているという。
その他、宮川氏自身が開発した3D CG動画「IC動画HD」を使い、骨の動きを分かりやすく見せることで「症状によりどのような影響が出るか」「手術の結果骨の形がどのようになるか」などを可視化して伝えている。待合室では古いiPadを患者に貸し出すことで、病気の基礎知識レベルの説明を行うアプリや「YouTube」再生アプリ、塗り絵アプリなどを使って過ごしてもらうなどの工夫を凝らしている。
iPadの有効活用はシンプルな無線LAN環境ありき
iPadを快適に利用するためには、院内における無線LANの整備も重要となる。同フォーラムでは「iPadを医療現場で使いこなすための無線LAN構築」をテーマに院内LAN構築のノウハウを紹介するセッションも行われた。本稿の筆者である馬場大介が担当した。ここからはセッションの概要を紹介する。
無線LANアクセスポイントの導入に当たっては、まず院内の有線LANを確認した上で極力シンプルに再設計する必要がある。シンプルな院内ネットワークを事前に組むことで、設定や確認項目を減らし、無線LANを導入した際の設定漏れなどのイージーミスによるセキュリティリスクを低減できる。また、将来にわたって院内のIT化を進める際に発生するネットワークの見直しコストを減らすことも可能だ。
セッションでは、無線LANを快適に使い続けるためのノウハウを紹介した。例えば、ネットワークのスループットを向上させる方法としては「IEEE802.11b/11gなどの一世代前の規格に対応した無線端末を使用しないこと」「電波の弱い場所では無理して接続しない」などがある。初めて聞く聴講者も多かったようだ。
また、無線LANの導入時点だけでなく導入後のトラブルシューティングを見据えた環境構築も重要だ。導入時点では空いている電波帯域でも、導入後も空いている保証はない。周囲の電波状況を測定することで自動調整したり、問題が起こった際に原因を特定しやすい設計を心掛ける必要がある。
例えば、ヤマハ無線アクセスポイント「WLX302」では周囲の電波を測定する簡易サーベイの「見える化機能」を搭載している。こうした機能によって、継続的に周囲の電波状況を確認することも可能だ。
あるクリニックでは、10年にわたり医療情報システムを段階的に導入していく中で、LANケーブルが乱雑になった。シンプルネットワークに基づいてネットワークを再設計し、無線LANを導入した結果、併設する有線LAN環境のスループットも向上している。
iOSコンソーシアム医療WGでは、これからも同様のフォーラムやセミナー開催を通じた情報発信を行う。また、医療機関個別の課題解決を支援するために少人数でのハンズオンセッションや相談会なども開催する予定だ。
iOSコンソーシアムとは
iOS搭載端末の新たな市場ニーズを活性化させ、より多様なサービスやソリューションを創出し、ユーザーと関連ベンダーを結ぶ環境構築を目的に設立。医療WGでは、医療現場におけるスマートデバイス利用で有用なソリューションを持った企業団体が参画。医療現場におけるiPadの有効・有用により医療の改善に役立つためのソリューションを提案する。Webサイトやセミナーなどのイベントを通じて情報を発信している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
4
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
5
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
6
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
7
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
8
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
9
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
10
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー