失敗しない「学校IT製品」の選び方:シンクライアント編【後編】
Chromebookが救世主に? 「シンクライアントは高すぎる」という学校への代替策
シンクライアントシステムは教育機関にとって、セキュリティ面や管理面でさまざまな利点があるが、膨大な導入コストがネックとなる。だが実は、コストが抑えられる代替策は幾つかある。
シンクライアントシステムを導入するとセキュリティが高まるのは確かだ。だが中編「学校のシンクライアント導入がうまくいかない『4つの理由』」で指摘した通り、シンクライアントシステムは、一般的なクライアントPCやタブレットとは比べものにならないほどの導入コストが掛かる。そのため、財務状況のよいごく一部の学校法人や自治体以外の導入は難しいのが現状だ。
それでは、シンクライアントシステムに代わる手段が世の中に存在しないのかというと、実はそうではない。セキュリティとコストのバランスを取りたい教育機関にとって、有力な選択肢を紹介しよう。
選択肢1:リモートデスクトップ+SSL VPN
非常にリーズナブルな代替策が、Windowsの標準機能である「リモートデスクトップ接続」だ。ネットワーク接続が有効であれば、他の場所で稼働するクライアントPCの画面情報を手元の端末へ転送し、リモート操作を可能にする。Windows環境であれば、利用に追加コストが掛からないのがメリットだ。
通信の速度や性能を決めるプロトコルには、米Microsoftの独自プロトコル「Remote Desktop Protocol(RDP)」を利用する。RDPはWindowsの標準機能であるものの、決して高速/快適に利用できるものではない。だがWindowsシステムのプロパティ設定のみでそのまま利用できるので、手軽で便利な機能だといえる。
ただし、Windows標準のリモートデスクトップ接続は通信を暗号化しておらず、通信にインターネットを利用する場合、通信内容が第三者に見られてしまう可能性がある。そのため、セキュリティを考慮すると同一ネットワーク内での利用に限定せざるを得なくなる。
リモートデスクトップ接続のこうした欠点を補うのが、インターネットなどの公衆網を仮想的な専用線として利用可能にする「VPN」だ。インターネットにVPNを構築する「インターネットVPN」を実現する代表的な技術には、「IPsec」「SSL VPN」がある。
教育現場でVPNを利用する場合は、インターネットVPNを採用するのが一般的だ。特に、IPsecではなくSSL VPNを使ったインターネットVPNが現実的な選択となる(図1)。IPsecの場合は接続元の端末に専用のクライアントソフトウェアが必要になるが、SSL VPNであればSSL対応のWebブラウザがあれば利用できるなど、導入負荷が減らせるといった利点がある。
SSL VPN製品は、他のネットワークやセキュリティのアプライアンス製品と同様にF5ネットワークスジャパン、ジュニパーネットワークス、アレイ・ネットワークスなど外資系ネットワーク機器ベンダーのシェアが高い。ただし、ここ数年では大きな技術革新はなく、一定以上の実績がある製品であれば、どれを選択しても機能面でそれほど差はない。
省電力と利便性の両面から、あった方が望ましい機能がある。それは、リモートデスクトップの接続先端末の電源をリモートでオンにできる機能だ。同一LAN内の端末の電源をオンにできる「Wake On LAN(WOL)」と同様な機能を、インターネット越しに利用できるようにしたものだ。単純に電源だけの問題だが、これがあるだけで外部から突然接続しなければならなくなった場合にも柔軟に利用できるようになる。
その他にも、SSL VPNによるインターネットVPNをサービスとして提供しているベンダーもある。利用料金は月額数万円程度で、初期投資も掛からず簡単に利用できるインターネットVPNサービスはたくさんある。
シンクライアントシステムと比べて優れたコストパフォーマンスを持つリモートデスクトップだが、セキュリティについては、シンクライアントシステムのように端末から情報が漏れないよう担保する仕組みがあるわけではない。その点を踏まえた運用方法を事前に考慮しなければならない。
選択肢2:Chromebook
米調査会社IDCによると、2014年に米国の小学校で最も売れた端末は、米GoogleのOS「Chrome OS」を搭載するノートPC「Chromebook」だった。Chromebookは、3万円前後から購入可能な比較的安価なノートPCだ。この金額であれば、佐賀県の全県立高校が導入したWindowsタブレットの県負担分と同程度のコストで導入できる。この程度のコストであれば、教員1人に1台はもちろん、学習者全員に教育委員会の予算で支給することも可能になる。
Chromebookは一見すると普通のノートPCであり、WindowsなどのクライアントPC用OSを搭載した一般的なノートPCと外見はそれほど変わらない。だがChromebookに備わるChrome OSは非常にユニークなOSである。
Chrome OS最大の特徴は、非常にシンプルかつ軽量であることだ(図2)。ユーザーがChrome OSで利用できるのは、Webブラウザの「Google Chrome」と、それを使って動作するWebアプリケーションに限られる。このことは、Chrome OSがネットワークへの常時接続を前提に設計されていることを示す。
こうした事実上の“機能制限”がある半面、Chrome OSは仕組みがシンプルなだけに、OSの自動アップデートがしやすいなど運用面でのメリットがある。データも基本的には全てオンラインサービスに保管することになり、端末には残らない。
既に気が付いた人もいるかもしれないが、アーキテクチャは全く異なるものの、Chromebookのメリットや機能はシンクライアントシステムに酷似している。つまり、シンクライアントシステムに匹敵する端末の管理性や安全性を、非常に安価に実現できるのがChromebookなのだ。
将来的に、ヴイエムウェアの「VMware Horizon View」やシトリックス・システムズ・ジャパンの「Citrix XenDesktop」といったデスクトップ仮想化製品でシンクライアントシステムを構築したいと考える教育機関もあるだろう。その場合、Chromebookであれば、シンクライアントシステムの導入後もクライアント端末として継続的に利用できる。Chromebookは、VMware Horizon ViewやCitrix XenDesktopで稼働する仮想デスクトップへ接続する機能を持つからだ(XenDesktopの場合はクライアントアプリケーション「Citrix Receiver」のインストールが必要)。
このように、Chromebookにはさまざまなメリットがある。ただし、Chromebookで利用可能な学校向けアプリケーションは、現時点では潤沢にあるとは言いにくい。そのため、すぐに全国の学校に普及することは難しいだろう。今後、Chromebookで稼働するWebアプリケーションが増えていくことで、運用しやすくセキュリティも確保でき、導入コストも抑えられる、夢のような手段となるかもしれない。
選択肢3:シンクライアント代替製品
シンクライアントシステムの機能やメリットを別の仕組みで安価に提供する手段は、Chromebook以外にも幾つか存在する。シンプルかつ安価な手段としてよく挙がる「USBブート型シンクライアント」は、OSやデータを格納した特殊なUSBメモリを利用し、通常のクライアントPCをシンクライアント端末のように動作させる製品だ。導入コストは1台当たり数万円と比較的安価である。しかし、安価であるがゆえ構造や機能が簡易な製品も多く、セキュリティ面などで課題がある。また、USBメモリ内に格納したシステムのバージョンアップやUSBメモリの個体管理など複雑な運用が発生する可能性があるので、教育現場ではお勧めしにくい。
もう少しコストが掛けられるのであれば、独自の仕組みでシンクライアントシステムの管理性と安全性をより安価に享受できるようにした製品が選定対象となる。その一例が、シンクライアントシステムの3分の1~5分の1程度のコストで導入可能な米Ericom Softwareのデスクトップ仮想化製品だ。シンクライアントシステムの実現方式の1種であるデスクトップ仮想化製品であり、仕組みを簡易にしてコストダウンを図った。
「ハイブリッド型シンクライアントシステム」をうたうEugridの製品も有効な選択肢となる。調査会社アイ・ティー・アール(ITR)のリポートでは「マネージドクライアント」に分類されるEugrid製品は、OSやアプリケーションはクライアントPC側に残し、データのみをサーバに保存する仕組みを持つ。ディスクへの書き込みを制限し、端末内に重要データが残らないようにしてある。ユーザーインタフェースは、ログオン画面が多少異なるだけでWindowsと全く違いが分からないので、特に利用者に親切なコンセプトの製品だといえる。
他にも、Windows環境自体を管理して、シンクライアントシステムと同様のメリットを享受できるようにする製品は幾つもあった。だがクライアントOSのバージョンアップに追従できず、バージョンアップ前後で挙動が変化してしまうことがあるなど、技術的なハードルから多くが淘汰されてしまった。その点、上記2製品は時代に合わせて新製品をリリースし続けているのは称賛に値する。
これらの製品は、教育機関が大規模導入した例はあまり聞かないものの、国内ベンダーが大規模に販売活動をしている。読者の皆さんが信頼しているベンダーが取り扱っているのであれば、ベストな選択肢になる可能性は十分にある。
教育現場のIT導入はコストが9割
教育現場には学習者はもちろん、教員や職員だけでも数十人~数百人いる。1人1台の端末環境を整備するためには、多くのコストが掛かる。その上、導入時には見えにくい保守サポートや運用コストも、学校や自治体に大きくのしかかってくるのだ。
教育は国を支える大事な事業である半面、それ自体ではお金を生まない。IT活用においても、できる限り導入や運用をシンプルにできることが非常に大事なのである。
今回、シンクライアントシステムの代替案として紹介した手段は、シンクライアントシステムの数分の1か数十分の1のコストで導入できるものが多い。ただし上述の通り、これらの手段には課題も少なくないので、“代替案”として幅広い教育機関に受け入れてもらうのは厳しいことも自認している。しかし、それでもあえてこうした代替案を示したのは、教育現場のIT導入は「コストが9割」、つまりコストが最も重要な選定基準の1つだと考えているからだ(図3)。
コストと運用の両面で教育現場に負荷を掛けず、より良い教育を実現することがIT化の目的だ。ベンダーに言われるがまま、企業で利用するような高価なIT製品を導入するのではなく、シンプルかつ安価で、安定したITを無理なく導入することこそ、教育現場にとって重要なのである。
執筆者紹介
武田一城(たけだ かずしろ) 株式会社日立ソリューションズ
情報セキュリティ、システムプラットフォーム、オープンソースなどさまざまな分野のマーケティング業務に従事。現在は特に学校IT分野における市場調査や企画に重点的に携わる。2011年より日本PostgreSQLユーザ会の理事を兼務し、代表的なオープンソースデータベース「PostgreSQL」の普及啓発活動も行っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
失敗しない「学校IT製品」の選び方
教育機関がIT製品を導入する際、どのような点に気を付けて製品選定を進めればよいのか。製品分野の基礎知識をおさらいしつつ、製品選びのポイントを伝授する。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
4
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
5
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
6
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
-
7
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
8
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
9
LLMの「過学習」、正しく説明している文章はどれ?
-
10
レガシー基幹システムをSAPに統合 山善が突き止めた「標準化と個別最適」の境界線
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー