日本マイクロソフトのCSAに聞く
“オープンソースへの傾倒”は本物か、「Microsoft Azure」の今(1/2 ページ)
オープンソースへの対応をはじめ、「Microsoft Azure」への大胆な改革を推し進めるMicrosoft。だが、同社はかつて、オープンソース文化をひどく批判していた。彼らのオープンソースへの動きは本物なのか。
クラウドの世界では米Amazon Web Services(Amazon)の強さはいまだに圧倒的だ。だがその一方で、米Microsoftの存在感が急激に増している。それも数年前まで取っていた「Amazon Web Services」(AWS)に追い付き追い越せのIaaS(Infrastructure as a Service)一辺倒なアプローチではなく、マシンラーニング(機械学習)やオープンソース環境の提供といった、Microsoftならではの戦略で着実に固めている印象が強い。Microsoftは2014年のサトヤ・ナデラCEO就任以来、次々と大胆な改革を実行中だが、「Microsoft Azure」(Azure)はその改革の最先鋒に位置付けられており、数年前までの「Windows Azure」とはまるで別物のクラウドサービスに変わったと言っても過言ではないだろう。
プロプライエタリ中心だったMicrosoftのクラウド戦略がオープンソース指向へと舵を切り替えた現在、長年エンタープライズ市場を見てきた者としては「Microsoftのこの変化は信頼に値するのか」という疑問を拭い去ることができない。ビル・ゲイツ氏やスティーブ・バルマー氏が経営トップだった時代、彼らがオープンソース文化、特にLinuxをひどく批判していたことを覚えている向きも多いはずだ。Azureの、そしてMicrosoftのオープンソースへの動きは本物なのか――2015年12月中旬、日本マイクロソフト クラウド&ソリューションビジネス統括本部 Azureソリューション営業本部 Azureソリューション技術部 部長 平野和順氏、同社 同統括本部 Azure技術部 クラウドCSA 土居昭夫氏の2人にインタビューする機会を得たので、その内容を基にAzureとMicrosoftの方向性を検証してみたい。
“First Citizens”に受け容れられるクラウドになるための決断
「Azureが市場に登場した2010年ごろ、最初のターゲットはISV(独立系ソフトウェアベンダー)だった。ちょうど米Salesforce.comが話題になり始めた時期で、MicrosoftもISVとアプリケーションサービスの新しい提供形態について話し合っていたこともあり、AzureをSaaSプラットフォームとしてISVに使ってもらおう、という方向に進んだ」。平野氏はAzureの初期の様子をこう振り返っている。Microsoftはその後、Azureとは別に「Microsoft Office 365」や「Microsoft Dynamics CRM」といったSaaSオファリングメニューの提供も開始しているが、この辺はサービス当初からIaaS導入を進めてきたAmazonとは非常に対称的だ。
Amazonは2009年に米Netflixでの大規模導入を成功させ、IaaSという新しい市場のパイオニアとなり、クラウドの世界で一気にトップに躍り出ていく。一方、ISVへの提供が中心だったMicrosoftも、少しずつではあるがユーザー事例を積み重ねており、国内でも日本交通(2010年)やムビチケ(2011年)によるAzureでのPaaS事例が発表されている。ただし、この当時のAzureはあくまで“Windows” Azureであり、エンタープライズの大規模なインフラニーズに応えることは難しかった。平野氏も「エンタープライズのインフラはLAMP(Linux/Apache/MySQL/Perl)が基本。メインフレームから移行するにしてもベースはLinuxが中心であり、クラウドでLinux環境を用意できないWindows AzureがIaaSに入り込む余地は極めて小さかった」とWindowsでクラウド市場を戦う不利さを語っている。クラウドアプリケーションを開発する技術者たちも、「.NET Framework」主体のAzureよりもLinuxやオープンソースを自由に展開できるAWSへと熱狂の度合いを深めていく。
ユーザーから開発者までを含むIT業界の“First Citizens”に受け容れられるクラウドを目指すならLinuxやオープンソースのサポートは欠かせない。Microsoftにそんな空気が流れ始めたのは2012年初頭だったと平野氏は振り返る。当時のMicrosoftはまだバルマーCEOの時代だったが、Azureを含むエンタープライズ部門を統括していたのはシニアバイスプレジデントのナデラ氏だった。今となってみればそれはMicrosoftにとってラッキーだったといえるだろう。2012年6月、MicrosoftはAzureでUbuntuやSUSE LinuxといったLinuxディストリビューションのサポートを開始し、世界中のIT関係者を驚かせた。CEOに就任してからの改革ぶりが取り沙汰されることが多いナデラ氏だが、実はその前から手腕を発揮していたのである。
2014年2月にナデラ氏がCEOに就任し、その1カ月後にAzureは“Windows Azure”から“Microsoft Azure”へと名称を変更している。国内にも東日本と西日本にデータセンターが設けられ、エンタープライズユーザーのニーズに応えやすい体制が整ってきた。このころからAzureはそれまでの方針である、AWSの背中を追い続け、パブリッククラウド市場でのシェア拡大を追求する姿勢を一部あらため、Azureとしての独自性を打ち出す戦略にシフトし始めている。それを象徴するのが「Cloud Solution Architect」(CSA)の存在だ。
オープンソースに精通したCSAの存在がAzureを支える
CSAとは、2014年7月にMicrosoftがグローバルで設けた役職である。名前の通り、クラウドに対して顧客が抱えている疑問や問題点を、技術およびビジネスの側面から分析し、顧客とともに最適な解決策を模索していくというポジションだ。最初はグローバルで100人程度だったが、平野氏によれば既に数百人に達しているとのこと。
日本マイクロソフトにも平野氏の下、CSAの専門組織(クラウド&ソリューションビジネス統括本部)が2015年に立ち上がっている。NTTPCコミュニケーションズやGMOクラウドで技術者としてのキャリアを積んできた土居氏も2015年9月に加わっている。当初は6人でスタートしたが、2015年は採用数を大きく増やし、現在は20人前後のCSAが在籍している。土居氏の他にも、元co-meetingの吉田パクえ(雄哉)氏や元米Hewlett-Packard所属で「日本OpenStackユーザ会」でも活躍する真壁 徹氏など、オープンソースコミュニティーで活躍する著名エンジニアがメンバーに含まれているのが特徴だ。
前述したように、MicrosoftはナデラCEOの下、全社を挙げてオープンソースへの取り組みを急速に進めている。人材採用にもその影響は色濃く表れており、特にオープンソースへの強いコミットを掲げるAzureのCSAに関しては「ビジネスと技術の両方を理解しているオープンソースの専門家、それも日本マイクロソフトの内部ではなく、外部から採用する方針」だと平野氏は言う。「Microsoftが変わったということを内外に伝えるには、オープンソースに影響力があり、Microsoftではない環境でキャリアを培ってきた“トランスフォーム済み”の人材が欠かせない。CSAがオープンソースに精通していると分かれば、Microsoftのクラウドに振り向いてくれるユーザーは必ず増えていく」(平野氏)
CSAに求められる条件は単にオープンソースに詳しいエンジニアというだけではない。平野氏は「CSAは営業というより、もう少し前に出て、顧客企業の技術担当者に寄り添うイメージの人材。ビジネスでクラウドを使うというユーザーのパートナーであり、Microsoftの技術を使って何か新しいことをやりたいというニーズに的確に応えていくことを目指している。従って、ビジネスと技術の両方を理解してないと難しい。誤解を恐れずに言えば、大企業のCIOにアポイントを取ってソリューションの話を対等にできるような人材」と語っている。Microsoftにはエバンジェリストという肩書を持つ人材も多くいるが、平野氏はその違いについて「エバンジェリスト(宣教師)はどちらかと言えば、外に向かって戦う役割。CSAは神父のように顧客のビジネスに寄り添う役割を担う」と説明する。例として平野氏はここ数年、国内でもSIer(システムインテグレーター)に頼らず自社でクラウドインフラを構築するセルフサービス型IaaSを引き合いに出している。「セルフサービスを現時点で導入するような企業は既にAWSを利用している可能性が高い。Azureが狙う市場の1つは、セルフサービスに興味はあるが、まだ迷いがあるような企業。その背中を押し、新しい一歩を踏み出す支援をするのがCSAの役割」(平野氏)
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