「AWS Summit Tokyo 2016」レポート
AWSは大企業をどう変えたか――KDDI、キヤノン、ジャパンネット銀行に起こったビジネスインパクト(1/3 ページ)
「AWS Summit Tokyo 2016」で開かれた招待制講演「エグゼクティブトラック」より、KDDI、キヤノン、ジャパンネット銀行の事例を紹介する。3社がAWSによって新規事業にどう挑んだかに注目だ。
Amazon Web Services(AWS)は2016年6月1日~3日にわたり、「AWS Summit Tokyo 2016」を開催した。2015年を上回る1万6000人以上の登録者を集め、あらためてクラウドのプレイヤーとして力強さを見せつけた。特に今回は、国内大手企業によるAWS活用事例が目立ち、まさに「クラウド活用の最適解、ここに集結」という同カンファレンスのテーマにふさわしい先進的なユースケースを数多く紹介したサミットだった。
本稿では多数の講演の中から、「エグゼクティブトラック」(AWSの特定の顧客のみを招待した講演)に登壇したKDDI、キヤノン、ジャパンネット銀行による導入事例を紹介したい。それぞれの業界で日本を代表するネームバリューを持つ3社が、いかにレガシーの呪縛からの脱却を図り、AWSによって新たなビジネスチャンスを広げていったのか。その真摯に取り組む姿は「経営とIT」が本来目指すべき在り方を教えてくれるはずだ。
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KDDI:AWSが支えた超スピーディな新規事業へのサービスイン
「KDDIがAWSと聞いて違和感を持ちませんでしたか? 私は最初、非常に違和感を覚えました。ガチガチの設備企業で何でも自前で持つことが当たり前の通信事業者がパブリッククラウドだなんて……というのが正直な印象でした」――KDDI 商品・CS統括本部 サービス企画本部長 中桐 功一朗氏は、セッションの冒頭、聴衆に対してこう切り出した。全てのインフラを自前で構築することが当然だったはずの国内大手通信事業者が、なぜパブリッククラウドに向き合うことになったのだろうか。
KDDIは2016年4月にスタートした電力小売りの自由化に伴い、同社の新規事業として電気サービス「auでんき」の全国提供を開始している。8兆円ともいわれる巨大市場を生み出した電力自由化だが、年間売上高4兆4600億円を超える巨大企業のKDDIがなぜこの市場に参入したのか、その理由として中桐氏は「国内通信事業の持続的成長と新たな成長軸の確立」を挙げる。売上高の約75%(約3兆3300億円)をパーソナルセグメントである「au」に依存している状況を続けていれば、遅かれ早かれ、ビジネスが頭打ちになることは間違いない。KDDIが通信企業からライフデザイン企業へと変革を目指し、グローバルも視野に入れた「au経済圏」の最大化を実現するためにも新規事業への進出は避けて通れない投資であり、電力市場への参入はその最初のケースとしてはうってつけだったといえる。「auライフデザイン」戦略では、通信事業で培った資産(1447万会員のauスマートパス、全国約2500軒のauショップなど)を基に、顧客の体験価値を提供する基盤を強化する。電気だけでなく、食品や日用品、生命保険/損害保険、ローンなども手掛けていく。それも全て副業ではなく本業として取り組んでいく。
auでんきのリリースに向けて、開発部門に提示されたシステム構築期間はわずか6カ月。中桐氏は「開発部門には申し訳ないと思ったが、システム構築に当たっては、ミニマムコスト、スケーラビリティ、スピードの3つを要求した。仕様なんて何もなく、ただイメージだけを伝えた」と振り返る。これに対し、KDDI プラットフォーム開発本部 クラウドサービス開発部 フレームワーク グループリーダー 平岡庸博氏は「普通なら1年以上かかるプロジェクトを半年で準備しろと言われ、むちゃぶりも甚だしいと思った。『どのくらいの需要を予測すればいいのか?』と聞いても『5000万世帯くらい? 全く読めない』という返事。しかも開発部門にはほとんど電力事業経験者がおらず、八方ふさがりの状態だった」と当時を述懐する。
こうした状況の中で平岡氏ら開発部門が選んだ結論は「脱請負型開発」と「AWSの利用」だった。「とにかく時間がなかったので、今までのような請負型開発では間に合わないのは目に見えていた。自分たちで設計し、パートナーと一緒に作り、リリースしてからも継続的に開発する必要があった。また、需要予測が全く読めない以上、キャパシティープランニングなどもできない。答えはAWSしかなかった」(平岡氏)
システム設計のテーマとして「アジリティ(スピード、俊敏性、柔軟性)」と「クラウドネイティブ(クラウド前提、作らず使う、スケーラブル)」を掲げ、さらに設計に当たっては、
- Infrastructure as Code……インフラの構築&構成管理をプログラムコードで実行する
- Immutable Infrastructure……旧環境には手を触れず、新しいシステムを構築し切り替えた後、旧環境を破棄する
- Operation&Monitoring……クラウドネイティブではインフラが固定化されないことを前提に運用し、監視を自動化する
という、これまでのシステム構築とは真逆の発想でクラウドネイティブに徹したという。特に、プログラムでインフラを作り、監視・運用を自動化したことで「人手を介さないシステムが出来上がった意義は大きい」と平岡氏は強調する。人手を介さなければそれだけ無駄なトラブルが減り、運用の負荷も激減するからだ。
AWSを適用した結果、「劇的なワークロード短縮、コストダウン、そして進化し続ける構造」が実現できたという平岡氏。KDDIの事例は、与えられたコストや時間が乏しく、需要の広がりを予測できない新規事業だからこそ、クラウドネイティブなシステムが最適解であることをあらためて示している。
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