「AWS Summit Tokyo 2016」レポート
AWSは大企業をどう変えたか――KDDI、キヤノン、ジャパンネット銀行に起こったビジネスインパクト(2/3 ページ)
キヤノン――“APIでコミュニケーション”が組織を変えた
「(モノを)作ることばかりに気を取られて、イノベーションまで考えが回らない。何をやるにも手順が煩雑で、やるべきことに集中できない。そんな状態が長く続いていた開発体制を変える必要があった」――キヤノン 映像事務機事業本部 映像事務機DS開発センター所長 川本浩一氏は、AWS導入前の組織をこう振り返っている。複合機を販売してもうかる時代はとうに過ぎ去り、新しい時代に適応できるイノベーションを模索していたキヤノンが手を付けたプロジェクトの1つがドキュメントサービス「Canon Business Imaging Online」だった。もともと、モノリシックなホスティングサービスとして提供していたサービスを「クラウドベースのマイクロサービスに生まれ変わらせる」(川本氏)ことにしたのだ。
クラウド導入に当たり、川本氏らは以下のような目標を掲げている。
- 疎結合で独立した組織でスピードとイノベーションを実現
- 組織が自立した意思決定をし、イノベーションを起こす
- 継続的インテグレーションで、イノベーションを可能にする
- 自動化によって再現性を持たせる
つまり、クラウドを「イノベーションへのトリガー」(川本氏)と位置付け、クラウドを導入することでドキュメントサービスそのものの改善はもちろんのこと、それを開発する組織を「イノベーション体質」に変えることが目的だったといえる。
そのトリガーにAWSを選んだ理由として川本氏は「AWSという企業が高速なイノベーションを実現している」ことを挙げる。AWSのサービスリリース/アップデートが驚異的なペースであるのは周知の事実だが、2015年に至っては722の新機能および新サービスをリリースしている。イノベーションを実現している企業のサービスを取り入れることで、そのイノベーションの恩恵を受け、自社のイノベーションを図ろうと川本氏らは考えたのだ。
ここで川本氏は、先に掲げた目標――AWSによるイノベーションを実現するために、以下の3つの仮説を立てたと説明している。
- 仮説1……開発・運用フローの自動化が継続的インテグレーション(CI:Continuous Integration)をもたらす?
- 仮説2……AWS上にサービスを構築し、APIによって相互作用する組織にすれば、AWSのような高速なイノベーションを実現できる?
- 仮説3……APIによって全てのデータを“見える化”できれば、イノベーションを加速できる?
この3つの仮説に共通するのはAPI指向という考え方だ。マイクロサービス化が顕著なAWSの各種サービスを導入することによって、顧客に提供するドキュメントサービスのマイクロサービス化を図るだけでなく、その開発・運用スタイルもAPIによる連係や自動化を進め、ログやデータもAPIで取得する。さらにそれぞれの作業に当たるチームをあたかもマイクロサービスに見立て、チーム間のコミュニケーションをAPIやテストケース、テンプレート、ログなどのデータを基に回していく。イノベーションの基軸をAPIにすることで、サービスや組織で「疎結合なマイクロサービス」が実現すると想定したのだ。互いに独立した、疎結合なサービスやチームを横串で管理し、見える化するために、統合監視ツール「Zabbix」やテスト管理システム「TestLink」、AWSの各種サービス「AWS CloudWatch」「AWS CloudTrail」「AWS Trusted Advisor」なども活用した。
こうした仮説に基づき、AWSを導入した結果、キヤノンには「意思決定はデータに基づいて行う」というこれまで見られなかった大きな改善がもたらされた。川本氏は「課題が見えれば人は自律的に動く。データを示すことで現場が自ら気付き、問題意識を高め、改善へと動くようになった。障害が起こっても定量的で安定的な対策が取れるようになっている。さらに新しいアイデアにも積極的に挑戦する傾向も強くなっている」とその変化を語る。また、API指向をベースにした仮説についても「検証を進めていくに従ってその正しさが実感できた」(川本氏)という。APIコミュニケーションは自動化、組織連携、見える化、そして改善をもたらし、キヤノンの映像事務機事業という組織にイノベーションが起こりやすい下地を作り上げた。「AWSを支える“APIでコミュニケーション”という発想は本当にすごい。アプリケーションのみならず、組織の在り方を変える威力がそこにはある。AWSは高い理想の実現に応えてくれるテクノロジー企業だということを実感した」と川本氏はAWSの効果を絶賛する。
「APIの呼び出しによって全てのサービスがフルマネージドされる世界、これはビジネスを一変させる。何より人が元気になったことが最大の導入効果」と最後にあらためてAPI指向のパワーを強調する川本氏。クラウドが変えるのはシステムだけではなく、そこで働く人々の意識であり、それこそがイノベーションであるということを教えてくれる。
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