事例で学ぶスキル向上と再教育の意義【後編】
社員を第一に考えない会社が「DX」を語るな――シュナイダーが考えるDXの進め方
DX推進は競合他社との戦いに必要だ――こうした考え方は間違いではないが、より重要な視点を見落としてはいないか。重電メーカーSchneider Electricが重視するのが「従業員ファースト」の視点だ。
重電メーカーSchneider Electric(シュナイダーエレクトリック)は、さまざまな業種のIoT(モノのインターネット)の取り組みを支援する製品/サービス群「EcoStruxure」を提供している。同社のEcoStruxure担当ディレクターであるルーク・ダーカン氏はEcoStruxureについて、産業施設のプロセス自動化と遠隔操作を可能にする産業用IoTプラットフォームだと説明する。
Schneider Electricは2019年、工場の効率化と運営コスト削減を実証するスマートファクトリーを米国ケンタッキー州レキシントンに開設した。これはEcoStruxureを使用して古い工場を最新化した施設だ。前編「DXの成功には『従業員のスキル向上と再教育』が不可欠な理由」、中編「老舗工具メーカーが『DX』推進に人材教育が必要だと考える訳」に続く本稿は、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進とともに顕在化する従業員のスキル格差の解消に向けた「スキル向上」(Upskilling)と「再教育」(Reskilling)に取り組む、同社の事例を紹介する。
従業員を第一に考える
ダーカン氏によると、製造業界は工場の生産能力とレジリエンス(障害発生時の回復力)を高めるとともに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行でテレワークが必要となっている従業員の数も最小限にしようとしている。「工場の運営に必要な操作や人員を減らすと同時に、レジリエンスを高めることも重要だ」と同氏は指摘。「ブレーカーが落ちたり、変圧器が飛んだりすれば、2カ月分の生産能力を失うことになる。そのような損失を出すわけにはいかない」と強調する。
製造業のDXを成功させるには、新しいプロセスや技術に順応できるように従業員のスキル向上と再教育を実施することが重要になる。ダーカン氏は「スマートファクトリーで必要となるスキルに明確な変化があることが、スマートファクトリーを開設して分かった」と話す。企業は主力となる熟練の従業員に最新のツールを渡し、そのツールを特定のニーズと要件に適応させるための柔軟なサポートを提供することが必要だと同氏は指摘する。
DXの議論をするとき、経営幹部のサポートや優れた戦略計画について語るのは重要なことだ。だが「現場の人材が技術を十分に活用でき、使いたいと感じられるようにすることも重要だ」とダーカン氏は語る。「現場の人材にとって役に立つツールやサービスを開発することを考慮する必要がある」(同氏)
コンサルティング企業Kotter Internationalでプリンシパルを務めるバネッサ・アクタル氏は、Stanley Black & DeckerとSchneider Electricの取り組みについて「スキル向上と再教育のプログラムの成功を導く優れた処方箋だ」と評価する。
「企業はまず、DXを推進する目的を明らかにすべきだ」とアクタル氏は語る。そうすれば、どのようなツールを使用するかも明確になる。企業はDXに関する取り組みについて、従業員や企業全体にもたらす利益よりも、競合他社との戦いにとって必要なものというメッセージを強調しがちだ。「従業員と一緒にDXを進めることで、何が可能になり、何が変わり、どのような利点があり、自身の仕事にどう影響し、仕事の仕方をどのように変える必要があるのか、従業員の理解を得られる」(同氏)
アクタル氏はさらに「できるだけ早い段階から従業員をDXのプロセスに参加させる方が賛同を得やすい」と付け加える。DXのプロジェクトは、IT担当者などの少人数のグループが決定した後で従業員全体に周知されることが少なくない。それでは一緒に変更を進めるというより、変更を押し付けられたような印象を従業員に与えてしまう可能性があることを同氏は懸念する。
「初期段階から従業員を巻き込み、どうすれば仕事がしやすくなるか、どんなことが時間を無駄にしているか、といった意見を聞くべきだ」とアクタル氏はアドバイスする。早い段階で従業員の声を集めれば、従業員も新しいツールやサービスの立ち上げに参加できる。「何かが変わると知った後の従業員の抵抗に対処することよりも、従業員に新しいツールの使い方を理解してもらうことに注力できる」(同氏)
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