複雑な社内検索を高速化・低コスト化
「従来のRAG」は限界か Databricksが示す「適応型検索」の勝算
AI活用の成否を分けるデータ検索で、従来のRAGに限界を感じる企業は少なくない。質問の複雑さに応じて探索を自律制御するDatabricksの新モデルは、遅延とコストを抑えつつ精度を高める武器となるか。
Databricksは、AI向けデータ検索システムの精度向上に再び取り組んでいる。
Databricksは2026年1月、「Instructed Retriever」を発表した。これは、企業がAIエージェントにデータを渡すために導入している従来のRAG(検索拡張生成)パイプラインの代替となる仕組みだ。
AIプロジェクトの失敗事例が成功事例を大きく上回る昨今、ユーザーのクエリに基づいてデータを検索するRAG単体ではエージェントに関連性の高いデータを提供するのに不十分であることが浮き彫りになった。Databricksは「Instructed-Retriever-1」モデルを搭載したInstructed Retrieverを開発した。クエリに追加パラメーターを付与してデータ検索の精度を高め、文脈に応じた適切なデータを見つけ出す設計だ。
DatabricksはAI向けデータ検索をさらに強化するため、複雑な検索に特化した新しい検索モデル「Adaptive Instructed-Retriever」を投入する。
本稿では、質問の複雑さに応じて探索を自律制御するDatabricksの新モデルは、遅延とコストを抑えつつ精度を高める唯一の手段となるのかを解き明かす。
適応型検索とは
Instructed Retrieverは複数のパラメーターを同時に検索する並列単一ステップ検索機能を備え、1ステップのクエリには有効に機能するが、複数ステップの検索を要する処理では速度や精度が低下する課題があった。Adaptive Instructed-Retrieverは、並列単一ステップ検索に順次検索を組み合わせ、遅延を増やすことなく複数ステップのクエリを実行できるようにした。
McKnight Consultingで社長を務めるウィリアム・マックナイト氏は「Adaptive Instructed-Retrieverは大きな進化だ。エージェントが大規模なワークスペース全体から関連する企業資産を効率的に特定できるようになる」とTechTargetに語った。「単純な要求には高速な単一ステップ検索を使い、複雑な要求には複数ステップの順次検索へと段階的に切り替えられる点が主な利点だ」
同氏によると、新モデルの利用によって検索速度の維持、より関連性の高い検索結果の取得、コストの削減が期待できるという。
「データレイクへのクエリのように単一の情報源に絞られた処理とは異なり、エージェントによるデータ検索は対象が多岐にわたるため難易度が高い。特定のタスクで何が『適切なデータ』であるかを担保する手法はまだ発展途上にある」とマックナイト氏は述べる。「適応型検索はクエリの複雑さに応じて検索の深さを調整することで、エージェント主導のデータ検出の精度、速度、コストを改善し、この課題に対処する」
精度の向上
DatabricksはInstructed Retrieverを発表した際、AI向けの従来のRAGパイプラインを相手にベンチマーク測定を行い、その実力を示した。Adaptive Instructed-Retrieverも同様に、競合機能と比較して有効性を検証した。
Databricksが実施したテスト(第三者による検証結果は提供されていない)によると、新モデルの再現率はAnthropic、DeepSeek、OpenAIのモデルと同等だった。一方で、Adaptive Instructed-Retrieverは検索の実行速度で大きく上回った。
TreeHive Strategyの創業者でプリンシパルを務めるドナルド・ファーマー氏は「今回のリリースはユーザーにとっては段階的な改善だが、製品にとっては大きな前進だ」とTechTargetに語った。「従来のInstructed Retrieverでは誤答していた質問に、Adaptive Instructed-Retrieverは複数ステップの検索を追加した。これによりユーザーは、一定の遅延枠で低コストにより良い回答を得ることができる」
異種システムにまたがる情報の探索は難しく、ユーザーごとにクエリの指示内容も異なるため、企業はエージェント向けに適切なデータを見つけ出して実用化するのに苦労し続けているとファーマー氏は指摘する。そのため、硬直した検索よりも柔軟な検索が効果的となる。
「企業の検索の課題は1つではない」とファーマー氏は述べる。「データはテーブル、ノートブック、ダッシュボード、文書に分散している。適切な答えを得るには解釈を必要とする指示に依存することが多く、単純な類似検索では歯が立たない」
ガバナンスによる差別化
マックナイト氏によると、Adaptive Instructed-Retrieverはユーザーにとって有用で、同社のAI向けデータ検索機能の大きな進歩ではあるものの、モデル単体では競合との差別化要因にはならないという。
例えばSnowflakeも同様に、広範な企業データ資産で「Text-to-SQL」やセマンティック検索を提供するモデルを用意している。しかしDatabricksのユーザーにとって魅力となるのは、Adaptive Instructed-Retrieverと同社の一元管理ガバナンス層「Unity Catalog」との連携だ。
「Databricksは動的検索、述語抽出、ガバナンスをUnity Catalogに直接組み込むことで差別化を図っている。Unity Catalogは『Databricks Genie』『Databricks Assistant』『Mosaic AI Agent Framework』などの対話型データツールの基盤として最適化されている」とマックナイト氏は述べる。
ファーマー氏も同様に、データ検索に特化した小規模モデルを提供したのはDatabricksが最初ではないと指摘する。Google CloudやMicrosoftなども関連データを検出して実用化するために並列サブクエリを計画・実行するツールを提供している。
しかしファーマー氏によると、DatabricksはAdaptive Instructed-Retrieverで、検索をどの時点で終了すべきかをモデルに学習させることで一歩先へ進んだという。
「AIエージェントがデータを検索する際、1回確認して回答を出すことも、検索を続けることもできる」と同氏は説明する。「確認の回数を増やせば通常はより良い回答が得られるが、その分時間と費用がかさむ。難しいのは、どこで止めるかの判断だ。Databricksは小規模モデルをトレーニングし、停止の判断をモデル自身に下させるようにした」
さらにファーマー氏は、新モデルがもたらすコスト削減効果が競合ベンダーにも対応を迫る可能性があるとの見解を示した。
「顧客は検索モデルの良しあしだけでデータプラットフォームを選ぶわけではなく、競合の検索層も十分に実用的だろう。しかし、コスト管理の面での説得力は大きい」と同氏は言う。「そのため、どのベンダーもエージェント向けに低コストで高速な検索層を用意せざるを得なくなる。ただし、各社独自のアプローチを取ることになるだろう」
Databricksのリサーチディレクターを務めるマイケル・ベンダーズキー氏によると、自律型AI(エージェントAI)ツールの本番運用を始めた顧客が、エージェントでより複雑な質問を投げかけるようになった動向を受けてAdaptive Instructed-Retrieverを開発したという。
「エージェントによる検索では、ツールを使った複数回の情報取得、内容の確認、再度の検索という手順が必要になる」と同氏はTechTargetに語った。「こうした環境では、エージェントが適切な答えを見つけるまで検索と取得、検証を繰り返す。同時に、システムの検索完了までユーザーを必要以上に待たせるわけにもいかない」
ベンダーズキー氏によると、Databricksは今後数カ月のうちに、現在パブリックプレビュー段階にあるサーバレスGPUコンピュート機能をAdaptive Instructed-Retrieverに追加する予定だ。必要に応じて自動でスケールアップし、ワークロードの需要が減った際にはスケールダウンすることでモデルの利用を改善する。さらに、エージェント向けのコンテキスト処理、AIガバナンス、コスト管理、プラットフォームのオープン性に取り組み、企業がAIを本番環境へ移行する際の障壁を減らし続ける計画だという。
顧客が信頼性の高いAI機能を構築および展開できるよう既存機能の品質や性能の改善を続ける姿勢は、Databricksにとって賢明な戦略だとマックナイト氏は評価する。具体的には、モデルサービング機能の精度向上やプラットフォーム利用の簡素化が有効だという。
「エンタープライズグレードのAIエージェントを支援するには、リアルタイムの同時実行のボトルネックとモデルサービングの高い失敗率を解消し、安定した低遅延のエージェント実行ループを確保しなければならない」とマックナイト氏は述べる。「さらに、運用の手間が不要なサーバレスプラットフォームへと移行し、事前に構築された運用テンプレートなどを提供してユーザー体験全体を簡素化し、ビジネスROI(投資対効果)を高める必要がある」
一方でファーマー氏は、AIツールに渡す資産を検索する際、どのテーブルや指標、セマンティック定義を使用すべきかを適切に選択できるようデータ検索機能をさらに強化することを提案した。
「データエージェントにとって難しい問題は、文書を見つけることではなく、何千ものテーブルや指標、セマンティック定義の中から適切なものを選択することだ」と同氏は語る。「これこそが将来的に顧客から求められる需要だと考えている」
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