後付けガバナンスとコスト暴走を防ぐポイント
AIエージェント導入を急ぐな 先行企業が「データ基盤」を優先する理由
AIエージェント導入を急ぐ企業が直面するのが、トークン費用の暴走や文脈不足による誤判断だ。数カ月の作業を数日に縮めた企業は、なぜ自律運用の前にデータ基盤と業務標準化を徹底したのか。その現実解に迫る。
オーストラリアの企業は、システム統合の基盤業務をAIに任せる一方で、AIエージェント自体の行動範囲を厳しく制限している。
人工内耳などを手掛ける医療機器メーカーのCochlear(コクリア)が一例だ。同社は基幹系システム(ERP)の移行に伴うシステム統合業務の70%を、BoomiのAIアシスタントで処理している。数カ月を要していた作業を数日や数時間へと短縮した。
建材メーカーのBrickworks(ブリックワークス)は、各種アプリケーションをマスターデータと連携させるコネクターを活用している。また大手ベーカリーチェーンのBakers Delight(ベーカーズディライト)は、数日で構築した統合レイヤーにより20店舗でオンライン注文の受け付けを開始した。
自律的に動作するAIエージェントの導入となると、事情は異なる。シドニーで開催されたイベント「Boomi World Tour」の登壇者は一様に、導入を阻む要因を指摘した。業務コンテキスト(文脈情報)が欠落したデータ、後付けのガバナンス、急増するトークンコストの3点だ。
本稿では、先行企業はなぜ自律運用の前にデータ基盤と業務標準化を徹底したのか、その現実解に迫る。
コスト7分の1・400万豪ドル節約のBrickworks
BrickworksのCIO(最高情報責任者)を務めるカイレン・ローレンス氏によると、同社は以前、Boomiを対向システム間の連携にのみ利用していた。約2年前にデータの信頼性向上を目指す変革を進め、その中核としてBoomiを採用したという。
同社はアプリケーションとマスターデータの連携にコネクターを導入した。コネクターの再利用率は6.4倍に跳ね上がり、1つ当たりのコストは7分の1に低下した。プラットフォームの総利用量は700%増加したが、コストの増加率は50%にとどまった。
直近のプロジェクトでは、商品情報管理システム(PIM)とWebサイトのコンテンツ管理システム(CMS)を統合した。複数のブランドや複雑な製品階層を抱える同社にとって大掛かりな作業だった。さらに、購買業務を各拠点から本社へ一元化したことで請求書処理が改善し、約400万豪ドルのコスト削減につながった。
「まだやるべきことは山積みだ」とローレンス氏は話す。今後はデータ連携ツール「Boomi Data Integration」を活用し、従来型のデータフローを刷新する予定だ。リスクの増加やガバナンスの低下を招くことなくプロセスの簡素化を図る。
同氏は、Boomiのパートナー企業であるAtturraの支援が変革の推進力になったと言い添えた。
Atturraでデータおよび統合部門のエグゼクティブゼネラルマネジャーを務めるジェイソン・フロスト氏は、「誰もが業務の迅速化を求めている」と指摘する。自然言語でシステム連携を構築できる「Boomi Companion」は変革をもたらすが、パートナー企業が価値を提供する余地は依然として大きいという。
ローレンス氏によると、Brickworksは明確な目的を持った対象限定のアプローチでAIを適用している。予期せぬ費用の高騰や投資回収の不確実性を懸念しているためだ。
同社が検討中の用途は2つある。入金と請求書の自動照合によるERPの強化と、PDFや電子メールで届く注文書の自動取り込みだ。
データ基盤と業務標準化が重要になる理由
自動化を導入する前に、業務プロセスとデータを標準化すべきだとローレンス氏は強調する。「人間が組織にもたらす価値は非常に大きい」と同氏は話す。従業員が新しい知識を学び変化に適応するには時間が必要で、変革を急ぎすぎると人間の適応が追い付かず業務が滞る恐れがある。
ガバナンスは後付けにするのではなく、基盤自体が標準で備えるべきだとBoomiのアジア太平洋・日本地域CTO(最高技術責任者)であるデビッド・イラッキ氏は指摘する。具体的には、適切なAIモデルへの問い合わせのルーティングや、利用者のアクセス権限を代理動作するエージェントへ正確に引き継ぐ機能などだ。
エージェントはタスクを完了するためにあらゆる手段で必要な情報にアクセスしようとする。そのため、セキュリティとアクセス制御がより重要になると同氏は警鐘を鳴らす。エージェントへ正当に権限を委譲することと、エージェントがユーザーに成り済ますのを許すことには大きな違いがある。
オーストラリアやニュージーランドの企業は慎重な追随者(ファストフォロワー)であり、他社の失敗から学ぼうとしていると同氏は分析する。失敗の要因としては、データやセキュリティ基盤の整備不足、エージェントを制御するガバナンスの欠如、トークンへの過剰支出が挙げられる。
CDO(最高データ責任者)や分析責任者が進めてきたデータクレンジングはAI活用に必要だが、それだけでは不十分だとイラッキ氏は話す。データを整合性のある正規データへと整備し各システムへ複製しても、エージェントが業務の文脈まで理解できるとは限らない。例えば「有効な顧客」という定義1つをとっても、あるシステムでは「過去180日以内に購入した顧客」で、別のシステムでは「過去30日以内にサイトを訪問した顧客」を指す場合がある。非構造化データでも同様の問題が生じる。
Boomiが提供予定の「Knowledge Hub」は、構造化・非構造化双方のデータソースと接続し、コンテキスト、セキュリティ、ガバナンスを提供する。これによりエージェントや検索拡張生成(RAG)が抱える課題の大半を解消できるとイラッキ氏は説明する。
Bakers Delight、20店舗でオンライン注文を開始
Bakers Delightは、スーパーマーケットの宅配サービスに対抗するため、20店舗で店頭受け取りおよびUberを通じた配達のオンライン注文を開始した。
実店舗での客単価は約10豪ドルだが、オンライン注文の初期実績では50豪ドルを超えるものがあった。これは見込んでいた追加売上の獲得が期待できる兆候だ。店舗側が事前にパンの焼成数を調整できるよう、同社は顧客に前日の夜までに注文するよう促している。
オンラインの店頭受け取りは、2つの需要を見込んでいる。イベントなどで通常より大量に購入するケースと、仕事帰りの立ち寄りなどで目当てのパンを事前に確保しておくケースだ。
同社は告知を控えた状態でオンライン注文を開始した。店舗網全体に展開できるまで大規模な宣伝は行わない方針だとCTOのケン・ン氏は話す。
販売の「Shopify」、配送管理の「Deliverit」、会員プログラムの「Talon.One」、顧客セグメンテーションの「Klaviyo」といった各種ソフトウェアを束ねるため、同社はシステム連携の促進役としてBoomiを採用した。
「小売業は常にIT投資を抑えたがる」とン氏は語る。安価なコストで高品質なサービスを求める傾向があるためだ。「システムが正常に稼働し、追加費用がかからない限り、フランチャイズ加盟店は裏側の仕組みを気にしない」(同氏)。Boomiは費用対効果が高く、数日で導入できた。ノーコード基盤のため担当者の技術水準による品質のばらつきも少ない。それでも、Boomiのプロフェッショナルサービスを利用した価値は十分にあったとン氏は話す。
新システム導入により、同社は従来の無差別な宣伝から顧客層を絞り込んだ販促活動へ転換できるようになった。母親、父親、子どもなど顧客層ごとに購買行動が異なり、特定の地域ではベーコン製品の宣伝が効かないといった傾向を把握している。位置情報の利用許可を得れば、最近来店がない近隣の常連客へ1時間有効な1豪ドル引きクーポンを配布するといった施策も可能になる。
顧客の行動データをリアルタイムで把握できるようになったため、当日中の対策が可能になったと同氏は説明する。
今後はPOSとマーケティングシステムを密接に連携させ、店舗スタッフと顧客との個別対話や、AIによるアップセル提案の実現を目指す。そのためには、会計時ではなく来店直後に専用のQRコードを読み取ってもらう必要がある。会員限定価格を適用するなどの仕組みで利用を促す方針だ。
CochlearのERP移行とローカルモデル活用
聴覚インプラントを手掛けるCochlearはERPの移行を進めており、Boomi Companionを活用して関連業務の70%を処理している。同社のデジタルソリューション部門責任者を務めるティム・ウー氏によると、数カ月かかっていた作業が数日や数時間で完了するようになった。入電の30%に対応できるエージェントも3日で構築できたという。
ウー氏は、生成AIの適用範囲を慎重に見極めるべきだと同業者に助言する。確定的(ルールベース)に処理できる業務、あるいはそうすべき業務は存在し、同社はBoomi上で両方のアプローチを組み合わせて利用している。
今後はサードパーティー製や自社製を含め、AIモデルを自社環境(ローカル)で稼働させる計画だ。先行きが不透明な世界であっても、患者の生涯にわたる支援を続ける必要があり、財務面と環境面での持続可能性が重視されるとウー氏は説明する。
AI活用の投資対効果を高める手段として、オープンウェイトモデルをオンプレミスで運用する手法への関心が高まっているとイラッキ氏は指摘する。データを外部へ送るのではなく、データの保管場所にモデルを持ち込むことでデータ主権を保てる利点がある。
一方でBoomiの最高製品・技術責任者(CPTO)を務めるエド・マコスキー氏は、「オープンウェイトモデルだけに全面依存することはできない」と注意を促す。高度な処理を要するタスクには、ハイパースカラーが提供する大規模な先端モデルが必要になるためだ。
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