店舗や事業所の共用PCで多発する「パスワード忘れ」は、IT担当者の時間を奪うだけでなく、打刻遅滞による労働時間管理のリスクを招く。Joshinがジェスチャーと顔認証の組み合わせでこの問題を脱した経緯は。
店舗や工場など、さまざまな従業員が共用PCを利用して勤怠打刻をする現場において、情報システム部門や運用担当者を悩ませる問題がある。それは「パスワードの失念」だ。「Webタイムレコーダーにログインできない」という現場からの問い合わせが相次げば、その都度パスワードリセットなどの対処に追われることになる。
これは一見小さなトラブルでも、運用部門の工数を奪うだけではなく、コンプライアンス上のリスクも引き起こす。打刻の遅滞による、不正確な労働時間管理だ。
労務管理における「隠れた地雷」として警戒されているのが「着替え時間」の扱いだ。制服や作業着の着用を義務付けている企業では、更衣室での着替えも原則として労働時間と見なされる。そのため、打刻場所の順番待ちやログインの手間によって生じる数分のずれが積み重なることで、「未払い残業代」という重大な法的リスクに直結してしまう。
関西を地盤とする大手家電量販店のJoshinも、店舗や修理・配送部門の従業員に制服着用を義務付けており、この課題に直面していた。共用PCでの打刻の遅滞は、現場の負担であると同時に、労務リスクの温床になり得る。
こうした課題を解消するため、Joshinが国内の全事業所で本格稼働させたのが、NECの顔認証クラウドサービスとエッジデバイスを組み合わせた新システムだ(写真)。生体認証方式やデバイス認証にはさまざまな選択肢が存在する中で、なぜ同社はICカードやスマートフォンによる認証ではなく、あえて「顔認証」、しかも「ジェスチャー操作」を組み合わせた非接触方式を採用したのか。
Joshinは、国内全事業所の従業員を対象に、画面に直接触れることなく手などのジェスチャー操作だけで勤怠打刻ができる顔認証システムを導入し、本格稼働を開始した。システムの構築には、NECの顔認証クラウドサービス「Bio-IDiom Services」および顔認証エッジデバイス「UBio-N Face Pro」を採用した。2026年7月13日、NECが発表した。従来のパスワード入力に伴う管理ストレスや打刻遅滞を解消するとともに、共用端末の衛生面向上や適正な労働時間管理を進める。
Joshinは、関西を地盤とする大手家電量販店チェーン「ジョーシン」を展開している。同社では、PCのWebブラウザからWebタイムレコーダーを起動し、IDとパスワードを入力して勤怠打刻を実施していた。しかし、パスワードの失念によって運用の担当部門による都度の対処や、それに伴う打刻の遅滞が発生していた。一部の従業員にとってPCの操作自体が負担となっていた他、店舗や各事業所では共用PCを使用するため、感染症対策をはじめとする衛生面の懸念も課題となっていた。店舗や修理、配送部門に勤務する従業員には制服の着用が義務付けられており、適正な労働時間管理のために、更衣室での着替え前後にリアルタイムで打刻ができる環境の整備が求められていた。
こうした課題を解決するため、生体認証方式による勤怠打刻の導入検討が進められた。さまざまな認証方式がある中で、顔認証方式は身体的なコンディションに左右されにくく、顔写真の登録のみで誰もが簡単に利用できる運用面の利便性が評価された。加えて、打刻時の顔写真がログとして残るため、後から本人確認が必要になった際も容易に確認できる点や、機器に直接触れない非接触でのオペレーションが可能なこと、顔表面の温度も測定できるため、感染症対策面でも有効だと判断され、採用に至った。
今回、全事業所に導入された顔認証エッジデバイスは、マスク着用時でも高精度な認証が可能であり、印刷した写真や動画を用いた他人によるなりすましをブロックする機能を備えている。暗所でも利用できるLED照明や、多様な環境への設置が可能な防塵(じん)、防滴設計も備えている。この端末の非接触勤怠打刻オプションとジェスチャー認識機能を活用することで、画面に直接触れることなく、手などのジェスチャー操作だけで出勤や退勤などの打刻を衛生的に完結することが可能となった。
システムはクラウドサービス内で構築されており、各店舗の端末で取得された打刻ログや認証データはクラウドサービスに集約される。API連携によって勤怠管理システムをはじめとする既存システムと連携したシームレスでセキュアな構成を実現している。導入にあたってはソフトバンクが協力し、全体プロジェクトマネジメントを担当。顔認証ソリューションと他社勤怠システムを連携するための設計、構築、運用を推進した。これにより、多拠点における均質かつ効率的な運用を実現しやすい環境整備を支援し、現場負荷の軽減と効率的かつ安定した店舗運営に貢献している。
更衣室の壁面やその周辺に端末を設置したことで、従業員は更衣の直前や直後にスムーズな打刻ができるようになった。現場の従業員からは、共用端末に触れることなく非接触でオペレーション可能な点や、煩わしいパスワード管理から解放された点、PC操作と比較して打刻にかかる時間が大幅に短縮された点などが評価されている。システムの導入によって、従業員の管理ストレスや主管部署への問い合わせ応対が解消され、設置場所の最適化と相まって、勤怠打刻の遅滞抑制に大きく貢献している。
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHUB.News」に掲載された「Joshin、全事業所で顔認証の打刻開始 パスワード管理解消と衛生向上へ」(2026年7月14日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
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