創業70年のマーケティング企業が脱「紙とExcel」 クラウドERPを選んだポイントは月末残業を削減、投資判断も迅速化

店頭販促や広告制作を手掛ける美工は、オロのクラウドERP「ZAC」を導入した。案件の売り上げ、原価、工数を受注前から一元管理し、将来の利益予測や営業活動、経営判断の迅速化につなげた。導入の決め手は。

2026年07月29日 05時00分 公開
[TechTargetジャパン]

 案件ごとの売り上げや原価を「Microsoft Excel」(Excel)で管理していると、会社全体の利益を把握できるのは数字が確定した後になりやすい。将来の売り上げや利益が見えなければ、採用や設備投資の判断も遅れる。

 店頭販促や広告制作を手掛ける美工は、オロのクラウドERP(統合基幹業務システム)「ZAC」を導入した。基幹システムや勤怠システム、グループウェアに分散していた情報を統合し、紙やExcel、二重入力に依存した業務を見直した。

 受注前の案件を含めて売り上げや原価、工数を管理することで、将来の利益を予測できる仕組みを構築した。経営会議や営業活動、バックオフィス業務はどのように変わったのか。

基幹システムのサポート終了を機に刷新

 美工は、店頭什器やPOPの制作など、購買行動につながる売り場づくりを手掛けるセールスプロモーション企業だ。創業から70年近くにわたり店頭販促に取り組み、近年はWebサイトやSNS、デジタルサイネージなどにも事業領域を広げている。

 システム刷新のきっかけは、従来利用していた基幹システムのサポート終了が迫っていたことだった。

 当時は、基幹システム、勤怠システム、グループウェアがそれぞれ独立していた。経費精算では紙の書類や証憑を使用し、基幹システムに入力した情報を財務会計システムへ手作業で再入力する業務も残っていた。

 システム間で情報が連携していないため、手作業や二重入力が発生していた。経営数値の集計にも時間がかかり、タイムリーに状況を把握することが難しかった。そこで同社は、複数の業務を1つのシステムに統合し、処理を効率化する方針を決めた。

ERP選定で重視した3つの要件

 美工が新システムに求めた要件は、大きく3つあった。

 1つ目は、受注金額や発注金額の変動に柔軟に対応できることだ。同社の案件では、受注時点で売上金額や発注金額が確定していない場合がある。案件の進捗に応じて売り上げや原価が変動する業務を管理できる必要があった。

 2つ目は、プロジェクト管理、販売管理、購買管理、勤怠・工数管理、スケジュール管理、ワークフローなどを一元化できることだ。現場の従業員が迷わず操作できる、直感的なUIも条件とした。

 3つ目は、データドリブン経営の実現である。従来は経営数値を手作業で集計していたため、入力や集計のミスが発生しやすかった。データを一つのシステムに集約し、正確な数字を迅速な意思決定につなげることを目指した。

ZACを選んだ理由はUIと設定の柔軟性

 美工は、売り上げと原価を関連付け、案件別の利益管理や原価管理ができる製品を中心に比較。その結果、ZACを選定した。

 理由の1つが、UI/UXの分かりやすさだった。画面遷移や処理の流れが簡潔で、他のシステムと比べて現場が操作しやすいと判断した。

 同社にはデザイナーが多く、システムの見た目や操作性への感度も高い。従業員が「使いたい」「入力したい」と思えるかどうかを重視した。

 もう1つの理由は、SaaSでありながら、パラメーター設定によって社内ルールや業界特有の商習慣に対応できることだった。個別のプログラム開発をせず、標準機能を使って業務に合わせた環境を構築できると評価した。

 ノンカスタマイズのパッケージとして導入すれば、追加費用をかけずに定期的なバージョンアップを適用できる。スクラッチ開発と比べて、導入費だけでなく将来の運用・保守費も抑えられると判断した。

 ZACの導入作業は約半年という短期間だった。導入後、従業員は約1カ月で操作に慣れたという。

受注前の案件もA、B、Cでランク付け

 ZACの導入を機に、美工は案件管理の方法を変更した。従来、受注前の案件は現場に管理を任せており、全社で統一した管理はしていなかった。導入後は、受注前の見込み段階から案件をZACに登録し、受注確度に応じて「A」「B」「C」に分類するようにした。

 これにより、受注済みの案件だけでなく、今後受注する可能性がある案件の件数や金額もリアルタイムで把握できるようになった。

 ランク管理には、将来の売り上げを予測するだけでなく、営業担当者の行動を変える狙いもあった。

 同社には、既存顧客から定期的にコンペへの参加依頼が届く。しかし、依頼を待って他社と同じ条件で競うだけでは、受注確度を高めにくい。そこで営業担当者が顧客と積極的にコミュニケーションを取り、新たな情報を得ることで、案件の受注確度をCからB、BからAへ引き上げる活動を進めた。

 コンペが始まる前に顧客から情報を入手し、先回りして提案することで、競合のいない指名受注を狙う取り組みも強化した。

 見込み案件の母数を増やし、個々の受注確度を高める。この2つの活動をシステム上で管理することで、営業担当者が顧客からの依頼を待つのではなく、能動的に案件をつくる動きが徐々に定着している。

経営会議を活動報告から戦略会議へ

 ZACに登録した案件データは、毎月第2週と第4週に開く経営会議で確認している。

 会議では、各案件の売上金額を「受注済み」「Aランク」「Bランク」「Cランク」に分けて集計する。全社の数字に加え、顧客別の売り上げ見込みも確認している。

 前回の会議から売り上げ見込みがどのように変化したかを確認し、数字に動きがなければ、その期間に営業担当者がどのような活動をしていたのかを議論する。

 ZAC導入前の経営会議は、「どの顧客に、どのような対応をしたか」という活動報告が中心だった。将来の売り上げを示す共通の数字が不足していたため、具体的な施策の議論につなげにくかった。

 導入後は、全社、顧客、案件という複数の単位で売り上げ見込みを確認できるようになった。経営会議では、数字の変化を基に、次にどの顧客へ働き掛けるべきか、どの案件にテコ入れすべきかを検討できるようになった。

 ZACの導入について、美工 専務取締役の加藤宏彦氏は、次のように述べる。「先々の売り上げや利益見通しが明確に数字で見えるようになりました。経営会議が数値に基づいて進められるようになり、経営のあり方が大きく変わりました」

案件別の「利益の先読み」を実現

 美工はZACの導入に合わせて、案件ごとの原価と利益を予測する仕組みも整えた。

 以前は、営業、デザイン、生産管理、購買の各担当者が、それぞれExcelで売り上げと原価を管理していた。データが担当者ごとに分かれていたため、会社として案件の原価や利益を把握できるのは、売り上げと仕入れの金額が全て確定した後だった。

 現在は、受注前や受注時点で、売り上げ、原価、工数の予測値をZACへ入力する。これにより、案件が完了する前に、会社全体の利益がどの程度になるのかを見通せるようになった。

 利益の着地見込みが分かれば、来期に向けた投資判断も早められる。今期の利益が計画を上回ると予測できれば、翌期に予定していた投資を前倒ししたり、採用人数を増やしたりできる。

 反対に利益が計画を下回る可能性があれば、投資時期を翌年へずらす、目標達成に向けて営業活動を強化するといった対応が取れる。過去の実績を集計するだけでなく、将来の利益を予測し、投資や採用の判断に生かせるようになったことは、経営面での大きな変化である。

請求書や発注書の作成をシステム内で完結

 ZACの導入に合わせて、美工のバックオフィスでは、販売・購買、経費精算、会計の各業務を見直した。

 販売・購買業務では、従来、Excelで請求書を作成し、メールで発注するなど、システム外での手作業が残っていた。しかしZACの導入後は、請求書や発注書をシステム上で発行し、その処理結果を債権・債務管理へ連携できるようになった。特に発注業務にかかる手間が減り、担当者がより生産性の高い業務に時間を使えるようになった。

 経費精算では、紙の書類や証憑を使った処理を廃止し、ZAC上で手続きを完結させた。

 同社では、コンペに使用する資材の購入など、特定の案件に関連する経費が多い。ZACでは、経費を対象案件とひも付けて申請できるため、その金額を案件固有の原価として反映できる。

 領収書や請求書などの証憑は、電子帳簿保存法に対応した形で保存する。経理担当者による手入力を削減し、処理の効率化とミスの防止につなげた。

会計システムへの二重入力を廃止

 会計業務では、基幹システムに登録したデータを財務会計システムへ再入力する作業を廃止した。ZACから仕訳データを出力できるため、担当者が同じ内容を二度入力する必要がなくなったからだ。

 従来は月次締めの期間に残業することが常態化していた。しかしZAC導入後は、締め作業中でも定時に退社できる場合が出てきたという。月次決算を完了するまでの期間は3営業日のままだが、担当者の月末残業時間は大幅に減少した。

工数を可視化し、付加価値の高い仕事へ移す

 美工は今後、「顧客との接点強化」「生産性の高い業務への注力」「AI活用による効率化」の3点に取り組む。その出発点となったのが、ZACによる工数の可視化である。

 同社は以前から原価計算のために工数を管理していたが、案件に関連する時間か、それ以外かという大まかな分類にとどまっていた。

 現在は、どの案件のどの作業に、どれだけの時間を使ったかを記録している。営業部門であれば、案件業務と非案件業務の比率だけでなく、顧客対応や社内作業など、具体的にどの活動へ時間を使っているのかを個人単位や部門単位で確認できる。

 業務時間の使い方が明らかになったことで、「顧客と接する時間を増やせないか」「間接業務を減らせないか」「AIに任せられる作業はないか」といった具体的な議論が可能になった。

 同社は今後、会社としてどの業務に時間を投資するかを見直し、従業員をより付加価値の高い業務へ移していく方針である。

導入プロジェクトの評価は「90点」

 美工は、約半年という短期間でZACの導入作業を進めた。導入後は、案件別や顧客別の売り上げ、原価、利益を、過去の実績だけでなく将来の予測として把握できるようになった。

 組織変更があった場合も、ベンダーへ依頼せず、自社で設定を変更できる運用体制を構築した。定期的なバージョンアップを適用できるため、法改正や税制変更にも対応しやすい。

 美工は導入プロジェクト全体を「90点」と評価する。経営層だけでなく、現場の従業員からも、業務が進めやすくなったとの声が寄せられているという。

 システムを一元化する目的は、単に紙やExcelをなくすことではない。案件の見込み、売り上げ、原価、利益、工数を同じ基盤で管理し、現場の行動や経営判断につなげることにある。

 美工の取り組みは、ERP導入を業務効率化にとどめず、営業活動や経営会議、投資判断の変革まで広げた事例といえる。

本稿は、オロが2026年7月27日に公開したプレスリリースおよび導入事例を基に作成しました。

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