AI開発は高過ぎる? “オーバースペック問題”を解消するOracleの新製品「オンプレかクラウドか」に対する第3の選択肢

機密データを扱うAI開発では、データを自社にとどめるデータレジデンシの要件が重荷となる。高額な専用インフラを導入できない中小企業に向けて、Oracleが提示した新たな選択肢とは。

2026年07月31日 05時00分 公開
[Eric AvidonTechTarget]

 企業がAIエージェントなどの高度なAI開発を進める中、大きな課題として浮上しているのがデータ管理にかかる「費用の高騰」だ。同時に、AIツールが広範なデータに自律アクセスするようになるにつれて、機密データを自社の手元にとどめなければならないという「データレジデンシー」(データの保管場所に関する規制)への懸念も強まっている。

 こうした課題に対処するため、Oracleは2026年7月に新たなAIデータベース「Oracle Base Database Cloud@Customer」を発表した。これは大規模向けデータベース「Oracle Exadata Cloud@Customer」を小型化した製品で、中小規模のデータ処理(ワークロード)向けに専用設計されている。ユーザー企業は、大規模処理に特化したデータベースの過剰な計算能力を利用せずに済む。

 以下では、Oracle Base Database Cloud@Customerがもたらす具体的な価値や競合他社との違いについて、専門家の評価を交えて詳しく解説する。

中小企業でも導入しやすい「ハイブリッド」という解

 Oracle Base Database Cloud@Customerは、クラウドサービスならではの利便性を保ちながら、ユーザー企業が自社データセンター(オンプレミスインフラ)などの希望する場所でデータを処理できる、ハイブリッド型の設計を採用している。

 従来のデータ分析や機械学習と異なり、高度なベクトル処理や計算資源を要するAIツールの開発が急速に進む中、データ管理にかかる費用は上昇傾向にある。一方で、複数地域にまたがって自律的にデータにアクセスし、複製するAIエージェントを企業が構築するにつれ、データレジデンシーへの懸念も強まっている。

 調査会社Constellation Researchのアナリスト、ホルガー・ミュラー氏によれば、Oracle Base Database Cloud@Customerはこの2つの課題を同時に解決する。そのため、既存の「Oracle AI Database」ユーザーだけではなく、巨大な計算能力を必要としない新規ユーザーにとっても価値ある選択肢となる。

 「Oracle Base Database Cloud@Customerは、複雑さを抑えたOracle Databaseを動かすための重要な一歩だ。オンプレミスでAIシステムを運用したい企業や、シンプルさを求める中小企業に恩恵をもたらす」とミュラー氏は評価する。

 TechTargetのリサーチ部門である調査会社Omdiaのアナリスト、スティーブン・カタンザノ氏も、Oracle Base Database Cloud@Customerの価値に注目している。「これまで手頃なハイブリッドクラウドの選択肢がなかった中小規模のデータ処理にまで、クラウドサービスの運用モデルを広げる製品だ」と同氏は語る。

 カタンザノ氏によると、これまではデータ保管の厳しい規則があったり、遠隔地で遅延に敏感なアプリケーションを運用したりする企業は、従来のオンプレミスシステムを利用するか、あるいは必要以上に高性能で高額なOracle Exadata Cloud@Customerのようなデータベースを導入するしかなかった。

 「データを手元に置きつつ、自動化や従量課金の利点を得たい小規模企業や遠隔拠点にとって、ハイブリッドクラウドを普及させる重要な役割を担う」とカタンザノ氏は語る。

ユーザー企業のニーズへの対処

 企業がAI開発への投資を増やし、業務のクラウド移行を進める中、費用管理は絶えず懸念事項となっている。調査会社Gartnerによれば、AI開発の費用負担が足かせとなり、企業のシステム構築能力が制限される事例も見受けられる。

 この状況を受け、一部のデータ管理ベンダーは性能の向上や新しい料金体系を導入し、ユーザー企業の出費抑制を支援し始めている。

 Amazon Web Services(AWS)は2025年12月、ベクトルデータの保存と検索にかかる費用を削減する新たなデータベース料金と機能を発表した。Aerospike、Neo4j、Oracle、SingleStoreなどのベンダーも同様に、処理効率を高めるために自社製品の性能を向上させている。

 Oracleのデータベース製品管理担当シニアバイスプレジデントであるアシッシュ・レイ氏によれば、同社は顧客の要望に応える形でさらなる費用の抑制に取り組んでいる。「大規模な処理をOracle Exadata Cloud@Customerに依存しているユーザー企業は、地方拠点のために、より小型の製品を求めていた」と同氏は説明する。

 データレジデンシーに対する懸念の高まりも新製品開発の要因になったという。レイ氏は、「規制に悩まされている企業は、任意の場所で社内AIシステムを展開できるよう、クラウドサービスと同等の管理画面や高効率なストレージ技術を必要としている」と語る。

 Oracle Base Database Cloud@Customerは、AIデータベースとハイブリッドクラウドツールを組み合わせたものだ。シンプルな価格モデルでアクセスできる管理型ハイブリッドクラウドインフラ「Oracle Data Infrastructure Cloud@Customer X11」上で稼働する。このインフラには2台のサーバが含まれており、予期しない停電や計画的なメンテナンスが発生してもワークロードの実行を継続できる。

 Oracle Base Database Cloud@Customerは他のOracle製品のAI機能と同じインフラで稼働するため、「Oracle AI Database 26ai」や「Oracle Database 19c」と組み合わせて使用できる。以下のAI開発ツールとも併用可能だ。

  • Oracle AI Vector Search
    • 構造化データと非構造化データの両方をAI用に運用可能にする機能
  • Oracle AI Database Private Agent Factory
    • 自律型AIエージェントを簡単に構築、展開できる機能
  • Oracle Private AI Services Container
    • データを隔離し、データレジデンシー要件を順守する機能

 その結果、Oracle Base Database Cloud@Customerユーザーは自社の管理下で、AIエージェントの処理を安全に展開できるようになる。

 「自社のファイアウォール内の同一ハードウェアで、データベースやアプリケーション、AIエージェントを動かせる。機密データを外部に送信できない企業の要求を満たす仕様だ」とカタンザノ氏は評価する。

 ISG(Information Services Group) Software Researchのアナリスト、マット・アスレット氏も同様に、Oracle Base Database Cloud@Customerの利点は費用やデータレジデンシーの解決にとどまらないと指摘する。むしろ、ユーザー企業が自社の業務規模に適したデータベースを選ぶ際、新たな選択肢を得られる点にあるという。

 「ハイブリッドクラウドでデータやAIワークロードを扱う企業は、『Oracle Autonomous Database on Exadata Cloud@Customer』のような大規模システムをわざわざ契約する必要がなくなり、選択肢の幅が広がる」とアスレット氏は語る。

市場をけん引するOracleのアプローチ

 ミュラー氏は、Oracle Base Database Cloud@CustomerはOracleの革新性を示す証拠でもあるとの見解を示す。

 MicrosoftやIBMなどの競合他社もオンプレミス用データベース製品を提供している。しかし、それらは大規模処理向けに設計されており、本製品のような「高性能システムを中小規模向けに最適化したパッケージ」とは性質が異なる。ミュラー氏はOracleの優位性を強調し、「自律型データベースの分野で先行してきた同社は、依然として市場をけん引している」と評価する。

 カタンザノ氏も、Oracle Base Database Cloud@Customerが他のデータベースとは異なると指摘する。Microsoftの「Microsoft Azure SQL」やAWSの「Amazon Relational Database Service」(Amazon RDS)など、他社もハイブリッドクラウドデータベースを提供しているが、Oracleはインフラ、データベース、AI機能を「1つのパッケージ」としてオンプレミスで稼働する製品として提供できる点で特異な存在だという。

 「クラウド専業ベンダーと従来型データベースベンダーに市場が二分される中、Oracleは現実の制約を考慮しつつ、クラウドの利点も提供する独自の立ち位置を確立している」(カタンザノ氏)

 アスレット氏によれば、2026年現在、AIベンダーは多様な導入方法を用意し、データ保管要件を満たそうとしている。それでもなお、Oracleはハードウェアとソフトウェアを密接に連携させるアプローチで他社との違いを際立たせているという。

 「AIシステムとデータのインフラを一元化する投資によって、あらゆる要件を満たしている。ソフトウェア単体を提供する競合他社に対し、Oracleは独自の強みを持っている」(アスレット氏)

今後の展望

 レイ氏によれば、Oracleが2026年下半期(7〜12月)に向けたAIデータベース戦略を策定する上では、データセキュリティが重要課題になっている。自律的なAIエージェントは、攻撃者が従来よりも飛躍的な速度で脆弱(ぜいじゃく)性を発見し、攻撃を自動化する手段にもなり得るからだ。AIエージェントは人よりも高速かつ広範にデータにアクセスできるため、新たなセキュリティの隙間を生み出す危険性さえある。

 「AI技術の進化によって強固なセキュリティが不可欠になる中、Oracleはデータの発生源から保護を徹底し、障害に耐え得る復元力でデータを守る支援に注力している」とレイ氏は話す。

 一方でミュラー氏は、しばしばトランザクションデータベースと併用されるデータレイクハウス「Oracle AI Data Lakehouse」において、ベクトル埋め込み(Vector Embedding)機能を改善するOracleの方針は賢明だと指摘する。同氏によれば、技術自体は目新しいものではないが、Oracleはこれまでベクトル埋め込み機能について目立ったアピールをしてこなかったからだ。

 カタンザノ氏は、Oracle AI Database Private Agent Factoryにおいて、業界特化型の開発テンプレートや事前構築済みAIエージェントの拡充も提案している。これによって、ユーザー企業は早期に投資対効果を出しやすくなる。

 「複数拠点にまたがるシステムを、中央から一括管理する機能も求められる。次の普及の波は、導入効果が現れるまでの時間短縮と、運用負担の軽減からもたらされるはずだ」(カタンザノ氏)

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