なぜOracleは「自社クラウドへの誘導」を捨ててAWSと手を組んだのか“宿敵”と手を組んだ狙い

Oracleは自社のクラウドコンピューティングサービスであるOCIへの移行を推進してきたが、AWS社との提携を発表し、「AWSでOracleデータベースを稼働させる」サービスを打ち出した。その狙いとは。

2025年09月04日 05時00分 公開
[Shane SniderTechTarget]

 OracleとAmazon Web Services(AWS)社は2025年7月、Oracleのデータベースサービスを共同で提供するパートナーシップを発表した。まずは米国のオレゴン州とバージニア州北部でサービスを開始し、順次提供地域を拡大する計画だ。

 今回提供が始まった「Oracle Database@AWS」では、AWSのデータセンターで稼働するクラウドコンピューティングサービス「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)で、「Oracle Exadata Database Service」「Oracle Autonomous Database」といったデータベースを利用できる。これによって、OracleのデータベースツールとAWSの分析ツール「AWS Analytics」のデータ連携が容易になる。両社はこの提携によって、AWSでOracleデータベースを運用する際の選択肢が広がると説明している。

「囲い込み戦略」を終わらせるのはなぜか

 今回の提携は、Oracleがクラウドサービス事業への転換戦略の一環として進めている、大手クラウドベンダーとの連携拡大に向けた取り組みだ。Oracleの2025年度第4四半期(3〜5月)の決算報告によると、クラウドインフラ事業の売上高は2024年同期(2024年3〜5月)比で52%増加した。特にAWS社、Google、Microsoftのクラウドサービスを通じたマルチクラウドデータベースの売上高は、前四半期(2024年12月〜2025年2月)比で115%という驚異的な伸びを記録している。資産運用会社Fidelity Investments、金融機関Nationwide Building Society、分析ツールベンダーSAS Instituteなどが初期導入企業として名を連ねている。

 コンサルティング会社Moor Insights & Strategyでデータセンターアナリストを務めるマット・キンボール氏は、次のように分析する。「Oracleをデータ管理基盤として利用しつつ、AWSの分析サービスも活用している企業は多々ある。今回の提携は、そうした企業にOCIへの移行を強いるのではなく、既存のシステム構成でOracleのサービスを使えるようにするものだ」

 OracleのOCI部門でマルチクラウド事業のバイスプレジデントを務めるカンビズ・アギリ氏によると、Oracleは2025年7月から2027年1月ごろまでの間に、さらに20の地域でサービス提供を開始する計画だ。

 アギリ氏によれば、Oracleの目的はユーザー企業に多様な選択肢を提供することにある。同氏は、2024年12月に提供開始したOracle Database@AWSのプレビュー版を通じて、これまでクラウドサービスへの移行が難しかったシステムを移行できることが実証されたと説明する。

 「われわれのマルチクラウド戦略の核は、ユーザー企業がOCI、自社データセンター、パートナー企業のデータセンターなど、どこにおいてもわれわれの技術を利用でき、相互運用性を確保することにある」(アギリ氏)

 Oracle Database@AWSの提供をバージニア州北部とオレゴン州から開始することは、戦略的に理にかなっている。バージニア州アッシュバーンは世界有数のデータセンター集積地であり、オレゴン州にはMeta Platforms、Google、Amazon.comといった主要なITベンダーが大規模データセンターを構えているからだ。

 調査会社HyperFRAME ResearchのCEO兼アナリストであるスティーブン・ディケンズ氏は、Oracle Database@AWSが一部地域からサービスを展開することについて「序章に過ぎない」と指摘する。同氏は、Oracle Databaseの提供範囲が最終的には「世界中のあらゆるクラウドサービス、あらゆる地域」に拡大すると予測する。欧州連合(EU)の「一般データ保護規則」(GDPR)を考慮すると、次は欧州が有力な候補地になると同氏は見込む。中東や日本でのサービス展開が進むかどうかにも注目だという。

AI技術開発を支援するパートナーシップ

 Oracle Database@AWSユーザーは、AWS内のOCIで、テキストや画像などの非構造化データをベクトル化し、意味的な類似度で検索するベクトル検索機能を組み込んだ「Oracle Database 23ai」を利用できる。データの抽出、変換、読み込み(ETL)処理が不要になり、OracleのデータベースとAWSのサービス間でデータがスムーズに連携できる。これによって、企業は自社のデータをAWSの分析ツールやAI(人工知能)ツールと組み合わせて活用できるようになる。

 ディケンズ氏は、今回の提携が「データをAIモデルの稼働場所に移動させるべきか、あるいはAIモデルをデータの側で稼働させるべきか」という二者択一の問題を解消し得ると評価する。AWS内でOracleデータベースを運用できるようになることは、データの保管場所でAIモデルを稼働させるシステム構成の実現を意味し、費用や手間、セキュリティなどの課題を解消できるからだ。

 OCIユーザーは、管理ツール「AWSマネジメントコンソール」やCLI(コマンドラインインタフェース)、API(アプリケーションプログラミングインタフェース)、監視ツールといったAWSのツール群も使えるようになる。Oracle Database@AWSでは、以下をはじめOracleの各種アプリケーションも利用可能だ。

  • ERP(統合基幹業務システム)「Oracle E-Business Suite」
  • 人事管理ツール「PeopleSoft」
  • ERP「JD Edwards EnterpriseOne」
  • 経営管理ツール「Oracle Fusion Cloud Enterprise Performance Management」

 今回の提携によってOracleは、Oracle Databaseに最適化されたデータベースシステム「Oracle Exadata」を含むOCIのサービスを、パートナー企業のデータセンター内に直接展開する。データとデータベースが物理的に近くに配置されることによって、安全かつ低遅延なネットワークが実現する。「こうした接続性が、従来のマルチクラウドが抱える課題を解決し、『真のマルチクラウド』を実現する」とキンボール氏は評価する。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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