「日本のクラウドをガラパゴスにさせないために」(中編)
楽天のシステムを支える5つのベストプラクティス
「クラウドネットワークシンポジウム2011」リポートの中編。国内屈指のクラウドサービスIIJ GIOのプラットフォームサービスと、大量のトラフィックをノンストップで処理する楽天のシステムについて紹介する。
前編「日本のクラウド技術は世界に通用するのか? 日系クラウドの現状と課題」では、NTTコミュニケーションズと竹中パートナーズのクラウドコンピューティングへの取り組みや今後の課題をリポートした。中編では、インターネットイニシアティブ(IIJ)が進める「IIJ GIO」の取り組み、楽天を支えるインフラの現状と課題についてお伝えする。
外資系クラウドに挑むIIJ
IIJは1992年、日本企業で初めてインターネット接続の商用サービスを開始したインターネット接続専業の通信事業者である。個人向けインターネットサービス「IIJmio」などの提供でも有名だが、主力事業は企業向けインターネット接続など、大規模な企業向け通信インフラの提供だ。2000年からはクラウドに近いリソースオンデマンドを提供し、2010年にはクラウドサービスIIJ GIOの提供を開始した。
IIJ GIOでは、物理サーバ数千台という大規模サーバプール、高密度L2ネットワーク、数P(ペタ)バイトクラスの大規模ストレージプールといったクラウドリソースを所有し、IaaSの「コンポーネントサービス」、PaaSの「プラットフォームサービス」、SaaSの「アプリケーションサービス」といった3レイヤーを提供している。
コンポーネントサービスでは、サーバ、ストレージ、ネットワークなどをパーツとして準備し、ユーザーが自由に組み合わせて利用できる。プラットフォームサービスでは、主にホスティングサービスとストレージサービスを提供している。アプリケーションサービスでは、サイボウズと提携し「サイボウズ ガルーン」を提供している。
今回のセッションでは、“最もクラウドサービスらしい”という理由から、インターネットイニシアティブ サービス本部 プラットフォームサービス部 部長の立久井 正和氏が、プラットフォームサービスについて紹介した。
プラットフォームサービスの1つ目の特徴は手軽さだ。「ユーザーが手軽に運用できることに注力して作ったサービス」(立久井氏)で、柔軟性の高いコンポーネントサービスよりも(リソースの)粒度が大きいために自由度は低いが、即座に利用開始できる。
2つ目の特徴は低価格。「小規模Webサーバの増設も可能。最小スペックのサーバの場合、日単位133円で提供している。1時間当たりで換算すれば5円ちょっと。Amazon Web Servicesの東京リージョンと比較してもコストメリットがある。初期費用やネットワーク転送料などが掛からないため、仮想サーバ1台とインターネット接続がセットになった月額4000円の基本プランを利用するお客さまもたくさんいる」(立久井氏)
前編「日本のクラウド技術は世界に通用するのか? 日系クラウドの現状と課題」で竹中パートナーズの鈴木氏がクラウドの本質的な価値の1つとして挙げた“ユーザー主導”の観点では、ユーザーがWebで直接操作できるコントロールパネルを用意している。「プルダウンでサーバのスペックを選び、CPUやメモリの組み合わせを選んでオーダーすれば、サーバが数分で立ち上がる。また、サーバの運営にかかわる機能もユーザーが操作できる。例えば、いろいろなアプリケーションを動かしているうちにサーバ動かなくなってしまったときは、ログインができない状態でも再起動が可能。メニューの中には、使えなくなったサーバを初期化して初期出荷の状態に戻すことができる機能もある」(立久井氏)。追加契約や契約解除の他、契約マシンの起動/停止など、ユーザー主導の観点でもさまざまな機能を提供している。
IIJの今後の取り組みとしては、2011年4月に島根県松江市にコンテナ型のデータセンターを開設する予定だ。コンテナ型データセンターの特徴は2つ。1つ目は「IT機器とファシリティの融合」(立久井氏)。従来のビル型データセンターでは最初から広い面積の建物を用意しなければならず、ファシリティをIT機器のスペックに合わせて作り変えることが難しかった。しかし、コンテナ型データセンターでは、IT機器の量やスペックに応じてファシリティを変えていける。もう1つは「空調モジュール」(立久井氏)。外気冷却型の空調を取り入れているため、できるだけエアコンを動かさないで室温を維持できる。
何のためにコンテナ型のデータセンターを作るのか? 立久井氏は、「もっとデータセンターのコストを落としたい。ハードウェアのコストは安くなってきている一方で、正直、ファシリティのコストが全然下がっていない」と述べた。
国産クラウドのIIJ GIOは、こうした細かなプランや価格設定、低コストの追求、コントロールパネルによるユーザー主導の取り組みによって、外資系クラウドベンダーに対抗していく。
楽天を支えるインフラ
続いて、NTTコミュニケーションズ、竹中パートナーズ、IIJと、クラウドベンダー側とは打って変わり、ユーザーサイドからのクラウド利用と課題について、楽天 技術理事の吉岡弘隆氏が講演した。
楽天市場や楽天ブックスを始めとしたeコマース事業の他、クレジットカード、銀行、旅行販売、証券販売サービスなどを提供している楽天は、全サービスでIDとポイントを軸にしたエコシステムを構築している。その規模は極めて大きい。吉岡氏によると、「2010年12月時点では、楽天グループ全体で年間2兆6000億円の流通が発生した。2001年では500億円程度だった流通が、2007年で約1兆円。2001年と2010年を比較して10年間で約40倍に成長した」という。当然、システムへのトラフィックも大幅に増えた。
また、「楽天は現在6600万人のユーザーを抱え、楽天市場だけでも1日で数十億円の流通が派生している。仮に楽天市場のシステムが1時間止まれば、数億円の機会損失が発生する」(吉岡氏)。システムの維持が売り上げに直結するため、ノンストップで24時間365日稼働し続けることが楽天のシステム要件となる。
吉岡氏は、大量のトラフィックを処理しなければならないeコマースのようなインターネットサービスで、スケーラブルなシステムを構築するポイントを5つのベストプラクティスとして紹介。
- メインフレームではなく、コモディティサーバ(インテルのIAサーバを大量に使う)
- 商用ソフトウェアではなく、オープンソースソフトウェア(OSS)
- SAN/NASではなく、ローカルディスク(ないしはSSD)
- ウォーターフォール開発ではなく、アジャイル開発
- SIベンダーによる開発ではなく、自社開発
上記ベストプラクティスは、「全て後者に書かれている選択肢の方が、圧倒的にスケールし、素早く構築でき、何よりコストが安い。世界のeコマースのWebサイトは、恐らくほとんどがこのベストプラクティスを実行しているのではないだろうか」と吉岡氏は述べる。
例えば、「楽天では、Webサイト上にある2つのボタンのうち、どちらのコンバージョンレートが高いかなどを、2つの画面で比較することが日常茶飯事」(吉岡氏)。ユーザビリティのテストを頻繁に実施しながら開発を進めるのであれば、アジャイル開発の方が向いている。
また、吉岡氏は、OSSの積極的な活用がクラウドの標準化にもつながると指摘する。「弊社も利用しているキーバリュー型データストアやHadoopを始めとした大規模分散処理などはOSS。こういった技術がコモディティ化(標準化)されていくだろう」(吉岡氏)
吉岡氏は、企業の枠を超えたOSSコミュニティー活動にも注目している。「日本には、米Amazonや米GoogleのようなWeb 2.0の覇者はいないかもしれない。しかし、グリーやディー・エヌ・エー、ミクシィといった、毎日100万や1000万の大量トランザクションをさばき、数千台規模のサーバを日々自前で動かしている企業がある。こうした企業は、インターネットスケーラブルなシステムを運用するノウハウや技術を持っている。また、各社のエンジニアは、OSSのコミュニティーで非常に緩やかにつながり、価値観や技術を共有している。非常に面白いこと。エンジニアが企業に閉じこもっていてはいけない」と話した。
最後に、楽天のインフラにおける今後の課題を紹介した。「1つ目の課題は、システムのレガシー化。既存のレガシーシステムを止めずにいかにモダン化していくか。2つ目はスケーラビリティの向上。ユーザー数、楽天市場などの店舗数、トランザクション数が増加している。3つ目は、国際展開(M&A)によるフェデレーション型の統合。独立して存在するショッピングモールを統合する必要がある。4つ目は運用。日々の運用でどう価値を創造するか。試行錯誤しながら考えている」(吉岡氏)という。
後編では、引き続き「クラウドのガラパゴス化を避けるために」というテーマで行われたパネルディスカッションの模様をお伝えする。
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