どれを選ぶ? パブリッククラウド比較【第1回】
今さら聞けない! 各種クラウドサービスの違い
国内外ともに充実してきたクラウドサービス。その種類は幅広く多様だ。連載「どれを選ぶ? パブリッククラウド比較」第1回では、SaaS、PaaS、IaaS、HaaSといった各種サービスの違い、特徴をあらためて整理しよう。
今やITの重要性は非常に高くなり、利用しているネットワークの停止や情報の消失がそのまま企業の死に直結するようなケースも少なくない。また、東日本大震災の経験から、BCP(Business Continuity Plan)(参考:ユーザー企業調査が伝える「大震災後のIT投資動向」)の観点で、緊急時にも事業継続を維持するためには情報やネットワークの冗長化を図らなくてはならないという声をよく聞くようになった。クラウドコンピューティング(以下、クラウド)に関しても、情報やネットワークの冗長化、アウトソース化にまつわるキーワードとして、今やクラウド時代といわれるほどなじみのある単語となった。
今、世の中にはクラウド技術を利用したさまざまなクラウドサービスが溢れ返っており、それら全てがクラウドというキーワードの下に紹介されている。しかし、一言でクラウドと言っても、さまざまな企業・団体がクラウドサービスを提供しており、サービスの実態も多種多様である。そこで、連載の第1回では原点に立ち返り、「Everything as a Service」(もしくはXaaS)という表現によって提示されている多種多様なサービスの特徴や想定される用途をあらためて整理する。
クラウドの定義
さて、各種クラウドサービスの解説に入る前に、クラウドの定義について読者の皆さんと簡単に共有しておきたい。
クラウドは、特定のサービスやシステムを指す言葉ではない。米国国立標準技術研究所(NIST)の定義「Cloud Computing」を基に、誤解を恐れずに言い換えると、ソフトウェアやデータベースサーバ、Webサーバといった複数の機器を個別に設定・使用(遠隔操作含む)するというこれまでの利用法から一歩進んで、ユーザーが機器の存在を意識せずにサービスを利用できるようにした仕組みのことである。
クラウドの定義に関する記事
読者の皆さんもご存じのように、クラウドには仮想化技術が大きな役割を果たしている。仮想化技術は、複数のPCやサーバをまとめて1台の高性能な機器として使ったり、1台の高性能なPCやサーバを複数の別々な機器として使ったり、機器の実態をあまり意識せずにシステム全体を効率的に運用することを可能にした技術である(参考:サーバ仮想化の基礎を知る3つのホワイトペーパー)。
これまでは一般的に、Webサーバやストレージサーバ、データベースサーバ、グループウェアサーバなど、用途ごとにそれぞれ専用のサーバを運用していた。従って、用途の異なる機器同士に冗長性は持たせられず、それぞれの機器が不調になれば修理もしくは買い替え、冗長化のためのミラーサーバやバックアップ用サーバもそれぞれに用意するといった対策が講じられてきた。だが、仮想化技術の登場によって、さまざまな機器が物理的な垣根を越えて運用される「ごった煮」状態が可能になった。仮に1台のサーバが故障しても、残りのサーバで全てのタスクをまかなうことが可能だ。システムがダウンしにくくなり、通常は運用していないバックアップ用の機器を削減できるといったメリットも生まれた。
だが、もちろん仮想化にも弱点はある。例えば、仮想化基盤を支える運用管理などのミドルウェアが障害を起こした場合には、影響範囲が非常に大きい。絶対安全で完璧なサービスなどはなく、提供者の信頼性がクオリティに大きく影響することは全てにおいて共通だ。
この仮想化同様、クラウドも「機器の塊」を少しずつ多数の人に、もしくは超高性能な1台の機器を少人数に利用してもらうサービスだといえる。
「どういった相手に、どういう利用を想定して、どういう形で提供するか」という点が、冒頭で述べたEverything as a Service(=多種多様なサービス)では重要だ。
Everything as a Serviceは、
- SaaS(Software as a Service)
- PaaS(Platform as a Service)
- CaaS(Computing as a Service)
- IaaS(Infrastructure as a Service)
- HaaS(Hardware as a Service)
などの総称である。本稿ではクラウドで提供されるサービス形態を、主にSaaS、PaaS、IaaS、HaaSの4種類とし、以降それぞれについて整理していく。
ASPよりも可用性が高いSaaS
SaaSを直訳すれば「サービスとしてのソフトウェア」となる。インターネット越しに電子メール、グループウェア、Officeソフトなどのさまざまなツール(ソフトウェア)を利用できるサービスだ。セールスフォース・ドットコムのSalesforce CRM(参考:社内外コラボレーションを促進する3つのForce.comアプリケーション)、マイクロソフトのMicrosoft Online Services、グーグルのGoogle Apps(参考:Google Apps for Businessのコストと機能、そして気になるセキュリティ)などが有名だろう。最近流行のEvernoteやDropboxといったストレージサービスもSaaSに当たる。SaaSは提供されるサービスの用途が非常に明確で、利用イメージが浮かびやすいという点も手伝ってか、クラウドサービスでは認知度、普及度が最も高い。
ユーザー的には、SaaSとほぼ同様に見えるサービスに、クラウド普及以前からあるASP(Application Service Provider)がある。基本的な両者の違いは提供形態だ。クラウド上でサービスを提供するSaaSは、サービス単体で見れば、先の仮想化技術の解説で触れたように、原則的には専用機器で運用されるASPよりも機器のトラブルでダウンしにくいというメリットがある。
また、ホスティングサービスやアウトソーシングサービスといった類似サービスもある。これらはユーザーがインターネット越しに利用し、利用料を支払う点では同じだが、ソフトウェアやハードウェアを購入し、それをインターネット越しに利用するというものだ。
SaaSの発展型サービスであるPaaS
PaaSは、自分で使いたいアプリケーション(ソフトウェア)を動かすプラットフォームとなるインフラや開発ツール、運用環境などをインターネット越しに利用するサービスである。マイクロソフトのWindows Azureが有名だ。SaaSのような既製品のアプリケーション(ソフトウェア)を利用する手段から一歩進んで、自分のオリジナルソフトウェアを稼働させるためのサービスであり、SaaSの発展型サービスともいわれる。
現状の主なユーザー層は、大きな処理能力を持つ環境を一時的に使って開発やテストを実施したい企業や、自社で運用中のアプリケーションの負荷を、ピーク時に一時的に分散したい企業といったところだろう。インターネット上でかなり重要な情報を含有するアプリケーションを運用することになるため、一時的だったり緊急避難的な使われ方が現状では主流になっている。使用するPaaSの信頼性やメリット/デメリットをよく比較検討した上で利用の仕方を決定することが肝心だろう。
ユーザーの自由度が最も高いIaaS
IaaSはPaaS以上に柔軟な運用が可能なサービス形態であり、平たくいえば、サーバ、さらにはデータセンターを借りてインターネット越しに利用するサービスだ。
以前からあるレンタルサーバと似ているが、台数設定の自由度の面で大きく異なる。Amazon EC2(サーバの提供)やS3(ストレージの提供)が有名だろう。国内でもIaaSを提供している大手企業が複数ある。
HaaSとの違いは、HaaSは機器のみの提供で、OSなど実際に運用で必要な利用環境は自前で調達して構築しなくてはならない点といわれる。だが現状は、実際に利用する環境部分もケアしてくれるサービス提供が標準化されているため、基本的にHaaS=IaaSと捉えても問題ないと考えている。
IaaSの利用に当たっては、自前で利用環境の全てを構築する必要がある一方で、最もユーザーの自由度が高く、使い勝手の良いサービスともいえる。
Amazon S3のようなシンプルなストレージの提供においては、用途として一時的なデータ保管など手軽な利用形態も想定されるが、原則的には保管したデータ、ファイルに関するセキュリティは自前で管理する必要があり、利用には注意が求められるだろう。
クラウド、特にPaaSやIaaSの登場は、これまで自前で購入し管理運用(ものによってはASPを利用)しなくてはならなかった世界を変え、コストや時間、費やす労力の負荷を軽減できる可能性を与えてくれた。もちろん先にも述べたように「クラウドだから絶対○○」というわけではなく、他のさまざまな商品やサービスと同様に、品質やコスト、内容をよく吟味して選択する必要があるのは当然だ。だが、これまでやりたくてもできなかったことに「できるかもしれない」という選択肢を与えてくれたことには間違いない。
中山貴禎(なかやま たかよし)
ネットエージェント 取締役
主にコンシューマ市場を中心にさまざまな業界を渡り歩き、2008年ネットエージェント入社、2010年より現職。ジェネラリストとして各種企画および技術部門を統括。また、機密情報の外部流出対策製品のプロダクトマネジャーも兼務し、自ら知財も取得するなど活動範囲は広い。
執筆・講演活動では、広く一般の方々に向け、誰もがITや情報セキュリティなどの最も肝心な部分をきちんと理解でき、普段の生活に生かせるような解説方法を模索中。
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どれを選ぶ? パブリッククラウド比較
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