オープンクラウドの潮流【第2回】
【技術動向】主要PaaSの動きが一気に分かる、林 雅之のOpen PaaSリポート
IaaSのコモディティー化が進み、PaaS市場が活況を帯び始めている。今後、Windows Azureに代表される「Proprietary PaaS」に加え、「Open PaaS」の流れが進むだろう。
※ 本連載は、『オープンクラウド入門 CloudStack、OpenStack、OpenFlow、激化するクラウドの覇権争い』のダイジェスト版として、2回にわたってオープンクラウドの技術動向をお伝えします。
成長するPaaS市場
各事業者からIaaSレイヤーのパブリッククラウドサービスが提供され、価格競争による低価格化とコモディティー化が急速に進んでいる。IaaSレイヤーにおいては、Amazon Web Services(AWS)や、第1回「【技術動向】中立性を保つOpenStackと商用実績のCloudStack」で紹介したOpenStackやCloudSackといったオープンソースのクラウド基盤ソフトウェアを採用するサービス事業者が増加傾向にあり、IaaSレイヤーは汎用的なITインフラとなりつつある。そのため、サービスの差別化が困難な状況になりつつあり、今後のクラウドサービスの主戦場はPaaSレイヤーに次第にシフトしていくことが予想される。
調査会社の米Gartnerが2012年11月19日に公表したリポートでは、PaaSへの支出は2013年に15億ドル、2016年までには29億ドルに達すると予測している(関連記事:【市場動向】2012年はPaaS元年にならず、市場拡大は2014年以降か?)。現状のPaaSでは、各社がMFT(Managed File Transfer)、DBMS、メッセージング、アプリケーションサーバ、データ統合、B2B統合、BPM(Business Process Management)技術といった個々の機能を提供している。そのため、ユーザーとサービス提供事業者が複数の機能を連携させていく必要があり、PaaSコンポーネントはスイート製品へと「急速に集約」されるという。
Proprietary PaaSとOpen PaaS
代表的なPaaSは、米Salesforce.comが提供する「Force.com」や米Googleの「Google App Engine」、米Microsoftの「Windows Azure」などがあり、ユーザーの採用実績も多く、PaaS市場のシェア上位を占めている。これらの共通点は、最初からPaaS特化型のサービスとして提供し、導入実績も豊富な点である。また、開発言語や開発フレームワークは独自性が高いため、IaaSレイヤーを公開せずにPaaSレイヤーと一体で提供しているケースが多い点も特徴だ。データベースとミドルウェアをセットで提供している例もあるなど、これらのサービスは完成度の高い垂直統合型モデルとなっている。
IaaSレイヤーを公開しないProprietary PaaSに対して、バックエンドでAWSなどのIaaSを利用し、自社独自のPaaSとして提供する事業者も多い。AWSは、Amazon EC2上のみで動作するPaaS「Amazon Elastic Beanstalk」をβ版として無償で提供している。AWSは2012年5月9日、それまでOSはLinux、開発言語はJavaとPHPのみの対応だったが、OSはMicrosoftのWindows Server、開発言語は.NET Frameworkにも対応した。さらに2012年8月にはPython、2012年11月にはRubyにも対応するなど、競合他社のOSや複数の言語を取り込み、PaaSレイヤーにおいてもサービスの拡充を図っている。
Salesforce.comの「Heroku」は、RubyによるWebアプリケーションフレームワーク「Ruby on Rails」を使ったPaaSで、買収当時はRuby専用のPaaSだったが、Javaなど多言語への対応を進めている。バックエンドのIaaSにはAmazon EC2を利用している。
その他にも、2011年6月に正式サービスを開始し複数のプログラミング言語やデータベースをサポートする「DotCloud」、2012年3月に日本法人を設立し2012年9月から日本でのサービス提供を本格化している、Ruby、PHP、Node.jsに対応した「Engine Yard」などがある。Oracleは2012年11月に、Engine Yardに戦略的出資をすることを発表。Oracle CloudではPaaSとしてJava/Java EEの言語に対応していることから、Oracle CloudとEngine YardのPaaSをどう融合させていくかに注目が集まっている。
なお、Amazon Elastic Beanstalk、Heroku、Engine Yard、国内事業者ではTISの「eXcale」(β版)が、いずれもバックエンドでAmazon EC2を採用している。
クラウドのオープン化を後押しするOpen PaaS
一方、2011年に入ってから、米VMwareが提供する「Cloud Foundry」や米Red Hatが提供する「OpenShift」など、IaaS上に構築されるインストーラブルなオープンソースのPaaS基盤ソフトウェアが台頭しており、Windows Azureなど垂直統合型のProprietary PaaSに対して「Open PaaS」と呼ばれている(関連記事:オープンソースのPaaSはなぜ注目されるのか ~Open PaaSの魅力と課題)。
Open PaaSは、Amazon EC2やOpenStack、CloudStackなどのIaaSレイヤーとは独立して機能し、Ruby、Java、Python、PHPなど複数の開発言語、Ruby on Rails、Sinatra、Spring Framework、Node.js、Eclipseなどのオープン標準に準じた開発フレームワーク、MySQL、PostgreSQL、MongoDBなどの複数のデータベースに対応している。開発者はこれらの言語で開発したアプリケーションを、簡単にアップロードしてアプリを動作させ、負荷に応じてオートスケールさせることができる。
Cloud Foundry
Cloud Foundryは、Rubyで実装されたオープンソースのPaaSソフトウェア(ライセンスはApache License, Version 2.0)で、VMwareのOpen PaaS戦略に基づいて2011年4月に発表された(関連記事:.NET環境も構築できる、Cloud Foundry4つの強み)。VMwareが買収したSpringSourceのJavaプラットフォーム「SpringSource Cloud Foundry」がベースになっている。
また、VMwareとその親会社の米EMCは2012年12月4日、PaaSとビッグデータ領域にフォーカスした新組織「Pivotal Initiative」を発表した。この組織には、EMCのビッグデータ関連ソリューションやCloud Foundryが含まれている。両社の技術や人的リソースを結集させることで、PaaSとビッグデータ市場におけるイニシアチブを図っている。
OpenShift
OpenShiftは、Red Hatが2010年11月に買収したクラウド配信・管理・監視ツールのMakaraがベースである(関連記事:注目のPaaSを一挙に紹介! ~Cloud Foundry、OpenShift、Herokuなど)。Red Hatが持つJBossをアプリケーションサーバに内包しているため、開発言語としてJava EE 6に対応しているのが大きな特徴である。2012年4月30日に、Apache License, Version 2.0でソースを公開している。複数の開発言語、開発フレームワーク、データベースに対応しており、コマンドラインとWebインタフェースを利用して容易に利用や管理ができる。OpenShiftは、Linuxディストリビューションとして自社開発ツールやPaaS連携の付加サービスが追加されるなど、エンタープライズ分野での利用に向けたサービス拡充が期待されている。
Red Hatは2012年11月27日に、エンタープライズ向けのPaaS「OpenShift Enterprise」を米国など向けに提供することを発表し、業界初の包括的なオープンオンプレミス型エンタープライズ向けPaaSとして訴求している。OpenShift Enterpriseは、「Red Hat Enterprise Linux」「JBoss Enterprise Application Platform」などRed Hatのオープンソース技術を基盤として構築され、JBoss Enterprise Application Platform 6の採用により、業界で唯一Java EE 6の認定を受けたエンタープライズ向けPaaSとなる。
Cloud FoundryとOpenShiftの比較については、「【徹底比較】2大Open Paas、Cloud FoundryとOpenShiftの強み/弱み」を参照してほしい。
Open PaaSにおけるコミュニティーとエコシステム
Open PaaSにおいては、Cloud Foundryのソースの提供が2011年4月から、OpenShiftのソース公開は2012年4月からと歴史が浅いため、コミュニティーによる機能の改善や、エコシステムの展開が急速に進んでいる状況だ。
2012年2月25日には、NTTとNTTコミュニケーションズが発起人となり、楽天(関連記事:楽天がプライベートPaaSを構築――「Cloud Foundry」を選んだ4つの理由)、VMware、富士通SSL、NECソフトなどによる開発コミュニティー「日本Cloud Foundryグループ」が設立された。Cloud Foundryに関する日本語の情報共有や議論の場を設け、Cloud Foundryの普及促進を図っている。
Cloud Foundryでは、対応するプログラミング言語や開発フレームワーク、データベースを特定し、特定の業界・分野向けに付加機能を提供するなど、既存サービス事業者との差異化を図るサービスも登場している。例えばIronfoundryは、Cloud Foundryをベースに.NET FrameworkベースのパブリックPaaSを提供するといったように、Cloud Foundryをコアにさまざまなサービスも登場している。
OpenStackなどとの連携も進んでいる。米国では、2012年4月にOpenStackプロジェクトに参加しOpenStackベースのIaaSを提供する米Piston Cloud Computingが、Cloud Foundryを稼働させるためのパートナーシップをVMwareと締結。将来的にOpenStackでVMwareベースのプロジェクトをサポートすることを発表している。
さらに、Cloud FoundryをベースにPaaSを展開するクラウド事業者向けに、アプリケーションのポータビリティ性を試験するツール「Cloud Foundry Core」も公開している。
また、米Dellは2012年12月13日にOpenStackを採用したパブリッククラウド、プライベートクラウドのプレビュー版に加えて、Cloud Foundryを採用した「Project Fast PaaS」のプレビュー版を発表している。
一方、Apache Software FoundationのCloudStackのコミュニティーでは、さまざまなレイヤーとの連携について情報共有が行われており、PaaSレイヤーでは、Cloud Foundryなどとの情報共有が行われている。
VMwareはCloud Foundryの発表から1周年を迎えた2012年4月に新たなエコシステムの提供を発表している。コミュニティー向けのソースコード提供の簡素化などを実現する新ソースコード管理システム「CloudFoundry.org」を導入することで開発コミュニティーの幅広い参加を促している。
また、「Cloud Foundry BOSH」というツールを発表した。これは、VMware vSphereおよびAWS、OpenStackのIaaS上でのCloud Foundryの構築、展開、ライフサイクルマネジメントが行える。
一方、OpenShiftを提供するRed Hatは、オープンソースのLinuxとともに事業を展開してきたため、オープンソースコミュニティーとは長い関わりがあることが大きな強みだ。今後、PaaSレイヤーにおいても多数存在するRHEL(Red Hat Enterprise Linux)技術者のユーザー資源を生かし、コミュニティーを展開させ、PaaSレイヤーのエコシステムを拡大させていくと予想される。
Red Hatは、2012年11月27日のOpenShift Enterpriseに合わせてパートナープログラムを発表し、OpenStackのサポートも計画しているという。
Open PaaSを採用したクラウドサービスも国内に登場、レイヤー横断のオープンクラウドが始まる
国内においてもOpen PaaSを採用したクラウドサービスが登場している。NTTコミュニケーションズは2012年12月3日、Cloud Foundryを採用した「Bizホスティング Cloudn PaaS」の企業向けの提供を開始し、2013年3月末にはオンライン申し込みを受け付けるなど本格的な提供を開始する予定だ。「Bizホスティング Cloudn」のComputeでは、CloudStackを採用。IaaSとPaaSでオープンソースのクラウド基盤ソフトウェアを採用するなど、オープンクラウドへの展開を進めている。今後はこうしたオープンクラウドの流れも加速していくことが予想される。
林 雅之(はやし まさゆき)
国際大学GLOCOM客員研究員
2007年より主に政府のクラウド関連プロジェクトや情報通信政策の調査分析、中堅企業のクラウド案件等を担当。
2011年6月よりクラウドサービスの開発企画やマーケティング等を担当。
国際大学GLOCOM客員研究員、社団法人クラウド利用促進機構(CUPA) アドバイザー。オープンクラウド実証実験タスクフォース OpenPaaS研究会チェア。
※ 本連載は、『オープンクラウド入門 CloudStack、OpenStack、OpenFlow、激化するクラウドの覇権争い』のダイジェスト版として、2回にわたってオープンクラウドの技術動向をお伝えします。
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