オープンソースPaaS基盤ソフトウェア活用事例
楽天がプライベートPaaSを構築――「Cloud Foundry」を選んだ4つの理由
「世界市場で勝つには技術力も必要」という思想の下、内製主義にこだわる楽天。同社はオープンソースのPaaS基盤ソフト「Cloud Foundry」のカーネルで、自前の“プライベートPaaS”を構築。その取り組みを紹介した。
楽天はオープンソースのPaaS基盤ソフトウェア「Cloud Foundry」を採用し、プライベートクラウドでPaaS(以下、プライベートPaaS)を開発。拡大する“楽天経済圏”のサービス基盤とする考えだ。ヴイエムウェアが2011年11月に開催したカンファレンス「vForum 2011」において、楽天・Development Unitグループインフラ構築・運用課長の葉山 剛氏が明らかにした。
2010年後半からプライベートIaaSを運用
楽天のビジネスは、もはや社会インフラの一部といえるだろう。同社が国内で手掛ける商品、サービス流通の総額は2010年で約2.6兆円(うち電子商取引と旅行仲介で約1.4兆円)、2011年は3兆円超えが確実視されている。また、“世界一のインターネット企業”というビジョンを目指し、急ピッチで海外展開を進めており、現在はアジア、欧米で11のサービスサイトを立ち上げている(海外流通総額は2010年度で670億円)。
この楽天のビジネスを支えているのがITだ。変化とスピードが命となるネット業界だからこそ“内製主義”にこだわり、国内に1000人強のITエンジニアを擁する。開発プロジェクトは数日単位の短いもので年間数千件以上、月単位の長いもので年間1000件以上をこなしているという。ITインフラの中心は廉価なIAサーバで、1万台近くに達する(関連記事:楽天のシステムを支える5つのベストプラクティス)。
そのため当然、サーバ構築の効率化やサーバ統合が大きな課題となる。その対策として、2007年にXenServerを使ってサーバ仮想化の技術検証を始め、2008年から開発環境、新規サービス、主要サービスと適用範囲を広げ、2010年後半にIaaS(Infrastructure as a Service)型のプライベートクラウドへと発展させた。
楽天の葉山 剛氏は「自社内やグループ内にITリソースを提供するプライベートなIaaS(プライベートIaaS)と違い、楽天では外向けの商用サービスにも利用している。現状、仮想マシンの数は1000台を超え、全サーバの約1割を占めている。IaaSによって物理環境だと1カ月ほどかかるサーバ構築のリードタイムは縮まり、ハードウェア集約によるコスト削減効果も得られている」と語った。
IaaSをPaaSに発展させ開発効率上げる
だが、楽天は現状に満足しているわけではない。2012年から導入するプライベートPaaSの開発を着々と進めている。その理由を葉山氏は次のように話す。
「IaaSを運用する中で課題が見えてきた。物理サーバの構成をそのままハイパーバイザー上に展開しているため、結局、OS、ミドルウェア、アプリケーションの個別管理は変わらず、アプリケーションエンジニアとインフラエンジニアの間で調整しなければならない。これが開発のリードタイムを伸ばす原因になっている(図1)。さらに、高いレベルで開発効率を上げる、リソース変更へ柔軟に対応する、システムの標準化を進めるには、プライベートPaaSが必要という結論に至った」
楽天がプライベートクラウドにこだわるのには、2つの理由があるという。1つは楽天にとって最重要資産である個人情報の問題。いくらパブリッククラウドのセキュリティが向上しているといっても、最重要資産を他社に預けることにはリスクがある。もう1つはインフラ技術を内部に保持し続けること。「世界市場で勝つには自前の技術力が必要。その技術のコアとしてクラウドがある」(葉山氏)。もちろん、パブリッククラウドを使わないという意味ではなく、必要であれば使う。使い分けが重要ということだ。
プライベートクラウドに関する記事
Cloud Foundryを選んだ4つの理由
パブリックにはない固有機能を盛り込んだプライベートPaaSを構築するため、楽天が選んだのがヴイエムウェアのオープンソースベースのPaaS基盤ソフトウェア「Cloud Foundry」だ。
2011年4月に発表されたCloud Foundryは、ヴイエムウェア自身がパブリックPaaSで利用する他、オープンソースとして公開。同社以外の企業がプライベート/パブリックで利用できる。また、「Spring Framework」「Ruby on Rails」などさまざまなアプリケーション開発フレームワーク、「MySQL」「MongoDB」「Redis」などのオープンソースデータベースに対応する。
Cloud Foundryをベースに開発中の楽天のプライベートPaaSは現状、図2のようなアーキテクチャになっている。Cloud Foundryの周辺に楽天が独自に開発している「DBaaS(Database as a Service)」「Rukuten AIP Service」などのツールが配置されているのが分かる。
葉山氏は、楽天がCloud Foundryを選んだ理由として、
(1)オープンソース
(2)IaaSとの完全分離
(3)拡張性の高いアーキテクチャ
(4)対応開発言語の多さ
の4点を挙げた。
(1)オープンソース
オープンソースは開発の自由度を得るためだ。「オープンソースなら自分たちでコントロールできる。他社のPaaSソリューションでは製品に合わせなければならないが、Cloud Foundryの場合、(開発部隊が得意とする)アプリケーションフレームワークを駆使し、自分たちが望むサービス基盤を作れる」(葉山氏)。技術力が高いからこそ可能な選択だ。
(2)IaaSとの完全分離
Cloud FoundryはIaaSレイヤーを自由に選択できる。Cloud Foundry本体の「CF Kernel」は、IaaS上に実装される中間層「Orchesrator」によって、IaaSとは疎結合となる。そのため、仮想サーバがVMwaer vSphereに限定されず、XenServerやKVMも使える他、IaaSだけ外部サービスを利用するという手もある。つまり、ベンダーロックインを防げるわけだ。実際、楽天が開発中のプライベートPaaSでも、「VMware vSphere以外のIaaS上にCloud Foundryの検証環境を作り、本格稼働させる際にVMware vSphereへ移行する計画」(同氏)という。
(3)拡張性の高いアーキテクチャ
CF Kernelが分離されているため、機能やサービスを追加しやすい。「楽天が持つ周辺システムやデータベースをサービスとしてプライベートPaaSと連携させられる。楽天APIを活用した新しいサービスの基盤となり得る」(同氏)。
(4)対応開発言語の多さ
Cloud Foundryはリリース当初、Java、Node.js、Rubyに対応していたが、すぐPHP、Pythonが追加された。楽天は主にJava、PHP、Rubyでアプリケーションを開発しており、PHPの追加は大きかった。葉山氏は「ヴイエムウェアが推進する“Open PaaS”戦略の下、進化し続けるのがCloud Foundryの良さ。これを活用してアプリケーションのモビリティを高めたい」と述べる。
投資する価値のある発展途上の基盤
このようにCloud Foundryは数々の利点を持つPaaS基盤だが、取り扱いのハードルは高い。葉山氏がこう話す。「Cloud Foundryは、まだまだ発展途上のプラットフォーム。足りない機能は自分たちで補う必要がある」
楽天が指摘する課題には、次のようなものがある。中核となるCF Kernel自体は洗練されているが、今はそれしか存在せず、IaaS連携のOrchesratorや課金の仕組みなどは作り込まなければならない。単一障害点であるメッセージ管理にトラブルが発生すると全体が止まる。その他、ログが保存ができない、1アプリケーションに1アカウントがひも付いているためチーム開発ができない、認証機能が弱いといった現実的な機能上の課題がある。
そのため楽天は、足りない機能を自らの開発で補うだけでなく、コミュニティーに参加してパッチを提供したりしている。「今は発展途上だとしても、Cloud Foundryは投資するだけの魅力があるプラットフォーム。発展に貢献していきたい。われわれにとって世界で勝負できる技術を開発する意味もある」(葉山氏)。楽天は2012年初頭にもCloud FoundryベースのプライベートPaaSの運用を始め、将来的にはグローバルなサービス基盤とする考えだ。
楽天のコミットが明らかになり、Cloud Foundryは今後、国内でもオープンPaaS基盤として注目を集めそうだ。なお、楽天のような自社開発が難しい一般企業に向けては、機能を盛り込んだ商用版「Cloud Foundry for Enterprise」が2012年中にも提供される見通しだ。こちらも注目される。
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