楽天がプライベートPaaSを構築――「Cloud Foundry」を選んだ4つの理由オープンソースPaaS基盤ソフトウェア活用事例

「世界市場で勝つには技術力も必要」という思想の下、内製主義にこだわる楽天。同社はオープンソースのPaaS基盤ソフト「Cloud Foundry」のカーネルで、自前の“プライベートPaaS”を構築。その取り組みを紹介した。

2011年11月28日 09時00分 公開
[石田己津人]

 楽天はオープンソースのPaaS基盤ソフトウェア「Cloud Foundry」を採用し、プライベートクラウドでPaaS(以下、プライベートPaaS)を開発。拡大する“楽天経済圏”のサービス基盤とする考えだ。ヴイエムウェアが2011年11月に開催したカンファレンス「vForum 2011」において、楽天・Development Unitグループインフラ構築・運用課長の葉山 剛氏が明らかにした。

2010年後半からプライベートIaaSを運用

 楽天のビジネスは、もはや社会インフラの一部といえるだろう。同社が国内で手掛ける商品、サービス流通の総額は2010年で約2.6兆円(うち電子商取引と旅行仲介で約1.4兆円)、2011年は3兆円超えが確実視されている。また、“世界一のインターネット企業”というビジョンを目指し、急ピッチで海外展開を進めており、現在はアジア、欧米で11のサービスサイトを立ち上げている(海外流通総額は2010年度で670億円)。

 この楽天のビジネスを支えているのがITだ。変化とスピードが命となるネット業界だからこそ“内製主義”にこだわり、国内に1000人強のITエンジニアを擁する。開発プロジェクトは数日単位の短いもので年間数千件以上、月単位の長いもので年間1000件以上をこなしているという。ITインフラの中心は廉価なIAサーバで、1万台近くに達する(関連記事:楽天のシステムを支える5つのベストプラクティス)。

画像 vForum 2011で講演する楽天のDevelopment Unit グループインフラ構築・運用課 課長 葉山 剛氏

 そのため当然、サーバ構築の効率化やサーバ統合が大きな課題となる。その対策として、2007年にXenServerを使ってサーバ仮想化の技術検証を始め、2008年から開発環境、新規サービス、主要サービスと適用範囲を広げ、2010年後半にIaaS(Infrastructure as a Service)型のプライベートクラウドへと発展させた。

 楽天の葉山 剛氏は「自社内やグループ内にITリソースを提供するプライベートなIaaS(プライベートIaaS)と違い、楽天では外向けの商用サービスにも利用している。現状、仮想マシンの数は1000台を超え、全サーバの約1割を占めている。IaaSによって物理環境だと1カ月ほどかかるサーバ構築のリードタイムは縮まり、ハードウェア集約によるコスト削減効果も得られている」と語った。

IaaSをPaaSに発展させ開発効率上げる

 だが、楽天は現状に満足しているわけではない。2012年から導入するプライベートPaaSの開発を着々と進めている。その理由を葉山氏は次のように話す。

 「IaaSを運用する中で課題が見えてきた。物理サーバの構成をそのままハイパーバイザー上に展開しているため、結局、OS、ミドルウェア、アプリケーションの個別管理は変わらず、アプリケーションエンジニアとインフラエンジニアの間で調整しなければならない。これが開発のリードタイムを伸ばす原因になっている(図1)。さらに、高いレベルで開発効率を上げる、リソース変更へ柔軟に対応する、システムの標準化を進めるには、プライベートPaaSが必要という結論に至った」

画像 図1 アプリケーションエンジニアとインフラエンジニアの分業体制が残るIaaS。分業体制は開発の遅れにつながる

 楽天がプライベートクラウドにこだわるのには、2つの理由があるという。1つは楽天にとって最重要資産である個人情報の問題。いくらパブリッククラウドのセキュリティが向上しているといっても、最重要資産を他社に預けることにはリスクがある。もう1つはインフラ技術を内部に保持し続けること。「世界市場で勝つには自前の技術力が必要。その技術のコアとしてクラウドがある」(葉山氏)。もちろん、パブリッククラウドを使わないという意味ではなく、必要であれば使う。使い分けが重要ということだ。

Cloud Foundryを選んだ4つの理由

 パブリックにはない固有機能を盛り込んだプライベートPaaSを構築するため、楽天が選んだのがヴイエムウェアのオープンソースベースのPaaS基盤ソフトウェア「Cloud Foundry」だ。

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