デスクトップ仮想化導入のガイドライン【第2回】
デスクトップ仮想化のトータルコストを削減する効果的な手段
物理PCに比べ導入コストが高いといわれるデスクトップ仮想化。だが、両者の単純な比較は無意味だ。デスクトップ仮想化の投資対効果を考えるポイント、投資対効果を高めるためにトータルコストを削減する方法を紹介。
本稿ではデスクトップ仮想化プロジェクトに関わるコストについて考える。デスクトップ仮想化プロジェクトの経験がある方はご存じだと思うが、その導入コスト(初期費用)は、PCの導入と比較すると一般的に膨らむことが多い。しかしながら、この仕組みに投資をする企業が増えているのは、第1回「企業の成長を維持、加速させるデスクトップ仮想化の真価」で解説したようにソリューションによって大きな価値が得られるからだ。そこで本稿では、デスクトップ仮想化の投資対効果の考え方について解説する。また、この投資対効果をどう高めるのか、限られた予算でどのようにプロジェクトを遂行するかという観点から、プロジェクトのトータルコスト(導入コスト、運用コスト)を抑えていくためのポイントについても解説する。
これまでの連載
- 第1回:企業の成長を維持、加速させるデスクトップ仮想化の真価
- 第2回:デスクトップ仮想化のトータルコストを削減する効果的な手段
- 第3回:業界別に見る デスクトップ仮想化による課題解決
- 第4回:5つの仮想化方式を一覧表で比較 ~デスクトップ仮想化導入で準備すべきこととは
連載インデックス:デスクトップ仮想化導入のガイドライン
デスクトップ仮想化の投資対効果を考える際のポイント
デスクトップ仮想化の導入を検討する際、PCの導入に比べると導入コストが大きく見えるため、なかなか採用に至らないケースを聞くことがある。これは、デスクトップ仮想化が単にPCの置き換えの選択肢の1つとして考えられているためだ。既に述べたようにデスクトップ仮想化は、デスクトップを提供すること自体を主目的としているのではなく、ビジネスのやり方や働き方を変えながら企業が取り組むべき多くの課題をバランスよく一掃することで企業の成長を加速させるためのものだ。単なるPC導入とは目的が異なるし、得られるベネフィットも全く違う。従って、PCの導入コストとデスクトップ仮想化の導入コストを単純に比較して検討を進めるようでは、デスクトップ仮想化の正当な評価を行っているとは言い難い。
デスクトップ仮想化の費用対効果に決まった計算式はないが、この仕組みを過小評価してしまわないためにも意識すべき重要なポイントがある。
従来のPCは業務を処理するための端末にすぎず、それ以上の価値を生まないため、導入コスト(ハードウェア/ソフトウェア、構築導入費など)と運用コスト(保守、運用に必要な人件費)、つまり「見えるコスト」のみを算出し、この値を最小化する努力をしてきた。しかし、デスクトップ仮想化は、既に述べたように、ビジネスのやり方を変えることでより収益性の高いビジネスを実現していくことや、さまざまな課題を一掃することで大きなベネフィットを手にするためのものだ。従って、投資対効果を考える際には、この仕組みが収益に与えるインパクトや、生産性を改善させることによる効果など、定量化しにくい部分も評価、考慮される必要がある。
デスクトップ仮想化の導入コストは、システムアーキテクチャを変えるという大掛かりな作業を行い、サーバ、ストレージ、ネットワークといったリソースを増強する必要があるため一般的には大きくなる。一方で運用コストは、仮想化と集約によりPCを運用していた場合に比べて削減が可能であることも重要な特徴だ。
導入・運用コストをどう抑えるか
ここからは、より高い投資対効果を得るためにどうやって導入・運用コストを抑えるかについて解説する。以下のポイントを実践するだけでかなりのコストが抑えられるので、ぜひ参考にしていただきたい。
1.仮想化方式の選定
デスクトップ仮想化のための仮想化方式は多数あるため、技術的な詳細は第4回で扱うとして、ここでは最も低コストで導入・運用できる仮想化方式「サーバ共有型」だけを解説する。
サーバ共有型はユーザー集約度が高く、ハードウェアの費用、必要なソフトウェア費用、運用に関わるコストを最小化できる方式である。どう節約できるかを明確にするために、デスクトップ仮想化で最も一般的と考えられている「VDI(Virtual Desktop Infrastructure)型」(仮想PC型)と比較してみる(図2)。
まずVDI型は、ユーザー数分のOSを仮想化し、それぞれの仮想OSに各アプリケーションをインストールする。従来の個々の物理PCがそのまま仮想化されたものだ。各エンドユーザーは、この個々の仮想デスクトップ環境にアクセスする。一方、サーバ共有型では、Windowsサーバ上でユーザーの環境が仮想化され、サーバのデスクトップ、アプリケーションを複数のユーザーが共有して同時に利用できる仕組みだ。
上記の理由から、両方式のリソース必要量については、サーバ共有型の方がVDI型に比べてCPU、メモリの利用効率が高く、サーバリソース当たりのユーザーの集約度を高めることができる。また、ストレージも同様に、VDI型のようにエンドユーザー数分のOS領域を準備する必要がないことから、ストレージ容量の削減にもつながる。つまり、サーバ共有型はハードウェア全般のコストを抑えることができる。
また、VDI構成を取る場合は、OSを仮想化して利用するためマイクロソフトの「Windows Virtual Desktop Access」(VDA)ライセンスが必要となり、これがコストを押し上げる1つの要因になっている。一方、サーバ共有型はRDS(リモートデスクトップサービス)に関わるライセンスが必要となるが、その費用はVDAライセンスよりも一般的には安くなるため、ソフトウェアにおいてもコストを抑えることが可能だ。
運用面では、サーバ共有型は共有しているWindowsサーバに、セキュリティパッチや新たなアプリケーションを適用することで、全てのユーザーに反映することが可能になるため、運用作業を減らせ、運用コストを削減することができる。また、サーバ共有型は複数のユーザーでサーバを共有することから、各デスクトップ環境の実行はユーザー権限に限られる。そのため、デスクトップにおける権限制御、統制という観点でも有効である。
2.仮想化に向けたアプリケーションテストの工数削減
デスクトップ仮想化を遂行するプロセスでは、仮想環境でアプリケーションが動作するかどうかについて検討する。VDI型の仮想デスクトップの場合は、ほぼ問題なくアプリケーションが動作する。一方、最も導入・運用コストを抑えられるサーバ共有型で動作させるためには、アプリケーションがマルチユーザー対応している必要がある。世の中のほとんどのビジネスアプリケーションはマルチユーザーに対応していると思われるが、シングルユーザー仕様になっている古いアプリケーションも存在するため、サーバ共有型を導入する際は動作テストを行う必要がある。
このテストのポイントは、アプリケーションがRDS環境で正常動作するかどうかだ。RDSで動作すればマルチユーザー対応のデザインになっているため、サーバ共有型で動作するとみていいだろう。また、サーバ共有型のモデルで動作するかどうかのチェックをシステマチックに確認してくれるソリューションもあるため、これを利用することで大幅なテスト時間の削減と迅速な判断を可能とする。マルチユーザーで動作するアプリケーションはサーバ共有型、動作しないものはVDI型で構成し、極力サーバ共有型に集約するというのがセオリーだ。
3.ハードウェア(サーバ、ストレージ、ネットワーク)コスト
・サーバ
デスクトップ仮想化の環境を構成するにはある程度のハードウェアリソースが必要となるため、ハードウェアベンダーや機種を統一することが重要だ。統一することで調達のコストメリットを得られたり、運用面においてリソースプールを構成できるためリソースの利用効率が高まる。基本的なポイントだが、リソースを大量に必要とするデスクトップ仮想化だからこそ重要なポイントとして挙げておく。
・ストレージ
サーバと同様、ハードウェアベンダー・機種を統一することが重要だ。統一することで、調達面ではコストメリットを得られ、運用面では利用効率の向上が可能だ。サーバ仮想化の環境で既に共有ストレージがあるようなケースは、ストレージの統合を検討することもお勧めする。
ここでは大きなストレージ容量を必要とするVDI型での容量削減について考えてみたい。VDI型はテンプレートイメージをクローン化し、必要数分の仮想デスクトップを展開する方法が一般的だ。しかし、この仕組みを用いるとストレージ容量が大きくなるだけでなく、管理すべきデスクトップ数や、それぞれのデスクトップを構成する各ソフトウェアスタックの数が物理PCの場合と変わらないため、運用上の管理コストを削減できない。
そこで、1つのマスターイメージを利用して仮想デスクトップを展開・運用をすることで、ストレージ容量と運用コストを抑えることができる。この技術には、1つのOSマスターイメージから多数のOSを起動できるネットワークブートや、リンククローンといった仕組みがある。また、併せてストレージが持つ重複排除機能などを利用すると、さらに容量を抑えることができる。ただし、ストレージが持つ機能を使う場合は、その分、ストレージコストに跳ね返るため、バランスを見て採用を検討する必要がある。
・ネットワーク
デスクトップ仮想化はネットワークを介してデスクトップ、アプリケーションにアクセスするため、ネットワーク環境はユーザーの操作性に影響を及ぼしかねない重要な要素だ。従って、ネットワーク帯域は大きく確保したいところだが、コストの観点から見ると、潤沢なネットワーク環境を簡単に準備することはなかなかできない。
そこで重要なのは、画面転送プロトコルの性能である。プロトコルの性能が高ければ、それだけネットワークに掛かるコストを抑えることができるからだ。ただし、プロトコルの選択を間違うと業務遂行に支障をきたしかねないので慎重に検討すべきだ。LANの中の限られたユーザー環境であれば重要性は高くないが、デスクトップ仮想化の利点は、3G、4GやWANを超えて、いつでもどこでもデスクトップ、アプリケーションにアクセスできることだ。そのため、狭い帯域でも高い操作性を実現できるプロトコルを選ぶことをお勧めする。
4.その他
・エンドポイントデバイス
デスクトップ仮想化でエンドユーザーが利用するデバイス(エンドポイントデバイス)は、基本的にどんなデバイスでも構わない。さまざまなデバイスに対応したクライアントモジュールがリリースされているからだ。このエンドポイントデバイスのコストを小さくするための方法を2つ紹介する。
1つは、既存の物理PCに動作や権限の制限を加え、シンクライアントデバイスとして流用する方法だ。この既存のシンクライアント化された物理PCが壊れた時点で新しくシンクライアントデバイスを購入し切り替えていくという運用にする。シンクライアントデバイスの新規購入を先延ばしすることで、導入時に必要となるコストを抑えることができるわけだ。クライアントデバイスは小さなリソースしか必要としないので古いPCでも十分だ。
もう1つはBYOD(Bring Your Own Device)の運用だ。BYODとは、ユーザーが個人所有のデバイスを仕事に持ち込み、アプリケーションやデータにセキュアにアクセスする運用だ。企業が提供するアプリケーション、データは、個人所有のデバイスにデータ保存できないよう制御することができる。もしくは保存できてもデータは暗号化され、デバイス上の他のアプリケーションへのデータの受け渡しができないように制御する仕組みで運用される。
この運用は、ユーザーに自身のデバイスを許可することで、モチベーションや利便性を最大化させる狙いがある。また、デバイスは個人所有のものなので、企業の固定資産として計上する必要がなく、経営のシート上でオフバランスさせることができるという側面もある。デバイスのメンテナンスサポートも、原則、個人に委ねることができ、運用コストを削減できる。運用ポリシーを変える必要があるため、すぐに全てのプロジェクトで導入できるとは限らないが、実際に導入して運用している企業も増えているので、一度検討してみてほしい。
・プロジェクトのスタートサイズ
最後にプロジェクトという観点で1つ加えておく。まずは導入規模を限定し、スモールスタートプロジェクトとして始めることで、投資費用を分散させるという方法もある。特定の範囲のユーザー・組織などから小規模でスタートし、後に順次拡張展開をしていく。スモールスタートを切ることは、運用上の複雑性をコントロールするノウハウを蓄積するプロセスでもある。後に順次拡張していく際に、このノウハウを用いてトラブルを回避していくことでプロジェクト全体のプロフィットを高めることにも貢献する。
以上、投資対効果を考え方と、導入・運用コストを抑えるためのポイントを解説した。次回は、各セクター(業界)における特徴的な課題をデスクトップ仮想化がどのように解決できるかについて解説する。
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デスクトップ仮想化導入のガイドライン
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