単なるレガシーアプリケーションの移行は無意味
事例で分かる“パブリッククラウドに向かない”企業の特徴
ある調査会社の予想では「2015年まで年率27.6%で成長する」といわれるパブリッククラウド市場。企業導入は増える一方だが、米TechTargetの調査では全体的に縮小傾向にあるという逆の結果が出た。その違いとは?
仮想データセンターを自社で運用するだけの専門知識を持ち合わせているIT部門の場合、パブリッククラウドに移行しても、それほど大きなメリットは得られない可能性がある。レガシーアプリケーションに関しては、なおさらだ。
ITサービス管理とシステムエンジニアリングを手掛ける米Windward IT SolutionsのCEO、ショーン・マクダーモット氏は次のように指摘する。「パブリッククラウドで柔軟性を得ることと、月額料金という形で余計なコスト負担を強いられることの差は紙一重だ。クラウドへの移行が一筋縄ではいかないのは、言うまでもない」
Windwardは現在、CRM(顧客関係管理)に米Salesforce.comのソリューションを活用している。だがオンプレミスの可能性も含め、他の選択肢も検討中という。CRMアプリケーションを自社で運用管理するだけの専門知識を持ち合わせた、ITに強い企業であることを考慮すると、1ユーザー当たり125ドルの利用料金を毎月Salesforceに支払うことを正当化するのが徐々に難しくなっているのだ。
マクダーモット氏によると、他のSaaS(Software as a Service)プロバイダーの料金は通常そこまで高くはないという。例えば、米SugarCRMの「SugarCRM Corporate」の月額利用料金は1ユーザー当たり45ドル、「SugarCRM Enterprise」は60ドルだ。
Windwardがクラウドから自社運用に戻すかもしれないサービスには、他にもVoIP(ボイスオーバーIP)ソリューションがある。同社は現在、月額3500ドルでクラウドVoIPを利用している。だが最近、米Barracuda NetworksのVoIPスイッチアプライアンス「CudaTel」がリリースされたことで、マクダーモット氏は迷い始めたという。CudaTelには、1回限りの設備投資費として4000ドルが必要だ。クラウドベースのSIP(Session Initiation Protocol)プロバイダーに月額500ドル程度を支払い、通話転送を利用するとしても、わずか数カ月で投資を回収できる計算だ。
「VoIPスイッチなどの技術は改善されており、サーバハードウェアはかつてないほど安価になっている。パブリッククラウドサービスのプロバイダー間の激烈な値下げ競争も、そろそろペースダウンしつつある」とマクダーモット氏は指摘する。
全ての企業が自社でプライベートクラウドを運用管理できるわけではない。だがマクダーモット氏によれば、Fortune 1000企業の場合、大抵は優秀なITスタッフを豊富に抱え、高度なITスキルを有しているため、ROI(投資対効果)の観点からするとパブリッククラウドを正当化するのはより難しくなる。
「50万ドルで米Cisco Systemsのデータセンタープラットフォーム『Unified Computing System』(UCS)を購入し、その他に必要な技術を25万ドルで購入すれば、100万ドル以下で自社クラウドを構築できる」と同氏は語る。「そうやってプロビジョニングできるサーバの台数や1時間当たりのCPUコストを計算すれば、恐らく、『それなら、パブリッククラウドに移行する経済的メリットはどこにあるのか?』との疑問が生じるはずだ」(同氏)
ITプロフェッショナルからは、「より高度なサービスを実現するためではなく、単に既存のアプリケーションをクラウドインフラに移行するだけなら、実に無意味なことだ」との指摘もある。
「レガシープラットフォームについては、パブリッククラウドに移行後もそれまで社内のデータセンターで提供していたのと同じものを提供できるだけで満足しがちだ」と語るのは、人材紹介サービスを手掛ける米Robert Half Internationalの最高技術責任者(CTO)、ショーン・ペリー氏だ。「パブリッククラウドへの移行には、特に大きな成功はない。恐らくディザスタリカバリ(DR)とフェイルオーバーを除き、ほとんどの開発チームにとって、そうした項目は優先リストの上位にはない」と同氏は続ける。
同氏によれば、パブリッククラウドの利用に前向きな企業は、レガシーアプリケーションをクラウドに移植するのではなく、レガシーアプリケーションを手放しクラウドベースの新サービスに切り替えることを選択する可能性もあるという。
つまり結論は?
「経営部門にとって、サーバを誰が運用するかはどうでもいいことだ。経営陣が気にするのは、サービスからどのような価値を得られるかだ」と、プライベートクラウドとパブリッククラウド向けにITサービス自動化ソフトウェアを開発する米ServiceNOWのCTO、アーン・ジョセフバーグ氏は指摘する。
IT管理者はパブリッククラウドの利用に慎重
米IDCをはじめとする調査会社は、今後パブリッククラウドの採用が増加し、2015年まで年率27.6%で成長すると予想している。だが米TechTargetがITプロフェッショナルを対象に実施した調査では、異なる見通しが示されている。
世界の約1300人のIT部門担当者を対象に米TechTargetが実施した2度の調査によると、クラウドの採用は全体的に縮小傾向にあるようだ。2013年3月に実施された調査では、回答者の53.5%がクラウドサービスを「現在使っている」と答え、46.5%が「使っていない」と答えている。2012年8月の調査では、「現在使っている」との回答が61%、「使っていない」との回答が39%だった。
また2013年3月の調査では、クラウドを使っていないと答えた601人の回答者が今後すぐにはクラウドを検討するつもりはないことも明らかとなった。85%は「少なくともあと1年はクラウドを使う計画はない」と答えており、2012年8月の80%より増加している。「クラウドサービスの利用を全く計画していない」とした回答者も46.8%と、2012年8月の40%より増加している。
クラウドを利用しない選択したユーザーは、その主な理由として、「管理」「既存インフラの制限」「セキュリティ」などを挙げている。他にも、「社内のIT予算」(31%)や「クラウドから得られるメリットが不十分であるとの懸念」(24%)なども意見もあった。
なおアナリストによれば、今パブリッククラウドを使っているからといって、必ずしもその企業がインフラをクラウドに移行するつもりであるとは限らないという。
「当社の顧客にも、米Amazonや米Rackspaceでサーバの導入規模を4、5種類ほど試しているところが少なくない。パブリッククラウドプロバイダーを使って実際にリソースがどのくらい必要かを判断した上で、社内設置に戻し、ニーズに見合った仮想環境を社内に構築するつもりのようだ」と米Gartnerの主任調査アナリスト、カイル・ヒルゲンドルフ氏は語る。
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