サービスの提供効率とガバナンスをどう両立するか?【第3回】
サービスデスク効率化の秘訣は、ITILをいったん忘れること
ITサービスマネジメントのベストプラクティス集であるITILや、その国際認証規格であるISO 20000を意識しすぎるがゆえに、サービスデスクの工数がいたずらに増えてしまっている例が多い。その回避策とは何か?
仮想化、クラウドの浸透によりスピーディなITリソース調達・配備が可能になった現在、情報システム部門には、ビジネスを安定的かつタイムリーに支援するITサービスプロバイダーとしての役割が求められている。だが、物理環境と仮想環境、パブリットクラウドが混在するなどシステムインフラが複雑化し、ITシステム/リソースの一元管理は年々難しくなっている。これに伴い、数や種類が増加したインシデントに効率的に対応できず、ITサービスの管理・提供に問題を抱えている企業も少なくない。
これまでの連載でも説明したように、こうした状況を受けて、今あらためてサービスデスク製品が見直されている。特に2008年ごろ、国内でもITサービスマネジメントのベストプラクティス集、ITILのプロセスに準拠した支援製品が注目されたが、自社の運用管理プロセスにうまくアジャストできず、導入に失敗する企業が相次いだ。現在、サービスデスク製品が多くの企業で見直されていることには、そうした“ITILのやり直し”といった背景もあるようだ。
今回は、以上のような状況を見据えてCA Technologiesが提供しているサービスデスク製品「CA Service Desk Manager」(以下、CA SDM)を紹介する。
多くの企業はITILの「P」と「D」だけで終わってしまっている
「インシデント対応の迅速化、ナレッジの蓄積・共有、運用管理の継続的改善などを目的にITILを導入したものの、うまく機能していないケースは少なくない。例えばITILの国際認証規格『ISO 20000』を取得している企業も多いが、ISO 20000で定められたマネジメントサイクルのうち、P(計画)とD(実行)だけ行い、C(監視・測定)、A(継続的改善)が手つかずになっている例が多い。つまり、ISO 20000に申告した条件をクリアするために、監査に必要なデータを構成管理データベース(CMDB)に蓄積し、メンテナンスすることで手いっぱいになってしまう。その結果、データの蓄積・管理が目的化してしまい、運用管理の改善やナレッジの蓄積、共有といった本来の目的がなおざりになってしまうというケースだ」
こう指摘するのはCA Technologies ソリューション営業部 部長の柏木武志氏だ。同社ではサービスデスク製品をうまく活用できていない複数の企業に現状をヒアリングしたところ、主にサーバ100台以上を持つ企業において、以上のような傾向が顕著に見受けられたという。
「2008年ごろ、複数のベンダーがITIL準拠のサービスデスク支援ツールをリリースしたが、その多くは豊富な機能を有していた。この機能の豊富さ故に、さまざまなデータを収集・管理しやすいといった側面も、かえって管理の煩雑さを招く一因になっていたと考える」
そこで現在、CA Technologiesでは「ITサービスマネジメントやITILをどのように考え、サービスデスク製品をどう使えば運用管理を効率化できるのかをユーザー企業に理解してもらうために、コンサルティングを通じて、サービスデスク本来の目的実現に向けて、製品の使い方を提案することに力を入れている」という。
特に同社が強調しているのは、“サービスデスク業務のダウンサイジング”だ。具体的には普段監視する項目を必要最低限のものまで絞り、ITIL運用の手間を削減するとともに、システム全体を俯瞰し、いつ、どこで、何が起こっているのかを一目で把握できる環境を整える。その上で、必要に応じて詳細な情報も入手できる環境を築く。CA SDMにも、こうした考え方を反映しているという。
まずはシステムの全体構成を俯瞰することが大切
CA SDMは2012年9月に最新版のバーション12.7をリリース。サービス要求管理、インシデント管理、問題管理、変更/構成管理、ナレッジ管理機能などを持ち、ITILに沿った一連のマネジメントサイクルの運用業務プロセスの効率化、自動化を支援する。ユーザー企業に固有の業務プロセスやニーズに合わせて運用プロセスをカスタマイズできる「CA-Workflowプロセスエンジン」も装備。オンプレミス版とSaaS版の両方を用意している。
大きな特徴は2つ。1つはシステムの構成情報を可視化する「CA CMDB Visualizer」機能だ。CA SDMは、自社システム内のさまざまな情報源から、構成アイテム情報や構成アイテム同士の関係性に関する情報を整理・保管するCMDB機能「CA CMDB」 を持つ。これによりインシデント、問題、変更/構成を統合管理する仕組みとしている。CA CMDB Visualizer機能は、そうして集めた構成情報をトポロジーマップとしてビジュアルに可視化する。これにより、例えば業務システムAを支えるソフトウェアや物理/仮想サーバ、ネットワーク機器など、各構成アイテムの関係を一目で把握できる仕組みだ。システム構成に変更があっても、その影響を迅速かつ容易に確認できるため、問題の発生抑止にも寄与する。
なお同社では、各種ハードウェア、OS、仮想マシンのゲストOS 、アプリケーションの情報と、ハードウェアとアプリケーションの構成設定のインベントリ情報を自動的に収集・管理する「CA Configuration Automation」も用意している。CA Configuration Automationは、構成データと依存関係情報をスナップショットとして取り込み、現在の構成情報をスナップショットと比較することで、設定変更を即座に検出する機能を持つ。その他、承認された構成ベースラインや、システムのあるべき姿を示す「ゴールドスタンダード」と比較することで、ITガバナンスの担保に役立てることもできる。必要であれば、構成エラーを即座に修正することも可能だ。
同社では、このCA Configuration AutomationとCA CMDBを連携させることを提案している。CA Configuration Automationで収集したシステム構成情報をCA CMDBに取り込むことで、普段はトポロジーマップでシステム構成の全容を俯瞰し、問題があった際にはトポロジーマップ上から詳細な情報にドリルダウンすることで、即座に問題原因を追求できる環境を整える仕組みだ。
2つ目の特徴は、CA Technologiesが2010年に買収したNimsoftの運用監視ツール「CA Nimsoft Monitor」と連携できること。これによりCA Nimsoft Monitorがサーバ、ストレージ、ネットワーク、データベース、アプリケーションなどを監視した結果、問題の予兆を検出したり、問題が発生したりした際には、CA Nimsoft Monitorからのアラートを受けてCA SDMに自動的にインシデントチケットを発行させることができる。これにより、インシデント対応の確実化・迅速化を支援するという。
この他、インシデントの回避策や、問題に対する既知のエラーを蓄積するナレッジ管理機能も搭載。検索機能やナレッジの共有・情報交換を促すフォーラム機能なども併せ持ち、エンドユーザーも含めたシステムの関係者が、有用な情報を即座に引き出すことができる。インシデントの関連付けや、不要な情報/重複情報の削減、ナレッジの保存期間や有効期限を自動化するカレンダー機能も備え、ナレッジの陳腐化も防止できるという。
また、サービスデスク業務を効率化する上では、各管理項目の明確な定義と項目数が1つのポイントとなる。同社はその点にも配慮し、ユーザー企業で使っている管理項目の言語、定義などをヒアリング。あらかじめ用意してある管理項目のテンプレートを基にカスタマイズすることで、ユーザー企業の慣習にフィットした管理項目を迅速に設定できるよう配慮しているという。
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重要なのは、データを蓄積・管理することより、いかに見て活用するか
なお、同社では同様の機能を持つ「CA Nimsoft Service Desk」もラインアップし、こちらもSaaS版とオンプレミス版を用意しているが、オンプレミス版ならCA SDMを、SaaS版ならCA Nimsoft Service Deskという位置付けでコンサルティングを展開しているという。両製品の販売比率は非公表だが、柏木氏によると、「システム構成のデータについても『社外に出したくない』というニーズは強く、現時点ではオンプレミス版の需要の方が大きい」そうだ。
導入については、「サービスデスク業務の現状についてコンサルティングし、『管理項目を絞ってITILのプロセスをきちんと運用しよう』という考え方を基に、現状を見直したり製品の使い方を提案したりすることで、製品の新規導入、あるいは他社製品との入れ変えにつながる例が多い」という。
最近の例では、M&Aによって複数の会社が合併したある企業において、各社が使っていたサービスデスク製品を一元化し、サービスデスク業務の一元化・効率化を図った事例や、管理項目を従来の3分の1に削減してITIL運用にかかわる工数を従来の6分の1にまで低減することで、PDCAサイクルをきちんと回せるようにした事例などがあるという。
ただ、サービスデスク業務の管理項目、管理プロセスをシンプルにするといっても、既存のプロセスを一度に変更することは、ビジネスの安定運用という観点から見て難しい。このため、3~9カ月ほど既存のプロセスとの並行期間を取りながら、安全・確実な導入に配慮しているそうだ。
柏木氏は、「情報システム部門は常に大量のシステムデータを持っている。今、重要なのはそうした膨大なデータを蓄積・管理することよりも、いかに見て、活用するかだと考える」とまとめる。
「もちろん、中には各システムの構成情報に詳しく、各変更も管理できてしまう人材がいるケースもある。だがシステムがこれだけ複雑化している今、属人的な力だけで効率化を図ることは難しい。従って、情報システム部門の各担当者がシステム全体を俯瞰して問題箇所を見定めた上で、必要な詳細データをドリルダウンできたり、エンドユーザーも含めた全関係者が、既知情報を随時確認・活用できたりする“仕組み”を整えること大切だ。ITILのためのデータを蓄積・管理することだけではなく、運用管理を効率化するためのPDCAサイクルをきちんと回すことにフォーカスし、サービスデスク業務の現状をもう一度見直してみてはいかがだろう」
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