iPhone軽視でモバイル戦略を誤った?
さよならの前に振り返るMSバルマーCEOの栄光と挫折
Windowsやサーバ向け製品で一定の成功を収めながらもタブレットやスマートフォンなどのモバイル戦略では結果を残せず――バルマーCEO時代の米Microsoftが歩んできた道と今後の戦略は。
この13年間、世界最大のソフトウェア企業の最高経営責任者(CEO)として苦難の道のりを歩んできたスティーブ・バルマー氏は、向こう12カ月以内に米Microsoftの経営から辞する考えだ。
バルマー氏は従業員宛の社内メモで「退任に最適なタイミングというものはないが、今が適切な時だ。もともと、Microsoftの“デバイスとサービスの企業”への転換期の半ばに退任しようと考えていた。Microsoftはこの新しい方向への前進に私よりも長期的に取り組める新しいCEOを必要としている」と述べている。
組織の安定も重要だが、変化が必要な場合もある。
米オハイオ州予算管理局のラジ・スブラマニアン氏は「タイミングとしては今しかない。成長を目指すには企業の安定が必要だ。しかし市場が大きく変化しているのに企業が変われないで苦労しているのであれば、リーダーが変わる必要がある。スティーブのこれまでの姿勢には疑問に感じられるようなものもあったが、今回はMicrosoftにとって健全な判断だといえる」
Microsoftの次期CEO候補は?
バルマー氏の社内メモは、同氏の後任に誰が選ばれようとも、デバイスとサービスの企業というMicrosoftの新しい方向性は変わらないことを示唆している。だが、そうとは限らないという不安を口にするITプロフェッショナルもいる。このような懸念があるため、一部の企業のIT部門では「Windows 8」や携帯端末といったMicrosoftの主力製品の採用を先延ばしする可能性もある。
「今回の動きがMicrosoftの新しい企業市場戦略にどんな影響を与えるのかという疑問を持つIT担当者もいるだろう」と指摘するのは、Microsoftプラットフォームを専門とする米ヒューストン在住のベテランITプロフェッショナル、マイク・ドリップス氏だ。「企業のIT部門はWindows 8と携帯端末に大金を支払う前に、後任のCEOが方針を転換するのかどうか知りたいと思うかもしれない」
モバイル市場でMicrosoftがライバル各社に追い付けるかという疑問も残されている。
「企業の間ではWindowsが最も長い間使われてきた」と前出のスブラマニアン氏は話す。「Microsoftも認識しているように、問題は同社が検索市場とモバイル市場で後れを取っていることだ。タブレットに押されてデスクトップの売り上げも減少している」
「Microsoftの現在の幹部の間には有能な後継者は見当たらない。また、年商700億ドルの企業を管理する能力と、魅力的なビジョンを伝えるのに必要なカリスマ性を兼ね備えた人物を社外で見つけられる望みも少ない」というのがITプロフェッショナルたちの見方だ。
「古株の幹部を後継者に選んだら、それこそ従来の戦略をいつまでも続けるだけになってしまうかもしれない」と匿名希望のITプロフェッショナルは話す。「それに、このような時期に、社内対立が激しいMicrosoftのような環境に飛び込みたいと思う社外の人間がいるとは思えない」
バルマー氏の栄光と挫折
バルマー氏はこの10年間、Microsoftのサーバを基盤としたビジネスを順調に率いてきたが、同社の主力製品であるOSとアプリケーションの事業をめぐる同氏の意思決定、そしてタブレットと携帯電話の分野に進出したことに対しては疑問を投げ掛ける人が多い。
モバイル分野ではバルマー氏にビジョンが欠落していたことは、2007年のインタビューで米AppleのiPhoneの可能性に関する同氏のコメントからもうかがえる――「iPhoneが市場で大きなシェアを取ることはあり得ない。可能性はゼロだ。(中略)しかし13億台の携帯電話が販売されていることを考えれば、その60%か70%、あるいは80%に当社のソフトウェアが搭載されるようにしたい。Appleが確保できるのはせいぜい2~3%だろう」
しかし、2013年の時点でスマートフォン市場で3%のシェアしか確保していないのは、AppleのiOSと米GoogleのAndroidプラットフォームの後塵を拝しているMicrosoftだ。
米J. Gold and Associatesの創業者で企業コンサルタントのジャック・ゴールド氏は「『Microsoftがモバイル分野でよく健闘した』というのは、『隕石が落下したとき、恐竜は大喜びしてはしゃいでいた』というのと同じだ。同社にとってモバイル市場の出現は災難だった」と話す。
ただし最初の10年間はバルマー氏は「非常にうまくやった」とゴールド氏は付け加え、同氏を「セールスの達人」とたたえる。「しかし彼(バルマー氏)は市場とのつながりを失った。上層幹部との抗争も絶えることがなく、幹部の多くは同社を去るか退職を余儀なくされた」
「彼に先見の明がなかったことが大きな打撃を与えた。それよりも重要なのは、次の10年間につながる長期的なビジョンをMicrosoftが持っていないという事実にユーザーと企業が気付いたということだ」(ゴールド氏)
バルマー氏の近視眼的な見方がMicrosoftを破滅させる可能性がある、という見方をする人もいる。
ビジネスプロセスマネジメントを専門とする企業の米Appianの共同創業者であるマイケル・ベックリー最高技術責任者(CTO)は「スティーブ・バルマー氏で称賛すべきところがあるとすれば、沈む船と運命を共にしたという点だ」と語る。
一方、米TechTargetの寄稿編集者である米82 Ventures のジョナサン・ハッセル社長は「Microsoftは全世界の何十億ものユーザーに価値あるソフトウェアを提供しており、バルマー氏はMicrosoftがその価値を提供してきた長い期間にわたって同社を運営してきたのだ」と話す。
しかしバルマー氏は、スティーブ・ジョブズ氏やビル・ゲイツ氏のような予言者的なリーダーとして歴史に名を残すことはないという。
「スティーブ・バルマー氏が偉大なCEOだったとは思わない。彼が悪いCEOだったとも思わない。ちょうど合格点というところだ。しかし見回せば優秀な人材がたくさんいるという状況の中では、合格点では不十分だったということだ。それが彼の伝説ということになるのかもしれない」(ハッセル氏)
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