このまま使い続けていいの?
スプレッドシートに疑問を感じる5つの瞬間
データ集計や会計データの取り扱いにとても便利な表計算ソフト。だが、他のソフトと同様に全ての領域で利用できるわけではない。スプレッドシートが苦手な5つの分野とその解決策とは。
企業の経理・財務部門が米Microsoftの表計算ソフト「Microsoft Excel」を使って重要な業務を遂行することに対し、専門家は長らく警告を発してきたが、それでもまだ多くの企業はスプレッドシートを使い続けている。ただしこれは、必ずしも変更を渋ってのことではないのかもしれない。経理担当者の中には、変更という選択肢があることすら認識していない向きもいるようだ。
米Ventana Researchが実施した調査では、「重要な経理業務を遂行する上でExcelよりも優れた選択肢があることを認識しているか」との質問に対し、「はい」と答えたのは49%だった。残り半分の回答者のうち、32%は「分からない」と答え、19%は「いいえ」と答えている。
「こうした人たちは、目の前のスプレッドシートから顔を上げ、他にもっと良い方法がないかを探してみたことがないのだろう」と、Ventanaの上級副社長兼調査ディレクターを務めるロバート・クーゲル氏は指摘する。「たとえ、より魅力的な選択肢の存在を認識していても、ほとんどの人はExcelから離れようとしない。恐らく、新しいシステムの投資対効果の評価が説得力に欠けることや、変化への恐怖が影響しているのだろう」と同氏は続ける。
Excelはアドホック分析や小さなデータセットの保存、シンプルなモデルの作成といった一部のタスクには最適なツールだ。「だが、想定外のタスクにスプレッドシートを使うことは、経理部門の幹部が考えるより大きな悪影響をもたらす可能性がある」とクーゲル氏は語る。Ventana Researchが米FinancialForce.comと共同で実施したオンラインセミナー「Avoiding Five Spreadsheet Pitfalls(スプレッドシートの5つの落とし穴)」において、クーゲル氏は「経理部門がExcelに重度に依存している場合に発生する5つの問題点」を取り上げ、スプレッドシート依存の危険性を訴えた。同氏はその一方で、スプレッドシートは今後も決して全廃されることはなく、またそうすべきでもないとの考えも明らかにした。
1. 不整合なデータから複数バージョンのスプレッドシートが作成される
クーゲル氏によると、不整合なデータを含む複数バージョンのスプレッドシートが存在する状況はあまりに一般的であり、「対決するスプレッドシート」という呼称まで生まれているほどだという。この問題の原因は、スプレッドシートが統一された単一のソースに結び付けられていないことにある。たとえ元のデータを同じ場所(例えばERPシステムなど)からダウンロードしたとしても、別々のタイミングでデータを収集すれば、スプレッドシートの不整合が生じかねかい。変更や削除が一部のバージョンにしか反映されないのも、不整合を生む一因となる。
「スプレッドシート間の差異はそれほど重要でないこともある。あるいは、うまく対処できることもある。だが多くの場合、重要なのは、どのスプレッドシートが正しいかの確認で時間を無駄にしないことだ。全て間違っている可能性もあるからだ」とクーゲル氏は語る。
Ventanaの調査によると、巨大企業の半数近くがこの問題を経験しており、44%が「不整合な複数のスプレッドシートの問題に取り組んでいる」と答えている。一方、大規模企業では34%、中規模企業では20%、小規模企業では23%が、「経理業務で使用するスプレッドシートに不整合な複数のバージョンが存在する」と答えている。
2. ユーザーの時間を無駄に浪費する
ユーザーはExcelを使い慣れており、トレーニングの必要がないため、Excelを使えば、最初は時間の節約になるケースも多い。「だが重要な経理業務にスプレッドシートを使うことは、長期的にはひどく時間を浪費することにつながりかねない」とクーゲル氏は指摘する。調査では、「他のユーザーと共有し、頻繁に再利用しているスプレッドシートの統合、修正、訂正に費やす時間」は毎月約12時間となっている。これは、営業日にして約1日半に相当する時間だ。
だが、なぜこんなことになるのだろう? クーゲル氏によると、ユーザーがスプレッドシートに費やす時間の大半は、複雑な作業の遂行ではなく、単に誤りを見つけて修正する作業にあてられているという。これが、スプレッドシートが持つもう1つの弱点だ。
3. 誤りは見過ごされがちだが、いずれ問題に発展する可能性も
「誤りがないかスプレッドシートを徹底的に確認するのは、誰もやりたがらない退屈な作業だ。そのため、誤りは見過ごされたままになりがちだ。専門の監査役が徹底的にチェックしても何かしら誤りが残ることは、これまでの調査結果からも明らかだ。データの誤り、公式の誤り、壊れたリンクなどだ」とクーゲル氏は語る。Ventanaの調査は実際、こうした誤りがいかにまん延しているかを示しており、回答者の35%が「会社の最も重要な業務に用いるスプレッドシートのデータに誤りがあることを認識している」と答えている。
米J.P. Morganで発生した62億ドルの巨額損失事件の発端が「分析に使ったスプレッドシートの設定ミス」にあったことからも分かる通り、確かにスプレッドシートの誤りは途方もない問題を引き起こす可能性がある。「だが、大半はほとんど無害なものだ」とクーゲル氏は語る。ただし、そのせいでユーザーの確認がずさんになれば、それが危険につながる可能性もある。
「あまりにひどいミスのせいで自らが痛い目にあうまでは油断しがちだ」とクーゲル氏は指摘する。
4. 企業の時間を無駄にする
より迅速かつ効率的に帳簿を締めることは、経理責任者にとって永遠の目標だ。だが、このプロセスにスプレッドシートを使用している部門はかなり不利な立場にある。Ventanaの調査では、「スプレッドシートを多用している」と答えた企業の54%が、「月次決算に7日以上を費やしている」ことが分かっている。
遅くなるのは、決算業務だけではない。「スプレッドシートはさまざまな形で作業を行き詰らせるため、仕事を終えるのにかかる時間にも大きく影響する。スプレッドシートの素早く容易に設定できるが、繰り返し発生する連係業務に用いると時間浪費の元凶になる」とクーゲル氏は語る。
5. スプレッドシート統制が不十分
クーゲル氏が最後に指摘したのは、統制に関する問題だ。同氏によれば、スプレッドシートはユーザーに多くの自由を提供するが、経理の世界ではその自由度は過剰かもしれないという。
「スプレッドシートでは、何をどのように提示するかを個々のユーザーが自分で考え、自分に分かりやすい書式にまとめられる。書式は必要に応じていつでも更新や修正が可能だし、変更は瞬時に反映される。だが一方では、この自由度の高さ故に、不正確で不整合なデータを含む複数のデータストアが作成されるというマイナス面もある」(同氏)
「経理データの正確さを保つためには統制が必要だ」とクーゲル氏は続け、経理の責任者に対し、保護された単一の経理データソースを構築するようアドバイスしている。多くの場合、それはスプレッドシートへの依存度を減らし、専用の財務管理ソフトウェアを使うことを意味する。
経理部門にまだスプレッドシートの居場所はあるか?
オンラインセミナーの最後には、無線サービスソフトウェア企業である米Nexiusの経理部長、ジェニファー・ジェンキンス氏が、飛躍的な成長を遂げた後に同社が会計ソフト「QuickBooks」とExcelからの移行を果たしたいきさつを語った。同社の経理部門は一時期、1カ月に500ものスプレッドシートを作成していたことがあり、当然ながら、ミスや不整合なバージョンも数多く発生していたという。
米Salesforce.comの会計システム「FinancialForce」を2011年に採用して以来、データの整合性と可視性は劇的に改善された、とジェンキンス氏は語る。ただし同氏は依然として、一部の業務にはスプレッドシートを好んで使っているという。
「今は会計検査の方によくExcelを使っている。書式設定にもだ。経営陣はきれいなチャートやグラフを好む。今のところは、Excelを使って色やら何やらを追加する方が望ましい。Excelの無い世界がやってくるとは思わない」とジェンキンス氏は語る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
4
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
5
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
6
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
7
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
-
8
レガシー基幹システムをSAPに統合 山善が突き止めた「標準化と個別最適」の境界線
-
9
AI完全自律化はわずか9% 日本は「進化に追い付けない経営陣」が足かせに
-
10
LLMの「過学習」、正しく説明している文章はどれ?
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー