「ひとり情シス」課題別解決マニュアル【第4回】
クラウド活用では「得られるメリット」を正しく理解しよう
クラウドはIT資産を自社で所有しないため、自社内での管理/運用の負担が軽減されると一般的にはいわれている。しかし、本当に導入価値があるか判断できず、個人向けサービスの勝手な利用も不安であるはずだ。
本連載ではIT管理/運用の業務に日々一人で奮闘する「ひとり情シス」の方々に向けて、IT活用のポイントを実際の調査データを踏まえて紹介している。
連載の第1回「誰も当てにできない「ひとり情シス」の本当の苦悩とは?」は全体状況を俯瞰した上で、ひとり情シスが直面しやすい3つの課題を挙げた。第2回「ひとり情シスに贈る、頼れる販社/SIerの見分け方」は最初の課題である「課題1:販社/SIerとうまくコミュニケーションが取ることができず、自社が必要としているソリューションを提案してもらえない」について、第3回「運用管理コストをもっと削減できる、Windows/モバイル徹底活用術」では2番目の課題である「課題2:スマートデバイスの効果的な活用法が分からないことに加え、拠点に散在しているPCのトラブル対応で手いっぱいである」について取り上げてきた。
最終回となる今回は、3番目の課題である「課題3:クラウドコンピューティングを導入する価値が本当にあるかどうかの判断ができず、一方で個人向け無償クラウドの勝手な利用も不安である」について考えてみよう。
「クラウドがもたらすメリットは自社に必要ない」と考えるひとり情シス企業
クラウドはサーバハードウェアなどのIT資産を自社で所有しないため、自社内での管理/運用の負担が軽減されると一般的にはいわれている。しかし、第3回で取り上げたようにひとり情シスにとってはサーバの管理もさることながら、個々の社員が利用するPCの管理負担も大きい。仮にクラウドを導入したとしても、社内のPCが不要になるわけではない。そのため、「クラウドをうまく活用して負担を軽減したい」という期待と「クラウドを導入しても負担は減らないのではないか」という不安が入り混じったひとり情シスの方が多いのではないだろうか?
こうした期待と不安の混在状態を解消すべく、「ひとり情シス企業にとってクラウドはどのようなメリットをもたらすのか」を実際の調査データを基に見ていこう。以下のグラフは従業員数500人未満の中小企業に対し、グループウェアやメールなどといったコラボレーションおよびCRM(顧客関係管理)やSFA(営業支援システム)といった顧客管理の分野においてクラウドサービスを利用しない理由(複数回答可)を尋ねた結果である。第3回までと同様に、ひとり情シス企業の割合が高い従業員数50人未満と、従業員数50人以上500人未満に分けて集計をしている。以下では便宜的にグラフ中の従業員数50人未満の層を「ひとり情シス企業」、従業員数50人以上500人未満を「非ひとり情シス企業」と記すことにする。
「ひとり情シス企業」と「非ひとり情シス企業」とで違いを見ると、次のように整理できる。
「十分なコスト削減効果が得られない」「運用管理の人的作業負担が減らない」「クラウド移行作業にかかる費用負担が大きい」の項目については、「ひとり情シス企業」と「非ひとり情シス企業」で割合がそれほど変わらない。
その一方で、「クラウド移行を主導する社内人材がいない」「自社個別の要件を満たすことができない」「社外にデータを置くことが不安である」の項目は、「非ひとり情シス企業」の方が多く回答した。
「初期投資の負担が大きい」「自社要件と比べて機能や性能が高すぎる」「クラウドによってもたらされるメリットはいずれも必要性がない」の項目については、「ひとり情シス企業」の回答が多かった。
「クラウドを導入しても必ずしもコスト削減が実現できるわけではなく、導入時には相応の作業負担が発生する」という点ではいずれの企業規模でも共通した認識となっているといえる。「非ひとり情シス企業」では、既に導入されているシステムの規模や数が「ひとり情シス企業」と比べて大きくなる。そのため、自社要件をクラウド環境でも充足することが難しいといった問題や社外にデータを置くことに対する不安が生じ、それらを社内で調整する人材も必要となってくる。
これに対し、「ひとり情シス企業」が多い従業員数50人未満では初期投資の負担を挙げる回答が目立つ。クラウドを導入すると個々のPCがインターネット越しにやりとりするデータは増えることが多い。そのため、ネットワーク関連の投資が別途必要となるケースもある。また、「クラウドによってもたらされるメリットはいずれも不要であり、自社が求める要件と比べ機能や性能が高すぎる」という回答も多くなっている。つまり、「ひとり情シス企業」では「クラウドがもたらすメリットは自社には必要ない」と考えている傾向が強いことが分かる。
クラウドはあくまで「手段」「目的」から導かれるメリットを知ることが大切
では、「ひとり情シス企業」にとってクラウドがもたらすメリットは本当に必要ないものなのだろうか? 前回はスマートデバイス活用のポイントについて触れた。スマートデバイスの導入効果を十分に享受するためには単にデータを「見る」だけではなく、営業マンが外出先で在庫引き当てをしたり、見積書を修正したりするなどといった「現場での編集」を行うことが重要だ。その際、スマートデバイスからアクセスするデータの置き場所としてはクラウドが適している。社外からもアクセス可能であり、かつ基本的なセキュリティ対策を専門の業者に任せることができるからだ。
スマートデバイス関連以外にもクラウドのメリットはある。「システムを素早く構築できる」という点もその1つだ。例えば、「観光ビザ発行の条件が緩和され、東南アジアからの観光客が急に増えた」という状況を受け、3つの店舗を持つ土産物チェーン店が「来日中に買い切れなかった顧客向けにECサイトを開設しよう」と考えたとする。従来通りにサーバハードウェアの手配からやっていたのでは休暇シーズンが終わってしまう。そこでクラウドを活用すれば、機を逃さずにビジネスを展開できる。
また、クラウドは「災害対策」にも有効だ。クラウド業者が利用するデータセンター設備は地震や停電に備えた対策を講じている。自社に置いておくよりも、災害に対してははるかに安全といえるだろう。
しかしながら、「ひとり情シス企業」の多くはこうしたメリットをまだ十分に認知していない。以下のグラフはグループウェアやメールなどといったコラボレーションおよびCRMやSFAといった顧客管理の分野におけるクラウドサービスを導入済みまたは導入を予定・検討中の中小企業(従業員数500人未満)に対し、クラウドサービスに期待する効果(複数回答可)を尋ねた結果である。
選択肢に挙げられた項目は、上記で述べたような「クラウドがもたらすコスト削減以外のメリット」に相当する。いずれの項目についても「ひとり情シス企業」における割合が「非ひとり情シス企業」を下回っていることが分かる。「ひとり情シス企業」が多い従業員数50人未満の企業ではクラウドがもたらすメリットについての認知がまだ十分でないことが見て取れる。
クラウドはあくまでシステムの構築/運用における「手段」の1つであって、「目的」ではない。「スマートフォンから見積もりの修正をしたい」「在庫情報を代理店と共有したい」「地震や停電への対策を講じておきたい」「セキュリティを強化したい」といった要件を実現する手段の1つとしてクラウドがあるわけだ。ひとり情シスが「自社にとってクラウドのメリットとは何か?」を考える際には「手段」から「目的」へと視点を一段引き上げることが大切だ。
ひとり情シス企業では「BYOS(Bring Your Own Services)」を認める割合が高い
企業におけるクラウド活用を考える際、ひとり情シスが見落としてはならないポイントがもう1つある。それは「個人向けに無償で利用できるクラウドサービスの業務利用を認めるべきか?」という点だ。第3回では個人が所有するスマートフォン端末などを業務でも利用する「BYOD(Bring Your Own Device)」という用語について簡単に触れた。同じように個人で利用しているサービスを業務でも利用することを「BYOS(Bring Your Own Services)」と呼ぶ。「DropBox」や「SugarSync」などのオンラインストレージサービスを利用して複数のPCやスマートデバイスで文書/データを共有したり、FacebookやGoogle+のグループ機能を活用して仲間と情報の交換/共有を行ったりといった利便性を業務でも享受したいと考えるのはごく自然なことだ。
だが、こうした利用はともすると情報漏えいを招く危険性もはらんでいる。ひとり情シスとしては企業が持つデータを守ることも重要な責務の1つだ。実際、こうした「BYOS」を認めている企業がどれくらいあるのだろうか? 以下のグラフは従業員数500人未満の中小企業に対し、「個人向けでも無償利用可能なクラウドサービスの許可状況」を尋ねた結果である。
「業務種別を問わず、全面的に許可されている」という回答割合は「非ひとり情シス企業」では11.5%にとどまっているのに対し、「ひとり情シス企業」では34.1%にも達している。つまり、「ひとり情シス企業」では「BYOS」を認めている割合が高いということになる。
「Facebookのグループ機能を利用して、取引先と進めているプロジェクトの文書やデータを共有する」といったことを個々の社員が行ってくれれば、ひとり情シスとしては負担を大幅に軽減することができる。上記のグラフが示すように、それを既に実践するひとり情シスも少なくないと考えられる。だが、既に述べたように「BYOS」には情報漏えいなどの危険もつきまとう。ひとり情シスとしては適切なリスク回避策も同時に講じておく必要がある。
「BYOS(Bring Your Own Services)」においてはセキュリティ面の担保が不可欠
以下のグラフは従業員数500人未満の中小企業に対し、「個人向けでも無償利用可能なクラウドサービスを業務でも利用するために満たすべき事柄」(複数回答可)を尋ねたものだ。裏を返せば、「BYOSにおいて考えられるリスクの回避策として必要なものは何か?」ということになる。
「アクセス権限の設定」「保存データの暗号化」「通信経路の暗号化」「内部統制上の監査基準への準拠」といった項目を挙げる割合は、「非ひとり情シス企業」と比べて「ひとり情シス企業」が低くなっている。だが、これらの項目はいずれも企業のデータ保護のためには不可欠といえるものだ。
逆に、「データバックアップ」については「ひとり情シス企業」での割合の方が高くなっている。つまり、「ひとり情シス企業」においては個人向け無償クラウドサービスに格納されたデータが消えてしまうリスクについてはある程度意識しているが、情報漏えいに関わるセキュリティ対策については関心がやや薄くなっている可能性がある。
社員が利用する個人向け無償クラウドサービスを全て把握し、それらを厳密に管理することはなかなか難しい。だが、BYOSを実践する社員に対し、現在利用中のサービスについて「アクセス権限を設定する機能を有しており、それらを適切に設定しているか」「データは暗号化された状態で保存されており、かつその機能を有効にしているか」「通信経路をSSLなどで暗号化する仕組みがあり、かつそれを利用しているか」といった点を確認してもらうように通知し、もし上記が満たされていない場合には利用を中止するかまたは設定の変更などを行わないと、情報漏えいの危険性があるということを明確に伝えることが重要だ。
このようにクラウド活用においては、「『手段』ではなく『目的』の視点から、コスト削減以外のメリットが何か?」を考える、「『BYOS』は有効な選択肢ではあるが、情報漏えいを防止するための社内啓蒙を必ず行う」といった点が重要なポイントといえるだろう。
◇
全4回に渡って、ひとり情シスがIT管理/運用において直面する可能性が高い課題を取り上げ、その解決策について調査データを踏まえながら述べてきた。網羅しきれていない点も多々あるが、本連載が日々奮闘されるひとり情シスの方々の何らかの一助となれば幸いである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
3
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
4
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
5
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
6
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
7
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
8
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
9
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
10
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー