岐阜・関市の高校が“朝読書”に「kobo Touch」利用
公立高校が導入、「電子書籍リーダー」は生徒にどう役立つのか?
教育機関に役立つ端末はスマートフォンやタブレットだけではない。関市立関商工高等学校は、電子書籍リーダーである「kobo Touch」を生かしている。その活用方法や効果を同校に聞いた。
教育機関では、スマートフォンやタブレットなど、多機能かつ豊富なアプリケーションが使える端末の導入が目立つ。こうした中、スマートフォンやタブレットではなく、電子書籍の閲覧に特化した電子書籍リーダー「kobo Touch」を導入したのが、関市立関商工高等学校(以下、関商工高校)だ。同校は、kobo Touchをどう活用しているのか。生徒の反応はどうか。kobo Touchの活用を推進する関商工高校の尾崎圭子氏に話を聞いた。
kobo Touch活用の概要:朝学習の読書に利用
商業科と工業科の2科で900人以上の生徒が学ぶ関商工高校。同校の商業科では、授業前に実施する朝学習の時間にkobo Touchを活用している。毎週月曜日の読書の時間になると、生徒は学校から支給されたkobo Touchを利用し、10分の間読書に励む(写真1)。
生徒は、教員があらかじめkobo Touchに登録した電子書籍の中から、自分が読みたいものを選ぶ。登録する電子書籍は、著作権切れの文学作品などをインターネットで公開している「青空文庫」から、同校の国語科の教員が選定する。無線LAN環境は図書室など限られた場所のみに整備しており、生徒が教室から電子書籍をダウンロードすることはできない。
kobo Touchには整理番号を張り付け、生徒は同じ端末を使い続ける(写真2)。朝学習の時間では、基本的には前の週までに読んでいた電子書籍の続きを読むことになる。
kobo Touch導入の経緯:2クラスで試験導入、端末破損受け持ち帰りを制限
関商工高校は、2013年8月の夏休み明けにkobo Touchの試験導入を開始した。当時は1年生から3年生まで13クラスある商業科の内、2クラスをパイロットクラスとして指定。パイロットクラスの生徒のみにkobo Touchを配布した。試験導入で運用や活用の方向性を見定めた後、同年10月に本格導入を開始。現在は、商業科の全13クラスでkobo Touchを利用している。
パイロットクラスに指定した2クラス中、1クラスの生徒には、朝学習の時間だけでなくkobo Touchを常時貸与し、家庭への持ち帰りも許可していた。だが画面の破損が発生するなどのトラブルがあり、利用時間や利用方法について「学校側で管理した方がよいと判断、朝学習の時間のみに貸与する形に改めた」と尾崎氏は語る。現在も「本当に読書が好き」という生徒に限って自宅への持ち帰りを許可しているが、許可を求める生徒は現在のところ「ごくわずか」だという。
朝学習での読書の取り組み自体は、kobo Touch導入以前から続けている。「進学するにしても、就職するにしても、基礎学力の向上が不可欠だ」という意識から、同校は2013年2月、朝のショートホームルームと1時間目の間に朝学習の時間を確保した。その後の同年4月に、関市教育委員会が読書推進の取り組みを本格化させたのに合わせる形で、関商工高校でも同月から朝学習に紙の書籍を使った読書を盛り込んだ。
楽天との提携が導入のきっかけに
関商工高校のkobo Touch導入のきっかけになったのは、関市とkobo Touchの販売元である楽天との提携だ。同市は2010年から、インターネットを利用した地域活性プロジェクト「まち楽プロジェクト」で楽天と協力関係にあり、同市のブログを楽天のブログサービス「楽天ブログ」に開設するなどの取り組みを進めていた。
関市の尾関健治市長は、もともと教育における読書の効果に興味を持っており、「電子書籍を使って読書推進をしたい」という考えを温めていたという。こうした中、上述の協業の一環として、楽天が関市に1250台のkobo Touchを無償提供。関市が関商工高校と関市立図書館にkobo Touchを導入した。
こうした導入の経緯もあり、タブレットとの比較など、kobo Touchの導入に伴って特別な製品選定などはしていない。koboシリーズにも、kobo Touchだけではなく高解像度の「kobo glo」やコンパクトな「kobo mini」などのラインアップがあるが、特に導入や刷新の予定はないという。端末の故障時もすぐに修理をすることなく、在庫から新品を下ろして置き換えることにしている。
kobo Touchの導入効果:可搬性を評価、読みたい書籍が確実に読める環境に
kobo Touchでの読書について、生徒はどう感じているのだろうか。同校商学科の生徒に聞いたところ、「自分で多くの紙の書籍を持ってこなくても、1つの端末で読めるのが便利」など、kobo Touchの可搬性の高さを評価する声が多かった。また「文字の大きさを変えられるのがよい」など、電子書籍ならではの利点を評価する生徒もいた。電子ペーパーの解像度についても、紙の書籍と比べて特に読みづらさを感じてはいないようだ。
また、全てのkobo Touchに共通の電子書籍を入れ、かつ端末を学校で管理する仕組みにすることで、「生徒が前の週に読んでいた電子書籍を確実に読めるようにしたこともメリットだ」と尾崎氏は語る。
朝学習にkobo Touchを導入する前、生徒には毎週月曜日に紙の書籍を持ってくるように指示するものの、忘れてしまう生徒も少なからずいた。書籍を忘れた生徒には、図書室にある集団読書用の書籍を貸し出していたが、必ずしも生徒が読みたいと思う書籍を読めるわけではない。そのため、「生徒にとっては、『読まされている』という意識がより強くなってしまうのではないか」という懸念があったという。
管理負荷と画面表示の遅延が課題
一方で、生徒からはkobo Touchの画面の切り替え速度の遅さを指摘する声も聞かれた。生徒の多くはスマートフォンやタブレットを個人的に保有しており、こうしたデバイスの大半が採用する液晶と比べて、kobo Touchが採用する電子ペーパーは「文字の大きさを変えたときに、画面が切り替わる速度が遅い」と感じる生徒が少なくないようだ。これはkobo Touch特有の課題というわけではないが、改善を希望する生徒が少なからずいることは事実だ。
運用面での課題として尾崎氏は、生徒がkobo Touchを配布する際の負担軽減を挙げる。同校では、朝学習の読書の時間が始まる前に、各クラスにいる図書委員の生徒が、クラス全員分のkobo Touchを入れたケースを書庫から教室へと運ぶ(写真4)。kobo Touch単体の重さは185グラムと比較的軽量だが、クラス全員分を持ち運ぶとなるとそれなりの重さになる。また、「書庫の鍵は教員が持っているため、生徒が自由に書庫に入ることができないことも負担になっており、改善策を考えている」と尾崎氏は語る。
教員にとっては、端末管理の効率化が課題だ。Android端末やiPhone/iPadなど一般的なスマートデバイスは、モバイルデバイス管理(MDM)製品など、複数台の端末に一斉に設定を施したり、コンテンツを配布する仕組みが充実している。一方のkobo Touchは、こうした他のスマートデバイスと比べて管理ツールが充実しているとはいえないのが現状だ。
こうした背景もあり、同校は「端末の設定から電子書籍のダウンロードまで、数名の教員が手作業で進めている」のだという。実は同校は、当初の予定では2013年6月にkobo Touchの試験導入を開始する予定だったが、それが同年8月にずれ込んだ経緯がある。端末の運用方法に関する議論に時間をかけたという事情もあるが、こうした手作業での管理がプロジェクトの遅れに少なからず影響したことも否定はできない。
今後の方向性:授業での活用も模索
このように課題はあるものの、同校は総合的に見て、「読書用の端末としてkobo Touch自体に大きな不満はない」と考えている。同校は、保管方法や運用方法など解決できる課題は解決しつつ、kobo Touchの活用の幅を広げるべく準備や検討を進めている。現在は工業科へのkobo Touchの導入が進行中だ。
電子書籍の閲覧用に導入したkobo Touchだが、「朝学習だけでなく通常の授業でも使いたい」という生徒の声があることを受け、授業利用の可能性も模索している。既に「『kobo Touchには辞書機能があるので、英語の授業のサイドリーダー用の端末としてkobo Touchを使いたい』といった具体的な声も生徒から挙がっている」という。
関商工高校の場合、端末導入に当たって自治体や学校、生徒の金銭的な負担がなかった点で特殊な事例ではある。ただし、実証実験ではなく、通常の学校活動の中で電子書籍リーダーを有効活用していることは事実だ。電子書籍リーダーも、想定する用途に合致していれば、学校用端末の選択肢の1つになりそうだ。
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