IoTを活用する最大の利点とは?
「医療IoT」実現の鍵を握るスマホやウェアラブル端末、プライバシーへの懸念も
米Appleや米Microsoft、米Googleがスマホ向け医療情報サービスを発表し、健康維持のためのウェアラブル端末も注目を集める。しかし、医療分野におけるIoT活用はまだ大いに議論の余地がある。
医療機器と医師のスマートフォンとの連係、患者満足度の向上まで、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の医療分野への浸透は着実に進んでいる。
IoTのビジネス活用の第一人者であるフィリップ・ゲルスコビッチ氏によれば、デジタル機器を他の機器やインターネットやユーザーとつなぐことの最大のメリットは、顧客体験(UX)を改善できる点にあるという。
「これは医療分野にも当てはまることだ」。IoT分野の主要ベンダーである米Zebra Technologiesで成長戦略担当上級副社長を務めるゲルスコビッチ氏は、米マサチューセッツ工科大学(MIT)由来の起業家支援団体MIT Enterprise Forumが開催したカンファレンス「Connected Things」で基調講演を行った後、米TechTargetの取材に応じ、そう語った。
同氏によれば、IoTを医療分野に活用する最大の利点は恐らく、医療機器をネットワークに接続したり、ITワークフローの自由度を高めたりといったことよりも、患者や訪問者が病院や医療施設内をスムーズに移動できるよう手助けできることだという。
「医療IoT」実現の可能性は?
「IoTは、病院内を移動する人たちを識別するという機能で医療業界に影響を与えることになるだろう。重要なのは、全般的な顧客体験の改善だ」と、ゲルスコビッチ氏は話す。
このカンファレンスには、座る場所がないほど大勢の聴衆が基調講演に詰め掛け、その後、IoT活用をテーマに「医療」「小売」「工業」の3部門に分かれて開かれた分科会セッションも盛況を博した。
医療部門のセッションには、医療保険支払者から、医療ITの専門知識を持つ勤務医、IoTを在宅医療に応用する取り組みを進めている企業の幹部まで、幅広い分野のパネリストが参加した。
「当社も、顧客にとって使いやすい製品を作ろうとしているつながりの末端にいる」と語ったのは、工業デザインを手掛ける米Bleck Design GroupのCEO、ジェームズ・ブレック氏だ。
データマイニングと公衆衛生を専門とする米Acuperaの創業者兼CEOで元放射線医学研究者のロナルド・ラズミ医学博士は、次のように語った。「保険会社をはじめとする医療保険支払者の間では、健康維持のためのウェアラブル端末や、インターネットに接続された生体情報計測器など、各種の遠隔システムを採用する動きが広まりつつある。だが医療保険支払者が精査するデータの95%は、そうした機器からのものではない。お金が支払われるのは医療の結果に対してであって、テクノロジーに対してではない。だがテクノロジーも重要な要素となる」
医療機関にIoTを導入するとなると、米HIPAA法(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)で定められたプライバシー要件をめぐる懸念も生じる。だがZebra Technologiesのゲルスコビッチ氏によれば、その点については、買い物客のIDと支払いに関する情報とが暗号化技術で保護されている小売業界と同じだという。
「患者の身元確認は、患者情報が保存されている場所とは別のところで行う必要があるだろう」と、同氏は語る。
医療分野の活用における課題
さらにIoTデータの追跡システムは、患者や家族によるオプトイン方式にする必要があるという。患者や家族のスマートフォンには暗号化されたID番号を使って接続できるが、保護されている医療情報にはアクセスできないようにすることが重要だ。2015年4月にシカゴで開催される医療ITカンファレンス「HIMSS 2015」で予定されている「インテリジェントな病院」をテーマにした公開討論会で、Zebraはこうした追跡システムの一部を披露する計画だ。
ゲルスコビッチ氏が構想している医療分野のIoTシステムは、ユーザーにビーコン発信器を持たせることで完成する。病院のIT管理者はビーコン発信器からの信号によって、院内での患者や訪問者の動きを追跡して案内したり、各種の情報(緊急治療室の待ち時間、各自の健康状態に応じてカスタマイズされた医療情報など)を提供してスマートTVで閲覧できるようにしたりすることが可能となる。
Zebraが取り組んでいる事例には、IoT技術を使って、新生児室にいる我が子の様子をタブレットで確認できるタイミングを両親に通知するというものがある。
またボストンの米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院で医療情報革新と統合を担当する最高医療情報責任者(CMIO)のアダム・ランドマン医学博士によれば、同病院では、新たに導入した電子カルテ(EHR)システムに、コンピュータに接続された医用生体装置からのデータを組み込んでいるという。
一方、米ボストン小児病院の技術革新推進プログラムの臨床アドバイザーを務めるイスラエル・グリーンホプキンス医学博士によれば、同病院は現在、「学術・研究系の医療機関にデジタル技術革新の文化を取り入れる取り組み」を進めており、その計画にIoTが含まれるという。
この取り組みの要となるのは、患者に安全なモバイルメッセージング技術を提供することだ。さらに取り組みの一環として、同病院は患者情報ポータルで、患者とその家族がカルテを閲覧できるようにするためのカルテ公開プロジェクト「OpenNotes」を進めている。
IoTの医療分野での活用との関連では、米Appleや米Microsoft、米Google、韓国Samsung Groupなど各社がスマートフォン向けの医療情報プラットフォームを相次ぎ発表し、健康維持のためのウェアラブル端末が活気を帯びつつある。だが、この分野についてはまだ大いに議論の余地がある。
現場の医師からの率直な意見
MITのパネルモデレータが「患者が自分で計測したデータは医師にとって有用かどうか」と質問すると、医師らは率直な意見を述べ合った。
「心拍数はどうでもいい。私がこうした機器に求めるのは、私が知りたい情報を提供してくれることだ」。米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターの臨床インフォマティックス部門で情報アーキテクト主任を務めるヘンリー・フェルドマン医学博士は、そう語る。
だがボストン小児病院のグリーンホプキンス氏は、「歩数に関するデータは、少なくとも治療に関する大まかな判断をする上では重要な情報となる場合が多い」との考えだ。歩数の計測機能は健康維持のための端末には大概搭載されており、歩数を毎日計測している患者は多い。
米マサチューセッツ総合病院で医療機器の相互運用性の向上を目指す「Medical Device Plug and Play」(MD PnP)プログラムを担当する主任エンジニアのデビッド・アーニー医学博士は、最近よく使われるようになった「医療IoT」という用語を引合いに出し、「助言を得るために皮膚損傷の状態を撮影して送信するアプリなど、有用なアプリが徐々に出始めている」と指摘した。
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