CBS、IBM、SAPのデジタルリーダーに聞く変化への対処法
こっそり見ていた動画をワンタッチで隠す「ボスボタン」はこうして生まれた(1/3 ページ)
CBS、IBM、SAPのデジタルリーダーは、デジタルビジネスの推進で大きなハードルに直面し、それを乗り越えてきた。彼らはそのハードルをどのように乗り越えたのか。
SAPの最高デジタル責任者にとってデジタル面での転換で最も困難だったのは、ビジネスプロセスが変わることでも、新しいテクノロジーに慣れることでも、適切な人材を確保することでもなかった。「最も困難だったのは、考え方を変えることだった」と、同社のジョナサン・ベッヒャー氏は振り返る。
これはベッヒャー氏に限ったことではない。基本的価値観として変化を受け入れない企業文化は、大きな転換を難しくする。その場合は、転換に向けて上層部の強いリーダーシップが必要になる。
デジタル技術によってビジネスそのものを再構築する「デジタルビジネス」の構築にも同じことが当てはまる。グローバルビジネス部門の幹部社員、マネジャー、アナリスト4800人を対象に、ビジネス誌「MIT Sloan Management Review」とコンサルティング会社Deloitte Consultingの共同調査によれば、優秀なデジタルリーダーとは「転換を推し進める明確なデジタル戦略を持ち、企業文化とリーダーシップのバランスが取れる人物」だという。
最近、米国ニューヨークで開催されたイベント「Chief Digital Officer Summit」でSAP、IBM、CBSのデジタルリーダーが会場の幹部社員に勧めたのは、変化にあらがおうとする企業文化を押さえ込むのではなく、抵抗の根本原因を理解して受け入れることだ。注意すべきなのは、企業の考え方や文化を変えるには、時間と創造的な発想が必要になるということだという。
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放送局CBSのデジタルメディア部門、CBS Digital Media(現CBS Interactive)の前社長ラリー・クレイマー氏は、社員の反対意見を根気よく聞くという昔ながらの方法で変革を進めたという。同氏がCBSに入社したのは2005年のこと。同社は当時、メディア企業Viacomから独立してデジタル戦略を進める必要があったのだ。
自称「ビジネス戦略家」兼「変革エージェント」のクレイマー氏は、履歴書にレポーター、編集者、起業家と記していたという。同氏は当時、「全米大学体育協会(NCAA)のバスケットボールトーナメント(マーチマッドネス)をオンライン放送にするという構想を携えて、CBSでの初めての重役会議に乗り込んだ」と回想する。
CBSはトーナメントのデジタル権利を全て所有していたので、放送をテレビに限定する必要はないとクレイマー氏は考えた。「会議室の全員から『まともじゃない、ありえない』と言われた」と同氏は振り返る。自社内で起きる“共食い”現象、収益の損失、技術的問題、インターネットの障害など、幹部社員はさまざまな危惧を示し、さらには米国全体の生産性低下まで持ち出した。
クレイマー氏は、自身の企画に対する彼らの反論を聞き、敬意の念を持って受け止めた。そして「皆さんからご指摘を受けた問題点に対処するため、2週間頂きたい」と返答したそうだ。
「会議出席者の仕事は、ボートの中にたまった水を適切な水位に保つことだった。つまり人員は増やさず、何十億もの収益を上げているビジネスには口を挟むなということだ」とクレイマー氏は思い返し、次のように付け加える。「こうした人々を理解できなければ、彼らの同調を得ることはできない」
クレイマー氏が率いるチームは各問題点への対処に2週間を費やし、独創的な仕掛けを考え出した。その1つが「ボスボタン」だ。ボスボタンは1つのショートカットキーで、職場でこっそり動画を視聴している人も、これを使えば実際に働いているかのような画面で動画を隠すことができる。職場で試合観戦中に上司が近づいてきたら、F1キーを押す。すると音声が消え、スプレッドシートが現れる。でもこれは実際のスプレッドシートではなく、ただのGIF画像だ。よく見れば分かるが、内容には全く意味がない。
マーケティング部門の責任者である幹部社員は、ボスボタンの価値をすぐに理解し、クレイマー氏は必要な同意を得ることができたという。最近この機能が刷新され、マーチマッドネスの熱狂の中、公開された。「実際には、幹部社員の考えを尊重しながら、本当に重要視すべきことを理解してもらう必要がある。つまり新しいデジタル世界へと彼らの意識を変える手助けをしなければならない」
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