「ガートナーシンポジウム 2013」リポート
機能比較だけでは分からないクラウド選定のツボ、キャリアクラウドは有りか無しか
ガートナーの田崎氏がクラウドプロバイダーを4つに分類。各プロバイダーの違いを見極める3つの重要な着眼点を指南する。単なる機能比較では見えてこないIaaSの差別化ポイントを押さえよう。
IaaS(Infrastructure as a Service)を選ぶ場合、普段付き合いのあるシステムインテグレーター(SIer)が扱っているサービスや、話題性と実績から「Amazon Web Services」(AWS)に決めてしまう、そんなケースは多いのではないか。確かに、国内だけでも60以上もあるIaaSを集めて並べて比較することは、不可能ではないかもしれないが、相当な労力を要する(参考記事:【徹底比較】安心・満足なクラウドはどれだ? 62のIaaSランキング)。
では、どうやって選択するか? ガートナー ジャパン リサーチ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ バイス プレジデント 田崎堅志氏は「まずは、プロバイダーのジャンルと特性を理解することが大切だ」とアドバイスする。田崎氏は、プロバイダーの種類を大きく4つに分類。「クラウドネイティブ」「テクノロジープロバイダー」「データセンター事業者」、そして「キャリアクラウド」だ。本稿では2013年10月15~17日に開催された「ガートナーシンポジウム 2013」から田崎氏の講演内容をリポートする。
各クラウドプロバイダーの特徴
- クラウドネイティブ:
AWSやGoogleのような事業者を指す。規模の経済と先行者利益、クラウド技術の先進性を強みに事業展開を図っている。一般企業への普及はこれからだ。
- テクノロジープロバイダー:
富士通、IBMなど、大きな顧客基盤を持ち、ユーザー企業のシステムインフラに多大な影響力を持っている。ただし、クラウドビジネスは既存ビジネスを(提供価格などで)破壊する恐れがあるため、ジレンマを抱えている。
- データセンター事業者:
ビットアイル、ニフティ、NECビッグローブといったデータセンタースペースやホスティングサービスを提供する事業者。米Equinixのようにデータセンタースペースの提供が中心のプロバイダーは、一部を除きクラウドプロバイダーへの施設提供に集中している。
- キャリアクラウド:
広域ネットワークを持ち、クラウドネイティブと同規模といえる財務基盤、リソースを抱えてビジネスを展開している。
クラウドネイティブやテクノロジープロバイダー、データセンター事業者は国内でもよく知られ、利用も多い。一方、キャリアクラウドはその機能の割にはサービス内容が広く知られていない。だが、田崎氏は「キャリアはIaaSに不可欠なネットワークを保有している上、ユーティリティーサービス体制が潜在的に整っている。また、クラウドサービスを展開しても既存ビジネスを破壊することがない。こうした理由からIaaSを選定しようとしているユーザー企業は、クラウドネイティブやテクノロジープロバイダーとともに、キャリアも選択肢に入れることをお薦めする」と強調する。
その上で田崎氏は、プロバイダーの違いを見極める3つの重要な着眼点として、「ビジネスモデル」「サービス提供能力」「市場環境」を挙げた。これらは、単なる機能比較では見えてこないIaaSの差別化ポイントになるという。以下では、通信キャリアのIaaSであるキャリアクラウドにフォーカスし、上記3つの着眼点でメリット/デメリットを紹介する。
キャリアクラウドのメリット
田崎氏がキャリアクラウドに注目する理由は次の3つだ。
ビジネスモデル
通信キャリアが展開するネットワークと、クラウドのビジネスには薄利多売という類似点がある。個々のユーザーに適したシステムをカスタマイズして提供するモデルとは異なり、標準的なサービスを大量販売する。ユーザーは申し込んでからすぐに利用でき、使用した分だけ料金を払えばいい。
田崎氏によれば、「こうしたビジネスモデルの違いは組織体制、ひいてはサービスの在り方に大きく影響する」という。企業がサービス体系、料金形態、サポートをクラウドサービスとして展開しようとした際、既存の行動様式に準じて行えばいい場合と、努力して行動様式から変えなければならない場合とでは、掛かる労力が大きく違う。その辺りは、ユーザー企業も見ておく必要があるとアドバイスした。
サービス提供能力
キャリアのネットワークはユーティリティーサービスに近く、これはクラウドサービスの本質でもある。電気やガス、水道のように24時間365日、安定的にサービスを提供できる能力はクラウドサービスを提供する上でも重要だ。
加えて、クラウドではネットワークそのものが重要な構成要素となる。自社で広域にネットワークを保有し、WAN(Wide Area Network)のインフラがクラウドサービスと隣接している点も強みだ。
市場環境
市場の変化によって、キャリアも従来のネットワークサービスだけでは成長できない状況にあり、新規事業への注力が不可欠だ。クラウドは市場的にも発展途上であり、頑張り次第でリーダーのポジションを得られるかもしれない。また、テクノロジープロバイダーと異なり、クラウドと既存ビジネスとの相性が良いキャリアは、IaaSが持つ本来の特徴をサービスに引き出せる可能性が高い。
その他、差別化ポイントとして、キャリアクラウドはIaaSのネットワーク接続コストを無料もしくは安価に提供するなどネットワークコストに優位性がある点、WANや複合データセンター環境をカバーしたセルフサービスポータルを提供している点などが挙げられた。
キャリアクラウドのデメリット
ただし、キャリアクラウドにも懸念事項が存在する。
ネットワークインフラとデータセンターファシリティを強みにするキャリアも、アプリケーションやITインフラの領域では経験が少ない。また、IaaS関連のテクノロジー開発能力はまだ発展途上の段階だ。IaaS提供に向いている強みがあることと、強みを生かせることは別の問題だ。そのため、「過度には期待しない一方で過小評価もすべきではない。注意深く継続的に事項能力を探っていこう」(田崎氏)。
国内で展開する主要なキャリアクラウド
上記のメリット/デメリットを押さえた上で、国内で展開する主要なキャリアクラウドを見てみよう。
NTTコミュニケーションズ(Bizホスティング)
田崎氏はNTTコミュニケーションズのIaaSについて、「一言で言うとグローバル。国内外に広域なクラウド環境を保有している。グローバルに展開することで、スケールが広がり全体のコストを下げられる」と述べた。NTTコミュニケーションズは、新たな成長を求めて、日本企業および現地企業のグローバルビジネスのサポートに積極的だ。
IaaSのラインアップは大きく2種類。AWSに競合するサービスとして、パブリッククラウドに特化した「Cloudn」と、従来のアプリケーションを移行することにフォーカスし、より信頼性・安定性が高い「Bizホスティング Enterprise Cloud」だ。今後の課題は「NTTグループ内での整合性」だという。
KDDI(クラウド・アプリ関連サービス)
モバイルデバイス、ネットワーク、クラウドとマルチ領域で強みを持つKDDI。ネットワーク領域とグローバル戦略ではNTTコミュニケーションズと肩を並べる。主なクラウドサービスとしては、「KDDI クラウドサーバサービス」と「KDDI クラウドプラットフォームサービス」だ。クラウドプラットフォームサービスはCloudStackベースである点でCloudnと共通している。ただし、CloudnはAWSを意識した作りであるのに対し、クラウドプラットフォームサービスは、企業のプライベートクラウド環境にフォーカスしている点が異なる。
KDDIは古くから国内外でデータセンター(「TELEHOUSE」)事業やネットワーク事業を展開しており、海外でのクラウドサービスを提供する潜在能力を持っている。実際、数年前からシンガポールや米国でKDDIの現地法人がクラウドサービスを提供している。だが、このことはあまり知られていない。その上、KDDIがクラウドプラットフォームサービスのグローバル(米国、アジア、欧州)展開を表明したのは2013年9月のこと。「地域間での一貫性が欠如している。整合性を保って競争力のあるサービスを提供したり、ユーザー企業に事業内容を分かりやすく説明することができていない。こうした課題は、同社も認識済み。今後はサービスのアナウンスをもっと積極的にしていくだろう」(田崎氏)
IIJ(IIJ GIO)
インターネットイニシアティブ(IIJ)は、インターネットバックボーンは持っているが、自身でWANのインフラは持っていないので、上記2社とはキャリアとしての毛色が少し異なる。ただ、企業向けインターネットサービスで実績があるのでその意味ではキャリアといえる。
IIJはGIOシリーズで幾つかのクラウドサービスを展開している。IaaS型サービスとしては、「IIJ GIOホスティングパッケージサービス」が特徴的だ。「標準的なIaaSを意識しつつも、ユースケースを想定したパッケージプランを提供している」(田崎氏)
他にも、VMware環境の貸し出しサービス「IIJ GIOコンポーネントサービス 仮想化プラットフォーム VWシリーズ」などさまざまなサービスを提供しているが、「テクノロジーに強いユーザーではないと、それぞれの違いは分かりづらい。高い技術力がある一方で玄人好みといえる。また、最近はインターネット事業だけでなく、ユーザー企業の業務システムへの取り組みに熱心なあまり、IaaSにおける新規性や革新性のアピールは見えにくくなっている」(田崎氏)。
3社の“注力度”を比較すると次のような表になる。
「運用ポータルの強化」には3社とも熱心に取り組んでいる。差が出ているのは「クラウド関連技術自社開発/強化」だ。「NTTコミュニケーションズは、CloudStackやOpenStackをベースに自社開発に力を入れている。IIJも、VMwareをベースにしたサービスはあるが運用ポータルは自社でいろいろな機能を追加している。また、それ以外のサービスは自社開発だ。一方、KDDIは、Citrix Systemsとのパートナーシップでサービスを提供していく。この辺りの取り組み方は、サービス戦略に影響するだろう」
クラウド全体で見た比較
キャリア以外の主要なクラウドプロバイダーを含め、現在の適応力、適応範囲、ビジョンの完全性を見比べてみる。
AWSはクラウドの本質そのものにビジョンを持って突き進んでいるため、マネージドサービス、ネットワーク、(オンプレミスなどとの)複合環境は自社で取り組まず、パートナーに任せる方針であることがうかがえる。
AWS以外のプロバイダーはマネージドサービスや複合環境に対応し、既存ユーザーのクラウド移行をサポートする。
キャリアは当然ながらネットワークに強く、グローバルへの適応能力も高い。
キャリアクラウド選びの注意点としては、「今まで使っていたWANと異なるキャリアのIaaSを選び、そのキャリアに合わせてWANを引いた場合、移転コストが発生する。その点も含めてメリットがあるかどうかは忘れてはならないポイントだ」と述べた。
また、IaaSは標準サービスを利用することが基本だ。たくさんの機能やAPIを自分たちで組み合わせて利用することになる。「そのため、標準機能が少なく、カスタマイズを推奨するプロバイダーには注意が必要だ。クラウドのメリットである俊敏性を損なうことになりかねない。一方、標準機能は多いがパターン化・テンプレート化が不十分なサービスも使いづらい」(田崎氏)
選択しようとしているクラウドプロバイダーがユニークなポジションを維持しているか、維持しようと努力しているかは継続的に状況を把握していく必要がある。そのときに大切なのが、先に挙げた3つのポイント(ビジネスモデル、サービス提供能力、市場環境)だ。田崎氏は「これらのチェックポイントが選択の良い指針になるだろう」と講演を締めくくった。
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