「まだ180度くらい」の声も
ソーシャルだけでは不十分、企業が夢想する“360度顧客分析”の実現度
CRMなど既存のマーケティングツールでは顧客を理解できない――そう考える企業が顧客を“360度の視点”で理解できる手法の導入を急いでいる。
このところ、IT幹部の間では、競争相手や顧客を“360度の視点”で理解することによって、売り上げグラフを右肩上がりの天井知らずに伸ばそうという夢のような理想が追い求められている。だが多くの企業では、360度の視点という聖杯を手に入れるのに必要なデータ管理の効果的な実践方法やアナリティクス(分析方法論)のノウハウが不足している。
「まだ現実には至っていない」と、オンラインマーケティングを専門とする米Constant Contactのマーケティング担当上級副社長クリス・リットスター氏は語る。同氏は、マーケティングオートメーションの現状を論じ、「360度の視点を獲得するのに必要な大量のリポーティングやアナリティクス、考察を扱うためのデータガバナンスとデータ管理が、多くの企業ではまだ欠如している」と言う。
その上、社内から最高レベルの支援を結集しなければならないという難題もある。根気強い経営陣、適切なテクノロジーを使いこなすチーム、そこに息を吹き込む正確で完全なデータ。こうした立役者が全てそろったとしても、結果は時間と費用に左右される。その間にも、トレンドとツールは、ほとんどの企業が付いていけないスピードでどんどん変化していく。
Constant Contactは、リットスター氏が入社した2006年から自社製のCRM(顧客関係管理)システムを使ってきたが、それでは会社の成長に合わなくなってきた。そこで同社はまず、独自のテクノロジーの開発を試み、それから米Adobe Systems、米IBM、カナダのCognos(現在はIBM傘下)、米Netezza(同)のシステムを組み合わせ、セールス用には米Salesforce.comのSaaSを利用する方法に落ち着いた。同氏は、米Chief Digital Officer が2014年3月に開催したイベント「Navigating Marketing Automation」で自身の経験を語り、「データベースソフトウェアの不備や、最近導入され始めたクラウドベースのターゲティング、メッセージング、パーソナライズの各種スイートには弱点があり、360度の視点には依然としてなかなか手が届かず、無償アプリケーションや新たな単発使用ツールが注目を集めている」と述べた。
「まだ360度とはいえず、やっと180度ぐらいだが、以前よりはいい」(リットスター氏)
データリポートが出るたびに新たな疑問や問い合わせ、要望が発生する。360度のインテリジェンス(情報)を追い求める旅には終わりがない。また、企業の多くはその探求について語りたがらず、それは会社の戦略上の資産か、あるいは自社の社内業務が競合他社と比較してどんな状況なのかをさらけ出してしまうリスクだと考えている。
データを絞り込む
多くの企業は、実現したい構想を幾つも持っているものだが、メディア、社会心理、アナリストリポート、コミュニティーや従業員の意見を取捨選択するという難問に直面している。コミュニティー管理を専門とする米The Community Roundtable共同創業者のレイチェル・ハッペ・マッケンロー氏は、こうした生データはどれも、「消化して日常業務に取り入れるのが難しい」と語る。一方、上級ユーザーや利益率の高い顧客層との関係からは、プリセールスからサービスまで、組織のさまざまな部分で役立つデータが得られる。それに用いるツールはアプリケーションよりも会議やイベントに近い。
「立場はあっという間に同等になる。テクノロジーは思っているほど重要ではない」と、エンタープライズモバイルアプリケーションを開発する米Apperianの最高マーケティング責任者マーク・ロリオン氏は語る。
同氏は、「テクノロジー抜きの新しいやり方で顧客と関わることは大きな強みになる」と話す。例えば、得意客に社内会議で発言してもらったり、電話会議で要望について話してもらったりする。自社のサプライヤーや専門家のネットワークを開放して顧客の問題解決に役立ててもらうのも、信頼関係を築き、新しい知識を獲得し、視野を広げる方法の1つだという。
米調査会社IDCのアナリスト、ジェリー・マーリー氏の推計では、1つの会社においてセールスとマーケティングの促進のためだけに40~50種もの製品が使われている可能性があるという。このように多数のアプリケーションが使われている現状も、この市場の激しい変動を助長している。クラウドベースソフトウェアや無償の個人向けソフトウェアで集めたデータを統合する、会社としての計画を立てていない企業も多い。また、“顧客を単一の視点から見ること”が盛んに吹聴されているが、これは誰の見解を重視するかに左右され、タイミング、利益性、予測パターンなどの要因によっても変わってくる。
「適切な時に適切な情報を手に入れることは、動きのない環境では難しい」とマーリー氏は述べながらも、次のように言い添える。「組織の変更や人の入れ替わりが激しかったり、既存のITプラットフォームを補完しない競合アプリケーションや無償ツールを新しく導入したりしていると、深い理解どころか、理解を阻害することになってしまう」
「データプロジェクトとそれを補完するITプロジェクトで重要なことは、前もって計画を立て、事実に基づかない感情的な反応を予測してそれを回避し、期待値を設定することだ。いつも100%完璧とはいかないだろうが、前進にはなる」と、コンサルティングファーム米PriceWaterhouseCoopersや米Harvard University(ハーバード大学)のプロジェクトを率いた経験のある変更管理コンサルト、ハワード・パールスタイン氏は助言する。
「あまりにも多くの企業が、この問題をトップダウンのITプロジェクトとしか考えておらず、人材教育、基幹業務(LOB)の専門知識、特殊なニーズやツールでエンドユーザーから学ぶ機会が複雑に絡み合う問題であることに気付いていない」(パールスタイン氏)
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