徹底入門:モノのインターネット(IoT)で変わるICTの世界観【第5回】
IoTビジネス成功の鍵と、小さくないハードルとは?
IoTの活用領域は多岐にわたり、その可能性は無限大だ。その一方で、ビジネス活用に向けたハードルや課題もさまざまだ。今回は、IoTのビジネス活用に対するポイントを論じ、本連載の締めくくりとする。
前回(製造業からフィットネスまで 事例に学ぶIoT活用の実際)までは「モノのインターネット」(Internet of Things:IoT)をテーマとして、業界構造から活用事例まで幅広く内容を展開してきた。最終回となる今回は、IoTのビジネス活用に対するポイントを論じ、本連載の締めくくりとしたい。
1.IoTの活用エリアは多種多様
前回では一部の事例を基にIoTの活用可能性を紹介したが、実際に全てのモノがインターネットにつながった際には局所的な効果ではなく、広範囲な規模での価値創造が期待できる。
全てがインターネットにつながることで、できることは無数に存在
従来の「M2M」(Machine to Machine)では、センサーネットワークによる情報の「見える化」が中心だった。IoTが注目される背景については第1回(モノが自律する時代はすぐそこ? IoTの可能性を探る)で紹介した。ここであらためて、全てのモノがインターネットにつながることで可能になることを下図に整理した。
IoTの活用については、多くの企業が可能性を見いだしており、取り組みを開始している。その活用領域は業界、業種によって大きく異なるが、製造業界と情報通信業界を例に取ると大きく次の2つの活用パターンが考えられる。
- 社内業務プロセスの改善と高度化
- クラウドサービスと融合した新たなビジネルモデルの構築
社内業務プロセスの改善と高度化
社内業務プロセスの改善、高度化に向けた動きは、これまでもM2Mの活用事例の中で多く存在した。昨今では、IoTの流れの中で、あらためて注目が集まっている。特に製造業においては、生産プロセスの全ての状況を把握することで、サプライチェーンの川上から川下までの工場間のボトルネックを把握、改善し、スループットの向上に役立てることができる。
スマートデバイスの出現によって、多くの企業がワークスタイル改革の取り組みを進めている。この分野においても、IoTの活用が期待される。農業機器や産業機器の保守については、保守担当者や代理店がスマートデバイスを用いて遠隔から対象機器の稼働状況や故障範囲を把握し、迅速な対応を実現するなどの取り組みを検討する企業が出てきている。
クラウドサービスと融合した新たなビジネスモデルの構築
IoTは単なるコスト削減、効率化の手段にとどまらない。製品単独で全ての機能を包含する従来の製品開発の域を超えて、通信機能とクラウド連係によって複数のデバイスをまたがった「新たな価値」を訴求するサービスの創出が可能になる。また、消費者だけでなく、企業向け市場においても、さまざまな付加価値を提供する新たな産業が生まれる動きも見える。
さらにIoTが進展し、全てのモノがインターネットにつながる世界になれば、利用者はデバイスとネットワークの垣根を意識せずサービスを求めるようになる。そのような状況においては、企業の枠を超えた産業、または異業種コラボレーションを創出するビジネスプロデュース能力が重要となると予想される。
2.IoTの活用がもたらす価値とは
訴求できる価値は多様に存在する
IoTの活用領域は非常に多岐にわたり、その対象範囲によって生み出される価値はさまざまである。そのため、IoTの活用価値を端的に説明することは非常に難しい論点となっている。しかしながら、上述した全てのモノがインターネットにつながった際の価値については、広範にわたる経済効果と社会問題の解決が期待できると考えられる。デロイトトーマツ コンサルティング(以下、DTC)では、調査リポート「Value of Connectivity ~つながりが生み出す未来~」において次のような可能性(アフリカ、ラテンアメリカ、インド、東南アジアなど特に新興国エリアへの新たな価値創造)を示唆している。
- 国内総生産(GDP)2.2兆ドルの増加、GDP成長率72%の改善
- 最大25%の長期的生産性改善および1億4000万人の新規雇用創出
- 年間600ドル/1人の所得増加および1億6000万人が極度の貧困から脱却
- 保健リテラシーの改善による250万人の人命と、25万人の子どもの命の救出
- 治療法の順守率改善による250万人のHIV/エイズ患者の延命
- 6億4000万人もの子どもの教育環境が大幅に改善
ビジネスモデルを考える3つの着眼点
経済価値の創造が期待されるIoTだが、ビジネス活用を検討する際には大きなハードルと課題がある点は否めない。
特にビジネスモデルの設計については、IoTの活用を現在検討している企業にとって最も頭を悩ます課題であると思われる。DTCでは、M2Mの議論がスタートした当時から本領域におけるビジネスモデルの設計・検討を支援しており、次の3点が重要であると考えている。
- オープン化によるカバレッジの最大化
- ビッグデータによる価値創造
- エコシステムとしての継続性の確保
特に事業の創生期においては、1点目が最も大きなポイントになる。自社のビジネスモデルに固執し、顧客の囲い込みを意識し過ぎるあまり、適用範囲(カバレッジ)が狭い状態でビジネスを進めても、2点目の「ビッグデータ」による価値創造が行えない。その結果、継続的な成長エンジンになることなく事業は縮退してしまう。これを回避するには、3点目のビジネスモデルの設計と並行して、継続性のあるエコシステムを確保することが非常に重要となる。
高度化するアナリティクスの活用がカギ
また、IoTが脚光を浴びるようなった理由の1つに、ビッグデータを有効活用する機運の高まりがある。
企業が扱うデータは爆発的に増加の一途をたどり、リアルタイム性が求められるようになってきた。その中から、これまでにない新たな洞察や知見を発見するには、アナリティクス技術をいかに活用していくかがカギとなる。
3.IoT活用に向けた課題・ハードル
IoTは非常に多くの可能性を秘めた分野だが、上述した通り、企業がIoTを実際にビジネス活用するに当たっては、非常にハードルが高い状況である。その点についても言及したい。
多数のプレーヤーで複雑に構築されるビジネスモデルの難しさ
IoTは現在、さまざまなソリューションを複合的かつ応用的に組み合わせて環境構築するケースが多い。単独企業では対応しきれず、「アイデアは多く出るが実現しづらい」という状況に陥りがちだ。特に、社内利用にとどまらず、事業展開まで想定している場合は、ビジネスモデル全体を自社のみで構築することは困難であり、他社との協業や提携を検討することが必要となるだろう。
その際も、関係各社のビジネス構造を理解した上で、全体のエコシステムを設計する必要がある。ビジネスの全体像を素早く作り上げ、いかに関係者間で調整を図れるかがカギとなる。
アイデアは無限大だが実現への道のりは遠い
その他、次のような点でIoT活用に向けた活動が頓挫する場合が想定される。どのように取り組んでいくべきかをあらかじめ考慮して、取り組むことが重要である。
- 社内でのステークホルダー(利害関係者)調整
- 投資対効果の妥当性(ビジネスモデル収益モデル)
- 実現に必要となるファンクション(ビジネス、オペレーション、システム、インフラ)
- ネットワークデザイン
- 技術的な実現性検証
- データでの付加価値(アナリティクスの仮説検証サイクル)の構築
4.最後に(まとめ)
全5回の連載では、最近注目されるIoTについて、さまざまな切り口で取り上げてきた。
IoTは、現在まで進化を続けてきた情報技術を複合的に応用することで実現する新たな分野である。俯瞰的な視点を保ちつつ、ビジネスとテクノロジーが融合することによって、初めてイノベーションが生まれるのだ。
日本においても、先進的な活用事例が登場し、グローバル規模で日本初の新たな産業が創出されることを期待したい。
水上 晃(みずかみ・あきら)
デロイト トーマツコンサルティングTMT(通信・メディア・ハイテク)ユニット所属。大手鉄道会社経営企画部、外資系コンサルティング会社を経てデロイトトーマツコンサルティング株式会社に参画。通信キャリア、ハイテク領域に対して事業戦略立案、情報システム導入戦略と導入支援、IoT・M2M、BYOD、MVNO戦略、クラウド事業戦略など通信・ICT領域でのプロジェクト経験を豊富に有しICTを活用した業界変革・業界融合のテーマを中心にコンサルティング活動を展開。昨今は「JCC(ジャパンクラウドコンソーシアム)M2MビックデータWG」の事務局も務める。
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