できる「ユニファイドコミュニケーション」【第1回】
“残念”と言われないユニファイドコミュニケーション導入の進め方
「ユニファイドコミュニケーション(UC)が現実味を帯びつつある。だが、システムを導入しただけで十分に使いこなせていない企業も多い。成功と失敗を分ける鍵はどこにあるのか。
ユニファイドコミュニケーション(UC)とは、特定のテクノロジーを表したものではない。音声通話やテキスト、動画といったさまざまなコミュニケーションの手段をIPネットワークで利用できるようにした仕組みの全体像と理解すればいいだろう。
UCという概念自体は古くから存在するが、クライアントPCと固定電話を軸にしたシステムは、あまり魅力的な存在ではなかった。ところがここ数年、スマートデバイスへの対応強化を背景に性能も使い勝手も向上した製品が登場しており、大企業を中心に徐々に利用が拡大しているという。
だが、UCを導入したはいいが、それを十分に使いこなせていない企業も多い。成功と失敗を分ける鍵はどこにあるのか。UCの現在を見つめつつ、これから企業が進むべき道を探す。
UCが「開花」し始めた背景
最初に、UCの現状を確認しておこう。IDC Japanの調査では、2014年の国内ユニファイドコミュニケーション/コラボレーション(UC&C)市場規模は2192億1300万円となり、前年比4.6%増だという。また、同市場の2013年~2018年における年間平均成長率は4.0%で、2018年には2554億4100万円の規模になると予測している。
ガートナー ジャパンの調査でも、2012年後半から2013年にかけてUCの導入事例が増えているようだ。同社の調査によれば、UC導入企業は1割にも満たない状況が何年も続いていたが、2013年11月時点では、従業員2000人以上の企業におけるUC導入が15%を超えるようになっていたという。さらに、今後UCの導入拡大を考えていると回答する企業も多い。ガートナー ジャパンでネットワーキングとコミュニケーション分野のリサーチを担当する池田武史氏も「2014年の調査結果を見てみないと確かなことは言えませんが、実際にわれわれのお客さんと話していても、導入意向が高まってきている感触はあります」と語る。
UC導入の追い風になっていると考えられる理由は幾つか考えられる。1つがインフラのライフサイクル。オフィスの移転や既存のPBXが保守切れするタイミングでUCの導入を検討するというケースがここ数年増えているという。先述のIDC Japanの調査でも、2013年から続く企業の音声プラットフォームリプレース需要がIPテレフォニー(電話)市場を支えていると指摘している。現在のシステムに何の不満がなくても、ここ数年の間にやはりUCが必須ということになれば、高価なPBXシステムに投資しても無駄になってしまう。ならば、今このタイミングで、音声通話も含めシステムを刷新することも選択肢に入ってくるというわけだ。
製品自体が洗練されてきていることも大きな理由の1つである。2014年は米Microsoftの「Windows XP」サポート終了もあって、ソフトウェアの入れ替えが進んだ。「Office 365」を導入し、それを機に「Microsoft Lync」を使い始めるといった企業もあるように、他のアプリケーションと親和性の高いUC製品を選択する場合もある。
だが、最も有力な理由として挙げられるのは、スマートデバイスの普及だろう。スマートフォンやタブレットが広く使われるようになり、そこに搭載するアプリケーションとしてVoIP(Voice over IP)型の通話やWeb会議などが脚光を浴びるようになってきた。ガートナーの池田氏は「外出先などからスマートフォンやタブレットで音声や映像の会議に参加することを求めるようになってきましたが、これはUCそのもの。1つのデバイスの中でデータと音声をハンドリングする“ユニファイドデバイス”が登場して、ようやくUCが成立した感があります」と語る。
UC導入に失敗する企業がやりがちなこと
もっとも、UCの導入が進んでいるからといって、それがそのまま企業の生産性向上に貢献しているとは限らない。音声通話、ボイスメール、インスタントメッセージング(IM)、プレゼンス(在席)情報、ビデオ会議など、UCはさまざまなコミュニケーション手段をさまざまなデバイスに提供してくれる。だが、全てのユーザーが全ての機能を使うわけではない。「できること」と「必要なこと」は違う。
池田氏も「新しいツールを積極的に使いたがるアーリーアダプター層は全体の1、2割程度。ほとんどの人は慣れたツールを使い続けたいものです。実際に使わせるための仕掛けもなくただ導入しただけでは使われないのが当たり前」と警告する。
テクノロジーを導入すること自体が目的になるのは、IT部門が陥りがちな失敗だ。とりわけ、現業部門のエンドユーザー側に明確な利用目的がないままインフラの都合で投資を決めたケースなどは要注意だ。エンドユーザーの目線を持たず抽象的な利便性を唱えても意味がない。そもそも、モバイルでいつでもどこでも同じようにコミュニケーションが取れるという特徴を「会社による管理の強化」と不安視する社員さえいることを忘れてはいけない。
「UCを導入することによって、サービスの向上や業務の効率化といった具体的なメリットを説明し、実際に効果を測定しながら啓もう活動を進めていくことが重要になります」と池田氏が言うように、まず社内にエンドユーザーを増やし、事例を積み重ねていく努力が不可欠だ。
また、UC導入の効果としてしばしばコスト削減のメリットが強調されるが、初期投資も大きく、実際にはそれほど劇的に安くなるわけではない。さらに、音声網も含めてIP化するとなると、まだ品質に課題も多い。このため、実際には既存の電話システムとUCシステムを併用するケースの方が多い。こういった事情もあって、コストカットへの過度な期待は裏切られることになりがちだ。
できるところから始めよう
製品を導入するだけでは何も始まらない。重要なのはまず、ユーザーを増やし育てることだ。
「最初から全社での導入にこだわらなくてもいい。同じ会社の中でも全員が同じ環境を必要とするわけではありません。まず必要なところから導入を進めればいい」と池田氏はアドバイスする。例えば製品開発など拠点がバラバラでかつ頻繁にコミュニケーションを取る必要がある部門から広げていく。あるいはテレビ会議を拡張してリモートから参加できる環境を整える。もしくは子育て中の社員を対象に在宅勤務のツールとして導入するところから始める。このように、部署単位あるいは特定の用途別に導入を進め、実績を積み重ねながら徐々に周囲への浸透を図るのが現実的だ。
UCの導入はワークスタイル変革に直結する。そこで多くの企業が悩んでいるのが、労務管理の問題だと池田氏は言う。「自宅で電話を取ったら、それは労働時間に数えられるのか。場所も時間も選ばない環境でどこからどこまでを“仕事”と見なすのか。労働の成果を時間で評価してきた企業にはこうした判断が難しい。ケースを積み重ねていくことで試行錯誤しながらルールを最適化していく必要があります」
そう考えるとIT部門の職域を越えた案件になってくる。UCの導入を円滑に推進するためには、人事や総務そして経営層も巻き込んだプロジェクトとして推進するのが望ましい。
UCの導入は企業のコミュニケーションの在り方全般に関わる。真に自社の武器となり得る製品は何か。また、UC導入に成功している企業は何をどのように運用しているのか。次回以降は、導入企業やベンダーの取材を踏まえつつ、UCの具体的な動向を見ていく。
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