IP電話、モバイル、音声チャットでは気にならない
置き去りにされたビジネスの“音質”問題――音声通話はもはや主役ではない?
音声コミュニケーションは、音質が重要な要件の1つだった。しかし、コンシューマー市場の変化によってその要件が変わりつつある。
高品質の音声コミュニケーションは基本要件の1つだが、品質に対する考えは人それぞれで、使う環境にも左右される。
企業がコラボレーション環境を構築するためにVoice over IP(VoIP)やユニファイドコミュニケーション(UC)への移行を検討するとなると、音質に関する問題は一層複雑だ。ある程度の妥協も必要になってくる。
これまでずっとPSTN(公衆交換電話網)の誇りは音質の高さだった。企業にとっても通話品質は長い間、重要な要件の1つだった。初期の携帯電話サービスの音質が悪かったことや、パブリックインターネットを使ったベストエフォート型サービスのVoIPの音質が低いことも、音質重視の志向を強める要因となった。
まだ技術的に新しかった携帯電話サービスは非常に高額だったし、VoIPはコンシューマー向け技術と考えられていたため、どちらも当時はビジネス用として受け入れられるものではなかった。
これらの技術が成熟して状況は変わった。だが変わったのは技術だけではない。ありとあらゆるアナログ音声がデジタル化され、音楽を持ち歩けることが音質より重要になった。このこととUCや音声コミュニケーションは無関係に思えるかもしれないが、実はそうとも言い切れない。
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固定電話と融合する「Skype for Business Online」
時代の変化と優先順位の変化
音質の重要性は、電話より音楽の方がはるかに高い。デジタル化や携帯音楽プレーヤーが登場する以前は、人々はハイファイ(原音に忠実な音の再現)を重視していた。録音された音楽を持ち歩くことはできず、音楽とは集中して鑑賞するものであって、他のことをしながらBGMとして聴くものではなかった。今では音楽は1人でヘッドフォンから聴くものとなり、公共の場でも自分だけの空間に浸れるようになったが、その代償として音質は低下した。
コンシューマー市場における音質基準の低下は、ビジネス向け音声コミュニケーションにも波及した。一般に、VoIPの音質はいまだに「時分割多重方式」(TDM)の音質より低く、4Gや5Gの通話品質もVoIPと大差ない。
だが消費者も企業も、コスト節約効果や携帯性と引き換えに低い音質を受け入れるようになった。音質はもはや重要基準ではなくなったのだ。UCの音質基準が低すぎるのか、それともなるべくしてそうなったのか。当然の成り行きといえるだろう。
実のところ、VoIPは設計上、TDMより高い品質に対応している。だがほとんどの人の認識はその逆だろう。固定電話の音質が高いといっても、サポートする帯域は300Hzから3.4kHzだ。IP登場以前は比較するものもなく、固定電話の音質に誰も不満を持たなかった。
最大限のIPネットワーク環境ならVoIPはより高い音質を実現できる。「G.722」などのIPベースコーデックを使用すれば、50Hzから7kHzの広帯域で音声を伝送可能だ。この音質は「HD」とも呼ばれ、まるでブラウン管テレビとハイビジョンテレビくらい品質に差が出る。
だが理論と現実は別だ。完全IP化への道のりは遠い。従来の電話機がこれだけ広範に普及している現状では、エンドポイント端末でHD音声に対応するのはかなり難しいだろう。
モバイル環境はさらに後れている。広帯域のカバレッジを提供することが目標だが、それにはまだ何年もかかるだろう。スマートフォンのHD対応も進んでいない。だがそれが実現するころにはHD対応はあまり重要でなくなっているかもしれない。モバイルユーザーにとって音声通話は、多様なアプリケーションの1つにすぎなくなっているからだ。
ユニファイドコミュニケーションの今後
そうだとしたら、音質の低さを心配しても意味がないのだろうか。デジタルネイティブは音質など気にせず、現状で満足しているのだろうか。
短期的に見れば、こうした推測も大きく外れてはいないと思う。当面はUCにHD品質が広く普及すると考えにくい。技術的なブレークスルーによって状況は変わっていくだろう。VoIPの初期に音声技術そのものよりネットワークの限界が障壁となっていたのと同じだ。
もしも音質の低さがネックになってUC導入に二の足を踏んでいるのなら、新しい現実に目を向けてみよう。音声通話はもはやビジネスコミュニケーションの主役ではなくなっている。
音声通話はリアルタイムのコミュニケーション手段として長年トップの座に君臨してきたが、より効率的でほぼリアルタイムのメッセージング機能にその地位を奪われかけている。ビジネス価値を左右するのは利便性だ。今、最も便利なのは音声通話ではなく、ましてやデスク上の電話機ではない。
音声コミュニケーションの価値が変わったわけではない。だが電話との関係は薄れてきており、企業の従業員が利用する多様なアプリケーションの1つにすぎなくなっている。昨今の職場における音声コミュニケーションは、他のアプリケーションと連係することに価値があり、高音質でなくても必要を満たせばそれで十分といえる。こうした状況だからこそ、UCはビジネスで力を発揮していくだろう。
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