EDIは流通業全体のインフラを目指せ【第7回】
流通業のインフラ「EDI」におけるBCPの重要性
本連載ではEDIによる業務効率化やマーケティングへの応用について解説してきた。今回は視点を若干変えて、EDIの普及に伴って新たに考えなくてはならない問題について説明したい。
被災時でも事業を継続するのが、企業の社会的責任
防災月間である9月には、防災の日を中心に全国各地でさまざまな防災訓練が行われる。過去に発生した大規模災害の教訓を生かし、日ごろから災害への意識を高めようという取り組みである。
防災に関連するキーワードとして近年注目されているのが、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)である。これは、自然災害や大火災、テロ事件など、事業が存続できなくなるような緊急事態が発生した場合のリスクを想定し、事業継続に必要な最低限の業務や、復旧時間と対応策などを定めた行動計画のことである。いわゆる、従来のリスクマネジメントの中の「事業の継続」に重点を置いたマネジメント計画といえる。
流通業でいえば、地震などの大規模災害が発生した場合、「商品の供給を滞らせないためにどうすべきか」「万一、供給がストップしたら、どのくらいの時間で復旧できるか」ということが焦点になる。システムを担当する読者諸氏も日々頭を悩ませているテーマかもしれない。
“絶対に止まらないネットワーク”の構築を目指して
トイレットペーパーやシャンプー、洗剤、化粧品など、人々の生活に密着した商品は、日本各地どこでもたやすく購入できる。それは、資材サプライヤーからメーカー、卸売業、小売業までを結ぶサプライチェーン全体の流通システムがきちんと機能しているからだ。その要となるのが、資材サプライヤー・メーカー間および、メーカー・卸間をつなぐEDI(Electronic Data Interchange)、卸・小売間をつなぐEOS(Electronic Ordering System:電子発注システム)である。
当社が提供するEDIサービスのユーザー企業だけを例に挙げても、日用品・化粧品などを扱うメーカーや卸売業の約1000社が共通のEDIサービスを利用して、受発注、請求、在庫データといった取引に必要なデータをやりとりしている。データ量は伝票の行数に換算すると毎月平均1億行以上になっており、消費財流通業界にとって重要な通信インフラとなっている。それだけに、システムによる受発注業務の省人化が進んでいる企業ではEDIネットワークへの依存度も高く、もはやEDIなしではビジネスが成り立たない企業も少なくないだろう。
もしこうした状況下でネットワークに障害が起きれば、流通機構全体が機能しなくなり、消費者への商品供給も滞ってしまう。第一次オイルショックで洗剤やトイレットペーパーが不足して、主婦たちが一斉に店頭の商品を買い占めるというパニックが起こったように、社会生活全体に大きな支障を来すことも想定できる。それだけでなく、供給サイドは企業としての信頼も失ってしまいかねない。
EDIサービス事業者のBCPへの取り組み
BCPを考える上で大事なのは「計画に基づいて訓練を実施する」ということである。まさかのときに何をすべきかを知っているのと知らないのでは、結果が大きく変わるからである。
当社の場合は、被災時でも事業を継続させることが社会的使命と考え、2006年からBCPに取り組んできた。EDIサービス事業者として、いかなる場合でも絶対に止まらないネットワークの構築を目指すことが責務と考えたからである。以下、当社が行ってきたBCPへの取り組みを紹介するが、ユーザー企業としてEDIのBCP環境構築を考えていただく上では手法や規模感に隔たりがあるかもしれない。しかし、ユーザー企業の協力の下で行ってきた取り組みであるため、計画を立案する際の参考になれば幸いである。
当社が安全対策のためにまず講じたのが、システムの三重化である。首都圏にEDIサーバを2台設置し、大規模災害などにより1台が機能しなくなったら、自動的に残りの1台が稼働するというホットスタンバイ体制を構築した。さらに大阪センターにコールドスタンバイのEDIバックアップシステムを設置し、前述の2台のサーバが止まった場合、手動で稼働できる体制を整えた。
このような三重に及ぶ安全対策を講じたからといって、安心とはいえない。万一の場合、これらのサーバがきちんと機能するかどうかを確認する必要がある。そのために、2006年から毎年9月に業界規模のEDI障害対応訓練をスタートさせた。
訓練には、運用側である当社とユーザー企業である消費財メーカー・卸売業が参加し、「大規模な災害の発生により、首都圏のサーバ2台が停止した」という想定の下で切り替え訓練が行われる。当社では大阪センターのバックアップシステムを立ち上げ、それに合わせてメーカー・卸売業では代替システムへの接続切り替え訓練を行う。ユーザー企業60社が参加した2009年は、目標復旧時間の半分である1時間半での復旧を達成することができた。こうした訓練の結果は、システムや翌年の訓練内容の見直しへと反映されている。
とはいえ、EDI障害対応訓練はあくまでもBCPの一策であり、これで万全ということではない。ユーザー企業各社も万が一の事態に備え、システムの安全策を講じておく必要があることは言うまでもない。
備えあれば憂いなし
BCPについての意識は企業ごとに異なるが、それは経営者の意識の多少に左右されることが多い。ちなみに、当社が消費財メーカー・卸売業626社を対象に行った災害対策アンケート(2010年7月実施)によると、全体の8割以上の企業がBCP策定に対して積極的であり、高い関心を示していることが分かった。
同アンケートでBCPの対象リスクについて尋ねた結果は、「大規模震災」がトップ、次いで「システム障害」「火災」「自然災害」「感染症」の順であり、また回答企業の半数以上が、「10年以内に自社の近くで大規模震災が起こる可能性が高い」と予測している。このような想定の中で、「システム対策としてどのようなことを講じているか」という問いには、「バックアップデータのみを別拠点に保管」「システム設置場所の中でシステムを二重化」「バックアップシステムを別拠点に設置」などが挙げられた。
経済不況が続く中で資金面の問題はあるが、業務の大半がシステムによって動いている昨今、万が一のことを考えて自社システムの安全対策を図ることは非常に重要である。幸いなことに、IT関連のハードウェアはオープン系に進化したことにより、価格も劇的に安くなった。22年前は20億円もしたセンターマシンが、現在では数百万円で購入できる。当社が複数のEDI用サーバを導入することができたのも、そのような背景があったからだ。
いつ起こるとも分からない大規模災害に備え、ユーザー企業を救済する “ノアの箱舟”の用意を、ITベンダーはもちろんのこと、ユーザー企業自身も考えねばならない。ただし、レガシー環境のままでシステムを多重化するには多額のコストが掛かり、得意先ごとにデータのフォーマットが異なるようだと煩雑な日々の業務に追われ、いざというときの準備まで手が回らなくなりがちだ。そういう意味でも、各社がいち早くレガシーを脱してオープン系システムへと移行し、データフォーマットが標準化されたEDIの普及が進むことを切望する。
玉生弘昌
株式会社プラネット 代表取締役社長兼執行役員社長
1968年にライオン油脂(現在のライオン)入社後、マーケティング部、総合管理部、システム開発部勤務を経て、1985年にプラネットの常務取締役に就任。1993年より現職。社団法人流通問題研究協会 副会長、事業創造大学院大学 客員教授。
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