タブレットは「クールなオモチャ」
「ビジネスタブレット」に冷淡なモバイルUC専門家
一部で盛り上がっているタブレット市場。ベンダー各社はユニファイドコミュニケーション(UC)用途での売り込みに力を入れているが、UCの専門家はタブレットに関心を示そうとしない。
ユニファイドコミュニケーション(UC)ベンダーおよびモバイルベンダー各社は、企業でのコミュニケーションとコラボレーション用の最新鋭ビジネスタブレットを宣伝しているが、UCマネジャーたちはそのメッセージに対してまだ慎重な構えを示している。先ごろフロリダ州オーランドで開かれた「Enterprise Connect」カンファレンスに参加したITプロフェッショナルたちはタブレットに熱い視線を送り、それらをサポートする意欲を見せていたが、モバイルUCでの利用を念頭に置いていたわけではなかったようだ。
同カンファレンスに参加した多くのUC専門家たちによると、自社のビジネスタブレット戦略では、基本的なサービス(電子メール、予定表、VPN)や、標準的なビジネスアプリケーションをモバイル向けに最適化したバージョンにフォーカスを絞るつもりだとしている。タブレットのモバイルUC機能については、あまり期待していないようだ。
米ESL Federal Credit Unionでネットワークサービスマネジャーを務めるレイ・カフォーリー氏は「タブレットをモバイルUC用に使うことは考えていない」と話す。「タブレットにはふさわしい場所がある。例えば会議室だ。私は会議ではずっとタブレットを使っているが、基本的にはプロダクティビティツールとしての性格が強い」
カフォーリー氏は、同カンファレンスに米Motorolaの「XOOM」を持参したが、同タブレットではIM(インスタントメッセージング)やコラボレーションツールは利用しなかった。主として電子メールや、セッションで聞いた耳慣れない用語を調べたりするのに使ったという。
同氏の考え方は、カンファレンスでベンダー各社が訴えたメッセージと大きく開きがあるようだ。米Cisco Systemsと米Avayaは、それぞれの新しいビジネスタブレット――「Cisco Cius」と「Avaya Desktop Video Device」――上でネイティブに動作する統合型UC・コラボレーション技術のスイートを発表した。Avayaのタブレットでは「Flare Experience」というソフトウェアが動作する。
最も人気の高いタブレットのメーカーである米Appleの場合は、UCプロフェッショナルに訴求する意思さえなさそうだ。同社は3月初め、企業ユーザーの間でも人気が高いiPadの第2世代「iPad 2」を発表し、価格、CPU、キャリアの選択肢をアピールした。モバイルビデオ会議用のフロントカメラはVGA対応(640X480ピクセル)だ。これに対し、CiscoとAvayaのタブレットは高解像度のHDビデオ(720p)に対応したフロントカメラを搭載している。
仕事の武器か、それとも“クールなおもちゃ”か
カフォーリー氏によると、同氏の会社の従業員の多くは、iPadやBlackBerry PlayBook向けの本格的なモバイルUCツールを必要としないと思われるという。「従業員たちは、私と同じような方法でタブレットを利用するだろう」と同氏は予測する。しかし端末、アプリケーション、利用形態が進化するのに伴い、モバイルUCの重要性が高まる可能性があることも同氏は認めている。
「1年後には、私の意見がすっかり変わっているかもしれない」とカフォーリー氏は話す。「現時点では想像もできないようなタブレット利用形態があるに違いない」
AvayaでUCを担当するナンシー・マルーソ副社長に、ビジネスタブレットをUCで利用する可能性について質問したところ、「タブレットが果たす役割は小さい」という答えが返ってきた。同氏によると、AvayaがFlare Experienceソフトウェアを独自仕様のタブレットに組み込んだのは、顧客が求めているような「高解像度ビデオ、高解像度オーディオ、ドラッグ&ドロップスクリーン」に対応したハードウェアが市場に存在しなかったからだという。
「別のタイプの端末があれば、それにFlareを組み込んだかもしれない」とマルーソ氏は語るとともに、「Flareのような高度な機能を全てのユーザーが必要するわけではない」とも付け加えた。
Avayaのケビン・ケネディーCEOはEnterprise Connectの基調講演で、同社が年内にiPad向けのFlareアプリを提供する予定であることを明らかにした。
Ciscoは同カンファレンスで、従来のメッセージをやや軌道修正した。Ciusをめぐる同社のこれまでの宣伝は、モバイルUC機能を前面に打ち出したものだったが、Cisco幹部とデモ担当者は展示フロアで、Ciusの仮想デスクトップ機能や、Android Market(Android端末向けのモバイルアプリストア)のセキュリティと管理機能の改善を強調した。
米廃棄物処理会社Republic Servicesの幹部たちは、iPadなどの最新の端末のサポートをIT部門に求めている。Enterprise Connectのパネルディスカッションに参加した同社のITディレクター、ダグ・ソーンダーズ氏によると、同社のIT部門は、業務用およびコミュニケーション用のデバイスとしてのビジネスタブレットの価値を判断しかねているため、当面は「様子見」の方針で臨むつもりだという。
「iPadなどの携帯端末をめぐる話題が盛り上がっているが、エンドユーザーがこれらの端末を実際に仕事で使って業務効率を改善できるかどうか疑問だ」とソーンダーズ氏は話す。「WebやESPN(訳注:スポーツ専門サイト)をチェックできるかもしれないが、真の業務ニーズはまだ見えてこない」
ビジネスタブレットに関するその他のパネルディスカッションでも、ベンダー各社はモバイルUC分野での利用というテーマには深く立ち入らず、それよりも画面サイズ、OS、システムアーキテクチャといった話題に終始した。
Ciscoのネットワーキング・UCチャネルパートナーである米Universal Understandingでシニアネットワークエンジニアを務めるアマン・チャブラ氏によると、多くの企業では、CiscoのCiusなどのタブレットへの予算もなければ関心もなく、今のところは非公式でデモを見せるよう求めているだけだという。
「企業のニーズを正しく理解しているベンダーはないようだ。広く受け入れられる製品が登場するのは2~3年先になりそうだ」とチャブラ氏は話す。「現時点ではクールなオモチャという域を出ていない」
米香料メーカーのInternational Flavors and Fragrancesでインフラサービスを担当するウェイン・ジョーンズ副社長によると、同氏の上司が最近、自分用と直属の部下用にiPadを購入した。しかしジョーンズ氏と同僚は、コミュニケーションやコラボレーションとは無関係のiPadアプリを主に使っている。これらは「日常業務で便利な」アプリケーションだという。
ジョーンズ氏によると、Flavors and Fragrancesの販売担当者は、顧客との会合のためにレストランを予約する際、「OpenTable」などのiPadアプリを利用するかもしれないが、UCツールの本来の目的は、業務サイクルの短縮と部門間のコラボレーションを改善することにあるという。
ジョーンズ氏は、モバイルUCアプリケーションを担当する技術開発チームを設立したが、UC・ビジネスタブレット戦略を成功させるには、ユーザーニーズ主導で進めることが重要だという。「ユーザーにとって何が役立つのかをIT部門が決めることはできない」と同氏は話す。
キャリアやコンプライアンスも課題
「ビジネスタブレットをベースとしたUC戦略では、国境をまたいだ場合にキャリアと端末が対応できるのかという問題もある」とジョーンズ氏は指摘する。International Flavors and Fragrancesは43カ国で事業を展開しており、1種類のタブレット用のモバイルUCアプリケーションで標準化できるかどうか疑問だとしている。
「長期的には、わが社のモバイル戦略を推進する上で最も重要なポイントとなるのは、何が利用できるかということだ」と同氏は話す。「米Verizonに“われわれがインドネシアで直面している問題を何とかしてくれ”と頼むわけにはいかない。われわれが重視しているのは、広範な端末にまたがるサービスの組み合わせだ」
端末によっては、価格がビジネスタブレット戦略の障害になるという企業もあるだろう。Enterprise ConnectでCiscoは、Ciusを1000ドルから700ドルに値下げすると発表した。同製品は2011年上半期中に一般向けにリリースされる予定。Flareを搭載したAvayaのDesktop Video Deviceは2010年12月21日に発売され、価格は約2000ドル。
米医療検査機器メーカーのBeckman Coulterでシニアネットワークアナリストを務めるアレジャンドロ・ペラザ氏は、UCはビジネスタブレット戦略で重要な機能になることを「確信」しているが、コンプライアンスの面で懸念を抱いている。
ペラザ氏によると、同社の場合、客先で装置の修理を行う技術者が社内の技術者と相談しなければならないようなケースでは、ビデオ会議機能を備えたビジネスタブレットが役立つかもしれない。しかし同社では法的な制約もあり、患者の情報が含まれている装置を修理する際にビデオ撮影が許可されない可能性もあるという。
「“私が仕事を失うかもしれないので許可するわけにはいかない”とユーザーに言うこともあり得る。わが社の場合、それが最大の問題だ」と同氏は話す。「机上では素晴らしいように見えるが、わが社の制約条件を確認する必要があるだろう」
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