識者が語る「ERP製品選択の目」:野村総合研究所 古川昌幸氏
巨額のIT投資は生かされている? 銀行に見るERP活用実態
IT予算が多いにもかかわらず、銀行のERP採用率は意外に低い。勘定系システムに偏ったIT予算をあらためて、ERPなど情報系システムの活用を進めるにはどうすればいいのか。識者に聞いた。
日本情報システム・ユーザー協会の調査によると、銀行の売上高に占めるIT投資の比率は3%台で、全産業平均の1%台を大きく上回る(参考記事:基幹系クラウドの期待と現実、調査結果で赤裸々に)。それだけのIT予算を持ちながらも、銀行のIT投資は独特だ。ERPパッケージの採用状況を中心に動向を探った。
「現行システムの保守に8割くらいの予算を掛けている。そのため新しいIT投資が生まれていない」。野村総合研究所のシステムコンサルティング事業本部 ビジネスデザインコンサルティング部 部長の古川昌幸氏は、銀行のIT投資の動向をこう話す。モノを製造し販売するのではなく、マネーをやりとりする銀行は早い時期からIT化を進めてきた。会計勘定業務を行い、ATMや為替、他行とのインタフェースなどを処理する勘定系システムは1950年代の第1次オンラインシステムから第2次、第3次と開発が続けられ、高度なサービスを実現してきた。
一方、古川氏の説明にあるように、そのメンテナンスには莫大なコストが掛かっている。富士キメラ総研の調査によると、銀行・証券のIT投資額は2007年で1兆3200億円。そのうち、8割が現行システムの保守に費やされていると仮定すると、1兆円強が現行システムの保守に使われている計算だ。一般事業会社における保守コストの割合はIT予算の7割程度といわれる。銀行は売上高に占めるIT予算の割合が大きく、かつ保守コストの割合も大きいということになる。
銀行の高い保守コストは、勘定系システムが基本的にスクラッチで開発されているからだ。UNIXやIAサーバなどのオープン系サーバではなく、メインフレームがプラットフォームとして使われ続けていることも関係する。メインフレーム、スクラッチのシステムは柔軟性が低く、改修のたびに多額のコストが掛かる。さらに銀行は金融行政に関係する制度変更やコンプライアンスへの対応が求められ、システム改修のコストが積み上がるという構図だ。
ERP採用でサービスレベルが落ちる
ERPなどの情報系システムの採用に関しても、この勘定系システムとのかかわりが重要になる。金融業はITシステムを高度に活用するが、ERPの採用率は低い。ERP研究推進フォーラムの『2010 ERP市場の最新動向』によると、金融業のERP採用率は21.1%。全体平均の49.2%と比較して著しく低い採用率といえるだろう(参考記事:不満を持ちながらERPを使うユーザー企業にどう応えるか)。ERPが金融業で使われない理由の1つが、上記のようにIT部門の予算や人員が勘定系システムや制度変更、コンプライアンス対応に割かれていることだ。結果的に業務を効率化、標準化するERPに予算が回っていない。
もう1つの理由は、銀行が求める機能をERPが提供できていないということだ。古川氏は「幾つかの銀行はERPを採用しているが、使っているのは一部のモジュールだけ。統合的にERPを使っている銀行は少ない」と説明する。ERPは財務会計や管理会計、人事・給与、債権・債務、固定資産などのモジュールで構成する。これらのモジュールはどのような企業の業務にもフィットするように開発されている。しかし、銀行業務は別だ。財務会計の一部は利用できても、管理会計や債権・債務、固定資産などは銀行独自の業務プロセスがあり、ERPの機能をそのまま使うことは困難。販売管理モジュールも同様だろう。「銀行には、システムに業務を合わせるとサービスのレベルが落ちるという懸念がある」(古川氏)
これまでERPを導入した企業でも、利用しているのは会計モジュールの一部などにとどまるようだ。ただ、海外の銀行ではバックオフィス業務にERPを使うのは一般的。顧客サービスや効率性についての考え方の違いが海外と日本であるのだろう。
日本の銀行はATMを例にとっても、そのサービスや機能は他国で見られないほど高いレベルにある。自行のサービスだけではなく、ネットワークを通じて他行やクレジットカードのサービスを利用できる。しかも一部の先進的な銀行だけがこのようなサービスを提供しているのではなく、地方銀行、第二地方銀行なども同様のサービスを備える。このようなATMのサービスや機能を支えるには高度なバックオフィス業務が必要になるのは当然だ。ただ、古川氏は「2番手、3番手の銀行が1番手と同じだけのサービス、機能を持たないといけないということはない。そう考えるとパッケージの活用も検討できる」として、メリハリを付けたIT投資の重要性を強調する。
ワンバンク化で保守コスト削減か
保守のコストを下げて、新規開発にいかに予算を回すか。みずほフィナンシャルグループが9月16日に発表した、傘下の「みずほ銀行」と「みずほコーポレート銀行」の統合計画は、保守コスト削減の意味でも注目される。みずほフィナンシャルグループは、みずほ信託銀行の合流も検討している。また、この3行は2016年3月末までに勘定系システムを含めて基幹システムを一元化する計画だ。みずほフィナンシャルグループは、2011年3月に発生したみずほ銀行の大規模システム障害を受けて「ワンバンク」への移行を表明していた。ワンバンクに合わせてシステムも統合できれば、大きな効率化が実現できるだろう。
みずほフィナンシャルグループだけではなく、他のメガバンクもグループ内に複数の銀行や証券会社、クレジットカード会社などを抱える。「グループとしてこれらのシステムを1つに統合できないかという考えが出てきている」と古川氏は指摘する。ただ、国内の銀行はシステム部門を子会社化したところが大半で、本社にITに詳しい人材が残っていないという指摘がある。勘定系システムの保守コスト削減、情報系システムとの活用とも、そのための人材確保が最初のハードルになるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
識者が語る「ERP製品選択の目」
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社MatrixFlow] 「物流リソース最適化」ガイド:人員・配車・傭車を出庫依頼の確定前に決めきる -
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
4
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
5
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
6
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
7
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
8
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
9
「結局使わなくなる」Microsoft 365 Copilotを半年で定着 キリンの3施策
-
10
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー