事例で学ぶBI活用のアイデア【第10回】
ERPとBIの同時刷新で業務データ活用を加速する総合化学メーカー事例
基幹システムのデータ活用を推進するためにERPとBIの同時刷新を決断した総合科学メーカー企業。約2000万件のデータを効率的に分析する環境を整えたことで、BIの全社利用を実現している。
全社横断、グループ横断でのERP可視化の難しさ
ERPというと最近では業務システムの代名詞になってきているが、日本では2000年ごろから、それ以前の企業ごと、業務ごとの独自システム開発に変わる統合業務システムとして積極的に導入されるようになってきた。今では多くの企業がERPを導入しているのではないだろうか。
ERPは本来、業務横断的な統合システムであり、企業全体の経営資源を効率的に管理・活用し経営の効率化を図るためのものである。統合システムであるため、横断的な情報の可視化によって効率的な経営や日々の企業活動を支援する仕組みだ。しかし、実際には全ての業務を1つのERPシステムで運用している企業は少なく、多くの場合それ以外のシステムを組み合わせて全社システムを構築している。
また、本連載の「BIで連結経営会計情報を収集・分析、意思決定に生かすグローバル製造業事例」でも紹介したように、グループ全体での経営管理が必要とされる企業の場合には、グループ横断的な情報の可視化が求められる。しかし、グループ企業ごとに異なるシステムを利用している場合、ERPだけではグループや企業全体での横断的な情報の可視化は非常に難しいのが現実ではないだろうか。
今回の事例は、以前からERPを全社システムの核として導入している企業で、ERPの再構築に併せてBI(ビジネスインテリジェンス)システムを再構築した事例だ。ERP導入企業や既にBIツールを導入しているものの、課題があってうまく活用できていない企業に参考にしてほしい事例だ。
ERPのバージョンアップと同時にBIシステムを刷新
事例企業プロファイル
業種
- 総合化学メーカー
企業規模・業種内容の参考データ
- 従業員数:1730人
- 化学品、電子材料、農業化学品、医薬品など幅広い分野で、国内外に商品とサービスを提供
今回紹介するのは、総合化学メーカーでのBI再構築事例である。同社は独自技術をベースに化学品、電子材料、農業化学品、医薬品などの分野においてさまざまな製品を開発し、グローバルで高い評価を得ている。
同社では2002年に基幹業務システムとしてERPパッケージを本格稼働しており、同時に情報系システムの一環としてDWH(データウェアハウス)を導入していた。その後のさらなる成長施策として、経営プロセスから得られた情報資源の全社的な活用と経営効率化を目的に、ERPパッケージのバージョンアップを決定。同時にBIシステムも刷新することとなった。
DWHのシステム移行負荷が課題に
ERPのバージョンアッププロジェクトがスタートしたものの、DWHシステムのバージョンが古かったために段階的なバージョンアップが必要となり、システム移行の負荷が大きかったという。また、使用していない機能でもライセンス料が発生するなど、コスト面においてもよりROI(投資対効果)の高い効率的なBIシステム構築が求められた。その他、同社では自社開発したBIシステムも運用していたが、蓄積されるデータ量が増加するに伴ってデータ処理におけるパーフォーマンス不足という課題も抱えていた。
新しいBIツールをベースとしたシステムは、3カ月の開発期間を経てカットオーバーした。このシステムの仕組みは、ERPで日々更新される差分データをETLツールで抽出し、抽出された受注、出荷、請求、入庫の4種類のデータを、中間のデータベースを経由して新しいBIシステムのデータマートに取り込んでいる。分析対象の受注、出荷、請求、入庫データはそれぞれ約600万件、合計2000万件が蓄積されており、効率的な分析が可能となった。
新しいBIシステムを利用して、各事業部の営業スタッフは販売実績を、購買担当者は入庫実績明細や購入価格差異の把握などさまざまな分析に活用している。さらに、経理部門では新BIシステムを税務調査時の監査データ作成に利用している。ERPシステムだけでは監査対象となるデータを任意の条件で即時に取り出すことができないからだ。また、リスクマネジメントを推進する部門では、内部統制における業務プロセス監査のための販売伝票および購買伝票の抽出にBIを活用している。これらは新しいBIシステム導入当時には想定していなかった導入効果だ。
この企業以外にも、BIツールを利用してERPの出荷データを製造した食品のトレーサビリティ管理に活用している食品製造業の活用事例もある。まさにBIツールは工夫次第で何にでも活用できる万能薬といえるだろう。
BIは必要なときに必要な情報をすぐに得るための道具であれ
多くの企業で、BIツールを特定業務のリポート出力ツールとして利用し、そのリポートを共有する、といった情報活用が行われている。しかしその方法では、本当の意味でBIツールを使いこなしているとはいえない。業務の現場から寄せられるユーザーの新しい要望に対して、都度新しいリポート作成し共有するには、システム部門の作業工数が必要となる。また、ユーザーが増えれば増えるほどその作業負荷が増大するため、要望に沿ったリポートをユーザーに提供するまでの時間がかかるようになる。その結果、情報の鮮度やビジネスのスピードが落ちていくことになる。
やはり、BIツールは業務現場の担当者や経営者にとって電話やFAX、あるいは電卓のように、「必要なときに必要な情報をすぐに得るための道具」でなければならない。情報をビジネスに活用するということは、今の時代において業務の効率化だけでなく、厳しい企業競争の中で勝ち抜くための不可欠な活動だ。既にBIツールの導入や、分析システムを構築している企業においても、本当にビジネスの道具として活用できているか、この機会にぜひ見直してほしい。
計10回にわたり「事例で学ぶBI活用のアイデア」としてBI導入企業の事例を紹介してきたが、実際にはまだまだ紹介したい事例が山ほどある。インターネット上には多くの事例がさまざまな形で公開されているし、事例紹介セミナーなども数多く開催されている。BIツールをさらに価値あるものにするため、あるいはBIツールの導入を成功させるために、ぜひ導入事例を活用してほしい。
小島 薫
1stホールディングス株式会社
ウイングアーク テクノロジーズ株式会社
BI事業部 事業部長
石川県出身 1959年生まれ。製造業でのシステム構築、経営企画などに従事した後に、独立系パッケージベンダーに入社。汎用機からオープンシステムまでの基幹系データベースを中心に、データウェアハウス(DWH)、XML関連のサポート、プリセールス、コンサルティング、マーケティングを経験。2005年にウイングアーク テクノロジーズに入社し、技術部門、マーケティング部門、製品戦略部門の部門長を経て、国内外を含めた製品戦略に携り、現職に至る。
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