SAPアプリケーションを活用
【事例】P&G、世界最大級のシェアードサービスセンターから学ぶ構築のポイント
ERPをグローバルで利用する企業で構築が増えているシェアードサービスセンター。P&GはSAPを活用した世界最大級のシェアードサービスセンターを構築した。その元担当者が構築のポイントを説明する。
300以上の商品ブランドを世界180カ国で販売、12万7000人の社員を抱える米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は世界最大の一般消費財メーカーだ。「パンパース」「ファブリーズ」などの商品になじみがある方も多いだろう。そのP&Gは世界最大級のグローバルシェアードサービスセンター「グローバルビジネスサービス」(GBS)を運用している。GBSはどのように設立され、運用されているのか。同社の元幹部でGBSを担当していたティム・ビーエル氏が、SAPジャパンが主催したセミナーでシェアードサービスセンター構築のポイントを説明した。
プロフィット、コストセンターを明確に
P&Gはシェアードサービスセンターの利用を1999年に開始した。同社では90年代後半から世界各国での事業が急拡大。各拠点の重要性が増したことを受け、各拠点にITや会計、人事の担当者を配置し、それぞれのやり方によるオペレーションを認めてきた。ほとんどの国でSAPのアプリケーションを使っていたものの、「勘定科目が異なってもOKだった」(ビーエル氏)。
しかし次第に拠点に運用を任せるやり方の弊害が出てきた。拠点の自主性を認めることで拠点のビジネスは迅速になるが、P&G全体でみると重複する業務が多く、本社に提出されるリポートなどの品質などもバラバラ。また各拠点の経営陣はバックオフィス業務に時間を取られ、商品戦略などビジネスを成長させる決定に時間を割くことが難しくなっていた。「パンパースを製造するためのコストを各国で比較するだけでも膨大な時間がかかっていた」(ビーエル氏)
最初にビジネスユニットを再編
この課題を解決するためにバックオフィス業務を統合するシェアードサービスセンターの設立を決めた。しかし、P&Gがまず手を付けたのは事業の再編だった。「ビューティ・グルーミング」「ヘルス」「ハウスホールドケア」と3つのグローバルビジネスユニットに事業を再編し、それぞれに研究開発や生産、マーケティングなどの機能を持たせた。この3つのビジネスユニットは世界の各拠点を横断的に統合する組織で、各拠点の協力を阻害する地理的な壁をできるだけ取り除くことを目指した。
「この3つのビジネスユニットがプロフィットセンターで、それ以外はコストセンター」(ビーエル氏)。GBSは、コストセンターと位置付けられるバックオフィス業務を統合し、全社的な効率化やコスト削減を果たすことが目的だ。具体的にはIT、会計、人事、購買、施設管理の各業務を統合した。プロフィットセンター、コストセンターを明確に分けることで、シェアードサービスセンター構築の目的が明確になった。「ビジネスユニットをコア業務に集中させることが目的だった」(ビーエル氏)
3段階でシェアードサービスセンターを拡張
GBSの設立は3段階に分けることができる。1999年の設立当初はまだITや会計、人事など、それぞれの業務別にシェアードサービスセンターを立ち上げただけで統合されていなかった。その後、各シェアードサービスセンターが持つ機能を拡充して、複数事業のバックオフィス業務をサポートできるようにした。そして3段階目では最終段階としてグローバルで1つのシェアードサービス組織として運用できるようにした。
急激な変化を避けて人の問題を解決
シェアードサービスセンターの構築で難しいのは、バックオフィス業務にもともと関わっていたスタッフの扱いだ。最終的には1つのシェアードサービスセンターに関わることになるが、そのためには就業地域の変更やトレーニングなどが必要で時間がかかる。P&Gは統合へのプロセスを3段階にすることで急激な変化を避け、スムーズにGBSに移行できた。
GBSは現在、P&Gの全地域、全部門をサポートする。そのサービス数は170以上に及ぶ。ビーエル氏は「1つのERPとBI(ビジネスインテリジェンス)によって企業全体の標準化、統合、整合をサポートする。重要なのはエンドツーエンドで業務プロセスをコントロールすることだ」とシェアードサービスセンターを支えるITシステムを説明した。
85%以上の業務は標準化が可能
シェアードサービスセンターをグローバルで1つのサービス組織へ移行する作業には約4年の準備期間をかけた。そのうち、業務プロセスの標準化や統合準備には6カ月かかった。GBSとして運用は統合しているが、シェアードサービスセンターの物理的な拠点は世界3カ所に設けている。運用コストや政府との協力関係、P&Gの拠点との位置関係などからフィリピンのマニラ、イギリスのニューキャッスル、コスタリカのサンホセに「GBSサービスセンター」を設置した。
それぞれのGBSサービスセンターへの移行はビッグバン方式で、3カ所を同時に稼働させた(参考記事:ビッグバン導入が復活? 注目したい3つのERP導入事例)。利用範囲を少しずつ拡大する方法と比べて、一括導入するビッグバン方式はリスクが高いといわれる。だが、P&Gはペルーで事前テストを行い、GBSの問題点を洗い出すなど慎重に準備を進めたという。
グローバルシェアードサービスセンターを成功させるには、経営陣の理解の他、「業務プロセスの徹底的な最適化がポイントになる」とビーエル氏は指摘した。業務プロセスの最適化は、まずプロセスを簡素にできないかを検討し、無駄なプロセスをできるだけ取り除くことから始まる。その後、製品や拠点ごとに異なっている業務プロセスを標準化する。ビーエル氏は「製品や顧客、消費者、サプライヤー、拠点の場所が大きく異なっていても、85%以上の業務プロセスは同じような方法で実施されている」と話し、標準化できる業務の多さを指摘した。業務プロセスの標準化ではERPのベストプラクティスを活用。「1つのグローバルソリューションによって、全てのビジネスと地域にサービスを提供する」(ビーエル氏)
P&Gは業務プロセスの自動化にも取り組んだ。ここでもSAPのアプリケーションを活用。業務の自動処理の他、従業員向けのセルフサービスポータルなども開設した。
KPI測定が運用のポイント
GBSによって10億ドル以上のコスト削減を実現できたとP&Gは評価している。業務のスピードも向上し、例えばビジネスユニットから必要な人材を求められた場合、4日でその人材を見つけて異動させることが可能になった。また、2005年に買収したカミソリ大手のジレットの統合では、GBSの活用で約570億ドルに及ぶ巨額買収ながら15カ月で事業統合が終了した。
ビーエル氏は「測定は成功への架け橋だ」とも述べ、シェアードサービスセンター開設後のKPI測定の重要性も指摘した。GBSではユーザーの満足度やサービスレベル、コスト削減額、売上高に占めるGBS関連出の割合などを定期的に測定しているという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
「Microsoft 365のセキュリティ運用」に関するアンケート
-
3
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
4
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
5
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
6
「Salesforceのテスト自動化ツール」に関するアンケート
-
7
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
8
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
9
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
10
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー