人的リソースの全体最適を図る
【事例】大和ハウス工業がSAP ERP導入期間を25%短縮、その鍵は「CCPM」
SAP ERPの大規模導入プロジェクトが停止寸前まで追い込まれた大和ハウス工業。同社は人的リソースの全体最適を図る「CCPM」を採用することで工期を短縮し、プロジェクトを成功させた。担当者が全容を語る。
予定よりも遅れることが多いERPの導入プロジェクト。だが、2012年4月に本稼働した大和ハウス工業のSAP ERP導入では、「実現化」「テスト/本稼働移行」というプロジェクトのメインのフェーズで本来の想定よりも25%以上の工期短縮を実現した。一時はプロジェクトの続行すらも危ぶまれたが、予定通りにカットオーバー。その鍵は「CCPM」(クリティカルチェーンプロジェクトマネジメント)の適用だった。10月に都内で開催されたセミナー「富士通―SAP ビジネスフォーラム」で語られたプロジェクトの全容を紹介する。
大和ハウス工業はグループ経営基盤の刷新を目標に経理・人事システムの刷新を決意した。経理システムでは経理業務の効率化や決算早期化、グローバル対応、将来のIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)の適用を考慮し、SAP ERPを導入した。同社がSAP ERPを導入するのは今回が初めて。財務会計、管理会計の他、建築請負、販売管理、不動産管理、経営情報などのモジュールを導入し、ユーザー数が3500人を超える大規模プロジェクトだった。ユーザー側のプロジェクトリーダーで、講演をした大和ハウス工業 経営管理本部 経理部の次長 松山竜蔵氏は「大和ハウス工業のコアになるシステムとして、“DG-CORE”と呼んでいる」と話した。
プロジェクトは5つのフェーズに分かれていた。
- グランドデザイン(フェーズ1)
- ビジネス設計(2)
- 実現化(3)
- テスト/本稼働移行(4)
- 定着化(5)
だ。
2009年第4四半期にプロジェクトをスタート。だが、フェーズ1のグランドデザインをなかなか終えることができなかった。「ユーザーからの仕様変更の要求が増えた」(松山氏)のが原因だ。進捗が遅れてしまったため、フェーズ1を終える前にフェーズ2のビジネス設計をスタート。さらにそのフェーズ2が完了する前にフェーズ3の実現化を始めるなど現場が混乱した。フェーズ2で膨らんだ要件を基に工数を計算すると、予算を大幅に超過することが判明した。「数十億円の予算規模を立てていたが、それをはるかに上回る見込みになってしまった」。プロジェクトはストップした(参考記事:読めば分かる! ERPのプロジェクト管理)。
プロジェクト管理についての記事
各スタッフの安全日数を共有
プロジェクトを再開するために必要だったのは、要件を見直して工数を少なくすることだった。松山氏らは要件について「しなければならないこと」「した方がいいこと」に分けて再検討し、「した方がいいことは、最悪作らなくてもいいことなので、省いた」。プロジェクトのスコープ見直しに2カ月をかけたが、予算の超過は避けることができた。
だが、プロジェクトのストップ、スコープ見直しで時間を取られたため、2012年4月の本稼働に間に合わないことが想定された。当初の予定通りフェーズ3の実現化に4カ月半、フェーズ4のテスト/本稼働移行に7カ月をかけることができなくなったのだ。フェーズ5の定着化はエンドユーザーにトレーニングを実施する期間で、工期の短縮は難しかった。短縮できるのは実現化と、テスト/本稼働移行のフェーズだ。そこで選択したのがCCPMだった。
CCPMはイスラエルの物理学者、エリヤフ・ゴールドラット博士が提唱した制約理論に基づいて考えられたプロジェクト管理手法。プロジェクトでは、プロジェクト自体の不確実性に加えて、各スタッフが自らの安全や余裕のために想定作業時間を過大に申請する傾向があり、実態よりも工期が延びる。また多くのプロジェクトでは作業を細かく分けてマルチタスクで進めるが、これでは1つのタスクが遅れると連鎖的に他のプロジェクトも遅れてしまい、マネジャーはどこに優先的に人的リソースを割り当てればいいのか分からなくなる。これらの問題で一度遅れたプロジェクトは修正が難しくなる。遅れが遅れを呼ぶ負のスパイラルに陥るのだ。
CCPMの核になるのは各スタッフが自身の安全のために確保している予備の日数を取り上げて、全体で共有することだ。例えば10日ずつかかると想定できるタスクが6つある場合(合計で60日、このプロジェクトの連なりをクリティカルチェーンと呼ぶ)、まずは各タスクの日数を半分の5日にする(合計で30日)。これに「プロジェクトバッファ」を15日加える。プロジェクトの合計日数は45日になる計算で、当初の60日よりも15日短くなる。
バッファの消費具合をチェック
もちろん、当初10日で進める予定のタスクを5日でこなすので、工期を超過する場合がある。その場合はプロジェクトバッファから1日または2日と日数を割り当てる。プロジェクトマネジャーがチェックするのは、複数あるクリティカルチェーンの進捗と、プロジェクトバッファの消費具合だ。そして進捗が進んでいないクリティカルチェーンや、プロジェクトバッファの消費が多いクリティカルチェーンに優先的に人を割り当てる。大和ハウス工業ではCCPMに基づく管理ツールである「コンチェルト」を使って、クリティカルチェーンの進捗とバッファの消費具合を毎日確認していた。
「コンチェルトでプロジェクトの情報を各スタッフで共有していたので、毎日の進捗会議ではタスクに対して『あと何日かかりますか』と聞き、遅れているようなら『どう手伝えばいいですか』と聞くだけでよかった。資料の作成も不要だった」(松山氏)
大和ハウス工業はCCPMに基づくプロジェクトの進捗で、当初の想定よりも工期を25%以上短縮して終えることができた。正しくは実現化が90日から65日に短縮(27.7%の短縮)、テスト/本稼働移行が144日から107日(25.7%短縮)となった。各スタッフが無理をして短縮したのではなく、残業時間は従来のプロジェクトと比べても半減。ベンダーとしてプロジェクトを支援した富士通の計測によると、開発物の品質も問題がなかった。同時に行っていた人事システムの導入プロジェクトでもCCPMで約26%の工期短縮ができたという。
CCPMの3つのルール
松山氏はプロジェクト中にスタッフに徹底したCCPMの3つのルールを挙げた。1つは「Low WIP」。WIPは「Work in progress」(進行中の作業)の意味で、同時に進行している作業をできるだけ少なくすることを指す。スタッフに複数の業務を同時に割り振るのではなく、専任として目の前の作業に集中させることで効率が増すという考え方だ。マルチタスクで生じるプロジェクトの混乱を避ける狙いがある。また、「ゲートキーピング」という考えも導入した。準備が不十分なままでタスクを始めると遅れの原因となり、他のタスクにも悪影響を与える。そのため「用意ができていないプロジェクトは絶対にゲートをオープンしない」(松山氏)という考えを徹底し、完全に準備ができてから作業を始めるようにした。
2つ目は「バッファ計画」で、前述のようにCCPMでは各スタッフが各自で保有しがちな安全のための日数を集めてプロジェクトの全体最適を図る。プロジェクトでは大和ハウス工業と富士通のメンバーが米国のコンサルティング会社で、2週間にわたってCCPMに基づくプロジェクトの進め方を学ぶ機会を設けた。
3つ目は「素早い問題解決」。CCPMでは強制的にタスクごとの工期を短くしているため、作業が予定通りに終わらないのは問題ではない。スタッフは進捗の遅れを問題とは考えず、タスクが遅れそうになるとすぐに報告を上げる。マネジャーはその報告を受けて優先順位を確認して適切な対応を迅速に行うことができる。「タスクが遅れても、スタッフを責めることはない。これによってアグレッシブなチャレンジが可能になる」(松山氏)
松山氏は講演の最後にCCPMを適用したプロジェクトの利点を挙げた。「プロジェクトの今が分かり、現在の問題がつかめる」などの他、「ユーザーがプロジェクトのイニシアチブを取ることできる」「リソースの柔軟性が高まり助け合いが生まれる」と指摘。「もはや以前の方法には戻れない」と話した。
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